ドイツで暮らすガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、海外旅行に行きたいけれども行けないという皆さんをご案内する空想旅行第2弾。今回は、大都市ミュンヘンの中にある緑の楽園、ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園(Botanischer Garten Muenchen-Nymphenburg)をご案内します。温室もあり、寒い冬にもうってつけのこの植物園は、エルフリーデさんも何度も訪れているというおすすめガーデンスポットです。

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いつもより早い春の訪れ

クリスマスローズ
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Goldbach, Karin

今年のドイツは、驚くほど早く春が訪れました。この原稿を書いている2月現在、まるで4月のような陽気です。バレンタインデーからまだ1週間ほどしか経っていないのに、日中の気温が15℃に達するような日もありました。ドイツで2月にこれほど気温が上がるのは、じつに珍しいことなのです。

もっとも、つい先週まで、辺り一面が雪に覆われ、だれも春なんて思いもよらない気候でした。私の家の周りでも、凍った小さな池や川の上でスケートをしたり、雪の中でクロスカントリーをしたりする人の姿も見られました。ちなみに、私が住むのは降雪が多い地域ではないので、家のすぐ近くでウィンタースポーツができることは滅多にありません。今年の天気は珍しいことずくめです。

スノードロップとエランティス
雪の中から顔を出し、春を告げるスノードロップとエランティス。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

新型コロナウイルスの影響で、ドイツではここ数カ月厳しい規制が続き、可能な限り他人と接触しないよう求められているので、人々は外出できる日を心待ちにしています。飲食店なども閉店しているところが多いですが、最近人気なのが「クリック&コレクト」というシステム。オンラインで好きなお店に注文して、その後店舗に行って受け取るテイクアウトのシステムで、非常に厳しい状況にある地元の小さなお店が生き残るための有効な手段になっています。

ガーデンセンターや花屋さんもまだ休業中ですが、そろそろ営業を再開してほしいところ。そうでなければ、温室で出荷を待つ花たちの行き場がなくなってしまいます。もっとも、規制によりガーデンセンターが休業してから、営業中の通常のスーパーで植物やガーデニンググッズの取り扱いが増えたように思います。切り花やブーケ、花鉢、観葉植物、土などが、どんどん棚に並ぶようになってきているので、ガーデンセンターの営業が再開しても大きな競合相手になってしまうことでしょう。

先日、私も地元のスーパーでいくつかセール中の球根を購入し、後日よく晴れた日に球根を植えたのですが、お隣さんもちょうどベイスギの落ち葉の掃除をしているところで、二人して黙々と手を動かしていました。別の日には、友人の一人が私の庭まで散歩をしてきて、二人で何のタネや苗を植えるか庭に植えるべきか庭談義したり。まったく「春のガーデニングフィーバー」の症状が出ていますね。もちろん、植え付けにはまだ寒すぎ、たとえ雪が降ったとしても間違いなく凍ってしまうような時期でしたから、実際の作業はできませんでしたが、春が近づくとガーデニングへの気持ちの入り方も違いますね。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園
Jazzmany/Shutterstock.com

さて、先月の空想旅行案内の記事では、マイナウ島をご案内しました。今月はドイツ、バイエルン州のミュンヘン・ニンフェンブルク植物園へと出かけましょう。年間およそ35万人の観光客が訪れるこの場所は、まるでミュンヘンの町にぽっかりと浮かぶ緑の孤島のようです。

そもそも、ミュンヘンで最初の植物園は、1812年に市の中心部付近につくられたもので、広さはおよそ5ヘクタールほどのものでした。建設や開発の需要が高まるにつれ、この植物園は次第に縮小。1914年、ついに新たな場所に植物園をつくることになりました。この新たな場所というのが、美しいニンフェンベルク城とその庭の隣の現在地だったのです。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の面積はおよそ22ヘクタール。一年を通じて、素晴らしい景色が楽しめます。屋外が寂しくなりがちな冬の間は、温室内で楽しむのがおすすめ。広大な温室複合施設では、世界中から集められたさまざまな植物の展示を見ることができます。今回の空想旅行では、この温室をメインにご紹介しましょう。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園
ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の温室に育つ大きなサボテンたち。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

