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「ザ・ウェッジウッド・ローズ」【松本路子のバラの名前・出会いの物語】

「ザ・ウェッジウッド・ローズ」【松本路子のバラの名前・出会いの物語】

バラに冠せられた名前の由来や、人物との出会いの物語を紐解く楽しみは、豊かで濃密な時間をもたらしてくれるものです。自身も自宅のバルコニーでバラを育てる写真家、松本路子さんによる、バラと人をつなぐフォトエッセイ。今回は、昨年の秋に入手し、初めてバルコニーで咲いたニューフェイス‘ザ・ウェッジウッド・ローズ’の魅力と、それにまつわる物語をご紹介します。

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わが家の今年のニューフェイス

ザ・ウェッジウッド・ローズ
1本の細い茎に4~5個のつぼみをつけ、徐々に開花してゆく。花もちもよいので、長期にわたり楽しむことができる。

今年のわが家のバラのニューフェイスは、‘ザ・ウェッジウッド・ローズ’。優しげなローズピンクの花姿と、その名前に惹かれて、昨秋に裸苗を手に入れた。茎や根が短かったので8号鉢に植え付けたが、枝の成長の勢いが強く、4~5輪の房咲きで、鉢から溢れんばかりに開花している。

ザ・ウェッジウッド・ローズ
つぼみが次第にほころんで、多弁の八重の花が満開になる様子を追う日々。至福の時間だ。今年5月のバルコニーから。

‘ザ・ウェッジウッド・ローズ’は、英国の陶磁器メーカー、ウェッジウッド社の創立250周年を記念して、デビッド・オースチン・ロージズ社が命名したイングリッシュ・ローズ。ウェッジウッドの陶磁器に魅せられた私にとって、その名前が冠されたバラはずっと気になっていた。バルコニーの鉢は60を超え、スペース的にこれ以上増やせない状態だったが、思い切って求めてしまった。

名前の由来

ウェッジウッド
ウェッジウッドの人気パターン「クタニクレーン」の灰皿。「クタニクレーン」は、九谷焼きの影響を受けた紋様で、1971年から1998年にわたり多く販売された。その後廃番だったが、2009年に創立250 周年を記念して復刻された。

ウェッジウッド社は「英国陶芸の父」と称される、ジョサイア・ウェッジウッド(Josiah Wedgwood 1730-1795)によって1759 年に設立された。陶器メーカーの家に生まれた彼は、29歳でウェッジウッド社の前身であるアイヴィ・ハウス工房を立ち上げている。工房のあったスタフォードシャー州は、陶芸に適した良質の粘土が産出される地で、探究心旺盛だったウェッジウッドは、それまでになかった乳白色の硬質陶器、クリームウェアを完成させた。

ウェッジウッド
ウェッジウッドを代表するパターンとして世界中で愛されている「ワイルドストロベリ―」。野いちごの花や実をモチーフにしたヴィクトリア調のデザインで、1965年に発売された。

英国国王ジョージ3世の王妃シャーロットがこの陶器を愛用し、クイーンズ・ウェア(女王の陶器)という称号を許可している。さらに王室御用達となったことで、世界各地の王族、貴族が揃って求めるようになった。

ウェッジウッドのティーセット

ウェッジウッドのティーセット
「ハミングバード」シリーズのティーセット。ポットには今にも飛び立ちそうなハミングバード(ハチドリ)が描かれている。

私がウェッジウッドの陶磁器に出会ったのは、1980年代にロンドンに長期滞在していた時だった。出張で東京からやってきた友人に誘われて、リージェント・ストリートにあるショールームに出かけた。単なる物見遊山のつもりだったが、店内を歩いていて、突然ティーポットとカップのセットを求めたいという衝動に駆られた。

ウェッジウッドのティーセット

それまでアンティークのティーカップは集めていたが、ティーポット、クリーマー、シュガーポット、カップ6客と同じ絵柄で揃えるのは初めてのことだった。「コロラド」というシリーズで、仕事場で長く愛用している。その後、自宅用に「ハミングバード」のシリーズを求めた。酒類やコーヒーをたしなまない身にとって、こうした器とともに味わうティータイムは、貴重な時間となっている。

