ドイツの村からお届けする、ガーデンを使ったチャリティーアイデア
ヨーロッパでは、庭が見頃を迎えると、オープンガーデンや庭を活用したガーデンチャリティーなどがよく行われています。でも、手入れが行き届いた大きなガーデンを持っていなくても、オフシーズンであっても、工夫次第でガーデンに関連するチャリティーを行うことができます。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、庭の恵みを生かしたチャリティーのアイデアについてご紹介いただきます。
目次
オープンガーデン以外にも?
シーズンオフでもできるガーデンチャリティーのアイデア
シーズンオフの冬は、ガーデナーとしてガーデニングを楽しむにはちょっと退屈な時期です。しかし、そんな時期であっても、庭はいつもたくさんの喜びを運んでくれます。それも、一人の人だけでなく、たくさんの人に。
今回は、そんなシーズンオフに行う、ガーデンを活用した取り組みについて、私の住む村で行われているチャリティーイベントを取り上げてお話ししたいと思います。
一般的に、ガーデンチャリティーはどこか特定のガーデンで行うもので、例えばそのガーデンを観賞するための入場料などをいただき、後に収益を寄付などするものだと思います。もしくは、ガーデンの実りやフルーツなどを販売することもあるでしょう。そのため、ガーデンチャリティーを行うのに相応しい時期といえば、ガーデンが最も美しい、ドイツでいえば夏の季節。もちろん、美しく手入れされた素晴らしいガーデンであれば、このようなガーデンチャリティーで成功するのはいうまでもありません。
しかし、ガーデンチャリティーとして活用できるのは、見頃の庭や果実、花々だけではありません。庭の一番きれいな季節だけでなく、また美しい庭園への入場料という形以外でもガーデンチャリティーができるという例をご紹介します。
たくさんの人が集まる手作りのマーケット
今回ご紹介するチャリティーイベントが行われるのは、シーズンオフの冬。この時期には、美しい花や美味しい果実など、ガーデンならではの素晴らしいものを売り出すことは、残念ながらできません。このイベントでは、メインになるのはガーデンではなく、ガーデンの実りの季節に集めておいた収穫物を利用した、個々人の手作り品。それぞれに才能ある人々が手作りした、さまざまなプロダクトが販売されるチャリティーマーケットです。マーケットには、幼稚園児から80歳を超える人まで幅広い年代が参加し、活気あふれる楽しいイベントです。
私の住む地域でこのチャリティーマーケットが行われるのは、12月初めの日曜日。今年も寒さの厳しい日でした。もっとも、ドイツの人は寒い季節も外へ出かけるのが大好きなので、寒さはさほど問題にはなりません。
以前、ファーマーズマーケットで、売り場の人がこんな話を教えてくれました。それは、外気温はマイナス1℃ほどでしたが、風が強くて凍えるような日のこと。ジャガイモやキャベツ、その他の冬野菜を販売している人に、来週も販売に来るのか尋ねたら、彼が笑って言うには、「マイナス10℃になったらマーケットには来ないね」とのこと。
なぜなら、もし誰かが僕のジャガイモを購入してくれたとして、その後ずっと外にいたら、ジャガイモは低温によってダメージを受けてしまうし、買った人は、僕のことを質の悪い野菜を販売する農家だと思うだろう? と言うのです。
つまり、マーケットで野菜や食材を買う人は、他の人と会話もするし、立っているにせよ座っているにせよ、外に長くいるのが普通だと思われているのです。またこのように、マーケットはただ買い物をするだけの場ではなく、食べ物や何かについて会話しながら、誰かと出会う場でもあるのです。
結局のところ、寒い季節であっても、ドイツ人は外で過ごすのが好きということですね。そんな理由もあり、今回ご紹介するチャリティーマーケットも、冬の屋外であっても熱気に満ちたイベントになっています。
村のみんなで作る年に一度のイベント
このチャリティーマーケットは、年に一度だけ開催されるもの。しかしながら、準備にはほぼ丸一年かかっています。例えば、ガーデンで実る果実は、5月にはイチゴやその他のベリー類、7月にはチェリー、プラムなど。旬の時期だけでは食べきれないくらいに収穫できるので、人々はそれらを大きな大きな冷凍庫で保存し、収穫期を過ぎた秋や冬に楽しむのです。
これらのガーデンの恵みを十分に生かして売り物を作るには、1つのガーデンだけでなく、たくさんのガーデナーが協力することが欠かせません。年によって作る売り物も変われば育てる植物も違いますし、気候によって出来にも差が出ますから、ガーデナー同士での情報共有は大切です。実際、このネットワークの構築が、チャリティーイベント開催のための最初の大きなステップになります。こちらの庭はプラムを作っていて、あちらの庭はチェリーを育てているなど、1人のガーデンオーナーが自分の庭について話すだけで、あっという間にコミュニティ全体に各人の庭情報が共有され、ネットワークが織り上げられます。