テーマごとに分かれた12の温室と中央ホール

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の温室
Tobias Arhelger/Shutterstock.com

温室があるのは、ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園のゲートを通ってすぐ左手。内部には12の温室とそれぞれの温室を結ぶ中央のホールがあり、ホールはさらに3つの気候ゾーンに分けられています。この植物園は数えきれないほど訪れていますが、初めの頃はあまりの広さや植物の多さに圧倒されてしまったものです。温室の中を見て回るだけでも、かなりのエネルギーを必要とするので、一度に全部回ろうと意気込むより、行きたい場所だけセレクトしていくのがおすすめ。例えば、今日は半分だけ見ようと決めたら、よそ見をしないように目的の温室を目指しましょう。私の場合は、日によって興味の向く植物や気分が変わるため、12の温室のうち3つか4つしか見ないことも。そして別の日に再訪したときに、残りの温室を見に行くのです。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の温室
Quantum-of-Light/Shutterstock.com

それでは、それぞれの温室を簡単にご紹介しましょう。

エントランスを入ってまず見られるのが、ホールA「大サボテンハウス」。ここには、時に数メートルにもなるさまざまな形、大きさのサボテンが並んでいます。そのほとんどは、アメリカ大陸を原産とするものです。

ホールAから続く第1温室「オーキッドハウス」では、その名の通りさまざまな種類の色鮮やかなランが楽しめます。温室の中には水場があり、カメや魚の姿も見ることができます。次の第2温室「熱帯作物」には、バナナやコーヒー、カカオ、パパイヤといった、作物として生産されている熱帯植物が多く集められています。

スイレン
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第3温室は、いわゆる「ヴィクトリアハウス」。寒い季節の私のお気に入りの場所の一つです。ここの目玉は、熱帯水生植物で満たされた大きな池。ピンクや青、白、そのほかさまざまな色の見事なスイレンが咲き誇り、夏には雄大な白いハスの花が花茎を伸ばします。この温室のハイライト、大きな葉を水面に浮かべるオオオニバス(ヴィクトリア・ウォーターリリー)も忘れてはいけません。オオオニバスの葉は、小さな子どもであればその上に乗ることもできる、人気の植物です。緑に囲まれた空間の中で、温かく湿った空気に包まれるのは、とても気持ちがよいものです。もっとも、夏は除きますが!

パラグアイオニバスの葉
オオオニバスの近縁種、パラグアイオニバスの巨大な葉。RukiMedia/Shutterstock.com

第4温室は「水生植物」。たくさんの水生植物や、アクアリウムがいくつか展示されています。水中植物や熱帯魚が好きな人なら必見です。冬の間は、熱帯に生息する蝶の展示もこの温室で行われます。

続いて、まったく異なる植物が集まる第5温室「砂漠の植物」に向かいましょう。この落差があまりに大きいので、私は熱帯系の温室を回る日と、サボテンなど砂漠の植物を集めた温室を見る日を分けることが多いです。この第5温室で見られるのは、アフリカ原産の植物のコレクション。アガベをはじめとしたたくさんの多肉植物が展示され、生きた化石とも言われるキソウテンガイや、まるで小石のようなリトープスなどが人気です。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の温室
Virginie Cr/Shutterstock.com

アフリカの次は、第6温室「メキシコの植物」へ。サボテンやアガベなどが目を引くなか、ベンケイソウ科に属する植物も多く並びます。

ホールC「アフリカとマダガスカル」は、一見ホールA「大サボテンハウス」にも似た印象ですが、こちらはアフリカ諸国やマダガスカル、アラビア半島南部を原産とするユーフォルビアの仲間などがメインです。

