洋の東西を問わず庭好きな人は?【世界のガーデンを探る27】

Rolf_52/Shutterstock.com
世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る第27回。最終回となる今回は、世界の西洋庭園の歴史と、日本とイギリスの庭の考え方についてダイジェストで解説していただきます。
目次
世界で庭好きな国民は2国民!?
いよいよ「世界のガーデンを探る」旅もこれで終着地となりました。これまで、メソポタミアから始まってヨーロッパからアセアニアまで連綿と続く西洋庭園の大きな流れである世界の西洋庭園の歴史を私なりに綴ってきましたが、いかがだったでしょうか? いわゆる教科書に載っているガーデン論とは違い、造園芸家である自身の経験と断片的な知識を駆使して、僕なりに解釈してお伝えしてきたつもりです。
世界で庭好きな国民といえば、西洋ではイギリス人、東洋では日本人、その2国民しか私には思い当たりません。例えばニュージーランドとかオーストラリアはどうなのかといいますと、どちらもイギリス人がつくった国です。では何故イギリス人と日本人だけなのでしょうか?
今までヨーロッパの庭の変遷を僕なりの視点で見てきましたが、大きな流れとして、西アジアのメソポタミアからイングリッシュガーデンまで、数千年の時間の中で富とともに現代まで移り変わってきた西洋庭園の形としてあげられるのは、フォーマルガーデンとコテージガーデンです。

一方では、日本の歴史とともに変遷してきた日本庭園、全く違う両極端な2つの庭を今回は比較してみようと思います。
イギリスと日本の両極端な2つの庭

まずはじめに、イギリスと日本の共通点と相違点について考えたいと思います。
共通点としては、2国とも島国であることです。そんなの当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、これは大変大きな意味があります。なぜかといえば、両国とも国境がなかったということです。地続きで隣の国と接していないことで、土地に対する不安感がないのです。それ故にイギリスでの個人の土地の所有に対する考え方は、フランスなどの大陸の国々とは全く違います。

イギリスも日本も土地は個人所有が当たり前ですが、ヨーロッパ大陸においては、土地の個人所有という感覚はなく、近代以前までは土地は領主のものであり、その庇護の下で領民は小作として暮らしていました。ヨーロッパ大陸では長く戦乱が続いていたので、朝、城門を出て周りの農地で仕事をし、夕方には安全な城門の中に帰るという暮らしでした。そこには個人所有の農地はなく、庭をつくる余地も余裕もありませんでした。

一方イギリスでは、ローマ帝国の支配以降、ドーバー海峡があったおかげで、ヨーロッパのように異民族が攻めてくるようなことはありませんでした。かのナポレオンやヒトラーでさえ、この海峡を渡ることはできませんでした。産業革命以降7つの海を支配し、世界中の富を集めたイギリスには、社会に大きな余裕ができたのです。そのゆとりがあってこそ、現代まで続く庭を楽しむ文化が生まれたのでしょう。
フランスで庭づくり文化が育たなかった理由
一方、植民地時代にフランスでも大きな富が流れ込んできました。フランスでは先ほど述べたように、個人の庭付き住宅に住むという感覚は乏しかったので、そのゆとりが絵画など芸術のほうに舵を切ったのではないでしょうか?

日本における庭の考え方

では、日本ではどうだったのでしょうか? ここから少し日本庭園のことについてお話ししましょう。
日本は世界で唯一、他民族からの支配が一度もなく日本人だけで国を維持、発展してきました。もっといえば、一つの民族、一つの言語。こんな国は世界中どこにもありません。そのおかげで、独自の文化が幾度となく花開きました。
飛鳥時代に仏教が伝来し、日本古来の神道に仏教、それに中国の道教の思想も加わって、自然崇拝をベースにした、他に類を見ない独自の文化が発展しました。その中で庭の文化も育まれていきました。特に禅思想とのコラボレーションには目を見張るものがあります。

