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「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.1〜

「森と人をつなぐ」自然学校〜高原便り 四季折々Vol.1〜

今回から始まる新連載「高原便り 四季折々」。長野県で環境系第1号としてNPO法人に認証された「やまぼうし自然学校」代表理事の加々美貴代さんが、自然学校の多岐にわたる活動をピックアップしながら、森とともにある暮らしや森の楽しみ方、菅平高原の<いま>をタイムリーにご紹介していきます。

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人と森をつなげる「やまぼうし自然学校」

人と森をつなげる「やまぼうし自然学校」

ガーデンストーリー読者のみなさん、はじめまして。私たち「やまぼうし自然学校」は、長野県の菅平高原に本部をおき、人と森とをつなげる活動をしています。

かつて、森(里山)と人の暮らしはすぐそばにありました。森の枝葉は薪として燃料になり、山菜やきのこなどの恵みをもたらし、森は人の声も溢れるにぎやかな場所でした。そもそも私たち人間の生命をつなぐ空気や水は、森から生まれるのです。

森も人が手入れをすることで光が入り、多様な植物、生物の命を育み、豊かで健全な環境が保たれてきました。

けれども、世の中が便利になるにつれ、森は人の暮らしから遠い存在となりつつあります。それは森の危機であり、豊かさを失った森は、人の暮らしに少なからぬ影響を及ぼし、命をおびやかすことさえあります。

森が遠い存在となりつつある今、森の仕組みや魅力、自然との正しい関わり方を伝えるのが、私たち「やまぼうし自然学校」の活動です。

自然学校とは?

自然学校とは?

「自然学校」とは一体どのようなものなのか、まずはその歴史的な背景を少し紐解いてみましょう。

日本では青少年教育の一環として「野外=自然界」を活動のベースに、遡れば明治期からさまざまな組織的取り組みがされてきました。それらの活動は、高度経済成長期の公害教育に端を発し、環境を意識した野外活動教育は、自然保護運動につながっていきます。

その流れを汲んで、1980年代には「自然学校」という新しいコンセプトが誕生しました。2000年以降は、自然観察会や保護運動のみにとどまらず、古民家修復、里山や農地回復など地域活動としても拡がりを見せます。さらにCSR(企業の社会的責任)支援や国際協力、災害救援など多角的に発展し、社会的な課題解決への取り組みでも成果を上げるようになりました。

日本型自然学校は「環境教育」「自然保護・保全」「青少年教育」が大きな3つのテーマですが、近年は「地域振興が、特に人口規模の小さい地域で主要なテーマとなっています。青年団や商工会といった既存の機能に代わり、新しい地域の担い手となっている自然学校が各地で存在感を増しています。

「やまぼうし自然学校」の軌跡

やまぼうし自然学校の軌跡

やまぼうし自然学校は、森林インストラクターという資格を持つ有志が、1996年に長野県須坂市の峰の原高原で活動を開始。コアメンバーが、里山再生と生活文化の継承を目指して2000年にNPO法人認証を取得し、長野県上田市の菅平高原で本格的な事業展開に着手しました。

キャッチフレーズは「子どもたちを自然の中へ」。首都圏の小学校・中学校をターゲットに学習旅行のプログラム提供を開始しました。命を育む森のしくみや、自然とともに生きるための知恵や工夫を伝え、森林というフィールドで体験して得られる感動を、子どもたちと共有したいと考えました。

同時期に、大人のための「森の講座」も開催。戦後の拡大造林が手入れの時期を迎えたまま、放置されているのが散見されたのもこの頃です。森林インストラクターを養成しながら、荒れた森林の整備活動も始めました。「森の講座」は、現在も私たちの活動に関心をもってもらうきっかけとなる大切な事業です。

里山は私たち日本人が自然の中でたくましく生きる知恵を駆使しながら育んできた、生態系豊かな自然です。その素晴らしさを後世に伝えるため、私たちは「森林」に特化した活動に軸足を定め、現在に至ります。

菅平高原はどんなところ?

