スペイン、イタリアやギリシャなどの地中海性気候の地域で栽培されているオリーブの木(Olea europaea)は、乾いた気候、痩せた石灰質の土地に合い、ラベンダー畑やブドウ畑と並ぶ、南仏プロヴァンスらしい風景にも欠かせない木です。シルバーがかったエバーグリーンは爽やかな風景を演出するばかりでなく、オリーブの実は塩漬けなどでそのまま食用に、また地中海料理には欠かせないオリーブオイルにもなる、一石二鳥の植栽として愛されています。プロヴァンス地方のオリーブの実の収穫期は、11月から12月上旬にかけて。収穫祭も行われるプロヴァンスのオリーブについて、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがレポートします。

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南仏プロヴァンスのオリーブの木々

プロヴァンスのオリーブ
プロヴァンスの風景のかなめ、オリーブの木々。

 世界で栽培されているオリーブの樹種は1,000種以上はあるそうですが、果実加工用とオイル加工用の大きく2種類に分かれます(両方兼ねる場合もある)。太陽がいっぱいのプロヴァンス地方ですが、冬場は氷点下となることもあるので、栽培に向く樹種としては耐寒性が高いことが必須です。

オリーブの実
収穫されたばかりのオリーブの実。

例えばプロヴァンス地方、ヴォークリューズ県で最も多く栽培されているのが、オイル加工用のアグランドー種。喉越しがピリリとするフリュイテ・ヴェール(Fruité vert)と呼ばれるオイルになります。その他にもピショリーヌ種、レロナック種、グロサンス種などが多く栽培されています。また、オリーブの木は自家結実性が低いので、受粉用に2種類以上の樹種を植えるのが通常です。

オーナメンタルと実用を兼ねるオリーブの木

オリーブ

プロヴァンス地方のオリーブの木は、オーナメンタルと実用を兼ねた植栽樹として選ばれていることが多いのが特徴的です。アマチュアのオリーブ栽培家たち(専業農家ではない)がたくさんいることも挙げられると思います。シンボルツリーとしてももちろん、広い敷地であれば、周囲の景観との調和を鑑みて、庭の敷地がオリーブの木々を何千本と植えたオリーブ畑となっているのを目にするのも珍しくありません。

オリーブの栽培には、もちろん施肥や消毒、剪定などの定期的な手入れが必要です。しかし、例えばブドウ畑を作ってワインを作るのは素人にはかなり難しいですが、比べてオリーブ栽培はだいぶハードルが低く、自家製オリーブオイルを味わうことができるのが大きな魅力にもなっています。

みんなが集ってオリーブ収穫祭り

オリーブの収穫
友人知人が集まったオリーブの収穫。

そしてプロヴァンス地方のオリーブ栽培の隠れた魅力は、なんといっても収穫のとき。集約農業のオリーブ畑の収穫は、機械化されトラクターで行われていますが、アマチュア栽培家の景観重視のオリーブ畑では機械が入れないような地形になっていたり、また、個人宅ではそこまでは必要ない規模であることも多く、収穫は手作業で行います。たくさんオリーブの木があれば人手も必要ということで、家族や友人知人が集まって、ワイワイと収穫作業を行う絶好のお祭りイベントの機会になるのも、プロヴァンスのオリーブの特徴かもしれません。

オリーブ収穫祭
テラスの太陽の下、長いテーブルでわいわいとランチタイム。

午前中から集まって収穫を始め、ランチをしっかり楽しんだ後は、また暗くなるまで収穫作業。と言っても、この時期日暮れも早くなって午後17時にはすでに暗くなるので、そのままお開きだったり、さらにディナーが用意されていることも。

オリーブの収穫はどんな風に?

