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18世紀と21世紀が交錯する贅沢な空間。『オテル・ド・クリヨン』|パリ発、季節の花だよりVol.8

18世紀と21世紀が交錯する贅沢な空間。『オテル・ド・クリヨン』|パリ発、季節の花だよりVol.8

コンコルド広場に面する唯一のホテル、『オテル・ド・クリヨン』。4年間に及ぶ大リニューアル工事を経て、2017年に再オープンを果たしました。ルイ15世時代の歴史的建造物で、隣は厳重な警備で知られるアメリカ大使館ということから、リニューアル工事は不可能と噂されたこともありました。華麗に生まれ変わった『オテル・ド・クリヨン』は、新たにプールとスパを完備。フランス王家ゆかりの歴史、 最新設備の快適さ、最先端のラグジュアリーな内装…。リニューアル前の重厚さに華が加わり、世界中の要人、セレブリティに愛されるホテルとしての地位を、ますます不動のものにしています。

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マリー・アントワネットが愛した館へようこそ

パリの重要文化財として登録されている『オテル・ド・クリヨン』。18世紀のフランス建築の最高傑作とされる宮殿の名残がある壮麗な外観と、エントランス(入り口)は、重厚感たっぷりです。しかし、その場に立つと、これ見よがしのスケール感は感じられません。とても居心地よく、落ち着くのです。ゲストたちがそう感じるのは、内装が工夫されているから。エントランスを入るとすぐに、サロンのような落ち着く空間が広がっています。

『オテル・ド・クリヨン』

女性的なやさしいトーンに仕上げられた内装は、フランス王妃、マリー・アントワネットを意識したもの。「マリーアントワネットが今、この時代に存在したら、ここがお気に入りのホテルになるはず…」。『オテル・ド・クリヨン』のシニアセールスマネージャー佐藤直也さんが、リニューアルのコンセプトを教えてくれました。

『オテル・ド・クリヨン』

館内のあちこちには、花が飾られ、空間に生き生きとしたみずみずしさを添えています。

花を担当するのは、ジョルジェ・ヴァルダさん。ラグジュアリーホテルとその施設に贈られるアワード「ヴィレジアチュール賞」の、最優秀フラワーアーティスト賞を2年連続で獲得した、大物フローリストです。以前は、パリ市内にショップを構えていましたが、2012年にカリブ海のサン・バルテルミー島に移住。以来、ここを拠点に世界中で仕事をしています。専属フローリストを務める『オテル・ド・クリヨン』には、年4回ほど足を運ぶそう。パリコレクションが行われるファッションウイークや、クリスマスなどの重要なシーンには、ヴァルダさん自ら、花のインスタレーションを展開。いっそうの華やかさが求められる行事以外の普段の花は、彼のチームから6名のフローリストがホテルに常駐し、管理しています。火曜日と金曜日の毎週2回、館内のアレンジを完全に変えるというのですから、ゲストはいつ訪問しても新しい花、新しいアレンジに出合えるのです。

『オテル・ド・クリヨン』

7月半ばのこの日、エントランスは白を基調としたアレンジでまとめられていました。アジサイ、グラジオラス、実のついた枝もの、グリーンのホオズキなどを使い、 モノトーンで清楚、かつ上品に。

変わって、エントランスホール奥 、ブドワールと呼ばれる次ぎの間は、深い赤紫色のアジサイ1種で潔く。エントランスとレストランをつなぐこのスペースは、他のスペースよりも照明を抑えているため、ダークトーンの花がよく似合っていました。

『オテル・ド・クリヨン』

エレベーターで上の階へも、上がってみましょう。

シンプルな花が、格調高いインテリアに映えます

『オテル・ド・クリヨン』

写真は、以前は「デビュタント・ボール」(若い令嬢たちの社交界デビューを祝う舞踏会)会場にもなっていた、マリー・アントワネットの間。

コンコルド広場に向かって石造りのテラスがあり、壁にはゴブラン織りのタペストリーがかかったこの広間は、マリー・アントワネットがピアノのレッスンを受けた場所と伝えられています。ゴブラン織りに描かれた人物の、ある者は譜面を広げ、またある者は楽器を演奏していることから、そう伝えられたとか。

マリー・アントワネットの間を飾る花々は、アジサイ、バラ、シャクヤク、トルコギキョウ、スイートピーなど、パウダーピンクのグラデーションで。なかでも、ピンクとブルーのアジサイが交互に並んだコーナーには、ロマンティックな趣きが漂っています。

『オテル・ド・クリヨン』

「『オテル・ド・クリヨン』は、フランスの歴史を色濃く現代に伝えています。場がもつ歴史の意味を理解し、そこにマリー・アントワネットの魅力を取り入れながら、花のアレンジをしています。同時に、ソフィア・コッポラが表現した映画のマリー・アントワネット像に、インスパイアされていることも公言したいですね。私はガーリーな世界感がとても好きなので」と、ヴァルダさんは、自身が手掛ける“花”について語ってくれました。

