美しい歴史ある建築物や美術館が多く、観光地として人気の高いスペイン・マドリード。この地は、ガーデン好きな人にとっても魅力的な旅行先の一つです。ドイツ在住のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、早春に訪れたマドリードの街中、花緑にまつわる驚きや発見のエピソードをレポートしていただきました。

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早春のマドリードへの旅

故郷のドイツに帰国してから、なかなか旅行に出かける余裕がなかった私と娘。日々の生活に変化を求め、早春のスペイン・マドリードへと旅することにしました。

なぜマドリードかというと、30年ほど前に訪れたことがあり、また20歳過ぎから親しくしている、長年の友人の一人が住んでいるから。彼女とは30年以上、新年のグリーティングカードのやり取りが続いているので、住所はもちろん、互いの家族の近況なども知っているのです。

さて、マドリードに行くことが決まると、すぐに飛行機とホテルを予約。3日間の旅程で、存分に街を散策することにしました。今回は、その滞在中に訪れたマドリードのガーデンをご紹介します。

一足早い春を迎えたマドリード

マドリードの街
マドリードの街。S-F/Shutterstock.com

空港近くのホテルに到着したのは夜遅くのこと。翌朝早くに目を覚ますと、マドリードの青い青い空が待っていました。

朝はまだ少し肌寒かったのですが、娘が選んだのはミニスカート。結果的にとてもよいチョイスになりました。昼頃には、気温は20℃に届くほどまで上昇したのです。

私たちが滞在した空港近くのホテルは、5階建てぐらいの建物が立ち並ぶエリアにある、赤レンガ造りの建物。住宅街も近くで、家々の周りには木々や芝生が広がり、気持ちのよい地域でした。住宅街は、大きなアイアンのフェンスによって仕切られていることが多く、住民の方々しかその区域に入ることはできません。

プラタナスの並木

ホテルから地下鉄の駅までは、プラタナスの街路樹が並ぶ歩道を歩いていきます。プラタナスは、特徴的な樹皮と、スパイクが無数に突き出たような丸いボール形の実がぶら下がっていることから、落葉期でもすぐに判別できる分かりやすい樹木です。

プラタナスの実
プラタナスの実。RimDream/Shutterstock.com

歩道は歩行者が安全に歩くための道なのですが、時に、その真ん中に大木が育っていることも。面白いことに、車道に出ることなしに歩道を歩くのは難しいのです!

マドリード市街中心部へ

グランビア通り

まずは市の中心街と、有名なグランビア通り(Gran Via)というメインストリートを観光することにしました。この通りには歴史のある建物が立ち並び、とても美しい場所でした。周囲を見渡すと、建物の屋根やバルコニーにもたくさんの植物が植わっていて、その白い壁と緑の植物画、とても鮮やかなコントラストを見せていました。

マドリードの街
屋上に育つ植物の緑が、建物のアクセントに。

マドリードでは、ほかにも有名な観光名所を巡りましたが、周囲にプラントタワー(緑の建築)とでもいうべき、たくさんの植物を取り入れた建物をよく目にしました。

アルカラ門
アルカラ門の前に植栽されたビオラ。

例えば、観光名所として有名なシベーレス広場(Plaza de Cibeles)では、愛らしいピンク色のシクラメンが大きな花壇に植栽されていて、周囲の緑の芝生の中で、ひときわ印象的でした。モニュメントの前の植栽エリアや道路の分離帯などでは、ビオラもよく見かけましたよ。

ハボタンのタワー
街中で見かけたハボタンのタワー。
オープンカフェ
オープンカフェにも緑は欠かせません。

スペインガーデン観光の白眉
レティーロ公園

レティーロ公園のエントランスゲート
レティーロ公園のエントランスゲート。Luis Pizarro Ruiz/Shutterstock.com

市街中心部の東側には、レティーロ公園(Parque de El Retiro)のメインエントランスがあります。エントランスは大きなアイアンゲートで、公園の周囲もアイアンのフェンスで囲まれ、ゲートの近くでは馬に乗った数名の警官が公園を警備しています。

レティーロ公園は、およそ125ヘクタールもの広さで、園内には15,000本以上の樹木が育っています。ここは、かつてフェリペ2世の離宮があった場所で、さまざまな植物はもちろんのこと、王族ゆかりの建造物も多く、とても美しく見応えのある公園なのです。

