世界にはその土地ならではの素晴らしいガーデンがたくさんあります。この連載では、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、初秋のニュージーランドで過ごした10日間の滞在記をお届け。第2回の今回は、滞在中に訪れたアカロアの3つのガーデンの写真とエピソードをご紹介します。

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10日間を過ごしたバンクス半島周辺のガーデン

Part1でお伝えしたように、2019年の春、私と娘は初秋のニュージーランドで10日間、初めてのファームステイを体験しました。その間、私たちが滞在したのは、バンクス半島と呼ばれる場所。クライストチャーチからバスで2時間半ほどの位置にあります。

バンクス半島にあるアカロアという可愛らしい街と、その周辺には、たくさんの素敵なガーデンがあります。これらのガーデンについてご紹介しないわけにはいきません。今回は、私たちが訪れたガーデンの中から、アカロア周辺にある3つのガーデンについてのエピソードをご紹介したいと思います。

フィッシャーマンズベイガーデン
(FISHERMANS BAY GARDEN)

フィッシャーマンズベイガーデン

アカロア周辺にいくつもある素敵なガーデンの中の一つが、これからご紹介するフィッシャーマンズベイガーデン。

さて、Part1でもご紹介した通り、私たちが滞在したのは、素敵な庭を持つホストファミリー。そんなホストマザーのスーさんが、とってもおすすめの場所と教えてくれたのが、こちらのガーデンです。この庭は、私たちのホストファミリーのお隣さんといってもいいくらいの場所にありました。

素敵な情報をゲットした私たちは、すぐにでもその庭に行ってみたいと思ったのですが、スーさんが教えてくれた行き方を聞いてびっくり。隣の庭だというのに、丘を越えてコーナーを曲がり、また丘を降りなければならないというのです! もし徒歩で行こうと思ったら、早足で歩くのが苦手な私たちにとっては、片道45分から1時間ほどかかってしまいます。普段はだいたい午後3時過ぎまでやることがあるため、そんな時間から遠くまでは行けないし、行くエネルギーも残っていません。

そんなわけで、ある日、スーさんの旦那さんがそのガーデンの近くまで車で送ると言ってくれた時はとても嬉しく、一も二もなくその提案に飛びつきました。その日は青い空が広がる、過ごしやすく美しい日で、娘は赤い服を着て、私たちはウキウキしながら車に乗り込みました。帰りはスーさんにガーデンまで迎えに来てもらうという約束もいただいて、いざ出発!

ニュージーランドにて

ガーデン前に待ち構えていたハプニング

フィッシャーマンズベイガーデン

それでは、ガーデン訪問の模様をお伝えしましょう。旦那さんのミスターMは、丘を越え、コーナーを曲がったところまで車を回し、ガーデンから600mほどのところで降ろしてくれました。彼が言うには、丘を降りれば、コーナー辺りでガーデンが見えるよ、とのこと。

ミスターMの言う通りに進んでみたところ、衝撃的な光景が待っていました。コーナーを回ってすぐ、牛たちがいる野原があったのです。まあ、これはニュージーランドではよくある光景。問題は一つ、目的のガーデンに行くには、この野原、というか放牧場を越えていかなければならないのです。

もっとも、ドイツでも、山の中にあるハイキングコースでは、乳牛たちのいる野原を通ることがよくあります。だから取り立てて問題はないはず…。

しかし、ここにいるのは乳牛ではなく雄牛。牝牛のようにおとなしくはない、雄の牛なのです。信じられません!

しかし、念願の目的地を目の前にして、引き返すという選択肢もありません。最初に私の頭をよぎったのは、娘のシャツが赤だということ。まずはそれを隠すことにしました。そして、勇気を振り絞って、雄牛たちが歩くメドウに足を踏み入れました。

私たちが進まなければいけない道のそばには2頭の雄牛がいます。。1頭はのんびり草を食んでいて、見たところはまずまずの様子。もう1頭は、しかし、そんなにご機嫌には見えません! その牛は、まるで、「一歩でも足を踏み入れたら、メドウを出るまで追い回してやるぞ!」とでも言いたげです。

その雄牛からできるだけ離れるため、そしてすぐにでも逃げられるように、フェンスのすぐ横を進み、そして何かあった時には自分を守れるように、長い木の棒を持って進み始めます。心臓は口から飛び出しそうでしたが、何とか雄牛の横を通り抜けることができました。

宿根草とヘーベの庭

ニュージーランドの庭

そして、ようやく、私たちは木々に隠れるような位置にあるガーデンを見つけることができました。入り口に着くと、オーナーの女性が迎えてくれ、ガーデンを案内してもらいました。

フィッシャーマンズベイガーデン

このフィッシャーマンズベイガーデンは、本当に素敵なロケーションにあります。丘の上、入り江を見渡せる場所。まるで天国から溢れたひとかけらのようです。

フィッシャーマンズベイガーデン

オーナーの女性は、ガーデンデザインのほとんどを自分で行い、何年もかけてこの庭をつくり上げてきました。本物のガーデンラバーの一人ですね。ガーデンに入るとすぐ、宿根草を使ったボーダーガーデンがいくつも目に飛び込んできます。この庭は、私がかつてガーデナーへの道を歩んだ、私自身のガーデンを思い起こさせてくれました。イングリッシュガーデン風のボーダーのエリアに咲くのは、バリエーション豊かなアスターやサルビア、ベロニカ、ヘメロカリス、バーベナ、ガウラ、スカビオサ、ルドベキア…。そのほかにもたくさんの種類の宿根草が見事に育っていました。

