2021年9月下旬の英国、ロンドンで催された、ストリートフラワーフェスティバル〈チェルシー・イン・ブルーム〉。英国王立園芸協会のチェルシーフラワーショー開催に合わせて、会場に近い地域のショップやカフェ、レストランなどが、個性的なフラワーディスプレイを競い合って街を盛り上げるという、花のお祭りです。コロナ禍を経て2年ぶりに現れた数々の花のディスプレイは、街行く人々の目を大いに楽しませました。
目次
2021年のテーマは「類まれなる旅」

2006年に始まった〈チェルシー・イン・ブルーム〉。2021年は、ロンドンのチェルシー地区とベルグレイビア地区にあるショップやレストラン、カフェ、ホテルなど、史上最多の70軒が参加しました。例年5月に開催されるチェルシーフラワーショーが今年は9月下旬に延期されたことで、こちらのお祭りも同じ時期に。初めて、秋を迎えるタイミングでのディスプレイ製作となりました。

2021年のテーマは、フランスの冒険小説『八十日間世界一周』にインスピレーションを得た〈類まれなる旅(Extraordinary Voyages)〉。近代化によって可能となった、豪華客船や豪華列車を使った遠方への旅。それが広まった「旅の黄金時代」に思いを馳せたテーマですが、コロナ禍を経て「旅」を求める今の気分にぴったりのテーマといえるでしょう。フェスティバルの中心となるスローンスクエアには、熱気球のオブジェが飾られ、街角にはピラミッドや自由の女神といった、世界旅行を思わせるオブジェも登場しました。

街角のオブジェや各店舗のフラワーディスプレイは、もちろん観覧無料。その多くがプロのフロリストによるスタイリッシュなものです。これらは英国王立園芸協会によって審査され、金、銀、銅などの賞が与えられます。また、一般の人々によるインターネットでの人気投票もありました。では、個性あふれるディスプレイを見ていきましょう。
〈ラベンダー・グリーン〉ベスト・フローラル・ディスプレイ賞

金賞に加え、最優秀となるベスト・フローラル・ディスプレイ賞を受賞したのは、キングスロードにあるフロリスト、「ラベンダー・グリーン」。かつてイギリスから世界中へと珍しい植物を探しに出かけたプラントハンターの船旅をモチーフに、舳先や丸窓、錨を置いて、ショップ自体を船に見立てています。エキノプスやデルフィニウム、スターチス、セダムなどを使った秋らしさも感じられるシックなディスプレイは、さすがお花屋さんといったところ。サステナビリティにも配慮して、植物は国内で栽培されたものを、また吸水スポンジは、玄武岩を主原料にした新しいオーガニック製品を使用しています。
〈デビッド・メラー〉金賞

代表的なカトラリーをはじめ、食器などのプロダクトデザインを手掛け、販売する「デビッド・メラー」は、かつてイタリアで行われた歴史的な自動車レース〈ミッレミリア〉をデザインモチーフに。色とりどりの花で、かの地の美しい町や村を駆け抜ける様子を表現しています。中央のキュートな車は、バブルカーの愛称で親しまれたミニカー〈イセッタ〉。1954年のミッレミリアには実際に数台のイセッタが参加して、そのカテゴリーの表彰台を独占しました。ミントグリーンの小さな車は、このディスプレイのために、クリエイティブ・ディレクターとカトラリー工場のチームによって修復されたもの。
〈NU〉金賞

ロンドン発のファッションブランド「NU」のディスプレイは、熱気球による観光が盛んなトルコの奇岩地帯、カッパドキアにインスピレーションを得たもの。ドライフラワーで作られた金色に輝く気球が、青いアジサイによく映えます。ファッションブランドとしてサステナビリティを重視するNUは、このディスプレイでも従来の吸水スポンジを使わずに仕上げるなど、環境への配慮を忘れません。
〈チェルシー・ジェネラル・ストア〉銀賞

食料品や日用品を販売するチェルシー・ジェネラル・ストア。6角形のアーチは、世界各国に由来する花々で飾られています。ゴクラクチョウカやヒマワリ、ランやアンスリウムを眺めていると、世界の旅への憧れが湧いてきます。
〈ジグソー〉銀賞、大衆賞次点