極楽浄土は黄金の世界で、そこに阿弥陀如来の世界があります。極楽浄土(西方浄土)は川を渡った向こう岸(彼岸)にあります。ですから川(海)は大事な役割を持ち、現世(此岸)と彼岸の境目になります。それを象徴的に表現したものが枯山水ではないでしょうか。

あまりにも有名な枯山水ですが、ここは、自分の心と向き合う場所であり、本来心を落ち着けるためにすべてのものを取り去った形のはずです。しかし、現代風? に庭の外にはきれいな枝垂れ桜が植えられました。また、本来は塀の外には遠く借景の山並みが見られたはずですが、今は木々が大きく茂ってしまって、ほとんど見ることができません。


石と苔で表現されたこの庭を見ていると、あたかも遥か彼方の宇宙の構図を見ているような気がするのは僕だけでしょうか?
銀閣寺庭園に入る前のアプローチは、生け垣が高く周囲を遮り、真っ直ぐの道が先へ続きます。これは、汚れた俗世界から訪れた人が、この道を歩くことにより汚れを洗い去り、極楽浄土(銀閣寺)庭園へと導かれるという意味合いがあります。


もっとも完成された回遊式日本庭園の「桂離宮」は、まさに「シンプル イズ ベスト」。空や木々を映す水面と樹々。そこは、静かで落ち着いた空間です。

僕が大好きな、昭和の作庭家として著名な重森三玲さんによる庭です。手前の石の流れが奥の西方浄土へとつながっていきます。中程にある門は勅使門です。
いくつかの日本庭園を見ていただきましたが、このように極楽浄土は、時代や宗派によってその表現方法は異なります。しかし、庭はそこへのアプローチ(入り口)なのではないでしょうか? そして、心と国家の安寧を願う場所としての意味もあるはずです。

島根県安来市にある足立美術館の日本庭園で、海外の観光客に最も人気のある庭園の一つです。うまく周りの山を借景に使って、これ以上メンテナンスができないほどきれいに手入れがされています。しかし、この庭はあくまでも日本画の名作や陶芸など約1,500点を所蔵する美術館の周りにつくられたものなので、京都の庭のような思想的なバックグラウンドがありません。そこが少し日本人には物足りなく感じられる部分かもしれません。

庭を介したイギリスと日本の交流と発展

イギリスも日本も世界に誇れる独自の庭文化を展開してきましたが、近年は情報と人的交流が盛んになり、お互いのよいところを取り入れながら、さらなる発展をしています。
イギリスでは日本の自然をベースにした庭づくりを取り入れ、また、日本では今まであまり使われていなかった植物を取り入れ、きれいな花の咲く庭がつくられるようになってきました。

日本の歴史を鑑みると、新しい文化が入ってくると、常に日本流に噛み砕いて独自の展開を行ってきた気がします。庭もまた然り。近年イングリッシュガーデンがテレビや雑誌などで紹介され、またイギリスに旅行に行って本場の庭を見てくる人も増えたりしてガーデニングブームが起こりました。そしてガーデンデザイナーはもちろん、多くの一般の人々も日本風にアレンジしながら庭をつくるようになって今に至ります。まだまだ植物の使い方ではイギリスのようにはいきませんが、宿根草も多く使われるようになってきました。

上写真は、チェルシーフラワーショーの庭で以前も記事でご紹介しましたが、チェルシーフラワーショーで僕が植栽を担当し、ゴールドメダルをいただいた庭です。自然な風景を醸し出すように努力しました。
イギリスと日本、これからもお互い影響し合いながら、お互いの国でお互いのライフスタイルに合った庭がつくられていくことでしょう。
これまで連載記事「世界のガーデンを探る」を一部分でも読んでいただいた皆様に感謝、感謝で、僕の庭の歴史の話を締め括りたいと思います。またいつかどこかでお会いできればと思います。
Credit
写真&文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -

にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
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