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ドイツの歴史あるナーセリー「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン(Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin)」

ドイツの歴史あるナーセリー「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン(Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin)」

Bildagentur Zoonar GmbH/Shutterstock.com

世界各国には、歴史あるさまざまなナーセリーがあります。今回ご紹介するドイツの「グレフィン・フォン・ツェッペリン(Gräfin von Zeppelin)」もその一つ。90年以上の歴史を持つ、宿根草を中心とするナーセリーで、ヘメロカリスやアイリスをはじめ、さまざまな植物を育種、紹介、販売しています。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、このナーセリーの魅力をご案内します。

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ガーデニングシーズン到来

シャクヤク
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

多くの花々が一斉に咲く初夏を過ぎ、これからは草花や低木、木々の花や実りが次々にやってきます。ガーデンでは、アイリスやヘメロカリス、ピオニーが美しい季節ですね。私の故郷ドイツには、この3種をはじめとして多様な植物を生産してきた、ガーデン界ではよく知られたナーセリーがあります。今回は、そんなナーセリー、「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン(Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin)」をご紹介します。

高品質な苗を生産する歴史あるナーセリー「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」

このナーセリーの歴史は、1926年、アイリス伯爵夫人とも呼ばれるヘレン・フォン・シュタイン=ツェッペリン(Helen von Stein-Zeppelin)が宿根草のナーセリーを設立したことに始まります。アイリスやヘメロカリス、ピオニーなどを育種していましたが、第二次世界大戦中は宿根草の栽培エリアを転用して野菜の栽培を行っていたこともありました。当時ヘレンは、プライベートガーデンや彼女だけの秘密の一角に、少なくとも各品種の1株を含むできるだけ多くの植物を隠し、戦火から守りました。戦後、こうして守った株を使い、また栽培や育種を始めたのです。

その後、ナーセリーはヘレンの娘のアグラヤ・フォン・ルモーアが引き継ぎ、そして現在、このナーセリーは、ヘレンの甥であるフレデリック・フォン・ルモーア氏に受け継がれています。

ナーセリーは、ズルツブルクとラウフェンという小さな町の近く、マルクグレーフラーラントにあり、近郊の大きな都市としてはフライブルクがあります。この地域は「ドイツのトスカーナ」とあだ名されるように、イタリアのトスカーナ地方に似た温暖で過ごしやすい気候が特徴です。ちなみに、イタリア、特にトスカーナは、何世紀にもわたりドイツ人にとって憧れの地。そんな地域に近い気候を持つマルクグレーフラーラントは、ドイツの南西、フランスとの国境のすぐそばに位置し、スイスのバーゼルにもほど近いところです。ブドウ畑と美味しいワインで有名な、広大な果樹園のある丘陵地帯で、春には一面にサクラの花が咲き誇り、郊外では、散歩やハイキングが楽しめます。

マルクグレーフラーラント
「グレフィン・フォン・ツェッペリン」のあるマルクグレーフラーラント。ON-Photography Germany/Shutterstock.com

魅力あふれる「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」のショップ

「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」では、ショーガーデンやトライアルガーデンで、香りのよさや色彩、丈夫さなどの観点から選び抜かれたバラや、日向~日陰、それぞれの庭に向くグラウンドカバーなど、さまざまなシチュエーションに応じた植物のコレクションが見られます。敷地いっぱいに広がる広大な花畑は、周囲の小さな村や畑、野原などと好対照。そんな「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」で見られる植物を少しご紹介しましょう。

「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」で揃う多様な品種

シャクヤク’ロサプレナ’
シャクヤク‘ダッチェス・ド・ヌムール’。 Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」で特にコレクションが豊富な植物の一つが、シャクヤク、オランダシャクヤク、ボタンといったピオニーの仲間。白花で香り高く、虫たちもよくやってくるシャクヤク‘ダッチェス・ド・ヌムール’や、早咲きで育てやすい、ソフトピンクのオランダシャクヤク‘ロサ・プレナ’などが見られます。ちなみにドイツでは、ミツバチが好む花粉の多い虫に優しい花、ということは、植物を選ぶ際の大切な要素です。

