都会のベランダでバナナの木を育てる【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2020年で28年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、栽培を始めてから1年。冬を越し、葉を繁らせたバナナの木について、ご紹介します。
東向きのベランダで葉を広げるバナナの木

窓の外でバナナの葉が風にわさわさと揺れている。都心のマンションからの眺めとは思えない光景だ。背後のビルを視野に入れず、空の青に浮かんだ緑の葉だけを見ていると、気持ちがほっこりとしてくる。
バナナの苗を手に入れる

園芸店のネット通販カタログでアイスクリームバナナ(Blue Java Banana)の苗を見つけたのは、昨年の初夏だった。その美味しそうな名前に惹かれて、思わず衝動買いをしてしまった。マンション住まいでバナナの木を育てることが可能か考える前に、葉が繁るイメージがどんどん膨らんでいったのだ。
6月になって届いた苗は、高さ40cm程の細長いものだった。バナナらしさがあまり感じられずやや落胆したが、鉢増し(一回り大きな鉢に植え替え)をして2カ月もすると、しっかりと葉を繁らせ始めた。
その葉の1枚を切り取り、食卓の上に敷いて皿を載せると、ハワイや東南アジアの島々で出合ったエスニック料理のように見えた。
幼い頃の原風景

撮影の仕事を始めてから、南国を旅する機会が増えていった。そこに住む人々や風景にも心惹かれるが、熱帯植物の花や果実がほぼ一年中路地に見られることに何よりも感動していた。それは私が育った環境と無縁の感情ではないだろう。
父の仕事の関係で、伊豆の熱帯植物園の敷地の奥に住まいがあり、植物園の中で育ったといっても過言ではない子ども時代だった。熱帯植物の試験場だったが、一部の温室は観光用に一般公開されていた。温室の高い天井までブーゲンビレアが枝を伸ばし、花を咲かせていた。バナナやパパイヤが実り、そこは格好の遊び場だった。バナナの葉が繁る光景は、いわば原風景ともいえる。
バナナの冬越し

アイスクリームバナナは、比較的寒さに強い品種で、関東地方以西では路地で冬越しができるとされる。それでも最低生育温度は0℃。冬に葉が枯れても、幹が生き残れば春にまた新葉が出てくるというが、実験的に幹に不織布を巻き付け、冬越しに備えた。生育1年未満の苗が寒さに耐えられるか心もとなかったが、ルーフバルコニーとは別の、東向きの陽当たりのよいベランダに置いたのがよかったのだろう。葉を残したまま無事春を迎えた。
夏の陽差しの中で

暖かくなるにつれ、バナナの木は背丈を伸ばし、7月になると2mほどの高さになっていた。葉も7、8枚に増えている。幹の横に小さな子株を見つけ、生育ぶりに感嘆してしまった。

葉が繁るのを楽しみに、いわば観葉植物として育て始めたバナナだが、そうなると欲が出てきて、実がなるかも知れないと期待を抱き始めた。調べてみると、南国では子株から成長して1年で結実するが、関東地方の露地では2〜3年後に実るという。
植え替え作業に四苦八苦

8月のある日、バナナの葉に勢いが無く見えた。水遣りは十分なはずで、その場合考えられるのは根詰まり。一回り大きな鉢と土を用意して、植え替え作業に取り掛かった。それが大変だったこと。
プラスチックの鉢に根が張り付いてどうにも離れない。少しずつ剥がしていって、結局鉢から苗を取り出すのに3時間余りかかってしまった。考えてみれば夏に向かっての旺盛な成長ぶりから、鉢の中の根もかなり張っていると想像できたはずだ。ほかの植物の植え替えと同様に考えていたのが甘かった。

根を傷めたので、水分の蒸散を抑えるために、植え替え後に葉を数枚切り落とした。やや淋しい姿になったが、何日もしないうちに巻葉が出て、新たな葉が繁り始めた。
バナナの実を期待して

自家でのバナナの収穫を望むのなら、三尺バナナやドワーフバナナなどの矮性種を選ぶと、鉢植えでも結実しやすいという。だが、葉を見上げながら南国気分を味わいたい向きには、やはり樹高が欲しい。葉も果実も、と夢想しながら、これから来る冬の越し方を思案している。

都心のマンションの4階でバナナが実ったら、と想像しただけで楽しくないだろうか?
Credit
写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-20年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
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