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春を告げる花々が与えてくれるエネルギー~外出制限下のドイツから

春を告げる花々が与えてくれるエネルギー~外出制限下のドイツから

2020年の春は、ご存じのように新型コロナウイルスの感染拡大により、世界各地で外出制限などの措置が取られる厳しいものになっています。そんな時期でも、季節は変わらずに巡り、美しい花々の姿が私たちに希望を与えてくれます。春を迎え始めたドイツの日々と、非常事態の中で花々がくれる癒やしについて、ドイツ在住のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんからのレポートをお届けします。

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2020年のドイツの春

2019年12月に、新型コロナウイルスの中国でのアウトブレイクが報じられてから、人々の暮らしやさまざまな物事が、大きく変化しています。それは、私が今暮らしているドイツでも例外ではありません。今回は、この状況の中で改めて気づかされたことや、ガーデニングや植物、花、自然が、ポジティブな考え方を崩さないように、どのように支えてくれるかについてお話ししたいと思います。

春の訪れを感じる日々

桜

ドイツでは今、冬が終わりを迎え、季節は春に向かって進んでいます。私が暮らすバイエルン州でも、つい先日、昼間の気温が18℃に達するほど暖かい日が2日続き、まるで春本番が訪れたかのような陽気でした。もうマルハナバチが飛び始め、ミツバチが飛び交い、そしてもちろんハエも動き始めます。しかし、残念ながらバイエルンでは、まだこれは本当の春の訪れではありません。というのも、この原稿を書いている今日の朝は、水たまりに氷が張るような寒さになったから。気象予報によると、しばらくは夜間の気温が-5℃を下回るような日が続くとのことです。

では、その2日の間にすでに花開いた、我が家の美しいプラムの木はどうなるのでしょう? このまま寒さに当たると、花は傷んでしまいます。そこで、数本の枝を切って玄関に飾ることにしました。木全体では大きすぎるので、すべての花を救出することはできませんが、こうして飾るだけでもとてもきれいですよ。

このプラムの木の隣には、自生のチェリーの木もあります。つぼみも丸く膨らみ、最初の花が開くまでは、あとほんの数日でしょう。もっとも、今後寒さが戻ってくるなら、数日よりも長くかかるかもしれません。このチェリーの木からも枝を数本切って飾ることにしました。午後にも、もう少し切るつもりです。

自然を受け入れ、その恵みに感謝することは、今のような状況下ではよりいっそう大切になっているように思います。

外出制限が続くドイツ

2020年3月現在、ヨーロッパでは、新型コロナウイルスによるエピデミックが拡大しています。テレビやラジオのスイッチを入れたり、スマートフォンの画面を見るたびに、新たな怖ろしいニュースが飛び込んできます。

その一方で、素晴らしいニュースもまた報道され、家族や近隣の人、顧客と店員のような、人と人の団結のサインがあちこちで見られます。また、私が購読している新聞では、“neighbor’s help(隣人の助け)”についての特別セクションが新設され、無料の広告掲載スペースなどがつくられました。このような状況にあって、人と人の関係は変化しているようです。

さて、現在私が暮らすバイエルン州では、3月20日の深夜0時から、自宅待機して家から出ないようにという指示が出ました。外出しない、というのは、とても変な心持ちです。外に出てもいいのは、食料品の買い出し(1人での行動を推奨)と、薬局へ行くとき。また、どうしてもしなくてはならない仕事があるときだけ。社会の動きもストップしています。学校は、幼稚園から大学まですべて休校になり、世界的に有名な車の会社も生産をストップするか、最小限の製造に抑えています。レストランとカフェ、映画館、プールやその他の娯楽施設は基本的にすべて休業。中にはテイクアウト専用で営業しているレストランなどもありますが、利用する人は多くありません。ホームセンターでさえ休業となり、ファッションブランドなどが入った大きなモールも閉店しました。ただし、ベーカリーや肉屋、スーパーやガソリンスタンドなどの生活必需品のお店はもちろん開いていますし、薬局や病院といった社会的に必須のインフラも動いています。

春のブーケ

こんな状況の中、数日前、花屋さんが大学病院にたくさんの花を届けたというニュースをラジオで耳にしました。病院のスタッフはとても喜んで感謝していたそうです。

そう、花はこの孤立の時にも小さな光をもたらしてくれる、とても重要な存在なのです。

庭や自然のもたらす喜び

アネモネ・ネモローサ
白い花を咲かせるアネモネ・ネモローサ。

外出が禁止された時から、家に飾る切り花や、キッチンやリビングの窓の前にあるバラの花壇が違った意味を持つようになりました。気軽に外出できない今、自宅のガーデンや周囲の自然は、よりいっそう大切なものに感じられています。

