ガーデンの植物たちが寒さに耐える冬は、庭景色の変化が少ないガーデニングのオフシーズン。けれど、よく観察してみると、あちらこちらに自然の恵みが隠れています。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、この季節のガーデンの楽しみや、冬の間だからこそ行いたい庭仕事について、エピソードを交えて教えていただきます。

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冬の散歩道

冬景色
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

新しい年が始まった1月、日本各地の天気予報には雪マークが並ぶ気温の低い日が続いていますね。私は今年、義母の暮らす九州で年始を過ごしました。コロナ禍のため、食料品の買い出しか、人出がほとんどない郊外の場所を除いて外出はしませんでしたが、一度だけ、村や近くの山並みが見晴らせる義母の家の裏手の丘に登ってみました。

住宅街
aaron choi/Shutterstock.com

丘の頂上へ向かう道すがらの楽しみは、色や葉の形、草姿など、なにか気になる植物がないか探してみること。また、古い民家や新築の家が立ち並ぶ住宅街では、それぞれの時代ごとの建物や庭のスタイルの変遷を見ることができます。家や庭、駐車場の大きさは、時代を下るにしたがってだんだん小さくなっているよう。家は小さく、屋根も短くなりました。軒がなくなると、雨風が直接窓に当たって窓を傷める可能性がある一方、太陽がより長く家の中に差し込み、室内の温度が上がりやすくなります。

黄色い実が愛らしい庭の柑橘類

道の途中、暗色の瓦屋根に大きな庭を持つ、美しい古い和風建築の民家がありました。古い民家や庭に共通するのは、たくさんの柑橘類が植えられていること。さまざまな大きさや形の明るい黄色の果実が実っているのは愛らしい景色で、道すがら元気をくれました。季節ごとの収穫も楽しめますね。このような民家には年配の方が住んでいることが多く、収穫も大変かもしれませんので、お手伝いできたらなと考えています。

柑橘類
柑橘類の明るい色彩は元気をくれます。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

そういえば、同じ状況が私の住む湘南でもありました。ユズの木にたくさんの実がなっているのに誰も収穫せず、もったいなく思ったのを覚えています。野鳥たちももっと甘い柑橘類を好むので、せめて半分くらいは収穫できたらいいなと思います。

ドイツでは、収穫が難しい年配の方は、友人や親戚に手伝いを頼みます。時に全然知らない人でも、玄関の呼び鈴を鳴らして「もし収穫の予定が無ければいただいてもいいですか?」とか「よろしければ収穫をお手伝いしましょうか?」なんて尋ねることも。ちなみにドイツでは、果樹の主流はリンゴやプラムです。

散歩道に話を戻しましょう。比較的新しい家は、庭の代わりに駐車場があり、玄関にはいくつか花鉢が置いてあるだけというタイプが多いです。気温が低いからか、鉢の状態はあまりよくないことも。普段であれば全体をカバーしてくれる緑の枝葉が枯れる冬は、いろいろな粗が目に付きやすくなる反面、家の周りや庭、公園、遊び場などを掃除する、ベストチャンスでもあります。調子がよくない鉢などは、目に付かない場所に片付けたり、1つのアレンジだけ飾るほうが見栄えがいいかもしれませんね。

庭を通じたコミュニティと冬の庭仕事

冬景色
Bria Sativa Aguayo/Shutterstock.com

丘の頂上の公園に到着すると、70代ほどの男性が2人、静かに公園を掃除していました。きっと町内会の方が、毎週のように掃除しているのでしょう。公園にいたのはその方たちと私だけ。掃除している方を見ると、私自身も地元のコミュニティーメンバーと一緒に近所の公園を何度も掃除したことを思い出しました。先日、その公園を訪れたところ、活動していたのはたった一人。10年以上前には10人のメンバーがいたのですが、引っ越したり、活動に参加しなくなったりといった結果です。日本に帰国したので、私もこの方と一緒に、月に一度の地域活動にもう一度参加しようかなと計画中。一緒に仕事をした仲間との友情は長く続きますよ。

