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秋のガーデニングとオクトーバーフェスト~9月のドイツ・バイエルンから~

秋のガーデニングとオクトーバーフェスト~9月のドイツ・バイエルンから~

Photo/Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

暑かった夏が過ぎ、気温も落ち着いて秋らしい空気へと変わってきました。日本よりも一足早く秋が訪れたドイツでは、豊かな実りの季節を迎えています。ドイツで暮らすガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、バイエルンの秋の日々と、秋のガーデニング作業について教えていただきます。

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実りの季節の訪れ

ホップのリース
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Christin by Hof 9

この原稿を書いている現在、辺りの空気にはフレッシュなホップの香りが漂っています。以前の記事でも書いた通り、私が現在暮らしているのは、世界でも最もホップの生産が盛んな地域。9月はそのホップの果実が実り、一年の労苦が報われる収穫の季節です。9月になると、突然、ホップ畑に下がっていた緑豊かな「緑のカーテン」が引き下ろされます。その結果現れる景色は、木の支柱だけが残されて、驚くほど武骨なものです。

茂っていたホップが取り去られると、夜明け頃に畑や牧草地を動き回っている野生動物たちも見つけやすくなります。これはドライバーにとってはとてもありがたいこと。畑に沿った道などでは、ウサギやキジ、キツネ、そしてシカが急に道を横切り、事故に遭ってしまうこともあるからです。

私自身も、ある日の夕方、森の近くを運転していて、心臓が凍るような体験をしたことがあります。幼いシカが急に私の車の前に飛び出してきたため、慌ててブレーキを踏み、なんとか衝突を免れたのですが、車を元のスピードまで戻し、たった今起きた事故寸前の出来事から気持ちを落ち着かせようとしていたところに、別のシカが飛び込んできたのです! 幸いシカにも私にもケガはなかったのですが、この後は本当に慎重に、ゆっくりと車を走らせました。

秋の畑の様子

さて、収穫後のホップ畑の副産物は、残る畑と美しい森の素敵な景色が目の前に開けること。ホップの収穫を終えた後に残っているのは、トウモロコシ畑です。ホップの収穫期間中、道路は泥だらけになりますが、この4週間の間は車を洗うのはナンセンス。どうせまた汚れてしまいますからね。現在のバイエルンでは3週目なので、あと1週間もすれば日常が戻ってくることでしょう。

秋のバイエルン

秋のガーデン

さて、秋のバイエルンでは畑に実る穀物もおおむね収穫を終え、残すはトウモロコシ畑のみ。ちなみに、トウモロコシといっても人間の食用ではなく、冬の間、牛の飼料にするためのものです。ガーデナーは、それぞれのガーデンで茂りすぎた低木やつる植物を切り戻す作業を開始しました。バルコニーの花々はまだ綺麗ですが、開花のピークは過ぎ、しばらくしたらなくなってしまうでしょう。

ドイツの気温は、北海道の札幌周辺と同じくらいで、夜間はもう5~7℃ほどにまで冷え込みます。日中は20℃を超すくらいまで上がりますが、それは一日のうちほんの数時間です。この気温の変化によって、ガーデナーの作業内容や、ナーセリーやガーデンセンターに並ぶ草花の種類が大きく変わりました。今の季節は、クリサンセマム(キク)をメインに、エリカ、カルーナ、アスターなどが並び、秋らしい品揃えに。たくさんの種類の果樹や秋植え球根、デコレーション用の小物なども販売されています。

もちろん、棚にはバラエティー豊かな植木鉢やコンテナも。シンプルなクレイポット、テラコッタ鉢、木製バスケット、ヤナギを編んだ作品、銀色に輝く金属製ポット、無地または装飾された錆びたような風合いのポットなどが所狭しと並びます。グレイやブラウン、白などのプラスチックのポットも購入できますが、私の場合、秋にはプラスチック鉢は選びません。というのも、これからの季節、植物はあまり大きくならないので、鉢を覆い隠してくれないからです。

秋のコンテナ
温かな印象のテラコッタ鉢に、暖色のクリサンセマムを植えて。

これからの季節におすすめなのは、上品な美しい鉢。よく似合う植物を植えれば、秋冬を素敵に演出してくれます。その際は、色合わせも大切な要素ですね。

例えばオレンジ色の花が咲くジニアに、グラスのペニセタムと黄色っぽいダリアを合わせて、テラコッタの鉢に寄せ植え。柔らかなグラスの表情が軽やかさをプラスしてくれます。低く育つアスター・デュモサスはピンク系のダリアとグラスを合わせて。白のコンビネーションなら、クリサンセマム、カルーナ、斑入りのサルビア‘トリコロール’に、グレイッシュなブルーのグラス、フェスツカの組み合わせなども素敵です。

白の寄せ植え
鉢の色と合わせて、クリサンセマムとカルーア、シロタエギク、グラスを寄せ植え。

秋らしい小物とガーデンづくり

クレマチスの秋のリース

また、つる植物の多くが葉を落とし、開花期も過ぎたこの時期は、クレマチスやブドウ、キウイフルーツ、そしてホップの長くしなやかなつるを使って、リースを作るのにぴったりな季節ですね。

リースはなにもクリスマスの時にだけ飾るものではありません。一年中可愛らしいデコレーションになってくれますし、秋ならカルーナとシードヘッドや色づいた葉を並べて素敵な飾りを作ることができます。玄関やガーデン、バルコニーの飾りとして、どんな形でもOK。決まりはありません。最近では、クレマチスの蔓を使った、空っぽのボールのような球形の飾りが人気です。変化の乏しい冬のガーデンで、フォーカルポイントになってくれますよ。

