2014年、凱旋門からほど近い場所にオープンした『ザ ペニンシュラ パリ』。クレベール大通りに面したメインファサードの圧倒的なスケール感は、それまでのパリのラグジュアリーホテルにはない新しいものでした。客室数も、パリ市内のラグジュアリーホテルでは最大級の200室。すべてにおいて桁外れの贅を尽くした『ザ ペニンシュラ パリ』は、当然ながら、フランスのホテル格付けの最高ランク、パラスに認定されています。
目次
花を随所に飾ることで完成するスイートルーム

初夏のある日、『ザ ペニンシュラ パリ』のチーフフローリスト、 ドゥニ・マルテルさんを訪ねました。スイート・ペニンシュラの花アレンジに、立ち会わせてもらったのです。300㎡を超えるスイート・ペニンシュラは、『ザ ペニンシュラ パリ』でもっとも広いスイートです。
「スイートでも他の客室やレストランでも、花はあらかじめアトリエでアレンジを完成させ、ワゴンで搬入します」
と、この道10年というマルテルさん。そのキャリアのほぼすべてを、『オテル・ド・クリヨン』、『ル・ムーリス』、『コスト』といった、一流ホテルで築いてきました。ここ『ザ ペニンシュラ パリ』では、5年前のオープン当時から、一貫してチーフフローリストを務めています。

ちょっと脱線しますが、フランスでは中学3年生の時に、2週間の職業実習が義務づけられています。なんと、マルテルさんはこの機会にフローリストの仕事を知り、すぐに将来の職業にすることを決意したとか!
「女性の多い業界ですので、私は長いこと唯一の男性でした」と、彼はキャリアを振り返っていました。

スイート・ペニンシュラでのアレンジの飾りつけは、ダイニングルームからスタートです。
「テーブルの中央を飾る花は、食事の邪魔にならないサイズに。キャビネットを飾る花は、自由な動きを出したアレンジです。バラをメインに、その季節の花を選びます。アレンジはスタイル云々よりも、たっぷりの分量があること、そしてピンクを基調としたトーンが特徴でしょうか。ただし、夏は明るい黄色系が多くなります」と、マルテルさん。
ペニンシュラは香港が拠点のホテルグループですが、ここではパリらしさやヨーロッパのホテルのイメージを大切にしています。ですのでエキゾティックな花や、ヘリコニアのようなトロピカルな印象の花は、特定のテーマがない限り、使いません。

この日のアレンジには、シャクヤク、アストランチア、ビバーナム、クワガタソウ、トルコギキョウを使っていました。彼の説明の通り、やさしいピンク系でまとめられています。花器の口元に葉の緑色が出るよう、すべてのアレンジで統一しているので、ダイニングルームの空間全体がシックに調和しています。

続いてリビングルーム。さすが、『ザ ペニンシュラ パリ』でいちばん広いスイート! 広大といいたくなるほどの広さです。
マルテルさんは、「シャンデリアの下のローテーブルと、窓辺のソファ両脇のサイドテーブルを飾ります」と仕事を始めました。
花は先ほどと同じ種類のものですが、サイドテーブルには細長く高さのある花器を。こうしてアレンジにリズムをつけます。


奥の長方形のローテーブルには、一段とコンパクトなアレンジを飾りました。美しい花も、邪魔になってしまっては無意味という配慮が伺えます。

ベッドルームも、やはりサイドテーブルとキャビネットに花を飾ります。こちらも同じ花、同じ花器で統一していますが、置く場所によって花の表情が変わります。見ていると、おもしろいですね!

キャビネットの花を、あえて中央からずらして置いているところも、ゲストへの配慮です。まん中に花を置いてしまったら、鏡が見えなくなりますから。
ベッドルームの先にあるデスクスペースにも、花を飾ります。そう、花を飾らない場所はない!のです。スイートルームのすべての空間は、花を飾ることで初めて完成し、お客さまを迎えることができるのです。

フランスの伝統技術を駆使した内装に魅せられて
次に、館内をぐるりとまわってみましょう。
ここ『ザ ペニンシュラ パリ』には、過去から近未来までのスタイルを融合させた、最上のリュクスがあるのです。フランスを代表する装飾技術の職人たちが、6年の歳月をかけて修復した宮殿を彷彿とさせる空間。一方、客室には最先端技術を備えました。

こちらは、エントランスホール。『ザ ペニンシュラ パリ』には、玄関がふたつ存在します。クレベール大通りに面したテラスあるメインエントランスと、下の写真のチェックインカウンターがあるホテルエントランスです。ホテルエントランスは、ポルチュゲ大通りに面しています。
エントランスに飾られた花は、バラが主役です。ピンク系の色合い…。