アイリス
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Engelhardt, Thomas

アイリスの膨大なコレクションも素晴らしいもの。アイリス・シビリカ、アイリス・スプリア、アイリス・バルバタ、アイリス・バルバタ・エラチオール、アイリス・バルバタ・メディア、アイリス・バルバタ・ナナ…など、大きさも生育環境もさまざまなアイリスの仲間たちを見ることができます。中には、繰り返し咲くアイリスも。白とライトブラウンの花弁を持つ‘シャンパン・エレガンス’などがその例で、ドイツでは5月と9月に咲きます。

ヘメロカリス
ガーデンに咲くヘメロカリス。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ヘメロカリスもまた美しい花を咲かせています。ヘメロカリスの花色バリエーションは、黄色やオレンジ、赤、ピンクなど、濃い赤からソフトピンク、ほとんど白に近いものまで幅広く、ほとんどの場合、花心に黄色っぽい目があります。花期は5~7月が中心ですが、早咲きや遅咲きの種類を組み合わせることでより長く楽しめ、ドイツでは9月まで咲いている姿を見ることができます。もっとも、酷暑の厳しい日本では難しいかもしれません。

ドイツでは、低く茂る黄色のヘメロカリスが、公共空間の植栽でとてもよく使われています。背の高くなる品種は、主にプライベートガーデンやショーガーデンで使われます。大雨の後は草姿が乱れがちですが、数日経てば新しいつぼみが花開き、またきれいな姿を見せてくれます。

これらのほかにも、宿根草をはじめ、ハーブやグラス類も幅広い種類が購入できますよ。

もちろん、これらのコレクションの中には、ナーセリーが育種したオリジナル品種もあります。アイリスとヘメロカリスのオリジナル品種をいくつかご紹介しましょう。

Aglaja von Stein
アイリス・バルバタ・エラチオール‘Aglaja von Stein’。草丈は低めで、サーモンピンクの花を咲かせる。1962年作出。Photo/Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin
Iris Barbata-Elatior 'Impromptu'
小さめのアプリコットブラウンの花がよく咲くアイリス・バルバタ・エラチオール‘Impromptu’。1948年作出。Photo/Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin
Hemerocallis 'Frederik'
ビロードのような鮮やかな赤花のヘメロカリス‘Frederik’。丈夫。名前はツェッペリン伯爵夫人の孫から。1992年作出。Photo/Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin
Hemerocallis 'Karine von Rumohr'
明るいオレンジレッドの大きめの花弁を持つヘメロカリス‘Karine von Rumohr’。こちらも名前は伯爵夫人の孫娘から。1992年作出。Photo/Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin

植物探しに便利なテーマのある植物セレクション

それぞれのガーデンにぴったりの植物の組み合わせを簡単に探せるのが、ナーセリーが選りすぐったテーマのある植物セレクションコーナー。例えば、「小道沿い」というテーマでは、幅60cmほどのスペースにぴったりの、6~10月にかけて咲き、カラーリーフで地面をカバーしてくれる植物8種をセレクト。紹介されているのは、アルケミラ・モリス、エキナセア・プルプレア、ガウラ、ゲラニウム、ヒューケラ、イベリス、サルビア・ネモローサ、セダムです。

ガーデンの小道
アルケミラ・モリスで足元を彩った小道。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

また、高低差のある花壇に向く「丘の上」、4~10月までと花期の長い花を集めた「パーマネントフラワー」、グラス類のバリエーションに特化した「グラスの海」、カラフルな宿根草の「カラフルな夏花壇」など、ほかにもさまざまなテーマを見ることができます。

ガーデン
黄色が鮮やかなコレオプシスとアキレアの咲くガーデン風景。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

さらに魅力的なのは、カラーテーマ。「色の川」というテーマでは、赤や白、青、ソフトピンク、紫、黄といった色ごとに、植物を探すことができます。例えば黄色のおすすめは、ヒマワリ‘レモンクイーン’、ローマンカモミール、ウイキョウ、コレオプシス、エキナセア‘キスミットイエロー’、アキレア、ヘメロカリス‘キャットウィールズ’などがあります。

