ストロベリー・グアバを育てる【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2020年で28年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、10月に収穫期を迎えた果樹、ストロベリー・グアバ。スーパーでは見かけない美味しい果実の開花から実り、また味わい方や育て方についてもご紹介します。
目次
懐かしの味

10月になってほぼ毎日、ベランダで収穫しているのが、ストロベリー・グアバの実。今年はことのほかたくさんなって、1株で50個以上の果実を得ている。20年ほど前に父の庭の木から枝をもらって挿し木した苗が、東向きのベランダで大きく育って毎年実を結ぶのだ。
私が育った伊豆の熱帯植物園では、露地の至る所に垣根のように植えられていたので、この季節になると毎日口いっぱいに実をほおばって歩いていた。いわば子ども時代のおやつで、懐かしい味となっている。
植物園は熱帯の果実が我が国でどれだけ育てられるかの研究所でもあったので、キウイやパッションフルーツ、ストロベリー・グアバなど、当時は珍しかった果実が日常のおやつだったのは、今思うと稀有な体験だった。
ストロベリー・グアバとは

ストロベリー・グアバは、熱帯性の木本植物で、原産地はブラジルを中心とした南米。わが国には漢方薬の材料として大正時代初期に渡来している。バンジロウやテリハバンジロウなど「海外から来たザクロ」という意味の名前で呼ばれた。現在では英名のストロベリー・グアバとして知られている。

いわゆるグアバの木とは、同じPsidiumに属するが別種で、葉や実の大きさなどかなり異なっている。ハワイでは野生化した木が多く見られ、そのほとんどが赤色の実なので、我が家のような黄色い実の木は、イエロー・ストロベリー・グアバと呼ばれている。
幻想的な白い花

初めて我が家で花を見た時は、ちょっとした感動だった。それまではまさに「花より団子」で、開花の記憶が全くなかったのだ。花びらが見えないほどに雄しべが無数に開き、つぼみが爆発したように思えた。開花は5月から6月にかけてで、しばらくはそのトロピカルな風情を眺め、楽しむ日々を過ごした。
結実を迎える

花の先に小さな青い実が付き、やがてピンポン玉くらいの大きさに育つ。開花から2カ月から2カ月半で、青い実は徐々に黄色く色づき始める。完全に熟すと自然落下するので、完熟の少し手前で収穫して、2~3日後に食するようにしている。皮が柔らかくなったら食べ頃だ。

実を味わう

実は甘みと酸味が絶妙に入り混じった、まさにトロピカルな味。イチゴの甘い香りがするのでストロベリーの名前が付いたというのが定説だが、香りは熱帯果実そのもの。赤い実からイチゴを連想して、この名前が付いたのではないかとも思える。

私は、毎朝自家製のヨーグルトに加えて、デザートとして味わっている。ビタミンCが豊富で、風邪予防になるような気がする。生食、ジャム、スムージーのほか、ミキサーでピューレ状にしてドレッシングに用いることもできる。焼酎と氷砂糖に漬けて、1~2カ月で果実酒もできるそうだが、これはまだ試したことがない。いずれにしても完熟のタイミングで食することができるのは、自家栽培ならでは。
葉を煎じる

ストロベリー・グアバは、ガジュマルの木に似た光沢のある葉の常緑樹で、観葉植物としても楽しめる。わが国に漢方薬として渡来したのは、その葉を乾燥させ、グアバ茶として煎じるためという。
若葉を1~3週間乾燥させたものを沸騰した湯で煎じる。下痢止めや鎮痛効果のほか、高血圧や糖尿病に効くプロアントシアニジンが含まれているそうだ。
ストロベリー・グアバの育て方

最近では苗を取り扱う園芸店も増え、ネットで購入することもできる。熱帯性の植物だが、かなりの耐寒性があり、関東以南では露地植えが可能だ。鉢植えでも育てられるので、ベランダ栽培にも適している。
3月から5月にかけて、日当たりのよい高温多湿の場所に植え付ける。樹高は1~3mほどだが、熱帯地方では8~9mほどにもなるという。1mくらいのところで切り返すと結実しやすくなる。肥料は開花期の前や、収穫後に与える。

梅雨時期などに挿し木で増やすほか、実生苗を育てることもできる。種子を播いて2週間前後で発芽し、1年で50cm程の苗に成長する。成長が早く、2~3年後には結実が期待できる。
ベランダ園芸の醍醐味

マンションのベランダでの鉢植え栽培なので大量の収穫は望めない。だが、花が開き、小さな実が育っていくのを居間から眺めるのは幸せな時間だ。ストロベリー・グアバは一斉に熟さないので、1カ月近くにわたり、少しずつその実を味わうことができる。
何よりも部屋から手を伸ばしたところで収穫できるのが、ベランダ園芸の醍醐味といえるのではないだろうか。
Credit
写真&文 / 松本路子 - 写真家/エッセイスト -
まつもと・みちこ/世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2024年、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルム『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』を監督・制作し、9月下旬より東京「シネスイッチ銀座」他で上映中。『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。
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