伐採
Deman/Shutterstock.com

コミュニティーといえば、ちょうどこの原稿を書く前日に、友人の庭で育ちすぎた木を切る手伝いをしました。集まった彼女の家族や友人たちと一緒に作業できたのは楽しい時間でしたよ。旦那さんのご兄弟はさまざまな技術を持つオールラウンダーで、難しい作業も経験と技術によって短時間で終わらせてしまうので、あまり時間をかけずに目的の2~5mほどの木を数本切り倒すことができました。切った木は薪ストーブのための薪に利用し、枝は動物たちの棲み処になるように近くの林に積みました。やがて土に還ることでしょう。

大きな木の陰になって暗かった裏庭は、明るい場所に生まれ変わりました。隣家の方も日陰になっていた部分が明るくなり、喜んでくれたそう。風通しもよくなったので、雨が降ったあともすぐに乾いて、壁に苔が生えることもないでしょう。うらやましいのは、切った枝が土に還るまで置いておけるスペースがあること。せっかく自然に還るものですし、ごみ袋に入れて処分する必要もありません。

切った木のうち、変わった形の幹の部分は、アート作品として扱うことに。大きく太い丸太はイスにできるかもしれません。もちろん、寒い時期にこうした剪定などの作業をするのはちょっとモチベーションが必要です。しかし、この時期でも切られたばかりの木の断面からは樹液が滴り落ちています。春が近づくと、木は成長に備え、新芽も芽吹きます。その時期になると、樹液の流れが増えて切った際のダメージが大きくなり、病害虫も入り込みやすくなります。気候は地域によって異なるので、地元の気候に即した行動をとることも大切です。

ちょうどいいタイミングが分からなければ、相談窓口がある地域の公園などで、地元の気候をよく知るプロにアドバイスを求めましょう。もし質問に行くなら、庭仕事が忙しくなる前の今のうちがいいですよ!

一年の庭計画を立てる時期

計画
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

一年のほとんどの時期は、ガーデンではやるべきことがたくさんあります。したがって、私の経験からすると、計画を立てるのは今の時期がベスト。時間がある日に、暖かいブランケットにくるまって、ソファで鉛筆とガーデンノートを片手に計画を立てましょう。ユズドリンクなどの温かい飲み物も忘れずに。庭や空を見ながら計画を立てるのは楽しい時間です。

庭計画の際には、チェックリストを作るのもおすすめです。庭の改善点を見つけるにも便利ですし、リストで事前に確認しておけば、何度もガーデンショップに行かないですみます。チェックポイントは、例えば

  • 掃除が必要な場所(屋外/屋内)と誰が手伝ってくれるか。
  • ガーデングッズのチェック。修理や買い替えが必要なものは何か。
  • 残っている種子は何か。リストを作って使用期限もチェックを。
  • 育てたい植物と野菜の優先順位は?
  • 一年のざっくりした計画とスケジュール。
  • ガーデナー仲間にアイデアや考えをシェアする。

などが考えられます。

アスパラガス
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計画を立てるだけでなく、一年の庭の準備も始めましょう。今年育てる野菜として、私が購入したのは、春に植えるためのアスパラガスの苗。先日ガーデンセンターで見つけ、迷わずレジに持っていきました。何年も充実した苗を探してきたのですが、見つからなかったのです。今年はようやく手に入れることができました。購入できた苗はスタンバイコーナーに置いて、いつでも気候のよいタイミングで定植する準備ができています。ジャガイモもショップに並び始めていますが、まずはどの種類をどれくらい植えるかを決めなくてはなりませんね。

冬の庭仕事の一つに剪定がありますが、ここでも春からのガーデニングに使える資材をゲットできるかも。私は先日剪定した際に出たしっかりした素敵な枝を、春野菜のトレリスとして使うために脇によけておきました。丸太はキノコ栽培にも使えるかもしれませんね。

庭仕事は先延ばしにしないようにしましょう。まだ暖かくなる前でも、早めに仕事にかかって外に出るのはとても楽しいものです。暖かい服装で、作業後は自分へのご褒美を忘れずに。ゆっくりお風呂に浸かったり、温かいお茶と甘いものがあると頑張れますね。

冬の庭観察

エリカ
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

以前の記事で、ずっと咲き続けてくれた赤いペラルゴニウムのことをご紹介しましたが、先日とうとう花が止まりました。最後の花は12月に咲き、1月の今はつぼみもありません。いっそ心配になるほどの咲きっぷりだったので、このペラルゴニウムにも休息が必要だと分かり、安心しました。ちなみに、私のガーデンブレイクは12月。この時期はとても忙しく、なかなか庭に出られません。

