「あっ!雪虫」…長野県ではこの時期、腹部に白い綿毛のようなものをつけた雪虫に遭遇します。アブラムシ科でトドノネオオワタムシが正式名称ですが、雪が舞うようにふわふわと姿を現すので、雪国ではそう呼ばれています。今月は、寒さが本格的になってきた高原のあれこれをお届けします。
目次
自然に関する気になるトピック 〜生物季節観測〜
前述の「雪虫」のように、人それぞれ何かしら季節の節目を感じる指標をお持ちでしょう。
気象庁が1953年に開始した、全国統一の「生物季節観測」をご存じでしょうか。各地の気象台・測候所58地点で植物34種、動物23種を対象に、開花や初鳴きなどが観測されてきました。最もニュースになるのは、サクラの開花ですね。
ところがつい最近のこと、気象庁大気海洋部から、令和3年1月より対象を大きく削減し、「生物季節観測」は植物6種目9現象に変更すると発表がありました。「あじさい開花」、「いちょう黄葉・落葉」、「うめ開花」、「かえで紅葉・落葉」、「さくら開花・満開」、「すすき開花」の6種目9現象です。新緑の緑がまぶしい頃の「ウグイスの初鳴き」や「つばめの初飛来」、初夏の到来を感じさせる「アブラゼミの鳴き始め」は項目から外れてしまいました。
気象庁のこの変更を、みなさんはどうお感じになりますか? めぐる季節の気配を身近な自然から五感を通して受け取る…ささやかなこの行動を継続して、異変を凝視し続ける義務が「人間」にはあるように私は感じます。温暖化など地球環境の急速な異変は、近代化に伴う「人間」の行動に起因しているからです。
季節の森 ~人と野生動物たち〜
人も含めた生きものにとって、森の役割は多岐にわたりますが、その中の一つに「住処と食料の供給」が挙げられます。かつての日本では奥山(※1)と里山(※2)とを、「人」と「野生」が使い分けることで、両者はうまく共存していました。
ところが1960年代の高度経済成長期以降、生活に必要な燃料、肥料、材料を手に入れるために頻繁に人が出入りしていた里山の利用が激減し、奥山的なエリアが拡大してしまいました。いわゆる薪炭林(※3)の消滅が、奥山に棲息していた野生動物たちの行動範囲を広げてしまい、人里近くまで降りてくる一因となっているのです。
近年この時期に問題になるのが、人里近くに出没する「ツキノワグマ」です。動物は冬眠前に食料を大量に必要とします。ところが山に食べるものが無ければ、食べ物を探して彷徨います。かつてのバッファーゾーンとしての里山の急速な荒廃と、奥山的エリアへのレジャー目的の人間の侵入が相まって、気づいたときにはお互いがばったり鉢合わせというわけです。
動物にとって重要な食料となる木の実も、毎年豊富に実をつけるわけではありません。不作、凶作の年にはツキノワグマの出没数も多く報告されています。
一方で樹木たちにも「食べ尽くされないための戦略」があるのです。意図的な凶作とその戦略については機会を改めてお伝えすることとして、人里に現れる動物たちの行動には、前述の里山消失に加えて人の食べ物の「美味しさ」と「栄養価の高さ」を知ってしまったこともあるでしょう。灰汁の強いドングリや美味しくても小さいブナの実を食べるよりも、人の食物のほうが格段に効率がよいからです。
他にも奥山の森林環境の悪化などさまざまな要因が挙げられます。捕獲されるツキノワグマのニュースを耳にしながら切なくなる冬の始まりの季節です。
※1 奥山:国土保全や水源涵養のほか、鳥獣の生息環境や人々のレクリエーションの場
※2 里山:平野部の農地に続き丘陵地帯に広がる森林。農地に必要な肥料、薪や炭、木材などの供給源として利用
※3 薪炭林:薪や木炭の原木など燃料を供給する森林。広葉樹の株立ち状の木が多いのが特徴
自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~
