夢のイタリアガーデン イタリア・メラーノのトラウトマンスドルフ城庭園

©Die Gärten von Schloss Trauttmansdorff_Alexander Pichler
ドイツで暮らすガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、海外旅行に行きたいけれども行けないという皆さんをご案内する空想旅行第3弾。今回は、ドイツを飛び出し、イタリア・メラーノにあるトラウトマンスドルフ城庭園(I Giardini di Castel Trauttmansdorff)をご案内します。エルフリーデさんにとっても訪れるのが長年の夢となっている、美しいイタリアンガーデンです。自宅の庭を地中海風にデザインするコツも併せてお教えします。
目次
2021年春のドイツ

この原稿を書いている3月中旬、ドイツのコロナウイルスの状況は依然として厳しいままです。毎日のように新しい方針が発表されますし、例外規定や日常生活の中でも不確定なことが山ほどあり、ストレスも多くなっています。
今年は天候も予測がつきません。雪や氷点下の日があったと思えば、誰もが冬は終わりだと喜ぶような春らしい日が訪れたり。極端な気候が入り混じり、野外の植物も冬の花や春の花が混ざり咲いています。

いま、イースターシーズンを前に、ヤナギの木も新芽を膨らませ始めました。ヨーロッパでは、ヤナギは春の訪れを告げ、イースターの飾りにも使われる大切な木です。2021年のイースターサンデーは4月4日、イースターマンデーは4月5日。例年、子どもたちは2週間のイースター休暇を心待ちにしているのですが、新型コロナウイルス感染拡大とそれに関する各種規制により、今年はそんな風景は一変しました。私の暮らす地域では、日本の小学生にあたる子どもたちは、分散授業のため1週間に2、3回しか学校に行っていません。衛生基準を順守し、感染の危険を最小限に抑えるために、教室内では1.5m以上の対人距離をとらなければならないからです。残り半分の生徒たちは、ホームスクーリングと家で宿題をします。学年や学校の種類、その地域の感染状況によって、それぞれ異なる方法で対応していると思いますが、例年とは全く異なる状況であることは間違いありません。
不確定要素が多いので、計画を立てるということもなかなか難しくなっています。例えば最近、ガーデンセンターも再開したのですが、正直なところ現時点で営業しているのかどうかは分かりません。そのため、買い物に行く前にはホームページをチェックし、情報を確認する作業が欠かせなくなりました。
ガーデン旅行のバケットリスト
こんな時代だからこそ、明るい未来を夢見て、「普通」の日々が戻るのを楽しみに待ちましょう。もっとも、新型コロナウイルスの脅威が去った後に、「普通」という言葉がどんな意味を持っているかは分かりませんが…。
そんなわけで、今回は皆様と一緒に、イタリアの夢のガーデンを旅したいと思います。少なくとも15年以上、私の訪れたいガーデンバケットリストに入っていて、しかも信じられないかもしれませんが、家から車でたった4時間の位置にあるのです。たった4時間ですが、今は行きようもありませんね。
後回しにしていたからって、行きたい気持ちが薄いわけではないのですよ! 私のバケットリストは、世界中から25年以上にわたって面白そうな場所を集めているのです。例えば直近に訪れたリストの場所では、一番古い夢だったニュージーランドのガーデンですが、ここを訪れることができたのは2年前。スペシャルファイルの中で20年も待っていて、ようやく実現できたのです。このニュージーランドのガーデン旅行については以前ご紹介しましたが、この旅行のハイライトは、オーナーの方が時間を取ってガーデンのさまざまな場所を案内してくれたこと。どんなガーデン雑誌の記事よりもずっと素敵な紹介でした。その空気や音、香り、そして庭に棲む生き物たちの気配…庭の豊かな個性が感じられ、忘れられない時間となりました。
メラーノのトラウトマンスドルフ城庭園

ニュージーランドへの旅行が叶ったいま、私のリストのトップに載っているのが、今回ご紹介する北イタリアの町メラーノにあるトラウトマンスドルフ城庭園です。
トラウトマンスドルフ城庭園は、2005年には「イタリアで最も美しい庭園」に、2006年にはヨーロッパの庭の第6位に、そしてインターナショナルガーデン2013の称号にも輝きました。植物園から、魅力的なレクリエーションとしてのガーデンへの変貌が成功した素晴らしい例です。

