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【オープンガーデン訪問レポート】 「瀬谷オープンガーデン2022」から2つの個人邸の庭を拝見!

【オープンガーデン訪問レポート】 「瀬谷オープンガーデン2022」から2つの個人邸の庭を拝見!

花々が一年の中で最も美しく咲き誇る春、今年も全国各地で丹精込めて手入れした庭を一般に公開する「オープンガーデン」が開催されました。今回、ガーデンストーリー編集部は、神奈川県横浜市瀬谷区で行われた「瀬谷オープンガーデン」を訪問。2027年に開催される国際園芸博覧会(花博)の開催地としても注目を集める瀬谷区で、趣の異なる魅力を発する2つの庭、「川口夏江・エリカ邸」と「谷元慶子邸」を取材しました。ここでは、お二人の庭づくりへの想い、それぞれに個性を持った庭の魅力を、オープンガーデンの概要や訪問時のマナーなどの情報とともにお届けします。 

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花博に向けて注目のエリアで開催された「瀬谷オープンガーデン2022」

神奈川県横浜市瀬谷区で「瀬谷オープンガーデン」が初めて開催されたのは2017年。以来、瀬谷区のPRと、旧上瀬谷通信施設を会場とする2027年開催予定の国際園芸博覧会(花博)を周知し、地域から活気づけることを目的として、毎年開催されています(コロナ禍によりウェブ会場でのみの開催含む)。

2022年は、4月15日(金)~17日(日)と、5月13日(金)~15日(日)の2回に分けて開催。さらに4月8日(金)~5月29日(日)には、“外からの見学自由期間”が設けられました。

会場は上瀬谷、相沢、瀬谷駅周辺、阿久和、下瀬谷の5つのエリアに分かれ、2022年は個人邸・施設・公園など47会場が参加。丹精込めてつくり上げられた春真っ盛りの個性豊かな会場は、連日多くの訪問客で賑わいました。

今回はその中から、上瀬谷と瀬谷駅周辺エリアの2つの個人邸の庭をご紹介します。

母の想いを受け継ぎ守る700坪の和風庭園〜「川口夏江・エリカ邸」

30年かけて母が築いた風情あふれる「山野草の庭」

庭から見た母屋の客間
庭から見た母屋の客間

2017年に開催された第一回目の「瀬谷オープンガーデン」から参加している川口邸。築100年を超える母屋を含む敷地は700坪を誇ります。

そんな広大な川口邸の庭を現在手入れしているのが、川口エリカさん。もともとはお母様の夏江さんが30年ほどかけてつくり上げた庭を、2年前に受け継ぎました。

「母はこの庭を『山野草の庭』と呼んでいました。茶道や華道に打ち込んでいた母は、その道に通ずるような和花を中心に、キレイな花を見つけては自宅の庭に植えていました。スズラン、ボタン、シャクナゲ、ツツジ、ホトトギス、ムラサキシキブなどなど、挙げるとキリがないですが、おかげで、この庭には一年中何かしらの花が咲いて楽しませてくれます」(エリカさん)

その言葉どおり、桜や椿などの樹木のもとで、種類豊富な山野草類が庭に彩りを添え、和の風情にあふれています。ところどころに配置された縁台や毛氈(赤い敷物)、そして門の外に象徴的に置かれた赤い和傘もお母様のアイデア。緑色の樹木を背景に、ひときわ鮮やかな赤が目を引きます。

キャリアウーマンから一転、自然と向き合う日々に

キャリアウーマンから一転、自然と向き合う日々に
藤棚とツバキ。

この広大な庭を、現在一人で手入れしているエリカさんですが、じつは2年前にお母様から引き継ぐまでは庭の管理には一切参加したことがありませんでした。仕事一筋・社長業を営むキャリアウーマンだったのです。もちろん、植物の種類にも、育て方にも詳しくありません。そんなエリカさんが、一転、庭と向き合うようになったのは、ご自身の定年退職とお母様の病気がきっかけでした。