『オテル・ド・クリヨン』

「アレンジするときは、花の色を1色に絞ることが多いです」と、ヴァルダさんの話は続きます。

彼が手掛ける花のインスタレーションは、自然そのものの姿では存在し得ない構築的なフォルムが特徴です。それゆえに花の色を使いすぎると、フォルムが生きてこないのかもしれません。この日の『オテル・ド・クリヨン』の花たちも、彼の哲学を反映し、1色、またはそのグラデーションでアレンジされていました。一見、シンプルに見える花が、18世紀と21世紀が交錯する内装を引き立てているのです。

パリの歴史を感じながらの、特別な花レッスン

さて、この日、ヴァルダさんが、『オテル・ド・クリヨン』に登場したのには理由があります。『お金の神様に可愛がられる 「人づき合い」の魔法』の著書・藤本さきこさんと参加者の皆さんに向けて、特別に花レッスンを開催するため!

『オテル・ド・クリヨン』のアレンジレッスン

花レッスンの会場は、先に紹介したマリー・アントワネットの間のすぐ隣、イーグルの間です。

『オテル・ド・クリヨン』

黄金のレリーフがまばゆいばかりの広間で、17名の参加者を迎えての花レッスン。

『オテル・ド・クリヨン』

『オテル・ド・クリヨン』の専属フローリストに任命されて約1年で、3回ほどプライベートレッスンを行ったヴァルダさんですが、17名という人数は初めてだそう。ゆったりした空間で花レッスンをと、ヴァルダさん自身の希望で、特別にイーグルの間が会場になりました。

用意された花は、アジサイ、バラ、ビバーナム、クレマチス、ビバーナム、スカビオサ、ノコギリソウ、アスチルベ、キョウチクトウ、ミントなど、さまざま。

『オテル・ド・クリヨン』

レッスンの作品は、ピンクの花が主役の、ガーリーなマリー・アントワネット風のブーケです。

ヴァルダさんは、パリらしく自由に、花が好きだという思いを大切に束ねていくよう、参加者に伝えます。レッスンでは、一人ひとりが花を選んだあと、ブーケ作りへ。大きな花をまず1本軸にし、それを中心に45度の角度で別の花を添える…、手に持った花を回しながら、この作業を繰り返し、ひとつのブーケに膨らませていきます。基本はしっかり、しかしそれ以上に「嬉しい」「楽しい」「きれいだ」と感じる、その気持ちが大切だと、ヴァルダさんはいいます。好きという気持ちは、物事の原点になるのだと。

『オテル・ド・クリヨン』のフラワーアレンジレッスン

できあがったブーケを手にする、ヴァルダさんと藤本さきこさん。マリー・アントワネットをイメージする色、ピンクを基調に、いまが旬のさまざまな花材を紡いでいます。植物のもつ本来の姿や形を生かし、ありのまま、思うままに束ねる…このスタイルが、いま人気のパリスタイル。参加者の皆さんの作品も、思うままに“楽しんで”束ねたから、仕上がりはそれぞれです。

『オテル・ド・クリヨン』のフラワーアレンジレッスン

前述したヴァルダさんのモットーは、彼の経歴を見ても明らかです。なにしろ、形式張ってはいないのです。出身地であるユーゴスラビアの大学では法学を学び、記者だった父の仕事で移住したパリでは映画とオーディオヴィジュアルを学びました。卒業後は、CM制作オフィスに就職。のちにアートディレクターとして活躍し、やがて、フローリストに。

「祖父が、いつも言っていたのです。人生ではお前の好きなことをやれ、好きだからこそうまくやれるんだと。仕事が気に入らないなら変えればいい。妻が気に入らなければ別れればいい(笑)。僕はずっと花が好きだった。だから花の仕事を始めたのです」

『オテル・ド・クリヨン』

好きという気持ちを大切にいけた、ヴァルダさんのブーケがこちら。自由で大らかで、生命力に満ちています。王妃マリー・アントワネットも、もしかしたら、こんな女性だったのかもしれませんね。

ジョルジェ・ヴァルダ Djordje Varda
ホームページ/https://www.instagram.com/djordjevarda

藤本さきこ
ブログ/https://ameblo.jp/petite2325

『オテル・ド・クリヨン』

オテル・ド・クリヨン Hôtel de Crillon, A Rosewood Hotel
ホームページ/https://www.rosewoodhotels.com/fr/hotel-de-crillon
住所/10 Place de la Concorde 75008 Paris
電話/+33 (0)1 44 71 15 00

Credit

記事協力

角野恵子 Keiko SUMINO-LEBLANC
在仏日本人ジャーナリスト、コーディネーター。日本の企業に就職後、東京在住フランス人ジャーナリストのアシスタントを経て、1997年よりパリに移住し、在仏歴21年に。食とライフスタイルを中心に、日仏の雑誌およびwebで活躍中。共著に「DIYでつくるパリのインテリア」(エクスナレッジ)「パリでうちごはん そして、おいしいおみやげ」(小学館)など。プライベートでは、ふたりのパリジェンヌの母。
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