トラウトマンスドルフ城があるメラーノは、温泉とベル・エポックスタイルの素敵な建造物で有名な町で、標高約350mの南チロリアンアルプスに囲まれています。この小さな宝物のような町の背景には高い山がそびえ、しばしば雪に覆われている一方で、町の公園やガーデンではエキゾチックな植物たちが屋外で育っています。

催し物も有名で、「メラーノの春」から始まり、「ブドウ祭り」「メラーノミュージックウィーク」「クリスマスマーケット」などへと続きます。ドイツ人にとっては週末の小旅行先としてとても人気が高く、ほかのヨーロッパ諸国や遠くからの旅行者にも、少し長期の滞在先として人気です。メラーノの町を横切るパッサー川のほとりや、隠れた美しい景色へと続く道を散策するには、じっくり時間を取りたいところですしね。

そんな道の一つが、メラーノからトラウトマンスドルフ城とそのガーデンへと続く丘を登る「シシィ小径」。1870年の10月にこの地を訪れ、城で8カ月を過ごしたオーストリアのエリザベート(愛称はシシィ)皇后にちなんだ名です。彼女のこの長期の滞在と自然への愛情、そして城の周囲を散策したことなどが、今日この町にとって大きなプロモーションとなりました。シシィ小径に沿っては11の観光スポットがあり、また皇后の名を取った「シシィ公園」には彼女の像があり、町でも有数の撮影スポットになっています。

トラウトマンスドルフ城庭園は、およそ12ヘクタールの土地に設けられています。トラウトマンスドルフ城は標高約100mの丘の頂上という絶好のロケーションで、ガーデンを見下ろしています。曲がりくねった小道が階段状に広がるさまざまガーデンを結ぶ様子は、ちょっと棚田にも似ています。それでは、このガーデンの簡単な全体像を、「世界の森林 Forests of the World」「サンガーデン The Sun Gardens」「水とテラスの庭園 The Water and Terraced Gardens」「南チロルの風景 Landscapes of South Tyrol」という4つのテーマに分けてご紹介しましょう。

世界の森林 Forests of the World
トラウトマンスドルフ城の北側にあるのが、世界の森林のエリア。緑豊かなこの森は、特に夏には心地よい木陰を提供してくれます。ここでは南北アメリカや東アジアに自生する幅広い種類の樹木や低木が栽培されています。森の中は小川が流れ、せせらぎの音が心地よく、深い緑の中にいる感覚とフレッシュな空気に包まれて、とてもリラックスできる場所です。極東へのオマージュである竹林では、約40種類のタケの仲間を見ることができますよ。

シダの峡谷のハイライトは、生きた化石とも呼ばれるウォレミア・ノビリス。ウォレミマツやジュラシックツリーとも呼ばれます。一度は絶滅したと考えられていましたが、1994年にオーストラリアで見つかり、植物学における大発見となりました。この貴重な植物がトラウトマンスドルフ城庭園で展示されるようになったのは、2006年からのことです。ほかの古代植物といえば、日本でもよく見るイチョウや、メタセコイアなど。このメタセコイア、学名(Metasequoia glyptostroboides)が難しく、覚えるのに苦労したので、見るたびに頭痛がします。最近、ようやく「スパゲッティ」くらいの気軽さで言えるようになりました!

春になれば、400種以上のシャクナゲがその美しい花姿を見せてくれます。中には5~6mの高さに達するものも。また、豊かな緑の中につくられた日本庭園も忘れてはいけません。さらには、ヤシのビーチまで見ることができます。特に据え付けのデッキチェアは、きれいなビーチのヤシの木陰で、美しいパノラマビューを見ながら一休みするのにぴったりです。
サンガーデン The Sun Gardens

サンガーデンは庭園の南側を占めています。地中海原産の植物たちが、丘の斜面に沿って完璧に植栽されています。背の高いマツやイトスギは、まるで空へと届きそう。ヒマワリやクワ、イチジク、ブドウにフジは、ここに育つ植物のほんの一例です。サボテンやユーフォルビア、アロエ、アガベといった多肉植物が、地中海らしい雰囲気を一層盛り上げます。

