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ライラック物語【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

ライラック物語【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2020年で28年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、桜とバラの季節をつなぐ花木、ライラックとの出合いと育て方、そしてライラックにまつわる逸話をご紹介します。

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初夏を告げるライラック

ライラックの花

バラが中心の我が家のバルコニーだが、季節を告げる花の木を何株か育てている。毎年2月から咲く河津桜に続き、陽光、染井吉野と3種の桜がバトンタッチで開花した後、咲き始めるのがライラック。ライラック(Lilac) は英語名で、フランス語のリラ(Lilas)という名前でもよく知られている。

●3種の桜の記事はこちら

ニューヨークのマーケットから

ユニオンスクエアのグリーン・マーケット
ユニオンスクエアのグリーン・マーケット。littlenySTOCK/Shutterstock.com

ライラックの花を最初に身近に感じたのは、ニューヨークだった。1980年代に長期滞在していた折に、出かけたマーケットでの出合い。ブロードウェイ11丁目にロフトを借りていた私は、14丁目から17丁目にかけての公園、ユニオンスクエアで、月、水、金、土と開かれるグリーン・マーケットをしばしば訪れた。

グリーンマーケット
littlenySTOCK/Shutterstock.com

ニューヨークの街角では、至る所でグリーン・マーケット、またはファーマーズ・マーケットと呼ばれる青空市が開かれる。中でもユニオンスクエアのマーケットは最大規模。近郊の農家などからあらゆる食材が持ち込まれ、多い時には140もの店が並び、ニューヨーカーたちで賑わっている。野菜や果物のほか、肉や魚も揃い、また自家製のパンやチーズ、ワインなども並ぶ。朝8時から夕方6時くらいまで開いていて、散歩がてら買い物に出かけるのが楽しみだった。

ライラックの花

マーケットで一番印象的だったのは、5月になると登場するライラックの花束。木に咲く花の姿は知っていても、当時は切り花として家に飾ることは考えられなかった。いつも野菜と一緒に並べられていたので、農家の庭先などに咲いていたものなのだろう。私は腕いっぱいのライラックを抱えて、何とも幸せな気分で帰宅した。花瓶に挿したライラックはロフトの大きな窓によく似合い、その芳香とともにニューヨーク生活を彩ってくれた。

パリのバルコニーから

それから10年ほど経った頃、パリ滞在中に、一人の女性アーティストの自宅を訪ねる機会があった。パリの中心部に位置するアパルトマンの居間の窓越しにライラックの花が見えた。2mほどの樹高で、房のような花が木一面に広がっている。苗木を求め育て始めてから7年目だという。アパルトマンのバルコニーで鉢植えの木が育っているのを見るのは、ちょっとした感動だった。

我が家のバルコニーへ

鉢植えのライラック

パリでライラックの花に出会ってから数年後、東京の自宅近くの花屋の店先でライラックの苗木を見つけた。バルコニーのスペースの余地を考え一瞬迷ったが、ニューヨークとパリでの光景が目に浮かび、思わず手にしてしまった。以来二十数年にわたり、我が家のバルコニーで、紫色の花が初夏を彩ってくれる。それはやがて訪れるバラの季節の前触れで、心躍る日々の到来を告げるものだ。

ライラックとは

地植えのライラック
地植えのライラック。Besjunior/Shutterstock.com

ライラックは、4月から5月にかけて開花する落葉小高木。地植えすると6mほどの高さに成長するが、我が家では鉢植えなので、剪定して2mほどの高さに留めている。原産地はヨーロッパ南東部やアフガニスタンなどで、渡来したのは明治時代。我が国には近縁種のハシドイという自生植物があり、モクセイ科ハシドイ属に分類され、ムラサキハシドイ(紫丁香花)という和名が付けられている。

学名はシリンガ・ヴァガリス(Syringa Vulgaris)で、ギリシャ語で笛を意味するシリンクス(Syrinx)を語源とする。古代ギリシャではライラックの樹から笛を作り、牛飼いたちが吹いていたという。トルコではパイプが作られたことから、パイプを意味する言葉でもあるようだ。

花色の伝説

ライラックの花色

ライラックの花には藤紫色(ビオラケア)、紅紫色(ルブラ)、白色(アルバ)などがあり、それぞれの色によって花言葉が異なる。藤紫がまさにライラック色なのだが、白色の清楚な花姿にも惹かれる。だがロンドン滞在中に、白いライラックは不吉な花なので、家の庭には植えないと教えられた。

昔、イギリスの貴族の青年が村の娘に恋をして足しげく通っていたのだが、ある時を境に心変わり。娘は傷心のあまり自死に至った。その娘の墓に植えられた紫色のライラックが白色に変わったのが、白いライラックなのだという。花色にかかわらず、イギリスではライラックの花を贈るのは「別れ」を意味するそうだ。

ライラックを育てる

札幌のライラック
札幌のライラック。tasch/Shutterstock.com

ライラックは寒さに強く、夏に気温が下がる寒冷地が植栽に適しており、北海道では街路や公園に多く植えられている。札幌の大通公園には約400本の木があり、毎年5月中旬から下旬にかけて「さっぽろライラックまつり」が開かれる(2020年は開催中止)。

ライラック

現在、ライラックの園芸種は約30種類あり、中には比較的暑さに強いものも。我が家の夏のバルコニーはかなりの暑さになるが、何とか持ちこたえているので、関東あたりでも育てやすい品種なのだろう。

鉢植えの苗は2、3年に1度、11月から3月にかけて植え替えを行うか、大鉢の場合は土の一部を入れ替える。肥料は2月と8月。剪定は1〜2月に行う。広い敷地があれば、シンボルツリーとしてのライラックもおすすめだ。

ライラックの葉

白色が不吉な花とされる一方、紫系の花は「愛の芽生え」「初恋」などの花言葉を持つ。一説には葉がハート形をしているから、という。また、花の先端は4つに分かれているが、まれに5つのものがあり、ラッキー・ライラックと呼ばれるそうだ。房をなす多数の花から探し出すのは至難の業だが、花びらのどこかに幸せが潜んでいると思えるのは、ちょっと嬉しい。

Information

Union Square Greenmarket

月、水、金、土、開催

8:00~16:00(2020年3月から時間短縮。2020年5月現在)

North & West sides of Union Square Park

住所 E17th St. & Union Square W. New York NY 10003

公式サイト www.grownyc.org/unionsquaregreenmarket

電話 +1(212)-788-7476

アクセス 地下鉄 NQR456線  14 Street Union Square Station下車1分

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