レティーロ公園
Catarina Belova/Shutterstock.com

レティーロ公園は、基本的にバロック様式のガーデンで、公園内には数多くの歴史的建造物があり、湖や噴水、オープンエアのカフェや博物館、そしてちょっと腰かけられるようなベンチもたくさんあります。どこに行っても木々や芝生があり、座ったり友達と遊ぶのにちょうどいい緑のスペースが広がっています。ちなみに、園内の大通りは舗装されているので、とても歩きやすいですよ。

レティーロ公園
gadzius/Shutterstock.com
レティーロ池

広大なレティーロ公園の中でも一番印象に残ったのは、レティーロ池(Estanque Grande del Retiro)と呼ばれる、アルフォンソ12世の彫像をバックに人工湖が広がるエリア。初めにお伝えしたように、この日のマドリードはとても暖かな日。観光客が次々とボートに乗って春の最初の1日を楽しんでいて、湖はとても賑やかでした。

この春めいた情景の美しさはもちろんですが、ここで商いをしている人たちの様子がなかなか面白かったのです。湖の手前にはサングラスや“偽ハンドバッグ”などの商品を売る出店が並び、商人たちが、四隅に細いロープのようなものが付いたブランケットの上に商品を並べていました。じつは、彼らが行っているのは違法な商売なので、パトロールの警官がやってくるのが見えると、アッという間にブランケットをしまい、森の中や木々の陰に逃げ込んでしまうのです。その間、僅か1分足らず。警察車両がいなくなると、またブランケットを広げて商品を並べ、何事もなかったかのように商いを続けていました。

レティーロ公園

さて、この日のレティーロ公園の中は人手が多く賑やかでしたが、決してうんざりするような喧噪ではなく、とてもいい雰囲気でした。ストリートミュージシャンがびっくりするほど素晴らしい演奏をしたり、まるで彫像のようなパントマイムをする人がいたり、マジシャンがいたり。小さな子供を連れた家族や、たくさんの観光客が、各所にあるオープンエアのカフェでくつろいだり、陽射しを楽しんだりしていました。湖の周辺は本当に美しく、ただそこに座ってその空気を楽しんでいるだけで、何時間でも過ごせそうでした。

ちなみに、この近くには、マドリードで一番古いと考えられている樹木があるはずです。その木は樹齢400年にもなるヌマスギだといわれているのですが、残念ながら見つけることができませんでした。次の機会には、再チャレンジしてみたいところです。

美しいガラスの宮殿と運動場

クリスタルパレス

次にご紹介したいのが、Palacio de Cristalというガラスの宮殿(クリスタルパレス)。オランジェリーのようなこの建物は、ロンドン万博で使用されたクリスタルパレスをモデルにしたもので、内部は展示室になっています。総ガラス張りで陽射しを浴びてきらきらと輝く、背の高い美しいパレスでした。

クリスタルパレスの内部
クリスタルパレスの内部。Kiev.Victor/Shutterstock.com

クリスタルパレスの前には、黒鳥の遊ぶ池が。噴水のあるこの池はなみなみと水をたたえ、水の中から伸びるヌマスギの木なども見られます。

クリスタルパレス
クリスタルパレスの池
池に浮かぶ黒鳥。
クリスタルパレス
クリスタルパレスの前にて。

公園のもう一方の端を見に行くと、運動場らしきエリアに突き当たりました。たくさんの若い人たちが、ダンスをしたり、アクロバティックな動きをしていたり、見ているだけでも面白かったです。ほとんどの人が個々に音楽を流していて、リラックスして自分だけの世界に集中しているよう。市民の憩いの場として愛されている様子が伝わってくる光景でした。

まるで夢のような花の光景

レティーロ公園のアーモンド
Plateresca/Shutterstock.com

人々が集うアスレチックエリアの隣に、今回の旅行での、この公園のハイライトがありました。

ピンクや白の美しい花を咲かせた樹木が立ち並ぶ場所。たくさんのアーモンドの木が植栽されたエリアです。3~4mほどのコンパクトなスタンダード仕立ての木や、もっと大きなたくさんの木々、その全てが一斉に花を咲かせていました。その光景は、まるで日本の桜のよう。しかし、周囲にほとんど人影はなく、木の下などに座っている人は一人もいませんでした。

アーモンドの花

木々にはまだたくさんのつぼみが膨らんでいましたが、なぜか木の下は散り敷いた花弁で一面に覆われ、ピンクや白っぽい絨毯を敷いたかのようでした。その日はそよ風すらもなかったのに、です。この美しいアーモンドの花景色をうっとりと眺めながら、私はなぜ花びらが落ちるのだろうと不思議に思っていました。

