今年もパンジー&ビオラは白熱! サトウ園芸の人気品種ヌーヴェルヴァーグ、ローブ・ドゥ・アントワネット …
開店前の園芸店に200人の列。新型iPhone発売時をしのぐほどその行列の目的は、一年草の花苗、パンジー&ビオラです。育てやすく種類が豊富で、最も親しみのあるガーデニングの素材として長く愛されてきた花ですが、近年何人かの日本人育種家によって、世にも美しく不思議で妖しい魅力を放つ花が次々に誕生しています。人々を熱狂の渦に巻き込むパンジー&ビオラ大ブームの立て役者の一人、群馬県のサトウ園芸を取材しました。
目次
クレール・ドゥ・リュンヌなどレア品種は個数制限あり!
個性的な花姿で大ブームを巻き起こしているブランドと呼ばれるパンジー&ビオラ。今年も店頭に並び始めると同時に、開店前からのウェイティング組が待機する姿が見られ、パンジー&ビオラは白熱ムード! サトウ園芸のローブ・ドゥ・アントワネット シリーズの新品種‘クレール・ドゥ・リュンヌ’(フランス語で月明かりという意味)は入荷数が限られており、1人1株の個数制限になっているので、入荷予定をお店に確認してから早めに行くのが吉です。また、ヌーヴェルヴァーグシリーズの‘ラピスラズリ’など魅力的な品種が今年も満載です!
パンジー&ビオラが巻き起こす園芸大ブーム
パンジー&ビオラは晩秋から翌年の初夏まで半年以上咲き続け、色幅も豊富な可愛らしい一年草です。丈夫で育てやすいことから、初心者がまず挑戦してみる花の一つですが、この「誰もが育てる初級編の花」が今、園芸界に大ブームを巻き起こしています。
「最初に私のパンジー&ビオラに目をつけてくれたのは、バラやクレマチスといった花を育てている、どちらかといえば上級者の方だったんです」と話すのは、群馬県のナーセリー「サトウ園芸」の佐藤勲さん。ガーデニング上級者も虜にした佐藤さんのパンジー&ビオラの特徴は、それまでにはなかった世にも複雑な色と形、そしてファンタジックな名前。
パンジー&ビオラの世界観をひっくり返したサトウ園芸‘ドラキュラ’
例えば、「サトウ園芸」の最初の代表作は、パンジー‘ドラキュラ’。花形をほとんど球体に見せるほど躍動的にうねり、ひるがえる花弁は、ダークカラーで裏と表がバイカラーになっていたり、血管のように浮き上がる鮮やかな筋が入っていたり。まさしくマントをひるがえすドラキュラ伯爵のような妖しく強烈な個性は、それまでのパンジーの「可愛らしい」世界観とはまったく異なり、パンジー&ビオラの美しさの可能性を押し広げました。
また、ビオラ‘ヌーヴェルヴァーグ’は、まるで花弁に水彩絵の具で色をつけたかのような、にじむような滴るような色合いで、多くのガーデナーの目を釘付けにしました。同様に、夢見るように甘く繊細なパステルカラーの‘ローブ・ドゥ・アントワネット’、明るい黄色に白の覆輪、波打つ花弁の‘エッグタルト’など、「サトウ園芸」のパンジー&ビオラは唯一無二の個性で、「誰もが育てる初級編の花」を、1苗1,000円近い値がつくほどのブランドへと押し上げました。
「私が値段をつけているわけではないので、自分でも園芸店で値段を見てびっくりすることがあります(笑)。おかげさまで愛好家の方々がSNSで宣伝してくれたりして、とても人気になっているのですが、そんなに大量には作れないんですよ。だから、希少価値も上がっていくのでしょうが、それでも欲しいと言ってくださる方がいるのは、本当にありがたいですね」(佐藤さん)
個性派パンジー&ビオラを生み出す苦労
パンジー&ビオラの一般的な価格が100〜300円程度というこれまでの市場と比較すると、「サトウ園芸」のパンジー&ビオラは価格の面でも革命を起こしたといえます。ただし、価格はこうした個性的な花を作り上げるまでに費やされた時間と技術の積み重ねへの、市場の客観的な評価でもあります。というのも、繊細かつ複雑な姿の花は、交配初期は発芽率が悪かったり、耐病性が弱かったり、クリアしなければならない課題が山積していることが少なくありません。そうした課題を一つひとつクリアし、育てやすく長く楽しめるパンジー&ビオラ本来の魅力に個性的なビジュアルを付加し、「新品種」として世に送り出すまでには、さまざまな改良が重ねられているのです。