ヘメロカリスの活用アイデア

ヘメロカリス
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ナーセリーでは、ヘメロカリスを1株、鉢やコンテナに植えるのもおすすめされています。こうすれば、一番目立つスポットに置くこともできますね。玄関前やベランダの縁、ボーダー花壇に置くのもいいかもしれません。

鉢植えにする場合、私は寄せ植えにせずヘメロカリス単体で植えて、より際立たせるのが好きです。花期の異なる2品種を植えれば、より長い期間花が楽しめますね。背丈の異なる種類なら、後方に背の高い品種を、前方に背の低い品種を植えると、壁や建物の前に置くのにいい鉢植えになります。360度から見たい場合は、真ん中に背の高い品種を、周囲に背の低い品種を植えるとよいでしょう。

ヘメロカリスはシェードガーデンにもおすすめ。一日に6時間以上日が差すところがよいでしょう。ドイツでは、冬に葉を落とし、春にまた芽を出す落葉性のヘメロカリスがよく見られます。温暖な地域での栽培には、常緑性のヘメロカリスもありますよ。アメリカでは、そうしたヘメロカリスがグラウンドカバーとして植えられた広大なエリアを見たこともあります。

それぞれの国や地域により、同じ植物でもいろいろな使い方をされています。ヨーロッパで暮らしていた頃は、ヘメロカリスのつぼみを食べるなんて想像したこともありませんでしたが、中国では一般的な食材として扱われています。それぞれの植物に対するほかの国の活用法を見るのは、ガーデンのアイデアを膨らませるのに大いにプラスになってくれます。

5月のガーデンフェスティバル

メドウ
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Daniel Schoenen Fotografie

「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」では、毎年5月の終わりに「Graaefliche Zeppelinsche Gartenfest」というガーデンフェスティバルが開催されます。この期間中は、アイリスやピオニーが最盛期を迎え、また低木や宿根草も開花期に当たるものが多く、とても美しい光景が見られます。目に美しいだけでなく、フードトラックや生演奏もあり、また常設のカフェでも美味しい食事が楽しめますよ。フェスティバル期間中にはいくつかのワークショップも開かれ、最後に行われる大規模な植物の福引きも人気のイベントです。

信頼のおける歴史あるナーセリー

プランツカタログ
Eurobanks/Shutterstock.com

ガーデナーになるための勉強をしていた期間、さまざまなナーセリーのカタログを取り寄せて参照するのが、とても有用な勉強法でした。それぞれの植物の特徴を理解するだけでなく、植物名や育て方のマークを覚えるのにも役立ちます。しかし当時は、ナーセリーでは小さなポットに植えた植物をマルチで覆われた地面に並べてラインナップするのが主流で、あまり見栄えはよくありませんでした。ラベル付けもしっかりしておらず、ラベルが間違っていることはよくありましたし、選んだり購入した植物がじつは違う種類だということも日常茶飯事でした。

そんななかでも、いくつかは信頼のおける評価の高いナーセリーもありました。そのような場所であれば、欲しい品種を確実に持ち帰ることができ、時には専門家からアドバイスをもらえることもあります。今回ご紹介した「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」は、そうした正確なラベリングと品質のよさで知られているナーセリーの一つ。彼らのショップでは、いつでも質の高い植物や新しい品種、アイデアに出会うことができるのです。それは、今も変わりません。

「シュタウデンゲルトネライ・グレフィン・フォン・ツェッペリン」では、ネットショップも充実しています。素敵で面白い宿根草ガーデンのために、いろいろなナーセリーを回って必要な植物を集めるのは、なかなか時間のかかる作業。ネットで注文して玄関前まで届けてもらえるのは、とても便利なことですね。

Staudengärtnerei Gräfin von Zeppelin  https://graefin-von-zeppelin.de/

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

取材/3and garden 

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