フィッシャーマンズベイガーデン
フィッシャーマンズベイガーデン

小さな小川に沿って丘を下ると、異なるテーマのガーデンがいくつも現れます。グラスガーデン、ウッディーガーデン…。そしてこの庭を代表するものがヘーベのガーデンです。ヘーベとは、ニュージーランドを原産とする、白やピンク、紫などの小さな穂状の花を咲かせる花木で、その名はギリシャ神話の女神ヘーベに由来しています。じつは、オーナーの女性は、多様なヘーベの品種を育てていることで有名なのです。

へーべの花
ヘーベの花。Grazziela Bursuc/Shutterstock.com
フィッシャーマンズベイガーデン
ヘーベの花と、羊のオブジェ。

ガーデンツアーの終わりには、小さなコーヒーショップとショップがある彼女の屋外コテージを訪れて、ちょっと一息。いろんな話を聞くことができました。信じられないかもしれませんが、数年前まで、ここにはヘリパッドまであったのです。この庭を訪れたいガーデンラバーたちはヘリコプターで来ることもでき、実際にヘリで来た人もいたそうです。ヘリパッドは草原の一部にありました。

このフィッシャーマンズベイガーデンは、有名なニュージーランドガーデントラストの一つに数えられています。ここに選ばれるのはとても名誉なことなのです。

私たちはこのガーデン探索をとても楽しんだのですが、帰り道がちょっと心配だったので、ホストマザーのスーさんが、お孫さんと一緒に車で迎えに来てくれたのを見た時は、ホッとしました。これにて一つ目の楽しいガーデンツアーは終了です。

ヒネワイ保護区
(HINEWAI RESERVE)

ヒネワイ保護区 ヒネワイ保護区

フィッシャーマンズベイガーデンを訪れた数日後、私たちはヒネワイ保護区と呼ばれる、自然と野生生物の保護区を訪れる機会を得ました。ヒネワイ保護区では、自然な環境の中に育つ、さまざまな種類のバンクス半島土着の植物を目にし、それぞれに解説された英語の名前を確認しながら、素晴らしいハイキングを楽しみました。保護区の景観の美しさは圧倒的で、木生シダが茂みの中に枝を広げる横を通り過ぎながら、とても気持ちのよい時間を過ごすことができました。

ヒネワイ保護区
ヒネワイ保護区
ヒネワイ保護区のハイキングコースからの景観。
ヒネワイ保護区
シダが葉を広げる中を行くハイキングコース。

この保護区は、バンクス半島ならではの自然に触れられるおすすめの場所なのですが、私たちはここでもハプニングを経験。ハイキングに時間を使いすぎて暗くなってきてしまったのです。しかも、滞在している家に帰るには、2時間のハイキングの後に、徒歩で2時間の砂利道を行かなければなりません。あたりには車の気配もなかったために歩くほかなく、ホストファミリーの家に着いたのは真っ暗になってから。彼らはまさに捜索隊を送ろうとしているところでした。というのも、暗くなってからニュージーランドの森の中で迷ってしまったら、笑いごとでは済まないのです。

街中のガーデン

最後にご紹介する3つ目のガーデンは、今までにご紹介した2つのガーデンとは打って変わり、対照的な場所にあるガーデンです。フィッシャーマンズベイガーデンも、ヒネワイ保護区も、大自然の中にあるガーデンでしたが、今回行くのは、アカロアのダウンタウン。もっとも、どれもバンクス半島の中にある庭です。

自然の中にある2つのガーデンを訪れた際に経験した、必要以上にスリリングな冒険の後で、アカロアの都市部にあるピンク色の宿に戻れた時には、本当にホッとしました。3つ目のガーデンは、この滞在場所からほど近く、ワトソン通りを過ぎて、バルゲーリー通りを10分ほど歩いたところにあります。

ジャイアントハウス
(THE GIANT’S HOUSE)

ジャイアントハウス

さて、ここでご紹介するガーデン、ジャイアントハウスは、オブジェとモザイクのガーデン。ギャラリーとカフェも併設されています。また「地球で一番幸せなガーデン(THE HAPPIEST GARDEN ON EARTH)」というキャッチコピーがついたガーデンでもあります。今までご紹介したガーデンとは異なる雰囲気ですが、ここも素晴らしいガーデンでした。

ジャイアントハウス
ユニークな門。

私たちはその日最初の客で、まだ開園前にガーデンに着いたのですが、中に入る前からすでに、そのユニークな外観とアプローチに感銘を受けていました。いざ扉が開き、庭へと足を踏み入れると、ガーデンのスピーカーからはフランスのシャンソンが流れてきました。さらに、装飾的なピアノが迎えてくれ、カラフルなモザイク画、そしてカラフルな植物たちも私たちを歓迎してくれます。

ジャイアントハウス
カラフルな植物たちとピアノのオブジェ。

キャッチコピーに違わず、まるで「幸せ」が私たちに向かって一直線に飛び込んできて、またガーデンのありとあらゆるところに顔を出しているようでした。今までこんなタイプのガーデンは見たことがありませんでしたが、ここはとてもスペシャルな極上のガーデンで、一目見た瞬間から私の心をとらえてしまいました。

言葉であれこれ言うよりも、写真を楽しんでいただきましょう。機会があれば、ぜひ実際に訪れて、「幸せ」を体感してほしいガーデンです。

ジャイアントハウス ジャイアントハウス ジャイアントハウス

ガーデンから見える海も素晴らしかったですよ。

灯台 港

Credit

写真&ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

取材/3and garden 

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