春芽吹く森でアニマルトラッキング! 「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.11〜

光と雪と森と
暦の上での春、「立春」を過ぎると太陽光のパワーが増します。雪は積もっては溶け、また降り積もり…を繰り返し、パウダースノーがにわかに締まってきます。雪面を歩くのがぐっと楽になるこの季節、春を探しに森へ出かけましょう。高原でのひと足早い春さがしにはテクニックが要ります。潜んでいるものを見つけだすための観察眼と、少しばかりの創造力をお供にGo!
目次
季節の森 〜アニマルトラッキング〜
締まった雪面に点々とスタンプされた足跡や齧り取ったような食痕。この時期は動物の気配を感じながら散策する「アニマルトラッキング」がおすすめです。
人前には滅多に姿を現さない動物たちの動線が、くっきりと雪面に描き出されています。痕跡を残した動物たちと遭遇するかもしれないワクワク感も高まります。



足跡をヒントにその行動を想像しながら歩みを進めましょう。「こんなところで何をしていたのだろう?」「ここからジャンプした?」「どこへ向かおうとしているの?」


特徴的な足型やその行動軌跡から生息している動物を判別することができます。菅平高原ではキツネ、ニホンカモシカ、タヌキ、テン、リス、ノウサギ、キジ、ヤマドリ、カケスなどが雪原を行き交っていることがわかります。










いっぽう、耳を澄ませば野鳥たちの会話も聞こえてきます。
足元から視線を樹上に移動させてみます。溶けかけた樹上の雪が小さな塊りのまま落ちてきて枯れ枝に当たり、硬質で澄んだ音が木琴のように響き渡ります。

樹木も確実に春の準備を始めています。休眠から覚めた証拠に冬芽がふっくらと膨らみ、ほのかに赤みを帯びてきています。地面はまだ深い雪に覆われていますが、根が水を吸い上げ始めたサインです。


神秘的な静寂が支配していた冬の森から芽吹きの準備が着々と進む森へ。躍動は音として聞こえずとも、さまざまな生物たちの目覚めを感じることができるでしょう。五感を研ぎすまし、自然の中へ出かけましょう。
森がもっと面白くなる ~生態系サービス③~
森の働きを指す「生態系サービス」の4つの分類のうち、今回は「調整サービス」について詳しくご紹介しましょう。
「調整サービス」は ①大気質調整、②気候調整、③局所災害の緩和、④水量調整、⑤水質浄化、⑥土壌浸食の抑制、⑦地力の維持、⑧花粉媒介、⑨生物学的コントロールの9つに分類されます。健全な森や草木類がもたらす機能が多岐にわたっているといえます。
1. 大気質の調整及び他の都市環境の質の調整
主に都市の環境を調整するサービス。街路樹や公園の緑が、大気汚染や騒音、ヒートアイランド現象を緩和しています。河川周辺の緑地、史跡や墓地、大学キャンパスやオフィスビルの公開緑地などもこの役割を担っています。

2. 気候調整
地球の表面温度を維持するサービス。地球表面の温度は生命体維持のため天然の「温室効果」によって調整されています。近年の急速な気候変動は近代化など土地利用の変化や化石燃料の消費急増によってもたらされています。

3. 局所災害の緩和
自然災害などを緩和するサービス。森林のみならず珊瑚礁、海草、海中林、湿地帯、砂丘などが、台風や暴風、洪水、津波、雪崩、野火、地滑りなどさまざまな自然災害の影響を軽減する天然の防壁、緩衝帯となりえます。
4. 土壌浸食の抑制
植物が土壌浸食や地滑りを防ぐサービス。植物が地面を覆うことで土壌浸食の防止に大きな効果があります。森林が土壌の保水状態を調整し、急傾斜地での地滑りを防ぎます。地滑りが増加傾向なのは森林破壊など人為的な土地利用の変化によるものと考えられます。

5. 地力の維持および栄養循環
土地の肥沃度を維持し、栄養循環を支えるサービス。土壌の質は母材と土壌生物による生物学的過程、地質、気候によって決定づけられます。土壌に生物多様性が見られれば、栄養循環に好影響を与え作物の生産量も向上するといわれています。