ガイドマップにGrüner Saalと記された小さめの7番目の建物「グリーンルーム」は、イベントなどの展示室。隣にはアナナスとサトイモの仲間を展示した第8温室があり、さらに進むとソテツ類がコレクションされた第9温室へと続きます。この辺りを歩いているとき、私の頭の中では、ジャングルのような緑の茂みをかき分けて恐竜が登場! ホールB「パームハウス」に戻ると、第10温室「木生シダ」につながっています。この温室を訪れると、シダ類をよく見かけたニュージーランドの思い出が蘇ります。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の温室
Vladimir_Vinogradov/Shutterstock.com

さて、次が私のお気に入りエリアの一つ、第11温室「テンパレートハウス」。ここに集められた植物は、多くが地中海気候の場所を原産とし、冬越しには霜が降りない程度の温度が必要です。だいたい東京と同じくらいの気温でしょうか。ここに来ると、湘南で見たツバキの茂みやアザレアなどを思い出します。大きな違いは、温室では一斉に花が咲くのに対し、東京や神奈川・湘南では、12月頃からツバキが咲き出し、ツバキが終わった後はアザレアがその美しい姿を見せてくれるというように、開花リレーが続くことでしょうか。

「テンパレートハウス」の奥、最後にご紹介するのが、小さな第12温室「シダ」。ビカクシダを始め、シダの仲間が集められています。

これら12の温室とホールで構成される大温室のそばには、高地に育つ植物を集めた「アルパインハウス」と呼ばれる温室がもう一つあります。

ここまでくると、大量の植物や気候ゾーンの変化に圧倒されて、そろそろ外に出たくなってくる頃。カフェテリアにでも行って一息つき、次に訪れるときに回りたいエリアを決めておくのもいいでしょう。本当に大きいので、一度に回り切ろうと思わずに、行きたい場所を絞って訪れてみてくださいね。

植物園の美しい庭

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の庭
AlessandraRC/Shutterstock.com

もちろん、ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園の見どころは、温室だけではありません。屋外のガーデンでは、春になると球根花や春の花が咲き乱れます。その後、季節の植栽は夏向きのものに変化。いつもカラフルで手入れが行き届いた庭は、植物に癒やされながらその美しさを楽しむことができます。季節ごとにさまざまなシーンが見られるので、次の年の自宅の庭の植栽のヒントを探すにもうってつけです。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園
Dagmar Breu/Shutterstock.com

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園では、およそ19のいろいろなテーマに分かれたガーデンエリアを楽しむことができます。例えば「経済植物」のエリアには、古代の穀物や熱帯の作物などが植栽されていたりと、植物園らしい分類も。すべては紹介しきれないので、コースを絞っていくつかご紹介しましょう。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園のガーデン
秋は紅葉も楽しめます。Bernd Zillich/Shutterstock.com

春にこの植物園を訪れるなら、私のおすすめは温室を数か所に加えて、スプリングガーデンと樹木園、観賞用中庭といった屋外ガーデンを巡るコースです。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園のガーデン
植物研究所とその前に広がる中庭。AlessandraRC/Shutterstock.com

温室から出ると、まるで宮殿のような植物研究所の建物が目を引きます。この前にあるのが観賞用中庭。見通しのよい中庭で、研究所の反対側には、研究所よりも小さめの素敵な建物も見えます。これはカフェテリアで、庭を眺めながら休憩するのにぴったり。以前ここで一服した時には、誕生日か記念日のお祝いをしているグループ客もいましたが、皆さんエレガントにドレスアップされていましたよ。特別な日のお祝いに、また誰かをもてなすのにも素晴らしい場所です。

春の庭
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Engelhardt, Thomas

スプリングガーデンでは、低木や小低木、早咲きのクロッカスのメドウ、そしてたくさんのチューリップやスイセンが混ざり咲いています。低木も主に春に花が咲くものが植栽されているので、春爛漫の明るい景色に。まだ葉を出した木が少なく、風通しよく大きな空間が広がる春の樹木園もいいものです。こちらでも、早春の花々が芝生を彩ります。木々が葉を茂らせる夏になると、このエリアの景色はガラリと変わります。夏の暑い日の散歩にもぴったりですよ。