樹齢700年に達する貴重なサルデーニャのオリーブもまた、このサンガーデンに新たな居場所を見つけた木です。5.8トンという驚きの重量のこの木の移植は、夜の間に行われたのだそう。次の日にはいつものようにガーデンをオープンし、関係者の努力は表に出さなかったのだそうです。

レモンテラスは、さまざまな種類の柑橘系の樹木を見比べるのにぴったり。レモン、オレンジ、キンカン、その他もろもろ。ドイツでは、柑橘類は小さな温室やコンサバトリーで育てるのに人気の高い樹種です。そういえば以前、兄が自慢げに話していたのが、義母からいただいたレモンのタネを育てるのに成功したということ。義母もまた珍しい植物の愛好家で、特にサボテンや多肉植物、地中海の植物の栽培に熱心なのです。植物とその栽培話は人々を穏やかに、そして長く結び付けてくれる話題だと思います。この2人の性格は全く異なりますが、植物が共通の話題やコミュニケーションの場をつくってくれるのです。
水とテラスの庭園 The Water and Terraced Gardens

この庭のメインは、水による演出とヨーロッパ風の造園で、イタリアンルネッサンスの庭園や、イギリス風宿根草ガーデンなどの要素が見られます。ガーデンにはたくさんの階段があり、それぞれの階層へとつながっています。香りの庭では、イングリッシュローズやリーガルリリー、スタージャスミンなどが辺りの空気を染め上げています。もし香りが強すぎて酔ってしまいそうなら、ちょっと別エリアで休憩するのも簡単です。ある有名なガーデナーの言葉によれば、「香りのないバラはバラではない」とのこと。この言葉を知った後から、花を見る際には、より一層香りにも気を配るようになりました。実際のところ美しいバラの中には香りのないものもありますが、私は彼の意見に賛成です。よい香りは記憶にも残りやすいですし、とても気分をリフレッシュさせてくれるものです。

テラスの足元にはロマンチックなスイレンの池があります。アイリスやヘメロカリス、グラス類が明るい色彩のスイレンを取り巻き、春には200以上のシュロの木の間にツバキやアザレアが咲きます。クレマチスや宿根草のピオニー、ローズガーデンも必見です。
南チロルの風景 Landscapes of South Tyrol

南チロルの伝統的な農村風景といえば、古くからのリンゴやナシの品種が育つ、牧草地の果樹園。そんな風景が見られるこの場所は、素朴な果樹園と、その地域の植物の大切さを再認識させてくれます。南チロル特有の品種が育つブドウ棚も見られますよ。もともと農民の畑を守るためにつくられた、有名な「Speltenzaun」という昔ながらの編み込みの柵も使われています。かつては野菜やハーブ、果物、低木、観賞用の花などを動物たちから守るために必須のものでした。森もつくられていて、そこを通り抜ける小道では、これまた昔ながらの吊り橋であるアドベンチャーブリッジを通ることができます。ガーデンの一部では、南チロル在来種のヒツジやヤギも散歩していますよ。

ゴシキセイガイインコやコンゴウインコ、オシドリ、クジャクといったエキゾチックな鳥たちに、ウサギ、そして忘れてはいけない日本のコイなどが、広大なエリアの中で暮らしています。これらの動物たちが、花や植物の展示に生き生きとした雰囲気をもたらしてくれています。

新しいガラス温室&テラリウムは、悪天候や冬のさなかに訪れた人々でもガーデンを楽しめる絶好の場所。テラリウムでは、アフリカウシガエル、エジプトのサバクトビバッタ、巨大なクモやナナフシなどを見ることができます。ガラス温室では、もちろんガラスで仕切られた中で、ハキリアリの特徴的な性質を観察したりもできますよ。子どもはもちろん、どの年代のビジターにとっても魅力的な展示です。
ガーデンの中にはたくさんの体験施設があり、トラウトマンスドルフ城庭園をさらに面白くするとともに、来訪者はそれぞれを楽しみながら新しい知識を得ることができます。そのうちの一つがビーハイブ(ミツバチの巣)。このウォークインハウスでは、安全な環境の中で、勤勉な蜂蜜採集民の生活について知ることができます。ミツバチたちがいかに忙しく働き、またどれほど美味しいハチミツを作っているかを知るのは、いつもワクワクします。

