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内と外がつながる「寄り添いどころ」をデザインする

内と外がつながる「寄り添いどころ」をデザインする

「人が本能的に惹かれる心地よい居場所とは何か?それを常に考えながら住まいをつくっています」と語るのは一級建築士の小野善規(おのよしのり)さん。2005年にオノ・デザイン建築設計事務所を設立。心地よさを生み出すデザインのを作り出す原点についてお話いただいた。

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風景を切り取る窓

 

写真/オノ・デザイン

この「自由が丘のアトリエ」は、私の事務所兼自宅で、住宅と庭、そしてそれらの関係性に対する私の考えを随所に込めた空間でもあります。ここはもともと、私の祖父母が住んでいたところで、京都で生まれ育った私も幼い頃、遊びに来た思い出深い場所です。私が独立する前に、この母屋の改修を手掛け、その後、事務所を設立する際にさらに増築を手掛けて今のかたちとなり、同時に私たちがここに住みはじめたという経緯です。現在の事務所へのアプローチ周りは増築の際に新規につくり直したものですが、それ以外の庭や樹木は既存のもので、増築部分は極力これらを残しながら配置しました。このように計画すると、建物には自ずと出っ張りや引っ込みが生まれます。そこで、それぞれの場所から外の風景を身近に感じられるように開口部をデザインしました。

風景というのは、それを漠然と眺めているだけではなかなか気が付きませんが、よく観察すると場所ごとに特徴や個性があることが分かります。見る角度によって何がどう見えるのか、またどのように光が当たり、風はどこを通るのか。全体として見たときは一つの景色として見えるものであっても、その上の部分を見るのか下の部分を見るのか、その切り取り方によっても印象がまったく異なります。「こうした面白さを住まいに取り入れたい」。私はそう考えています。

室内から見る風景はフレームによる切り取り方や見る人の位置や高さによって、その場所ならではの「絵」をもたらします。大きな開口を設けることでパノラマの風景を得るというのも、住宅設計において非常に魅力的な手法ではありますが、逆に全部を見せないことで感じられる面白さというのもあるのではないか、というのが私の考えです。

例えば増築部分にあたるこの部屋で言うと、西側には敷地のコーナーに広がる庭の緑を楽しむことができる出窓を、また北側のテーブルの脇には、椅子に座ったときに外の緑が意識することなく目に入る縦長の窓を設けています。西側の窓は下を中心に楽しめるように、またテーブル脇の窓は逆に上を見てもらうよう、それぞれの開口部は切り取るところを綿密に考えながら、その大きさや高さを慎重に検討しました。

身を寄せたい場所をつくる

撮影/中川敦玲

ここの西側の開口のように、私は出窓を採用することが多いのですが、これは住まいに内と外の中間的な領域をつくり、同時に空間に奥行きを与えたいという考えからです。ヨーロッパの教会や修道院などを訪れると、石積みの厚い壁に小さな窓が穿たれていて、何となくその窓辺に吸い寄せられるような雰囲気を感じます。そして、そこに身を置いてみると自分の居場所を見つけたような居心地の良さを感じます。

出窓を採用するようになったのは、こうした要素を日本の住まいにも導入したいと思ったからです。住まいの空間を考えるうえで、私はインテリアに趣向を凝らすということよりも、身体的に感じることを大事にして、住まい手が身を寄せたいと感じる場所を積極的につくっていくことを心掛けています。このように人が心地よく感じる「寄り添いどころ」の一つが、内と外をつなげる開口部なのかもしれません。

そういう観点から開口部を考えると、その素材についても自然とこだわりが出てきます。現代の住宅における一般的な窓枠と言えばアルミです。アルミサッシは確かに非常に優れた性能を備えていますが、私が重視している「寄り添いどころをつくる」という考え方からすると、製品然としたアルミサッシの冷たい感じはあまりなじみませんので、やはり木を選ぶことが多くなります。

 

敷地を満喫する

撮影/中川敦玲

ここまで私のアトリエを例にお話ししてきましたが、新築の場合でも基本的に私が家づくりで重視することは同じです。例えば区画化された敷地であっても、よくよく観察すると必ずいろいろな場所に個性が隠れているものです。それらをできる限りすくい取って「敷地を満喫する」ことが私の設計の大きなテーマです。

新築の場合、要求された間取りや条件から、先に建物のかたちや場所を決めて、残った余白に庭を設けるという人も多いと思います。しかし、私はどちらかというと敷地のポテンシャルを最大限生かせるように、「どこに余白を設けるか」というところから設計をはじめ、そこを生かし、室内と一体化させるように建物のかたちと配置を計画することが多いですね。こうして自ずとできる間取りを大切にして、「そこから何が見えるのか」ということや、「それをどのように切り取ったら心地よく感じるか」ということを考える「発見する楽しみ」を味わいながら設計を進めるスタイルが好きなのです。ゼロからすべてを新しくつくるというよりは、もともとあるものを発見してピックアップする作業といえるのかもしれません。

こうした方法で家づくりを行うと、見せるものと見せないものを選ぶ楽しみも出てきます。私が生まれ育った京都という街は、建ち並ぶ多くの古い町家に塀が立てられています。しかし歩いているとチラチラとその奥が見えて、何かワクワクするような空間があることを予感させる。「チラッと見せる文化」とでもいうのでしょうか(笑)、もしかしたら私はそういう影響を受けているのかもしれませんね(笑)。

 

 

引用元/『HomeGarden&EXTERIOR vol.2』より
写真撮影・提供/オノ・デザイン(1枚目)、中川敦玲(2枚目、3枚目)

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