オリーブの収穫
ラトー(熊手またはレーキ)かペーニュ(櫛の意味)と呼ばれる収穫道具を使って収穫します。

収穫作業に活躍するのがラトーと呼ばれる小さなプラスチックの熊手です。地面にはネットを敷いて、この熊手でオリーブの枝を梳かして実を落とします。背が高い木は、梯子を使ったり、木に登ったりして、手の届かない場所はそれでも枝をググッと引っ張って(よくしなって滅多に折れない)たわわになった実を梳かし、地面のネット上に落としていきます。

オリーブの収穫
ネットの上に落ちたオリーブの実を集めているところ。まるで地引網のよう。

全体的にくまなく実を落としたら、次は地面のネットを引っ張って実を一カ所に集め、ケースに移していきます。手作業の収穫は人出も時間も必要ですが、機械よりはずっと木に優しいという利点もあります。

オリーブの搾油所(ムーラン)

オリーブ搾油所
「O comme Olive」というお洒落な名前のオリーブ搾油所。地元の人々が次々と訪れます。

さて、収穫したオリーブの実は、その日のうちか、遅くとも翌日にはムーランと呼ばれる搾油所に運びます。というのも、搾油するまでの酸化度の違いが、オリーブオイルのクオリティーの違いの重要な要因になるのです。収穫した実の酸化が進まないうちに、できる限り迅速に搾油工程に入るのが美味しいオリーブオイルを作る秘訣です。

オリーブ搾油
オリーブ搾油の工程。洗浄ののち粗砕・撹拌に向かうたくさんのオリーブの実。

洗浄ののち、粗砕・撹拌されてペースト状になったオリーブの果実からは、加熱などの加工をせずともそのまま遠心分離機でオイルを抽出して、エクストラ・ヴァージン・オイルが出来上がります。

また、若いグリーンのうちに収穫した実のオイルは、喉越し辛口のパンチが効いた味、黒っぽくよく熟した実は、まろやかな味のオイルになるのだそう。どちらがよいかは好みですが、オリーブオイル愛好者には、前者の角の立った味が好まれる傾向があるのだとか。

アグランドー種のオリーブ
アグランドー種のオリーブのグリーンの実。

オリーブ10kgから採れるオイルはおよそ5ℓ。収穫量が少ない場合は、搾油の際に他の畑のオリーブとのミックスになってしまう場合が多いのですが、こちらはオリーブ50kgと小ロットから、他とは混ぜずに、オリジナルのオリーブオイルを作ってくれるので、アマチュア栽培家たちに人気の地元のムーラン。最盛期の週末の夕方~夜には、日中収穫したオリーブを持ち込む客が列を作ることも。

オリーブ搾油所
夕刻、収穫したオリーブの実のケースを運び込む人々。最盛期には長蛇の列ができることも。

ちなみに、大きなオリーブの木からは1本で70~80kgほどの実が収穫できることもあるそうですが、オリーブ50kgというと、通常でも10年くらいの木から平均10kgのオリーブの実を収穫したとして5本あれば到達する量で、ハードルはそれほど高くないと言えます。畑と言わないまでも、しっかりしたオリーブの木が自宅の庭に何本かあれば、オリジナルの自家製オリーブオイルを楽しむことができるなんて、なかなかに素敵です。

オリーブの木
ピクチャレスクなオリーブの木々。

自家製オリーブオイルは、収穫場所からのアクセス圏内に搾油所がないとなかなか実現が難しいですが、オリーブの木々が南仏プロヴァンスの風景に、人々のライフ・スタイルに深く根付いているのだなあと改めて感じるのがこの収穫の季節です。プロヴァンス料理では日常的にオリーブオイルをよく使いますが、温かいお米にも塩胡椒を振ってオリーブオイルを混ぜてメインの肉魚への付け合わせにしたり、冷えたお米はサラダにしたりします。美味しいエクストラ・ヴァージンのオリーブオイルは加熱せずに生で使うのもポイントです。

オリーブの収穫
小さな若木はまだ実が少なく、ネットを敷くほどでもないので手作業で収穫。ちなみに長靴は「日本野鳥の会」で販売している折りたためるタイプ。フランスの人々にも好評です。

鉢植えでも育つオリーブの木

オリーブオイルは栄養豊富なばかりでなく、抗酸化作用が高いことでも知られていますが、葉っぱにも抗酸化作用があり、花にもリラックス・癒やしの効果があるそうです。また生命力の象徴とも言われるオリーブの木、じつは鉢植えでも十分育てることができるので、果実加工用の樹種などを選んでご自宅でトライしてみるのもいいかもしれません。

プロヴァンスのオリーブ
プロヴァンスの白っぽい石壁の色合いが、オリーブによく似合う。

オリーブの育て方については、こちらの記事も参考にしてください。

Credit

遠藤浩子

写真・文/遠藤浩子

フランス在住、庭園文化研究家。
東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

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