ドイツではミツバチを愛する人が多く(もちろん私も!)、都市や田舎の生物多様性というテーマの中でも、ミツバチは長年にわたって非常に活発なテーマとなっています。ちょうど今日も、ドイツのバンベルク市でミツバチのための自動販売機の話を聞きました。市の緑化部門が、ミツバチが好む花のタネで満たされた小さなプラスチックのボールを入れた自動販売機を設置し、そのボールを買った人々が、好きなところにタネを播いていいという取り組みです。空になったプラスチックのボールは、タネの自動販売機の下にある別の小さなコンテナで回収され、またタネを入れて使われるので、ゴミも出ません。ただミツバチや虫たちにとって、そして人間にとっても喜びだけが増えていく素晴らしい取り組みだと思いました。
ガーデンカフェ&レストランで一休み
キャッスルガーデンレストランは、歴史的な城の中にあるモダンな場所です。素晴らしいパノラマビューが見られる大きな窓があり、主に地元の食材を使用した料理や地中海料理を堪能できます。「シシィ風朝食」や「トラウトマンスドルフの夜食」「日曜日のブランチ」などのメニューがあり、グルメなお客さんを一日中楽しませています。
スイレンの池にあるパームカフェは、コーヒーやソフトドリンク、自家製ペストリーを提供するカフェで、緑豊かなヤシに囲まれています。
自宅で楽しむ地中海風の演出

こんな素敵なトラウトマンスドルフ城庭園ですが、現在は残念ながらなかなか訪れるのは難しそう。それなら、トラウトマンスドルフ城庭園はコロナ後の楽しみにとっておき、自宅のガーデンやバルコニーを地中海風にしてしまいましょう!
地中海風の雰囲気を演出するのは、じつはそれほど難しいことではありません。やるべきは、不要なものをすべて引き算していくこと。弱った株や病気の植物にさよならし、あれもこれもと取り入れずに一つのスタイルに集中してセッティングしましょう。インターネットなどにはガーデンライターが書く素敵な実例がたくさんあるので、そこからヒントを得て、皆さんの感性やバルコニー、ベランダ、ガーデンに何がフィットするかを探ってみましょう。長年にわたって集めた、いろいろな植物を植えた「たくさんの小さな植木鉢」や、異なる形や素材で揃えた「変わった鉢」。そんな小物たちも思い切って断捨離するか、地中海風ガーデン以外のところで活躍してもらいましょう。

例えば1本のシュロの木をデコラティブなコンテナに入れて、素敵なガーデンチェアと並べてみましょう。鉢やエクステリアを購入する前には、設置予定の場所をじっくり検討して、適切なサイズのものを買うようにご注意を。大抵の場合、見栄えよく大きく成長した1株の植物のほうが、10株の小さな植物よりも風景がまとまるものです。シュロの木の下にはデッキチェアを置いて、読書やハッピーアワーのひとときにカクテルを1杯楽しむのもいいですね。雨季や蚊の季節に入る前の初夏は、アウトドアを楽しむのに最適。
オリーブの木やキョウチクトウ、柑橘類もまた、地中海風の演出にはぴったりです。1つのコンテナにラベンダーやオレガノ、ローズマリーなどいろいろな種類のハーブを植えて、ガーデンのワンコーナーに置けば、気分はもうイタリアン!

自分のガーデンを思い切って変えるには、さまざまなガーデンスタイルをオープンに受け入れることに加え、異なる植物の組み合わせと少しばかりの探求心が欠かせません。大抵の場合、「Less is More」、無駄なものをそぎ落としたほうが豊かな空間になるものですよ。
季節ごとの瞬間を楽しみ、その時々の情景の美しさを堪能し、そして五感をフルに使って、リラックス&リフレッシュしましょう。
さあ、新しい、素晴らしいガーデニングシーズンの幕開けです!
トラウトマンスドルフ城庭園 https://www.trauttmansdorff.it/en/the-gardens-of-trauttmansdorff-castle.html
Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Merano Tourist Office 、Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
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