「プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ」【松本路子のバラの名前、出会いの物語】

バラに冠せられた名前の由来や、人物との出会いの物語を紐解く楽しみは、豊かで濃密な時間をもたらしてくれるものです。自身も自宅のバルコニーでバラを育てる写真家、松本路子さんによる、バラと人をつなぐフォトエッセイ。今回は、南アフリカ出身の競泳選手で、シドニーオリンピックで5位に入賞した経歴をもつモナコ公妃、シャルレーヌに捧げられた美しいバラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’の誕生のエピソードと公妃の活動などをご紹介します。
バラとの出会い

モナコ公妃の名前を冠するバラに出会ったのは、数年前、千葉県にあるバラ園だった。淡い杏色の何ともいえない気品に満ちた花姿に惹かれて、その年の秋に、早速大苗を取り寄せた。

そのバラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ(Princesse Charlene de Monaco)’ は、翌春に我が家のバルコニーで、大きく枝を伸ばし、たくさんの花を付けた。杏色の花は開花が進むにつれ、次第にピンク色に変わり、最後はシェルピンクの儚げな色になって散っていく。まさにプリンセスの名前に相応しい優美なたたずまいを見せてくれる。
モナコ公妃シャルレーヌ

モナコ公国とバラといえば、バラを愛した故グレース公妃のことが思い起こされる。彼女に捧げられたバラ、‘グレース・ド・モナコ’と‘プリンセス・ド・モナコ’はあまりに有名だ。

公妃シャルレーヌは、故グレース公妃の息子で現公国君主のアルベール2世の妃である。2011年に二人が結婚した時、公妃はその美しさと同時に、ユニークな経歴で話題になった。南アフリカ出身の競泳選手で、シドニーオリンピックで5位に入賞した実績の持ち主だったのだ。
二人は2000年にモナコのモンテカルロで開かれた水泳大会で出会い、2006年から交際をスタートさせた。彼女は北京オリンピックへの出場資格を得ながら、それを放棄して公妃になる道を選んだという。ハリウッド女優グレース・ケリーからグレース公妃となった義母と同様に、大きな決断に迫られた人生に違いない。
その生い立ち

シャーリーン・リネット・ウィットストックは1978年、ジンバブエで生まれた。シャルレーヌはシャーリーンのフランス語読みだ。12歳で家族とともに南アフリカに移住。2歳で始めた水泳が上達して、18歳で南アフリカの全国選手権で優勝。2000年のモナコの競技会では、200m背泳ぎで金メダルを獲得した。
2児の母として
公妃シャルレーヌは、2014年に双子の男女を出産している。現在6歳になるジャック公子とガブリエラ公女の写真を見ると、その愛らしさに目を奪われる。
ヨーロッパの王族たちが個人名を使いSNSで発信しているのは、今や珍しくない。だが公妃のインスタグラムを見ると、いかにも自ら撮影し、コメントを付けたと思われる子どもたちの写真がアップされている。民間出身で、それまでとかけ離れた世界で生活する彼女にとって、子どもたちの存在がかけがえのないものであることは、想像に難くない。
慈善活動

プリンセス・シャルレーヌ財団を設立した公妃は、子どもの水難事故を無くすための水泳教室などを開き、公務と並行して慈善活動も熱心に行っている。また2020年には、財団主催のチャリティ水上自転車レースをに自らも参加。コルシカ島を出発して地中海を横断、モナコのヨットクラブがゴールという180kmのレースだが、公妃は完走し、また多くの寄付を集めることに成功している。
バラの名前

バラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’は、2014年にモナコの「プリンセス・グレース・ローズガーデン(Roseraie Princesse Grace)」のリニューアルオープンに際して、シャルレーヌ公妃に捧げられた。

ローズガーデンはグレース公妃が事故死した2年後に、夫であるレーニエ3世がモナコのフォンヴィエイユ地区に創設したもの。リニューアルで拡張され、300品種4,000本のバラが植栽された。オープンセレモニーのテープカットの後に、シャルレーヌ公妃はその名を冠したバラの花束を贈られた。

バラはフランスの育種会社メイアンで作出されたものだ。2011年のお披露目後、ジュネーブバラコンクールで金賞を得るなど、数多くの賞に輝いている。じつは、当初このバラは別の名前を持っていた。芳香が際立つところから、‘Haiku Perfumella’、「香りの俳句」と呼ばれていたのだ。
公妃は夫アルベール2世とともにメイアンのナーセリーを訪れ、数あるバラの中からこのバラを自ら選んだと伝えられる。
バラ‘プリンセス・シャルレーヌ・ド・モナコ’

フランスのメイアン社で作出されたこのバラは、花径10~12cmの大輪の花を咲かせる。杏色から淡いピンクへと花色を変化させ、フリルのある花弁が優雅だ。丈夫で、春から秋にかけて繰り返し開花する。
樹高は約1.5mで半直立性。2005年にモナコ公国発行の0.68ユーロの切手にその画像が採用されている。
Information
Roseraie Princesse Grace
住所:Avenue des Guelfes 98000 Monaco
電話:+377 92 16 61 16
開園:24時間オープン
入場:無料
アクセス:モナコ駅から、徒歩約25分
Credit
写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-21年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
新刊『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)2021年9月1日発売。https://note.com/mmatsumoto0128
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