例えば、キッチンの北西の窓から見える庭。ちょっと手が入り切っていないので、一見してきれいな景色という訳ではありませんが、たくさんの宝物を隠しています。その宝物が消えてしまう前に、よく注意して見つけなければなりません。この前見つけたのは、春一番に咲くスノードロップの花。今はすでに、初めのスノードロップは終わってしまいましたが、今度は小さなアネモネ・ネモローサの白い花が、私を元気づけてくれます。

そういえば、この前ツゲの茂みを少しきれいにしようとしたところ、山のような腐った木と葉っぱが出てきました。普通はこんなところに集まったりしないので、なんだか怪しげな気配。皆さんは何だと思いますか?

ハリネズミ
Wothe, Konrad/Friedrich Strauss

じつはこれ、まだまだ動きの遅い、冬眠中のハリネズミの巣でした。

このことに気づいた後、私はハリネズミ氏を元の場所に戻し、彼が動き出すまでにもう少し休んでいられるよう、彼の家をもう一度建て直してやりました。もう少し暖かくなれば、この家から出てくることでしょう。

このハリネズミの「冬の家」の隣には、2つのバードハウスがあります。どちらも古いもので、一度下ろして掃除し、補修してやる必要があるのですが…残念ながら、今年はちょっと遅すぎたよう。毎朝庭に出るたび、このバードハウスにはホシムクドリたちがいて、乾いた落ち葉や枯れ草を忙しく集めて回っています。朝はこれらの鳥たちが活発に動き回り、ペアで働いています。2つのバードハウスには、2組のホシムクドリが棲んでいますよ。ほとんど休みなく飛び回り、さえずる鳥たちを見ているのは、なんと楽しいことでしょう!

このように、家から眺める自然の営みが、日々の暮らしの支えとなってくれています。

新芽が与えてくれる喜び

野菜苗

バイエルン州で新型コロナウイルスの感染が拡大する少し前に、私はすでに今年用の野菜の苗をいくつか購入していましたが、日々の忙しさや仕事にかまけて、しばらく放置してしまっていました。しかし今、その苗はとても重要な存在になっています。ポットに植え込むのはもちろん、家の中にまで入れてあげて、毎日何度も様子を見ています。小さなポット苗に植えられていた間、そしてよい土に植え替えてからのたった数日の間に、これから大きく育っていこうという力を示す苗の様子が、私に元気をくれるのです。

先日は、苗に馬ふん堆肥を少しだけ与えました。じつはこの馬ふん堆肥、昨年近所の牧場からいただいた馬ふんを使って手作りしたもの。6カ月ほどガーデンの裏手で寝かせておくと、素晴らしい堆肥になるのです。また、暖かい日には苗をバルコニーに出し、夜や寒い日は室内に取り込むなどして、とても大切に育てています。時には苗に向かって話しかけることさえあり、それによると、どうやら私たちはお互いのことを気に入っているよう。少なくとも、いい感じに育ってくれています。

春のガーデン

外出禁止の状況ではありますが、ガーデニングが本当に好きなガーデナーたちは、庭に出て作業しています。とはいっても、基本的に一人で行いますし、誰かと作業するにしても家族とだけです。先日、近所の方が3人、芝生で話しているところに遭遇したのですが、他人との距離を最低でも1.5mあけなければならないので、距離を保って会話しているという、ちょっと奇妙なシチュエーション。3つの角に均等に人が並び、まるでおにぎりみたいでしたよ! 基本的にドイツ人は人と話すときの距離が近いので、距離を保っていた彼らは本当に努力していたと思います。

そんなわけで、現在、私たちは近所の人との庭先でのちょっとした会話や、フェンス越しの会話(ガーデンはフェンスで仕切られているだけなので)をするようなことは、ほぼありません。ドイツでは、他の人の庭や育てている植物についてコメントしたり、栽培についてアドバイスを交換しあったりするようなことがとても一般的なのですが、このようなコミュニケーションは、しばらく諦めなくてはいけませんね。

このように庭のある人はいいのですが、残念ながら、全ての人が家の周りに広いスペースや庭を持っているわけではありません。ドイツで一般的なクラインガルテンやコミュニティーガーデンのメンバーたちも、今はガーデンに行かないように要請されています。