6. 花粉媒介サービス
昆虫や鳥などが植物の受粉を媒介するサービス。農作物や生薬となる種の植物の多くは授粉媒介動物(昆虫、鳥など)に授粉を依存するといわれています。授粉媒介動物の生息環境の喪失で多様性を失うと、授粉システムの維持にも悪影響を及ぼします。

7. 生物的コントロール
有害生物および病気を生態系内で抑制するサービス。有害生物や病気は、捕食者や寄生生物の存在により生態系の中でコントロールされています。しかし気候変動による新たな病気や虫害の発生が予想されており、重要性が増すとされているサービスです。有害生物の天敵となる生物に多様性が見られればこのサービスは向上すると考えられています。
これらは「森林の公益的機能」に該当し、森林を保全することでサービスが飛躍的に向上する部分でもあります。
自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~ 恒例の味噌作り準備
立春を迎える頃から味噌作りのための大豆選別作業が始まります。会員さんも入れ替わり立ち替わり招集され、老若男女が選別作業に勤しみます。無農薬栽培の大豆で仕込むため、虫喰いや未熟な粒を一つひとつ丁寧に選り分けます。


選別専用の道具があるわけではなく、ソリや木枠を工夫して活用。ひとりでやると気の滅入る地味な作業でしかありませんが、たわいないお喋りがセットだと楽しい作業になります。今年はソーシャルディスタンスを保ち、マスク必須ですが。



選り分けた無農薬大豆と自家製の麹で仕込み、菅平高原でゆっくりと熟成。秋にはおいしいやまぼうし味噌になります。イベントや体験学習ではこの「手前味噌」を存分に味わっていただいています。
コロナ禍で注目の発酵食品。手作り食を通して気持ちにも身体にも元気を蓄え、この難局を乗り切りたいものです。
今月の気になる樹:ウリハダカエデ
ウリハダカエデはやまぼうしの体験学習で人気の観察プログラム「ネイチャートレイル」にも登場します。特徴的な樹皮をスイカの縞模様に見立てて「スイカの木」を探すというものです。お目当てに遭遇すると、インタープリター(自然観察解説者)から「スイカ模様の木の本当の名前を考えましょう」と質問が発せられます。「スイカは何の仲間だろう」「プロペラのタネを付けるのはカエデの仲間だね」などの推理と考察を経て、「ウリの模様に似たカエデだからウリハダカエデ」となります。

菅平高原には若木から老木まで各世代のウリハダカエデが生息しています。葉が出るのと同じタイミングで黄緑色の小さな花が房状に咲きます。雌雄異種で、表面は濃緑色、裏面は緑色の葉はほぼ五角形。秋には赤みを帯びたオレンジ色に紅葉します。葉脈は葉脚基部から5本の掌状脈(※1)となります。よく似たウリカエデは浅く3裂する葉を持つので見分けられます。



今の季節は冬芽と樹皮を観察することで判別が容易にできます。冬芽は枝の先端に頂芽がひとつと側芽が対生します。2枚の芽鱗(※2)に包まれていて、春になると剥がれ落ち葉が出てきます。

樹皮は若木から成木では緑色に黒い縦筋が入り、そろばんの目の様な皮目が散らばっています。成長するにつれ緑色は目立たなくなり、全体としてくすんだ灰色〜白色になってきます。老木で判別するポイントは「蝶」。オオミズアオ(蛾)のような模様が樹皮に表出しています。



この季節、ウリハダカエデが気になる最大の理由はこの樹から「樹液」=メイプルサップをたっぷりと頂くからです。採取した大量のメイプルサップはゆっくりと煮詰められ、黄金色に輝く「メイプルシロップ」に。他地域ではイタヤカエデやシラカンバでも樹液採集が行われていますが、味がよいのはウリハダカエデだと言われています。

樹液の採集はおよそ1か月半にわたります。春を感じながら、ボトルを片手に毎日の森通いがスタートします。
※1 掌状脈:葉脈が放射状にでるもの
※2芽鱗:葉や花になる芽を覆って保護する鱗状の小片
[ウリハダカエデ]
ムクロジ科カエデ属/落葉高木
本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯に普通に分布
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