自由な時間ができたこと、そしてお母様がこれまでのようには庭に出て植物の手入れをできなくなったことにより、手探りで庭いじりを始めたのです。

「毎日、失敗と反省、学びの繰り返しです。雑草かと思ったら花だったり、剪定すべき位置を間違えて翌年花が咲かなかったり…。でも、日々新しい発見と感動があり、わくわくします。自然のサイクルが感じられ、生きているものとともに暮らす幸せを感じています。でも、アジサイに毛虫が100匹くらいいた時は、さすがに驚きましたが…ある意味それもスリリングで楽しいですね(笑)」

季節が来るごとに新しい花が咲き、「あ、ここにはこんな花を母は植え込んだんだな、頑張ったんだな」と、花を通じて、今は会話も難しくなってしまったお母様の想いを感じられることも、エリカさんの気持ちが庭に向かう要因なのかもしれません。

5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭

現在の庭の形はお母様から受け継いだものですが、ここには明治生まれのおじい様の時代から5代にわたり継承されている、家族の大切な歴史があります。

5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
おじい様がつくった池。

母屋の前には、おじい様が家族の観賞用にとつくった小さな池があり、今も池の中には鯉が数匹泳いで目を楽しませてくれます。花の咲く木が好きだったというおじい様は、池の横にしだれ桜を植えました。この場所が、この庭の原点といえるかもしれません。

「祖父が残してくれた池のまわりで、毎年春になると、しだれ桜が咲き誇ります。病気療養中の母は、家の客間からこの風景を眺めるのが大好きです。私の娘や、まだ小さい孫たちもよくここに集まり、家族の憩いの場となっています」

このしだれ桜も、エリカさんの代になったある時、気付けば根元にキノコがびっしりと生えていて、もうダメかもしれないと思ったこともあったそう。それが春を迎えると見事な花が咲き、安堵とともに植物の生命力に感嘆したと言います。

5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
見事に咲くしだれ桜。
5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
庭を眺めるお母様。

庭には以前、穀物などを貯蔵する味噌蔵がありました。その味噌蔵を、お父様が茶室に改装し、お母様にプレゼント。茶室は「茶蔵庵(さくらあん)」と名付けられました。

さらに、2000年、お母様の茶道の師匠が使っていた茶室を譲り受け、「茶蔵庵」の奥に移築。こちらは「雲母庵(うんぼあん)」と名付け、お母様が開催するお茶会で、この2つの茶室が点心(お茶の後に軽食を別室にてもてなすこと)の場となることもありました。趣のある素敵な茶室は、ここが個人の庭であることを忘れてしまいそうになるような佇まいです。

5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
茶蔵庵(さくらあん/味噌蔵を改装)とエリカさん。
5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
師匠の茶室を移築した雲母庵(うんぼあん)。

祖父、そして父母からエリカさんへと受け継がれた庭に、これからエリカさんのお嬢さんやお孫さんの思い出も重ねられていきます。そんな家族の絆が感じられる庭が、仕事の第一線から退いたエリカさんの今の生きがいだと言います。

「植物は常に見てあげていないと、そして、何かに気づいたらすぐに行動しないとアウト! 仕事を引退しても、『日々やること』を祖父や母が残してくれたことにとても感謝しています」

5代にわたって継承される家族の絆を見守る庭
茶蔵庵を彩る草花。

人々が集う場を提供し、花博にも貢献したい

今後もオープンガーデンには毎年参加し、ありのままの庭の姿を楽しんでいただきたいというエリカさん。

最後に、庭に関する今後の夢を伺いました。

「この庭を人が集う場所にしていき、もっといろいろな人を巻き込んで、地域の発展にもつなげていきたいです。2027年の花博の頃には、外国人訪問者も増えるでしょうし、ここで日本らしい風景を楽しんでいただきたい。庭の発展は、孫の成長と同じくらい、これからの私の人生の楽しみです」