幸運にも、私の住む家の周りには、たくさんの木や草木の茂みがあり、宿根草、バラ、球根花が育ち、シンプルに芝生などの緑が広がるスペースもあります。また、バルコニーがあることも個人的に幸いでした。少なくとも、屋外に小さなプライベートスペースを持つことができるのですから。多少日当たりが悪かったり、太陽が見えない曇りの日であっても、カラフルな花を育てれば、バルコニーを明るく彩ることができます。

春を代表する花の一つ、プリムラ

プリムラ
Alexander Denisenko/Shutterstock.com

さて、春に咲くカラフルな花といえば、私には真っ先にプリムラの仲間が思い浮かびます。このプリムラの仲間には、およそ500もの種類があるといわれています。

ガーデンなどでよく見かけるのは、例えば以下のような種類があります。

・プリムラ・ブルガリス Primula vulgaris

プリムローズともいわれ、主に黄色の花を咲かせます。

・プリムラ・ポリアンサ Primula × polyantha

交配種でたくさんの花色があるので、花屋やガーデンセンターでは、広いスペースを占領しています。私も2週間ほど前に、このポリアンサを買ったばかり。春の寄せ植え用に少し、そして両親のお墓にも、苗をいくつか植えました。

・プリムラ・ヴェリス Primula veris

プリムラ・ヴェリス

カウスリップ・プリムローズともいわれます。私のお気に入りの品種の一つで、牧場の中や小川の近く、沼地などで育っているのをよく見かけます。まだあたりの芝生も伸びていない中、愛らしい明るい色の花は、パッと目に飛び込んできます。鉢花としても育てることができますよ。マルハナバチやチョウも、この花の蜜を好むようです。

・プリムラ・エラティオール Primula elatior

和名はセイタカセイヨウサクラソウ。プリムラ・ヴェリスによく似ていて、それよりも少し背が高いのが特徴です。

・プリムラ・デンティキュラータ Primula denticulata

英語では、ドラムスティック・プリムローズ。最も栽培しやすい種類の一つで、花色も白から淡いピンク、青紫、青、紫まで幅広くあります。青々と茂った葉はロゼット形になり、茎は直立して、その先に丸いボールのようにまとまった花を付けます。この花はカッティングフラワーにもおすすめで、少し香りもあります。

プリムラの仲間はみな、春に咲く球根花ととてもよく合います。カラーバリエーションや香りのある種類、高さを考えてみても、プリムラは春の花として私が最初に選ぶものの一つです。また、この花は自己主張がなかなか強く、水がなくなったらすぐに葉が下に垂れてしまうので、ガーデニング初心者にも分かりやすくておすすめですよ。午前中日が当たって、午後からは日陰になるようなところでもよく育ち、あまり場所を選びません。

そんな簡単な花なので、きっと多くの家でプリムラ栽培に向くスペースが見つかるはず。家の周りを見回して、プリムラを育てるのによさそうな場所を探してみましょう。春の花を1鉢育てるだけで明るくなる玄関や、ちょっと薄暗い角など、今は周囲の環境を見直してみるのにとてもいい時期ですよ。ほかにも、窓から眺めやすい、高さのある場所は、いつでも花を育てる時に考えるべき選択肢の一つです。ウィンドウボックスの季節もそろそろやってきますし、強風から守られ、日が当たりすぎない窓のそばも探しておくといいでしょう。好きな色のプリムローズを植えたプランターを1つ置くだけでも、印象がガラリと変わりますので、ぜひお試しください。

困難な状況で改めて知る自然の美しさ

春の庭

どんな時でも、人生は前に進み続けなければなりません。その助けとなってくれるのが、花や自然の美しさだと、この頃は特に実感しています。

たとえ、たった一輪の花でも、リビングに飾れば部屋全体を明るくしてくれます。ほかに、私はいつも、キッチンのシンクの前にも花を飾っています。そこにいる時間は、ソファに座って過ごす時間よりもずっと長いからです。

私の暮らす地域では、今原稿を書いている時から数えて2週間、花屋やガーデンショップに出かけることはできません。そんなときでも変わらずに、自然が今、毎日見せてくれる美しさに対して感謝の気持ちを抱くことは、この困難な時にあって私たちを支えてくれる、大きな助けになっています。

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo(記載外)/Friedrich Strauss/Stockfood

取材/3and garden 

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