さて、じつは、私の義姉が、このネットワークの中心人物だったりします。義姉はとてもアクティブな人で、いい声をしていて、毎週村のご婦人方と一緒に教会で合唱をするなどよく交流しています。彼女は村の友人知人の情報を集めて、誰がどんな果物を育てているのかや、どうやって商品となる材料を調達すればいいかなどを調整して、冬のチャリティーマーケットで素晴らしいものがたくさん販売される手助けをしているのです。彼女自身も教会の合唱団がチャリティーマーケットに出店するブースの責任者で、ジャムやマーマレード、ジェリーのほか、ストロベリーライムという美味しいアルコールドリンクやアップルジュースなどを手作りしています。これらの製品は、可愛らしく飾り付けられて、年に1度のこのマーケットで販売されています。
大人気の特製マスタード
義姉の作るものの中でも一番人気は、彼女特製のマスタード。オリジナルのレシピは私の母のものです。10代の頃は、私もこのホームメイドのマスタード作りをよく手伝ったものでした。マスタードを作る際に欠かせないのは、ガーデンで収穫して乾燥させておいたローレル。また、タマネギも忘れてはいけません。
特製マスタードのレシピ
- グリーンマスタードパウダー 500 g
- ブラウンシュガー 500 g
- 水 750 ml
- 酢(ワインビネガー) 750 ml
- タマネギのみじん切り 小2個分
- ローレルの葉 2枚
耐熱ジャーなどの保存容器(煮沸消毒などの準備をしておく)
- 水、酢、タマネギのみじん切り、ローレルの葉を鍋に入れ、火にかけます。
- ふつふつと静かに沸騰する程度の火加減で、1時間ほど煮ます。
- グリーンマスタードパウダーとブラウンシュガーを大きなボウルでよく混ぜ、沸騰した2を漉しながら加えます。
- すべてをよく混ぜて、できるだけ熱いうちに準備した耐熱ジャーなどの保存容器に入れ、蓋を閉めます。
グリーンマスタードパウダーをベースとして作るため、このハンドメイドのマスタードはとてもスパイシー。ソーセージと一緒に食べると最高です! もし辛すぎる場合は、グリーンマスタードパウダーにイエローマスタードパウダーを混ぜ、ちょうどいい辛さになるように調節しましょう。
ちなみに、私の古くからの友人の一人は、ドイツパンにこのピリ辛のマスタードだけを塗って食べるのが大好き。辛さのために目に涙を浮かべながら食べています。やはりと言うべきか、ほかにこの食べ方をしている人は知りません。もう60過ぎになりましたが、まだ、母の作ったスパイシーなマスタードの話をしてくれる、楽しい友人です。
健全なコミュニティーづくりの一助に
このチャリティーマーケットに参加する人は、義姉の特製マスタードのような、ここでしか手に入らないオリジナルなハンドメイド品を買いにくる人もいれば、自分なりのものを販売する人もいます。ドイツらしい食べ物、エッグノッグやワッフルなんかを準備する人もいますし、手編みの靴下やストロースター、古本などを売る人もいて、イベントは毎年盛り上がっています。
2019年のチャリティーマーケットでは、数千ユーロが集まりました。収益は毎年、選ばれた村での事業に寄付され、人々に還元されるのです。
私はガーデナーとして、長年にわたり、ガーデンは喜びを与えてくれることを伝えてきました。一見ガーデンとは関わりが薄いように見えるこのチャリティーマーケットも、ガーデンがもたらしてくれる喜びの一つだと思います。寄付金の多寡の問題ではなく、目的やみんなで話し合うプロジェクトを持って、それを運営することが、幸福で健全なコミュニティーにつながります。
ガーデンチャリティーといっても、入場料を取って見頃の美しい庭を見せるだけでなく、ガーデンの中でも外でも、オフシーズンの冬であっても、工夫次第でいろいろな方法が考えられます。365日いつでも、庭はチャリティーの機会や喜びをもたらしてくれるのです。
最後になりますが、義姉が私に言ったことには、このチャリティーマーケットを開催するにあたって、たくさんの友人ができたので、その友人たちが庭に招待してくれたり、義姉の庭に遊びに来てくれたりするようになったとのこと。夏の間、それぞれの美しい夏の庭で楽しいティータイムを過ごしながら、冬のイベントに向けたプランを練るのだそうです。つまり、チャリティーイベントによって生まれた関係がさらにイベントの発展につながる、好循環が生まれているのです。参加するガーデナーたちも、毎年一年の大きな目標として楽しんでいける、素敵なあり方の一つですね。
Credit
写真(*)&ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo(*以外)/Friedrich Strauss/Stockfood, Stockfood
取材/3and garden
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