ファッションブランドの「ジグソー」が人々をいざなうのは、シャガールの青い絵画のような幻想的なシュールレアリスムの森。青く塗装された、はかなげなフォルムの木々は、実際に森に落ちていたものを使っています。また、足元を飾るアジサイの切り花は、そのままドライフラワーとして再利用できるという、サステナビリティを意識した姿勢が、ここでも見られます。
〈ラビット〉銀賞

モダンブリティッシュのレストラン、ラビットのディスプレイは、フルーツカクテルなどのドリンクをイメージした、カラフルなもの。ダリアやフルーツをあしらった、可愛らしくて元気の出るディスプレイです。

ここでもサステナビリティに配慮して、植物は英国内で栽培されたものを、資材はリサイクル可能なものが使われています。プラスチック製品や従来の吸水スポンジは、一切見られません。
〈ヴァード〉銀賞

デューク・オブ・ヨーク・スクエアにあるレストラン、「ヴァード」のディスプレイは、マルハナバチの旅がモチーフ。授粉に重要な役割を果たすマルハナバチの働きに感謝して、オブジェを花で形作りました。「ヴァ―ド」は、マルハナバチの保護活動をする〈バンブルビー・コンサベーション・トラスト〉に協力しています。
〈ザ・シー・ザ・シー〉銀賞

「ザ・シー・ザ・シー」は、モダンな高級鮮魚店。ミシュランガイドに掲載されている人気のシーフードバーと、デリカテッセンも併設されています。人々を海の冒険へといざなうのは、躍動感ある大波のディスプレイ。泡立つ波を表す白い小花や、うねりを感じさせる銀葉など、シンプルながら植物使いが巧みです。
〈レネレイド〉銀賞

フランスのコスチュームジュエリーブランド「レネレイド」のディスプレイは、蝶の舞うロマンチックなもの。明るいピンクやオレンジ、パープルの花やドライフラワーで、エッフェル塔も彩られています。この色彩は、展開するジュエリーコレクションの色調に合わせたもの。
〈サロン・スローン〉銀賞

美容室「サロン・スローン」のモチーフは、無人島の探検。ロンドンの街中に、ヤシの木やフルーツいっぱいのトロピカルな砂浜が出現しました。
〈モスコット〉銀賞

ニューヨーク発の眼鏡店「モスコット」が見せるのは、看板に合わせた元気なイエローのディスプレイ。店内には、ニューヨークのシンボルであるエンパイアステートビルと手押し車が飾られています。これは、5代さかのぼった創業の頃に、マンハッタンで手押し車に眼鏡を載せて売っていたというエピソードにちなんでいます。
〈スマイソン〉銅賞

王室御用達の高級ステーショナリー店、「スマイソン」。20世紀の初めに発売され、今も愛される〈パナマダイアリー〉は、当時の旅行者のために携帯に便利な手帳として開発されました。青と白のアジサイで表現した雲の上に、スマイソン・ブルーのギフトボックスを使った熱気球を浮かべて、同社のクラフトマンシップを祝しています。
お隣の高級宝飾店「カルティエ」は、フェスティバルには参加していないものの、赤やオレンジの豊かな秋色グラデーションが見事。
番外編 町中がお祭り気分

フェスティバルに参加していなくても、タイミングを合わせて素敵なフラワーディスプレイを施している店舗もありました。おしゃれなレストラン「アイビー・チェルシー・ガーデン」の外には、赤いキノコがニョキニョキ。おとぎの森に迷い込んだような、楽しいディスプレイです。夜になると、中央の三日月やキノコが光り、ますますファンタスティック。

パープルが効いたポップで可愛らしいディスプレイは、チーズやパン、ワインなどを売る、高級食料品店の「バーリー&セージ」。楽しげなマーケットの雰囲気を醸し出しています。

ベルグレイビア地区には、モコモコの木が出現。

こちらは、キュートなカップケーキが大人気のお店、「ペギー・ポーション」のチェルシー店。季節に合わせたディスプレイが評判ですが、この時期には、ピンクやゴールドのカボチャをあしらった、秋らしいゴージャスなディスプレイが。淡いピンクの壁に、ニュアンスカラーの配色がおしゃれです。

まるでクリスマス時期のディスプレイのように、街中が華やぐ〈チェルシー・イン・ブルーム〉。園芸大国イギリスの底力を感じるお祭りです。
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