ラムソンの花
ラムソンの白い花。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

植物園では、ほかの季節にもさまざまな景色が楽しめます。例えば5月には、野草のニンニクとしても扱われるラムソンの花が作る白い花のカーペットが見頃に。ここ数年、ドイツではこのラムソンを使ったディップやハーブバターがとても人気になっていて、5月頃のレストランのメニューでもしょっちゅう見かけるようになりました。

ラムソンのメニュー
スープにディップ、カッテージチーズと、ラムソン尽くしのテーブル。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ほかに、5月中旬ごろに訪れるのがベストなアイリスガーデンに、バイエルンの原生植物やピオニーをそれぞれ集めたエリア、ロックガーデン、そしてもちろんローズガーデンもあります。ローズガーデンはカフェテリアの裏手にあり、数多い香りのよいバラや、モダンローズがコレクションされていて、バラの華やかな花と、背景にある広大な芝生エリアや森との素敵なコントラストが楽しめます。

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園のガーデン
園内の湖に面したロックガーデン。guentermanaus/Shutterstock.com
ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園
KeongDaGreat/Shutterstock.com

先日このボタニカルガーデンを訪れた時には、いつもとはちょっと趣向を変えて、隣のニンフェンベルク城をまず訪れ、美しい建築物を楽しんでから植物園に向かうことにしました。

広大な宮殿の庭の一部を散歩していると、ボタニカルガーデンと宮殿の庭を結ぶ小さな小径があることに気づきました。一見分かりにくいですが、とてもロマンチックな道です。数百年前の貴族たちが、この緑豊かな植栽とたくさんの生け垣の中で、かくれんぼをしている光景が目に浮かぶようです。

ニンフェンベルク城
植物園の隣に建つニンフェンベルク城。trabantos/Shutterstock.com

シャッヘンのアルパインガーデン

シャッヘンの王の館
左に建つのがシャッヘンの王の館。Asvolas/Shutterstock.com

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園に加え、もう一つ素晴らしい植物園をご紹介しましょう。それはシャッヘンの高山植物園(アルパインガーデン)。アルプスに位置していて、ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園からおよそ90km南にあります。100年以上にわたり、ミュンヘンのガーデナーがここの管理もしています。シャッヘンの高山植物園の標高は1,860mで、アルプスからヒマラヤの植物まで、1,000種以上の高山植物が見られます。このガーデンがオープンするのは、7月から9月の間だけ。このガーデンのさらに上には、ノイシュバンシュタイン城などで有名なルートヴィヒ2世により建てられた「シャッヘンの王の館(Königshaus am Schachen)」があります。いわゆるスイスシャレー(山小屋)タイプの、可愛らしい木造の建物です。

ここに至るまではかなりのハイキング。山を登るのに3時間から3時間半ほどかかります。訪れるには時間と覚悟がいりますが、ここならではの景色と、美しいパノラマビューは、挑戦するだけの価値がありますよ。

プリムラ・アウリクラ
シャッヘンではありませんが、バイエルンアルプスからの眺め。山岳地帯でよく見られるプリムラ・アウリクラが黄色い花を咲かせています。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauß, Andreas

今回のミュンヘン・ニンフェンベルク植物園への空想旅行と、おまけのアルプスへのプチ散歩はお楽しみいただけましたでしょうか? いつでもどこでも行きたい場所へと出かけられる日が待ち遠しいですね。それまでは、旅行プランを練りながら、私たちを待つガーデンや自然を訪れるための旅行資金を積み立てておきましょう!

ミュンヘン・ニンフェンベルク植物園 https://www.botmuc.de/en/info/index.html

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

取材/3and garden 

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