バラ模様のティータイム

ウェッジウッドの「チャーンウッド」
ヴィンテージの器を少しずつ集めている「チャーンウッド」シリーズのティーセットは、バラの花見の時期に登場する特別なもの。

バルコニーでバラの花見の客人をもてなすのに、バラ模様のティーセットが欲しいと、集め始めたのが「チャーンウッド」のシリーズ。すでに廃番になっていたので、仕事でヨーロッパに行くたびに骨董市に立ち寄り、ヴィンテージ品をひとつずつ買い求めた。

ウェッジウッドの「チャーンウッド」シリーズ

チャーンウッドは英国中央部レスターシャ―州にある森の名前。ウェッジウッドが1940年から本拠地にしているストーク・オン・トレントに近いところに位置する。森の中に咲く野バラをイメージした意匠は、どこか東洋的でもあり、華やかだがゆかしい佇まいを見せる。昨年秋に出版した拙著の表紙写真にも、バルコニーのテーブル上に登場させている。

ウェッジウッドブルー

ウェッジウッドブルー
ブルーの下地に古代ギリシャやローマの装飾をモチーフとした白のレリーフを施した、代表的なジャスパーウェア。ウェッジウッドの創設者が長年の研究の末、1775年に誕生させた。写真はショールームのディスプレイから。rudnitskaya_anna/Shutterstock.com

実用的なテーブルウェアのほかに、ウェッジウッドで知られるのが、ジャスパーと呼ばれる装飾用のストーンウェア。クリスマスイヤープレートなどの記念プレートや室内装飾品が主で、ブルーやグリーンの地に、白色のネオクラシカルなレリーフ模様が描かれている。

ウェッジウッドブルー

ジャスパーの青色にはロイヤルブルー、ポートランドブルー、ペールブルーなどがあり、中でもペールブルーは、ウェッジウッドブルーと呼ばれるものだ。私がジャスパーウェアを知ったのは、ロンドンで居候していたフランシス家のバスルームだった。6畳ほどの広さの空間がブルーで彩られ、壁にはジャスパーウェアの飾り皿が掛けられていた。フランシス夫人は、このバスルームを「ウェッジウッドブルーの部屋」と呼んでいた。

ブランドマーク

ウェッジウッドのバックスタンプ
バックスタンプの茶壺マーク。茶色は1878~1902年、緑色は1902~1962年、黒色は1962~1997年と、製造された時期によって色が異なる。

骨董市で陶器を探している時は、器の底にあるバックスタンプを見るようにしている。製作年代によってマークが異なるのだ。ウェッジウッドは、アンティークにはWedgwood Englandの文字だけのものもあり、1878年から1997年にかけてのものには、茶壺のマークが記されている。壺の色は年代の古い順に、茶色、緑色、黒色と年代順に分けられている。ちなみに1998年以降はWの文字マークとなっている。バックスタンプを見ることで、その器の年代と、経てきた時間に思いを馳せることができる。

バラ‘ザ・ウェッジウッド・ローズ’ ‘The Wedgwood Rose’

ザ・ウェッジウッド・ローズ

‘ザ・ウェッジウッド・ローズ’は、デビッド・オースチン・ロージズ社から2009年に発表されたバラ。陶磁器メーカーのウェッジウッドは、いくつかの会社の傘下に入るなど紆余曲折を経ながら、世界的に根強い人気を保ち、この年創立250年を迎えた。バラはその記念の年に捧げられたもの。

ザ・ウェッジウッド・ローズ

花色は中心部がローズピンクで、外側に向かうに従いペールピンクから白色に近づく。そのグラデーションは、ため息が出るほど美しい。多弁の八重で、花径は約10cm。樹形は半直立性。樹高は木立バラとして整えることができるが、3mほどのつるバラとして設えることも可能だ。

ザ・ウェッジウッド・ローズ

四季咲き性で、よく返り咲く。1本の茎に4~5個の房状のつぼみをつけて、順次開花し、花もちもよいので、1カ月近く花を楽しむことができる。剛健で、鉢植え栽培にも適している。

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