他の面白い秋の小物としては、コケと落ち葉があります。小さな花瓶などの容器を仕込んだ苔玉を作り、可愛い花や色づいた葉を飾ってみたらどうでしょう? シンプルですが、素敵な小さな秋の欠片をおうちの中に連れてくることができますよ。

苔玉の秋飾り

苔といえば、最近私は苔にはまっています。近所にある森を散歩すると、道に沿ってたくさんの倒木があり、多くは苔にすっかり覆われているのですが、この景色が、以前旅した屋久島を思い起こさせてくれるのです。屋久島の旅は素晴らしかったですが、ずっと小さなスケールながら、近所の森でもよく似た景色を楽しむことができるのは嬉しいことですね。必要なのは、森の奥へと歩く時間と、新鮮な気持ちで目を開くことだけ。それだけで、自然の美しさを存分に味わうことができます。

そこで、庭の一角に小さなモスガーデンをつくり始めました。木々の下の日陰で湿ったエリアは、この挑戦にぴったりの環境。両親の畑に自然に生えていた苔を集めてスタートしました。すでに苔むしていた枝も集めて、未来のモスガーデンへと移動。この冬を乗り切り、日々少しずつ育ってくれることを期待しています。モスガーデンでは、木々を苔で覆うのが一般的ですが、今回は木に加えて古い屋根瓦でもチャレンジしてみるつもりです。

寒さが厳しいドイツでは、これからの季節はベランダやバルコニーで過ごす時間は最小限にせざるを得ません。でも、そんな冬のアウトドア時間の強い味方があるんです。それは、「パティオヒーター」と呼ばれる、大きなキノコに似た形のガスヒーター。カフェなどで取り入れているところもありますが、新型コロナウイルスの感染の危険性も屋内に比べて屋外では低いですし、外に座って美味しい空気と青い空を楽しむのは気持ちのよい時間です。ウールのブランケットで足元をカバーすれば、より快適に過ごせます。

どんな気温であっても、一年中、アウトドアの空間を楽しみたいものですね。

2020年のオクトーバーフェスト

2020年はいつもとは異なる状況がたくさん生まれましたが、その一つが、ミュンヘンのオクトーバーフェスト。世界で最も有名なビールの祭典で、2019年には世界中から600万人以上が訪れたイベントです。しかしながら、2020年は中止となってしまいました。ミュンヘンだけでなく、各地のオクトーバーフェストも開催がキャンセルされています。

たとえホップが豊作で美味しいビールを醸造できても、ほぼ全てのフェスティバルが中止となってしまったため、醸造所はビールの販売に苦心しているよう。ビールを飲むことは、友人と会ったり、コミュニケーションを楽しむことと、常に深く結びついているからです。

各地のオクトーバーフェストの中止が相次ぐ中、少しでも秋とビールを楽しもうと、小さなホームパーティーを開いて、ミニチュア版オクトーバーフェスト風にセッティングする人も。私もそんなパーティ―の一つから招待を受けました。

オクトーバーフェスト

オクトーバーフェスト風の演出として、一番重要なポイントは、「ビアガーデンテーブル」と「ビアガーデンベンチ」。本来のオクトーバーフェストでは、一般に10人が一つのテーブルに着きますが、今回は人数を減らして席に着くことに。持ち寄りパーティーだったので、開催日の2週間前にメッセージを介して、誰が何を持ってくるかを調整しました。参加者がそれぞれ、オクトーバーフェストらしいパーティーにしようと考えながら準備するのは、心躍るものでした。ナプキンに始まり、キャンドル、テーブルデコレーションのアイデア、そしてもちろん、最も大切なのは、料理とビール!

パーティーの開催場所として予定されていたのは、ミュンヘン近郊のプライベートガーデンにある湖のそば。主催者は、このロケーション選びと、メインとなるソーセージ、ナイフやフォークなどのカトラリー、食器の準備を担当。本来のオクトーバーフェストとはいきませんが、ビールもいくらか準備されていたようです。

招待者リストには20人ほどの名前があり、それぞれフィンガーフードやスナック、手作りのパンなどを持ち寄ることに。バイエルンの郷土料理で、「オバツダ」というディップも欠かせません。カマンベールチーズやバター、タマネギ、クリームチーズ、キャラウェイシード、スイートチリパウダー、塩・胡椒、そして少量のビールで作るディップで、これをパンに塗って食べると、とても美味しいのです。ビールとの相性も最高。

私は、キュウリを入れたクラシカルなポテトサラダを持参することにしました。ホップの収穫後に、ソーセージや豚肉のローストと合わせて食べる地元の定番料理です。このサラダに加え、ソーセージに付けて食べる自家製のスパイシーなマスタードも用意。ソーセージに合わせるとご馳走なんですよ。

こうして、ロケーション、セッティング、料理、全ての準備が完了しました。あとは開催を待つばかりだったのですが…。

残念ながら、最近の新型コロナウイルス感染者数の再拡大により、ミュンヘンでは厳しい規制がかけられて、この会は中止になってしまいました。

もちろん残念でしたが、自然やガーデンを楽しむためには健康が最優先。それに、このパーティーに向けて準備を進め、わずかながらオクトーバーフェスト気分を味わえたことは、楽しい思い出になりました。

皆さんも健康に気を付けながら、気持ちのよい秋の季節を自分らしく楽しんでくださいね。

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

取材/3and garden 

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