バラに冠せられた名前の由来や、人物との出会いの物語を紐解く楽しみは、豊かで濃密な時間をもたらしてくれるものです。自身も自宅のバルコニーでバラを育てる写真家、松本路子さんによる、バラと人をつなぐフォトエッセイ。今回は、ドイツ生まれの一季咲きのつるバラ ‘シティ・オブ・ヨーク’。バルコニーで今年多数咲いた様子と、バラとの出会い、名前の由来などをご紹介します。
目次
‘シティ・オブ・ヨーク’との出会い

白バラの名花、‘シティ・オブ・ヨーク(City of York)’に初めて出会ったのは、二十数年前、千葉県佐倉市にあったバラ園「ローズガーデン・アルバ」だった。バラ園のことを知り訪ねたが、そこは広い畑の真ん中に忽然と現れる不思議な空間だった。バラ園はNPO法人バラ文化研究所の運営で、原種やオールドローズを中心としたバラの保存、研究を目的とした場所だった。
‘シティ・オブ・ヨーク’は、園内の作業小屋の屋根を覆うように咲いていて、楚々としたその花姿に見とれてしまった。その年、早速苗を手に入れ、バルコニーで育て始めた。
佐倉草ぶえの丘バラ園

「ローズガーデン・アルバ」は2005年に佐倉市の公共施設の中に移転し、「草ぶえの丘バラ園」として開園した。バラ文化研究所が管理委託を受け、現在13,000㎡の敷地に、1,050品種、2,500株のバラが栽培されている。
ヘリテージローズ(原種バラやオールドローズ)が中心で、「世界の原種バラ」「アジアの原種バラ」「日本の原種バラ」など、コーナー別に見ることができ、バラの歴史を辿るコーナーもある。また植物画家ルドゥーテの描いた『バラ図譜』に登場するバラを集めた「ルドゥーテコーナー」、リヨンのバラ園から寄贈されたバラを集めた「ラ・ボンヌ・メゾンコーナー」など興味深い展開がなされている。
我が家の‘シティ・オブ・ヨーク’

バルコニーで育てているバラは、最初は2mの高さのフェンスに設えていた。その後、大鉢に植え替え、リビングルームの窓の縁に誘引すると、7mほど枝を伸ばした。反対側にもう1株を植え、2株の枝を繋げると、窓の縁はバラのアーチのように、花で彩られた。

昨年の冬、マンションでバルコニーの防水工事が実施され、すべての鉢の移動を余儀なくされた。10年に1度は訪れるバルコニーガーデニングの宿命ともいうべき事業だ。鉢を移動させるため、‘シティ・オブ・ヨーク’の枝を3mまで切り詰めた。残念に思っていたが、枝を切り詰めたことで今年のバラはいつになく花数が多く、枝一面に白い花が広がった。鉢植えのバラとは思えないほど、見事な咲き方だった。
名前の由来

長い間、シティ・オブ・ヨークはイギリス北部ノースヨークシャー州にある都市の名前だと思っていた。だがある時、アメリカのペンシルベニア州、ヨーク市に由来する名前だと知った。アメリカのヨーク市は「ホワイト・ローズ・シティ」(The White Rose City)を名乗り、白バラを市のシンボルとしているのだという。
バラ戦争

ヨーク市が白バラを街のシンボルとしていると知って、思い起こされるのはバラ戦争のこと。バラ戦争は15世紀後半のイギリスで起きた内戦で、ヨーク家とランカスター家の王位継承をめぐっての争いだ。ヨーク家の紋章が白バラで、ランカスター家の紋章が赤バラだったことから、のちにバラ戦争と名付けられた。一説にはウィリアム・シェイクスピアが劇中で創作した名前ともいわれる。
アメリカ、ヨーク市

アメリカのヨーク市は、ペンシルベニア州の南部中央に位置する。フィラデルフィアからの入植者でつくられ、イギリスの都市名が付けられた。
同じペンシルベニア州にはランカスター市もあり、こちらは「レッド・ローズ・シティ」(The Red Rose City)を名乗っている。イギリスのバラ戦争が、アメリカの都市に飛び火しているのは興味深いことだ。白バラチームと赤バラチームのフットボールの試合が行われるなど、この名が人々に愛されるのは、バラの名前が冠されているからに違いない。
バラ‘シティ・オブ・ヨーク’

バラ‘シティ・オブ・ヨーク’は、1939年にドイツ北部、ユーテルゼンにあるバラ育種会社タンタウにて作出された。オリジナルの名前は‘デレクター・ベンショップ’。人の名前のようだが、調べてもどのような人物かは、いまだ不明だ。
丈夫なつるバラで、7〜8mほど枝を伸ばす。オフホワイトの花弁に、黄色い雄シベが鮮やかに映える。丸弁の半八重咲きで、花径は10cmほど。挿し木で容易に増やすことができる。
一季咲きだが、株が充実すると秋にも開花する。
Information
佐倉草ぶえの丘バラ園
住所:千葉県佐倉市飯野820
電話:043-486-9356
アクセス:京成佐倉駅下車、北口からバスで約20分
開園:9時〜17時(最終入園16時半)
休園日:月曜日(11月〜3月19日)、年末年始、臨時休園あり
入園料:大人410円、子ども100円、未就学児 無料
Credit
写真&文 / 松本路子 - 写真家/エッセイスト -
まつもと・みちこ/世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2024年、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルム『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』を監督・制作し、9月下旬より東京「シネスイッチ銀座」他で上映中。『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。
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