「まあ、簡単にいえば生産効率が悪いんですね。だから、あまり人が作りたがらない。そこをついた隙間産業的な感じでしょうか(笑)。でも、難しいからこそやりがいがあるし、想像もしなかった息をのむような美しい花が出ることがあって、何年やっていても感動せずにはいられない瞬間があるんです。だから、うちの花を自慢してくれているSNSを見つけたりすると、私と同じ思いで見てくれている人がいると思って、本当に嬉しい。皆さんの声は私のモチベーションですね」
個性派パンジー&ビオラは園芸店のスター選手
「サトウ園芸」の‘ドラキュラ’や‘ヌーヴェルヴァーグ’同様、各地のナーセリーでは個性派のパンジー&ビオラが誕生しており、ガーデニングブームに拍車をかけています。コロナ禍以前からそうした品種は希少性が高く人気があったものの、ガーデニングが「ニューノーマル」のライフスタイルとして注目される昨今、個性派パンジー・ビオラは上級者のみならず、若い世代のガーデニング初心者の心もあっという間に捉えました。「サトウ園芸」の苗を仕入れている関東のある園芸店では、開店前に200人の行列ができることも。人気のあまり、買える数を「一人3苗まで」というように限定している店も少なくありません。
園芸店側にとっても、こうしたブランド苗や良質な苗を仕入れられるかどうかは店のステータスでもあり、個性派パンジー&ビオラは集客の要としてスター選手的な役割も担います。スターに追随するように、パンジー&ビオラのみならず、ガーデンシクラメンなど、この季節の他の花苗も個性派といわれる品種からこぞってなくなる傾向にあります。古参の園芸ファンからは「近年はとにかくいい花は手に入れにくくなった」というため息も聞かれますが、人気の花、素敵な花、いい花を手に入れるには、買う側にも工夫が必要な時代になってきました。
上質な園芸店を選んでガーデニングを楽しもう!
まずは、店を選ぶことが大切。実店舗でもオンラインショップでも、どんな花を仕入れているか、また花苗の管理状態など店の質は千差万別で、どこから買うかで、同じ種類の花でもパフォーマンスは確実に変わります。店員さんと話してみたり、苗を比較して、信頼のおける店を選びましょう。個性派パンジー&ビオラに限っては入手が困難になってきており、来年以降は出合うことがまれなので、入手したい場合は、買える店を前もって調べておきましょう。入荷日を確認したら、並ぶ覚悟で店へ。行列には同士がいっぱいいるので、花の情報交換ができたり、楽しくお話ししているうちに意外とあっという間、と話す愛好家もいます。今年、入手しそびれたという方は、来年をぜひ楽しみに。佐藤さんや他の育種家たちも、競い合いながら個性的な新品種を毎年生み出しているので、まだまだ存分にパンジー&ビオラの世界は堪能できそうです。
サトウ園芸の花が買える販売店リスト
(*2020年時点のリストですので、取り扱いについては各店舗にお問い合わせください)
「『サトウ園芸』の場合、新品種は私一人で生み出しているんではないんですよ。古くから付き合いのある園芸店さんや、ベテランガーデナーさんなど、業界のいろんな人たちにうちの花を見てもらい、これは素敵だというものを選んでもらっているんです。『サトウ園芸』の花には、複数のプロデューサーがいるのも強みです。さまざまな人の感性を反映させて生まれてくるユニークな花を、ぜひこれからも楽しみにしていてください!」(佐藤さん)
協力/
サトウ園芸 https://satoengei.jp
Credit
写真 / 橋本景子
はしもと・けいこ/千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも5.2万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。
YouTube 「Kay garden」
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取材&文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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