おかげさまで、やまぼうし自然学校は今年NPO法人認証20周年を迎え、この大きな節目に記念冊子の作成に取り組みました。思いもかけないコロナ禍に見舞われ、窮地の中で若手職員が奮闘。手作り感溢れる仕上がりです。
生まれた時からパソコンやスマートフォンが存在する世代は、それらの機能をごく自然に駆使して素敵なレイアウトページを次々と繰り出します。アナログ世代には到底まねのできないスキルには、感心することしきりでした。世代間のギャップなどものともせず、ワイワイガヤガヤ、一つの目的に向かってチームワークで成し遂げることに喜びを感じます。完成した記念冊子を手に、我が職場は自慢できる魅力的な場であることを改めて実感しました。
大切な「森のメッセージ」を発信するため、30周年、40周年も笑顔で迎えられるよう自然学校のさらなる発展と継続を目指します。
森がもっと面白くなる ~遷移(せんい)3~
前回からの「遷移」の続きを。いよいよ「極相」に突入です。「クライマックス」とも呼ばれ、「遷移」の帰結として到達する植物群落のことを指します。
理論上では、極相状態の森林は遷移過程のように方向性をもった変化はありません。暴風や大水、火災のような「攪乱」が起きない限り、生物と環境の間には安定した平衡状態が保たれ、極相の群落は永続的に続くと考えられています。
日本国内での極相林は、例えば知床国立公園や白神山地などが有名です。これらはいわゆる原生林(=極相状態)と呼ばれている森林ですが、仔細に分析すると、アカマツなど陽性樹種が混在しています。これは部分的に「攪乱」を受けた証で、ギャップ(※4)といわれます。森はある広さの「攪乱」を常に受けていて、その場所の修復を繰り返しながら、全体としては極相という均衡を維持しているのです。森の「動的平衡」ともいえるでしょうか。
※4 ギャップ:林冠(※5)を構成する木が寿命で枯れたり、強風で倒伏したりした際にできる空間のこと
※5 林冠:樹木の枝と葉の集まりである樹冠(Vol.5季節の森)が、隣接する樹木の樹冠と隙間なく連続している状態
今月の気になる樹:カラマツ②
カラマツはVol.2に続き、2回目のご紹介です。菅平が明るい光、黄金色に染まる秋。それはカラマツの黄葉によるものです。春の新緑と秋の黄葉がカラマツの最大の魅力であり特徴です。
長野県の東信地域にカラマツが特に多いのは、第二次世界大戦後の国策で拡大造林の主要樹種として採択されたことによります。成長が早いため、土木用材などの利用目的で広く植栽されました。その結果、今は見渡す限りのカラマツ林が広がっています。御代田町には現存する最古の人工カラマツ林がありますが、御代田町塩野国有林として1852年(嘉永5年)に植林が開始されています。
一方で日本の固有種であるカラマツは長野県内での天然分布が多く、信州産のテンカラ(天然カラマツの略)は良材として名高く、大径木は高級材として珍重されてきました。カラマツは氷期遺存種(※6)で、本州中央部の標高900〜2,800mの山間部に天然分布し、長野県内では北アルプス上高地や東御市池の平が有名です。
造林木のカラマツは、強度性能は優れるものの、ねじれや干割れが大きく、製材後にもヤニ(樹脂)が斑点状に染み出すなど扱いが難しいとされてきました。近年は画期的な技術開発により、合板材料として高く取り引きされるようになっています。カラマツの材は桃色を呈しとても美しいので、樹齢80年の大径のものなどは、合板ではなく住宅建材として利用してほしいと願っています。
[カラマツ]
マツ科カラマツ属/落葉針葉高木
宮城県〜静岡県北部の亜高山帯に分布
日本固有種
※6 氷期遺存種(氷河期遺存種):最終氷河期に南下した植物で現存しているもの。標高の高いところに棲息する高山植物など
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