マルテルさんの話の通り、この花もパリらしいアレンジです。そして、スケール感には圧倒されます。
エントランスホール中央には、クリスタルのインスタレーションが。クレベール大通りのプラタナス並木を模した作品で、『ザ ペニンシュラ パリ』のトレードマークのひとつです。

もうひとつの、メインエントランスは、壮麗なファサードが圧巻。

中央の階段を上ると、ガラス屋根の下でゆったりとお茶や食事ができる「ラ・テラス・クレベール」が広がります。

ここでは軽い食事やお茶などを、一日のどんな時間でも楽しむことができます。
ペニンシュラグループのホテルは、入り口にレストランがあることが特徴。『ザ ペニンシュラ パリ』も、他と同様、それを反映しているとのことでした。
「ラ・テラス・クレベール」の奥には、白とゴールドを基調にしたレストラン「ル・ロビー」が続きます。

天井の高さを生かした大きな窓、ゆったりとした広さのある空間に、南国の植物を飾った、コロニアルスタイルのレストランには、なにかしら女性の心を沸きたたせるものがあります。そして、化粧漆喰や金箔の装飾など、伝統工芸を駆使して甦った壮麗な内装に見惚れてしまいます。
テーブルには、小さくコンパクトにいけたバラとトルコギキョウ。ガラス花器の内側には、グリーンを入れ、口元のグリーンとつなげていました。

このあとは、エレベーターで最上階の6階へ。
ルーフトップレストランは、眺望のよさが自慢です
6階には『ザ ペニンシュラ パリ』が誇る、ガストロノミーレストラン「ロワゾー・ブラン」があります。エッフェル塔はもちろんのこと、パリの街を見渡せるその眺望は、訪れた人を魅了します。

エレベーターを降りると、窓の外にある、トレードマークのアンティーク飛行機が目に入ります。これは、1927年に大西洋横断を試みた、伝説の飛行機の1/70縮尺サイズ。レストランの名前は、この飛行機名に由来し、内装は飛行機のコックピットをイメージしているのだとか。

昼間の景色も素敵ですが、ここからの夜景も見逃せません。日没から毎時5分間キラキラと輝く通称「スパークリングエッフェルタワー」が、毎日見られます。パリ滞在の際にはぜひ!

テーブルセッティングは、雲と空をイメージして。バラとトルコギキョウのテーブルの花は、白で小さくまとめられていて、可憐でした。

「ロワゾー・ブラン」の奥は、「バー・ル・ルーフトップ」です。

天気のいい日は、テラス席はすぐ満席に。ラベンダーの植え込みに囲まれながら、エッフェル塔を眺め、パリの街に広がる建物の屋根を見下ろしつつ、軽い食事やカクテルが楽しめます。
最後に紹介するのは、2018年夏にオープンした、プライベートテラスです。1日1組(2名)限定で、オーダーメイドのディナーを演出してくれるのが、このテラスのサービス。

専用リムジンで空港へのお出迎えに始まり、ホテル到着後は専用エレベーターで屋上へ。特別な時間を約束してくれるプランです。
圧倒的なスケール、圧倒的なまでのラグジュアリーを満喫できる『ザ ペニンシュラ パリ』。
春のお花見の時期は「日本月間」と称し、館内を桜で満たしたり、チャイニーズニューイヤーでは特別なデコレーションを施したりと、花アレンジの面でも見所の多いホテルです。
毎日、ランジスとオランダからどっさりと届く花で、アレンジのメンテナンスが行われています。そして、そのアレンジは4日ごとに総入れ替えされるとか。パラスだからこそ、『ザ ペニンシュラ パリ』だからこその贅沢ですね。
季節の変わり目ごとに、また行事があるごとに、訪れたいホテルです。

ザ ペニンシュラ パリ The Peninsula Paris
ホームページ/https://paris.peninsula.com
住所/19 avenue Kléber 75116 Paris France
電話/+33 (0)1 58 12 28 88
Credit

角野恵子 Keiko SUMINO-LEBLANC
在仏日本人ジャーナリスト、コーディネーター。日本の企業に就職後、東京在住フランス人ジャーナリストのアシスタントを経て、1997年よりパリに移住し、在仏歴21年に。食とライフスタイルを中心に、日仏の雑誌およびwebで活躍中。共著に「DIYでつくるパリのインテリア」(エクスナレッジ)「パリでうちごはん そして、おいしいおみやげ」(小学館)など。プライベートでは、ふたりのパリジェンヌの母。
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