種子から育てた草花とバラが咲き誇る庭〜「谷元慶子邸」

種子から育てた草花とバラが咲き誇る庭〜「谷元邸」

庭づくりのきっかけは“返品商品”

庭づくりのきっかけは“返品商品”
さまざまな花が咲き誇る。

2018年から「瀬谷オープンガーデン」に参加している谷元慶子さんの庭は、種子から育てた草花が特徴です。以前、大手種苗メーカーのお客様相談室に30年ほど勤めていたことがある谷元さん。植物を育て始めたきっかけは、返品された商品を育てたことでした。

「返品された植物をよく見ると、まだ生きているんです。そのまま破棄するのはかわいそうで、無理かもしれないと思いつつ家で育ててみると、元気に復活してくれました。それが嬉しくて、その後も、根っこだけのもの、枯れかけているものなど、あらゆる状態の返品された植物を家に持ち帰っては、救済したり、試作品を植えるなどしているうちに、可愛い花々にあふれる庭ができていきました」(谷元さん)

40年も前に植えたものが、今も咲き続けているという谷元さんの庭。

「土質に特徴があるのか、他ではなかなか咲かない花が咲いたり、枯れそうな植物を生き返らせる力がこの庭にはあると感じています」

種苗メーカーを退職後も、その知識と経験が買われ、幼稚園や小学校の苗を育てる育苗センターなどで苗づくりの手伝いをするうちに、そのご縁で、瀬谷オープンガーデンに参加することになりました。

バラは約25種…種子から育てた草花は数え切れないほど

バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
バラをはじめ、種類豊富な花々が咲き誇る。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
色鮮やかなバラ。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど

もともとバラが好きだった谷元さん。モッコウバラからスタートし、今ではつるバラの‘安曇野’や、‘プリンセス・モナコ’、‘ピエール・ド・ロンサール’など、25種類ものバラを育てています。

「今年のバラはそれほど病気もせず、とても状態がいい。手をかければかけただけよく育ち、本当に愛着が湧きます」と嬉しそうです。

バラ以外にも、クレマチスやジギタリス、ポピー、カスミソウなど彩り豊かな花々が所狭しと咲き誇り、道路に面した壁際の鉢植えコーナーには、ゴテチャ(ゴデチア)やレーマニアなど珍しい植物や多肉植物も。すべてに植物名が書かれたプレートを立てているので、見ていて勉強にもなります。

「このプレートのおかげで、通りすがりの人や子供たちがのぞいていってくれます。育てた花をたくさんの人に見てもらえるのはとても嬉しいです」

バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
まっすぐに伸びるポピー。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
こちらもピーンと空に向かって花を伸ばすゴテチャ。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
道路側の花壇で通行人の目を楽しませてくれる草花。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
所狭しと並べられた鉢植え。
バラは約25種…タネから育てた草花は数え切れないほど
花咲くサボテン。

パンジーが紡ぐ庭ともだち

パンジーが紡ぐ庭ともだち
谷元さん(左)と友人のAさん。

谷元さんの庭づくりのパートナーとして、取材日に同席してくださったのは、友人のAさんです。出逢いは6年ほど前。谷元さん宅の前を通るたびに、小さなパンジーを見て、「あの小さな株は、種子から育てているのではないかしら」と気になっていたAさんから、谷元さんに声を掛けました。パンジーは最も育てやすい初心者向きの花として知られますが、じつは種子から育てるのはなかなか難しい花です。よっぽどの花好きさん、園芸達者ではないかしらというAさんの勘は的中し、そこから二人は仲良しに。今では谷元さんと一緒に庭の手入れをし、レンガの花壇も2人で一緒に作っています。

「私がひっそりと奥のほうでアマリリスを育てていたら、Aさんに『もっと表に出してみんなに見せたほうがいい』と言われたり、もっと計画立てて植えたほうがいいとか、いつもアドバイスをくれて。プロデューサーのような存在です(笑)」この日も、谷元さん以上に庭の解説を熱く語るAさんを、谷元さんがニコニコと見守る様子に、2人のステキな関係性が垣間見えるようでした。