菅平高原はどんなところ?

標高1,400mの菅平高原は長野県の東部に位置し、夏場も冷涼な気候であるため、ラグビーやサッカーの合宿地としても知られています。本州の最低気温記録を更新するほど寒冷で、冬場はパウダースノーでも有名なスノーリゾート地です。

花の百名山「根子岳(ねこだけ)」、日本百名山「四阿山(あずまやさん)」のふもとには、菅平牧場、大明神沢ネイチャートレイルコース、森遊びが堪能できる豊富な自然資源があり、野外活動に適した「自然体験の森」や「野外炊飯場」など、ホテル所有の敷地や施設も活用できる恵まれた環境です。

グリーンシーズンは、サッカーやラグビー以外にも、小・中・高校の林間学校、首都圏在住の小学生を対象にしたキャンプの受け入れも盛んです。首都圏からのアクセスの良さが菅平の強みとなっています。

筆者と自然学校

筆者と自然学校

私は大学の農学部で林学を専攻しました。一般的には馴染みが薄いかもしれません。学科改正等で、現在ではほとんどの大学から姿を消しました。林学は耳慣れないためか、何を学ぶのかとよく質問されます。そんなときは、山全体のことを広く、浅く学ぶと答えています。

山並みを想像してみてください。そこに含まれる要素の<全て>を学びます。学んだことが全て頭の中に残っているかと言われると、勿論、NOです。全部で24もの項目があります。土(森林土壌)や、水(水門)、道(森林土木)、空(森林内微気候)のこと。ここに挙げた項目はごく一部です。だから広く、浅くなのです。

自然学校

必修の実習も多数ありました。炭焼きをしたり、缶詰を作ったり、測量をして林道を設計したり、ダムの貯水量を計算したり。私はその中でも森林経理学研究室で、ブナの世代交代=更新の研究をしました。理由はフィールドワークが一番多いと聞いたからです。巡り巡って、それらが今の仕事に大いに生かされているのです。森林については、次号から少しずつご紹介していきます。

今月の気になる樹:ハンノキ

今月の気になる樹 ハンノキ

冬から春は、森が劇的な変化を遂げる季節です。菅平高原は、落葉広葉樹と亜高山の針葉樹、植林されたカラマツやドイツトウヒの森で構成されています。この時期に目立つのは、湿原に多い「ハンノキ」です。

落葉した木の枝先に、濃紫色の雄花を咲かせています。遠くからも、その特徴的な色で開花を確認することができます。上高地のガイドで、ハンノキの紹介をしたところ、参加されていた耳鼻科のお医者様が「花粉症シーズンの最初に来院されるのがハンノキ花粉の患者さんです。実物を見たのは初めてです」と、しげしげと観察されていたことを思い出します。

ハンノキは、春先に極めて早く花を咲かせ、花粉を飛ばしています。また、湿地など水分が多く、栄養が乏しいところでも生育できるという、優れた環境適応力を備えています。空気中の窒素を固定する放線菌(※1)が寄生し、根粒(※2)を作って養分として蓄えたり、水分過多でも根腐れしないように不定根(※3)や萌芽(ひこばえ)で酸素の吸収を補っています。

動物と異なり、芽生えてしまったら、その場で一生を過ごすのが樹木の運命。植物の生存戦略は限りなく奥深く、解明されていない現象も数多いので、想像力がかき立てられます。それが私が樹木に惹かれる大きな理由のひとつかもしれません。

[ハンノキ]カバノキ科ハンノキ属/落葉高木

[ハンノキ]
カバノキ科ハンノキ属/落葉高木
北海道・本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯の水湿地・湿原に見られる

※1放線菌:木本植物の根に感染して根粒を形成し、そこで大気中の窒素を固定する

※2 根粒:細菌との共生により根に生じる瘤状組織

※3 不定根:根以外(茎や芽の基部など)から出て来る根

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