私のお友だちのマリ子さんは、ガーデニング歴10数年。園芸コンシェルジュと私が勝手に呼んでいる彼女のお宅にうかがって、美味しい紅茶をいただきながら、野菜づくりについていろいろとレクチャーを受けました。野菜のタネには同じトマトでも、農家が栽培するプロ向けと、私のような趣味の栽培家向けのタネがあるのだそう。どういうことなのでしょうか?
「F1」種 は農家の強い味方

その日、マリ子さんのレクチャーの中で私が特に「へえー、面白いなあ」と思ったのは、野菜のタネの話。私たちが普段、ホームセンターや園芸店で買っているタネは、ほぼすべて「F1」という種類なんですって。
「F1というのは、例えばトマトの違う品種同士を交配させて、親の品種のよいところだけを受け継がせたタネのことなの」。
両親のよいところばかりをもらってできたタネなので、生育が旺盛で、耐病性があり、収穫量も多い。だから、農家にはまさに強い味方のタネなんですって。
「F1は、日本の農業に大きな貢献をしてきた素晴らしい技術よね。だけど、残念ながら両親のよいところを受け継げるのは一世代限りなの。だから、F1のタネの袋には“一代交配”と必ず書いてあるわよ」
ふーん、そうなんだー……。
「固定種」とは、こんなタネ

「野菜のタネにはもう一つ、“固定種”という種類があるの」
マリ子さんによると、全国各地にある伝統野菜、昔野菜のタネが「固定種」。
F1のタネとはどこが違うのかしら?
「例えば、その土地に昔から伝わるダイコンを栽培したとしてみましょうね。できたダイコンは、もちろん大半は美味しくいただいてしまうんだけど、全部は食べないの。タネを採るために、畑に少し残しておくわけ。
で、タネを採って、翌年栽培し、またタネを採って翌々年も栽培する。そんなふうに何年も何年も、ずーっとタネ採り(自家採種)をしながら栽培を続けていくのが固定種での野菜づくり。
なぜ固定種と呼ばれるかというと、F1種は親のよいところを受け継げるのは一代限りだったわよね。ところが、固定種は親から子へ、子から孫へ、さらにその後の世代へと受け継がれていっても、タネは先祖と同じ遺伝子を持っていて、その野菜の性質、つまり形や味が変わらないからなの。だから、固定種というわけなの」。
な〜るほどね〜……。
家庭菜園に向いているのは?
固定種は、F1みたいに発芽や生育が一定に揃わないけど、「その分、長く収穫が楽しめるわよね」とマリ子さん。
しかも、固定種の野菜はその年、最もよくできた物の中からタネ採りをするので、長年の間に少しずつ進化するし、その土地で培われた独特の特徴やクセがあるので、スーパーで売っている野菜とはひと味もふた味も異なる食感や味わいが楽しめるのだという。
「F1のような多収穫は望めないけど、環境への適応能力が高くて無農薬でも栽培できるから、固定種はどちらかというと、家庭菜園向きかもね」
あえて難をいえば、ホームセンターや園芸店ではあまり固定種のタネを販売しているお店はそう多くないらしい。「でも、インターネットで検索すると、いくつか専門に扱っているお店が見つかるわよ」。
海外ではエアルーム品種と呼ぶ

「固定種は世界中にあるのよ。海外ではそういう品種をエアルーム品種とか、ヘリテージとか呼ぶの。家宝とか財産という意味よね。固定種は代々、タネを受け継いでいくわけだから、確かに財産よね。そのタネを播く人がいなかったら、その品種はそこで終わってしまうのだから、貴重だわよね」。
そうか、なんだか野菜づくりがとても尊いことに思えてきたなぁ。
Information
Credit
文 / 岡崎英生 - 文筆家/園芸家 -
おかざき・ひでお/早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
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