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愛宕グリーンヒルズに込めた地域自然のストーリー 〜植物の文化を運ぶ plants culture caravan vol.16  

愛宕グリーンヒルズに込めた地域自然のストーリー 〜植物の文化を運ぶ plants culture caravan vol.16  

「connected」をテーマに、“日常に公園の心地よさを提案しているparkERs”が、自然と都会を繋げ、植物を暮らしに取り入れる新しい楽しみ方をご紹介。日本の豊かな自然を感じながら、植物と生きる考え方を未来へ運びます。今回は、「愛宕グリーンヒルズMORIタワー」に作ったグリーン空間についてご紹介します。

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愛宕グリーンヒルズとは

愛宕グリーンヒルズとは

愛宕グリーンヒルズは、近代的なオフィス・住宅のツインタワーと、伝統ある寺院、そして都市計画公園に指定されている愛宕山の深い緑が調和するプロジェクトです。

愛宕山は東京都港区にある区内最高峰の自然の山で、都会の真ん中にありながら木々が茂り、緑豊かな静かな場所です。愛宕グリーンヒルズは、周辺の個々の建て替えが行われることにより由緒ある寺院のたたずまいや愛宕山が隠れてしまうことを危惧した青松寺から森ビルが相談を受け、プロジェクトが開始、2001年に完成しました。

世界的な建築家 シーザー・ペリ氏による蓮の花を模したシンボリックな外観は、東京のスカイラインを形成するランドマークの一つとなっています。

ツインタワーの一つ、「愛宕グリーンヒルズ MORIタワー」は、地上42階の大規模なオフィスビルです。その1階の車寄せ近くには、ワーカーや来訪された方々が心地よく時間を過ごせるスペースを、3階にはランチやイベントなど多目的に使用できるラウンジを作りました。

今回は、これらの空間に込めた想いとストーリーをご紹介します。

愛宕山の自然と歴史を室内に取り込む

愛宕山は、江戸時代から信仰の山として、また見晴らしのよい名所としても賑わったところです。現代のように高層ビルが立ち並ぶまでは、標高26mの山頂からの眺望が素晴らしく、東京湾や房総半島までも望むことができたといわれています。

そんな愛宕山は、自然がとても豊かなまま残っており、この自然のイメージを室内に繋げることが、この土地に立つビルにふさわしい特徴と考えました。

そこで、まず現地にどのような自然が残っているのかを調べてみました。

敷地に流れる水路と石垣から生えるシダ類
敷地に流れる水路と石垣から生えるシダ類
鬱蒼と茂る樹木
鬱蒼と茂る樹木
据えられた石とそれを囲むシダ類
据えられた石とそれを囲むシダ類

現地を回ると、特に「水」が印象的で、敷地を流れる水路や池、そしてそこから顔を覗かせるシダ類たちが目につきました。

上述のように、ツインタワーのコンセプトがハスをイメージしたものであったため、今回の室内におけるコンセプトも「水の流れ」をテーマとしました。山の上部から流れてくる水が3Fのラウンジに辿り着き、さらにそこから1Fのスペースに流れ着き、溜まっていくというイメージを描きました。

昔から水の流れと溜まりがある場所には、人も生き物も集まってくるといわれています。そうした側面からも、賑わいや寛ぎを演出しようとしていた今回のスペースに、水の流れは最適なコンセプトだと考えました。

コンセプトの概念図(水が上流から流れ、水と人の“たまり“ができる)
コンセプトの概念図(水が上流から流れ着き、水と人の“溜まり”ができる)

愛宕山から3Fのラウンジへ繋がる自然

愛宕山から3Fのラウンジへ繋がる自然
空間全体の様子
空間全体の様子

3Fには愛宕山の自然に続く出入り口があります。その出入り口付近にあるラウンジ「愛宕グリーンラウンジ」は、緑豊かな屋外の景観と室内が続いているように設計しています。窓越しに光を浴びて、爽やかな木漏れ日が室内に作り出せる樹種を中心に選びました。

室内と外の景色がつながる
室内と外の景色が繋がる

そして、シンボルとなるのが、入り口に吊されている壁面緑化です。山の岩肌から水が滲み出る風景を表現した什器で、植物全面に染み渡った水が下に滴り落ちます。滴り落ちる水のしずくは、自然のリズムを刻み、いつまでも見続けてしまう不思議な感覚を人々に与えてくれます。

愛宕山から流れてきた水がここに染み出し、滴り落ちて、1Fのラウンジに繋がっていくという建物全体を通したストーリー作りをしています。

シンボルとなる吊り壁面緑化
シンボルとなる吊り壁面緑化
水が滴る様子
水が滴る様子

3Fから1Fへ続く地域自然のストーリー

1Fのスペースには「愛宕山から流れ着いた水」を中心に、人々が引き寄せられ、賑わいが生まれるようなイメージを作るために、いくつかの工夫を入れ込みました。

全体の様子
全体の様子
深い緑の葉を持つ樹木が立ち並ぶ
深い緑の葉を持つ樹木が立ち並ぶ
テーブルに落ちる木漏れ日
テーブルに落ちる木漏れ日

1つ目は、寺社林の中のような深い緑色の葉をもつ樹木に囲まれた空間としたことです。横長の大テーブルの中央に植栽コンテナをはめ込み、そこに葉から反射した光がキラキラと輝く照葉樹のような印象をもつ樹種を選んで植え、白色の照明で照らしました。深い緑色をした葉と、太陽のような明るい光を合わせることで、屋外の寺社林のような神聖な印象を作り出しました。

愛宕山の自然を切り取ったような大テーブルで、また木漏れ日を感じさせる空間で、心地よい時間を過ごせます。

足元に据えられた石
足元に据えられた石
湧き出る水と、愛宕山に自生するシダ類
湧き出る水と、愛宕山に自生するシダ類

2つ目は、水の流れの心地よさを体感してもらえるように、水音や水面の揺らぎを感じられるデザインにしたこと。そして、その周辺には、愛宕山でも見られたような石と自生していたシダ類を据えたことです。植物のネームプレートも添えることで、室内にいながら愛宕山の自然を知ることができます。

私たちが考える室内緑化は、ただ屋内環境に緑を置くということではありません。地域の自然環境と屋内環境を緑によって繋げ、室内に居ながらも一歩先の自然を感じられる日常空間を作り出すことこそ、都会の室内緑化の役割だと思っています。室内の緑にも、もちろん四季の変化があります。そんな変化に気づき、外の豊かな自然の中へ出かける契機にもなれば、嬉しいです。

Credit

辻永岳史プロフィール
辻永岳史(Tsukie Takeshi)

大学院にて壁面緑化を中心に都市緑化技術を研究。その後、大手花屋でフラワーデザインや空間装飾を学ぶ。緑化技術とフラワーデザインのノウハウを掛け合わせ、さまざまな生活シーンに植物の豊かな表情を生かした空間を提案している。お客さまのニーズに合わせ、見ていてワクワクするような印象に残る居心地よいグリーン空間づくりを目指す。

https://www.park-ers.com/

Credit 辻永岳史プロフィール 辻永岳史(Tsukie Takeshi) 大学院にて壁面緑化を中心に都市緑化技術を研究。その後、大手花屋でフラワーデザインや空間装飾を学ぶ。緑化技術とフラワーデザインのノウハウを掛け合わせ、さまざまな生活シーンに植物の豊かな表情を生かした空間を提案している。お客さまのニーズに合わせ、見ていてワクワクするような印象に残る居心地よいグリーン空間づくりを目指す。 https://www.park-ers.com/
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