多くの植物の休眠期に当たる冬の期間、植物たちがどのように寒さに耐えているかを観察するのは面白いものです。「Proven Winner」のブランドのアルテルナンテラ・デンタータは、気温が氷点下になったときに完全に茶色くなってしまいました。昨年10月に植えたばかりの、赤い小さなベルのような花を咲かせるエリカは、氷点下の気温や雪にも耐え、この時期にはなかなか外で見かけない色彩を庭にもたらしてくれています。

感心するばかりなのは、常緑のリュウノヒゲ。先日、隣家との境界付近を掘り返していたところ、美しい青色に輝く真珠のような果実を見つけました。いったい何の実なのか周囲を探してみたところ、リュウノヒゲがこの実を付けているのに気づきました。我が家の場合、この美しい果実を付けたリュウノヒゲは、100株はあろうかという中で3つか4つだけ。果実がある株はクレイポットに鉢上げし、玄関に飾っています。

リュウノヒゲ
青く輝くリュウノヒゲの実。Yaping/Shutterstock.com

この季節は、他の時期なら気がつかないような植物や小さな変化が、とても嬉しく感じられます。一歩外に出て周囲を観察してみたら、きっとなにか宝物が見つかるはず。あなたの庭で、あなたのためだけの贈り物ですよ。

また冬は、バルコニーやベランダ、テラス、玄関などを再発見するにもいい季節です。冬の太陽が差し込み、雨風が当たらない暖かいエリアは、早めの種まきや植え付けにぴったり。先日、友人の一人から聞いた話によると、彼女の庭ではアガパンサスがつぼみをつけ、開花間近なのだとか。驚いて育てている場所を聞いてみると、とても日当たりがよく、両サイドに壁がある場所で、寒い冬の間も太陽の熱を閉じ込めて温暖な微気候を作ってくれているのだそう。あなたの家にも、そんな太陽を捕まえた場所があるかもしれませんね。

種まき
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ココが気になる!
間引いた苗や余った種の行く末は?

春が近づいて宿根草が土から顔を出し始めたら、どの株を残してどれを間引くのか、そしてどの株を別の場所に植え直すのか選択の時。宿根草は成長を始める前に抜いたほうがよく、私の暮らす湘南エリアでは、2月の終わりがちょうどいい時期に当たります。

それでは、こうして抜いた後はどうすればよいのでしょうか?

いま私の庭では、アイリスとヘメロカリス、ほかにも可愛い苗たちが余っています。ガーデニングの通販サイトを見ると、私が処分しようとしている苗たちは結構なお値段で販売されています。ガーデナー仲間で譲り合ったり、交換したりできたらと思うのですが、そんな仲間はどこにいるのでしょうか? どこか新しい家やガーデンに落ち着くことができたらいいのですが。もしかしたら、私が知らないだけで、すでにそんな宿根草や種の交換のためのコミュニティサイトがあるのかもしれませんね。

苗
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ドイツの私の故郷の町では、年に1回、9月の終わりに、自身の農地で個人的に植物交換会を開いてくれる方がいました。一度参加したことがありますが、とても素敵なイベントでした。たくさんの植物を愛する人たちが、よく育った宿根草や種を手に集まり、地面に1列に並べて、誰でも自由に好きなものを選ぶことができるのです。交換会が終わったら、一緒に座ってケーキと一緒にお茶やコーヒーを楽しみながら、ガーデン話に花を咲かせます。よく知った身近な地域の小さなコミュニティの中でも、この植物蚤の市を通して初めて仲良くなることができた人もいます。

日本に来てから、家の前に余った植物を並べ、植物名と一緒にPLANTS FOR FREEの大きなサインを添えて置いてみたことがあります。その経験から言うと、たとえ興味を持って足を止めてくれた人でも、残念ながら実際に手に取るのは遠慮しがちなよう。こういった単純なオファーに慣れていないからでしょうか?

今までたくさんの植物を配ってきましたが、植物と一緒に、花や自然がもたらしてくれる幸せな時間も分かち合って共有できると感じています。皆さまもぜひ、いろいろな人と植物を育てる喜びを分かち合ってみてくださいね。

ガーデンの花
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

取材/3and garden 

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