アーモンドとオキナインコ

その理由はじつに意外なもので、ちょっと目を疑ったくらいです。日本では一度も見たことがない状況ですし、おそらく今後も見ることはないでしょう。私たちが、美しいアーモンドの花の中に見たのは、オキナインコという鳥。この鳥の羽は鮮やかな緑色で、青い空に愛らしいアーモンドの花、そしてこの鳥の対比が織りなす光景は、率直に言って素晴らしく美しいものでした。しかしながら、この鳥たちは、アーモンドの花を次々についばんでは、地面へと落としているのです。これが、まだ満開でもなく風もないのに花びらが落ち、木々の下に大きな花弁の絨毯ができる理由でした。

アーモンドの花とオキナインコ
Gualberto Becerra/Shutterstock.com

後日、友人にこのオキナインコとアーモンドの花の話をしたところ、とても驚かれてしまいました。マドリードに暮らす人々にとって、この鳥は厄介者で、いてほしくない存在なのだそう。もともとはアルゼンチンからもたらされた鳥なのですが、そのうちの何羽かが野生化して定着してしまったのだそうです。スペイン全土の嫌われ者で、この鳥を駆除するのに多額の費用がかけられているのだといいます。美しい光景に見えましたが、その背景にはいろいろな事情があるのですね。

このアーモンドの木のエリアの近くに、公園のガーデナーの方が数名いらしたので、マドリードで一番のガーデン、または公園はどこかと尋ねてみました。彼らが言うには、自分たちにとっては、このレティーロ公園が一番だとのこと。今までに見てきた美しい光景の数々を考えれば、ここが一番だという意見も納得です。

レティーロ公園

美しい庭景色を堪能して、そろそろレティーロ公園を後にすることに。帰りは、ミモザの小道を通って、アイアンのゲートへ向かいました。この道は、ゲートを抜けると、小さな古本屋が立ち並ぶ、外の通りへと続いています。フィクションからクッキング、漫画、文学まで、幅広い分野の古書が並ぶ、とても雰囲気のよい通りでした。

レティーロ公園前の通り

100万以上の植物標本を保有する王立植物園

マドリード王立植物園

このように、レティーロ公園だけでもたくさんの印象的な景色に出合うことができたので、公園を出た時には、正直なところ、もう他のガーデンは見なくてもいいかな、ぐらいの気持ちでした。

マドリード王立植物園

しかし、公園からの帰り道で、近くにマドリード王立植物園(Real Jardín Botánico)があることを発見。せっかくですから、入ってみることにしました。

マドリード王立植物園

広大なレティーロ公園に比べると、この植物園はコンパクトで小さく、敷地面積は8ヘクタールほど。しかし、250年以上も前につくられた歴史のあるガーデンで、現在では、7つの大きな屋外エリアと温室に分けられています。この植物園には、5,000種もの植物のほか、スペイン最大ともいわれる100万以上の植物標本や図書館、1万点近くのスケッチを所蔵する記録保管所もあります。

ツバキ
入り口周辺を見て回ると、ツバキがちょうど開花を迎えている嬉しい発見が。ツバキはヨーロッパでも人気の高い花です。

ガーデンの中には、柑橘類の実るエリアや、ローズガーデン、ベジタブルガーデンなどがありましたよ。

マドリード王立植物園
マドリード王立植物園
園内のベジタブルガーデンやバグハウス。
マドリード王立植物園
マドリード王立植物園
園内では、黄色のスイセンがあちこちに咲いていました。

温室の中は、気候の違いによってエリア分けされ、ここでもまたたくさんの植物を見ることができました。

マドリード王立植物園

この植物園は、入場の際に通る門も印象的。ちなみに、この門の向かい側、ちょうど目の前に、プラド美術館の壮麗な建物があります。

王立植物園を出た後は、すぐそばのカジュアルなヘルシーレストランで、美味しい食事と、よく冷えたドリンクをいただくことに。このレストランの隣には、ユニークな素晴らしい緑の壁がありました。

緑の壁 緑の壁

このように、マドリードでは、植物を街中に取り入れている様子がたくさん見られます。観光名所としても有名なマドリードですが、ガーデン好きな人間にとっても見どころの多い街。行くべきところがたくさんありますよ。このショートトリップはとても楽しかったですし、今度は夏にぜひ訪れてみたいものです。

Credit

ストーリー&写真(記載外)/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

まとめ/3and garden

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