オープンガーデンが毎年の目標に

オープンガーデンの開放期間中は、1日約70~80人、3日間で200人が訪れるという谷元邸。珍しい植物も並ぶので、苗を譲ってくれないかという要望を受けることもあり、なかには自分の庭から持ってきた花と交換することを楽しみにして来る人もいるのだとか。最近は、男性の訪問者も以前より増えて、園芸愛好者層の広がりを感じると言います。

谷本さんにとって、毎年のオープンガーデンが庭づくりへの活力の源になっています。

「今度のオープンガーデンはどんな彩りにしようか、どんな種子を播こうか、と考えるのが毎年の楽しみです。そうやって庭いじりを続けていると、心も体も健康でいられるし、風邪も引かなくなりました。花を見てイヤな気持ちになる人はいないと思いますし、皆さんが私の庭を見て喜んでくださるなら、苦労と思うことは一つもないですね」

7月は瀬谷区の区の花「アジサイ」を楽しもう

7月は瀬谷区の区の花「アジサイ」を楽しもう
masajla/Shutterstock.com

瀬谷区では、区の花である「アジサイ」のフォトスポットや散歩コースなどの見どころスポットをHPで紹介しています。「アジサイの見どころスポット」の場所でアジサイの写真を撮って投稿する、#瀬谷のアジサイ インスタグラム投稿キャンペーンを開催中。応募者の中から抽選でプレゼントが当たります。期間は、2022年7月15日(金曜日)まで。この機会に、瀬谷区まで「アジサイ」を見に足を運んでみませんか。

https://www.city.yokohama.lg.jp/seya/shokai/gaiyo/midokoro/ajisai-spot.html#PTOP

「オープンガーデン」とは

オープンガーデンの発祥の地は、園芸大国イギリスです。手塩にかけた自分の庭を、ベストシーズンに公開して来訪者に喜んでもらい、そこで得た入園料やお茶の代金を、困っている人のために寄付するのが英国のオープンガーデン。慈善団体ナショナル・ガーデン・スキーム(以下、NGS)によって活動が展開されており、英国中の3,500以上の庭園が参加しています。

英国では、チャリティー活動の資金集めの一つの手段として広く行われるオープンガーデンですが、日本でも瀬谷区のようにオープンガーデンを開催したり、オープンガーデングループを組織している地域が全国にあります。ただし、日本の場合は必ずしもチャリティーを目的にしているわけではなく、ガーデン愛好家の交流やコミュニティー活性のために行われることも多く、入場料を設定していないことも多いです。個人庭を見る機会はなかなかありませんし、丹精した庭を見てもらうのは公開する側にとっても大きな喜びであり、オープンガーデンは日本でも人気です。

オープンガーデンを見るには

日本には英国のNGSのような総合的な窓口はありませんが、地域ごとにオープンガーデングループを組織しているところもあり、公開している庭の情報をまとめた冊子などを作成している場合があります。多くの場合、庭が最もきれいな4〜6月の間に公開期間を設けていますが、期間中いつでも一般公開しているところもあれば、事前予約が必要な場合もあるので、事前に訪問ルールを確認して訪れましょう。また、最近ではインスタグラムなどで個人的にオープンガーデン情報をやりとりしているケースもよくあります。

オープンガーデンのマナー

庭にお邪魔するときは、丹精した庭の植物が傷まないよう配慮しましょう。庭は長い時間をかけてつくられ、庭主さんのいろいろな思い出がつまった大事な場所です。とても残念ですが、植物を手折ったり、無断で抜いたりするケースもあります。そのように持ち帰った植物は、決して美しく育ちません。庭主さんの日々の手入れに敬意を払い、植物を育てる喜びを共有する機会にしたいですね。

Credit

取材・文/ガーデンストーリー 編集部

写真/2,4,7~8,10~20 編集部

一部写真提供/川口エリカさん

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