美しくきらめく、氷に覆われたドイツのウィンターガーデン
花の彩りが少なく、一見地味に思える冬の庭ですが、寒い冬の日ならではの庭景色が見られる季節でもあります。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、美しい氷の結晶に覆われた、寒さの厳しいドイツだからこそ味わえるウィンターガーデンの美しさや、冷え切った冬の庭の楽しみ方を教えていただきました。
目次
突然に訪れるドイツの冬景色
美しく、穏やかな日が続く秋も終わりの11月の半ば頃、今ドイツで私が暮らしている故郷の村では、凍てつくような非常に寒い日が突然訪れます。その日は朝目が覚めると、自分の目が信じられないような光景に迎えられます。ベッドから出ると、隣家の屋根が氷の結晶に覆われ、白く光り輝いているのです。思わず窓を開けると、キンと冷えた空気が部屋を吹き抜けます。
これが、私がドイツに戻ってから初めて訪れた、非常に冷え込んだ日でした。空気はカラリと乾いて清々しく、水たまりは凍り付いています。そして、辺りの植物たちは、白くきらめく氷に覆われています。それは本当に美しい景色でした。
この日、人と会う約束があり、客人たちは8時半に到着したのですが、ゆったりした暖かな冬服にハイキング用の暖かそうなブーツと、まさに真冬の装い。一方の私は、日の降り注ぐ湘南で暮らしているうちに、こんな本当に寒い日に何を着ればいいのかを忘れてしまっていました。それでも喜び勇んで外に飛び出し、この美しい光景の写真を撮っている間、周囲の人々は、まるで何でそんなに興奮しているのだろうとでもいうかのように、不思議そうに私を眺めていました。
すぐに足が冷たくなってしまったので、家に戻って手編みのとっても分厚い靴下を一組み出し、さらにスカーフを重ねて身支度して、もう一度うきうきと外へ飛び出しました。
外に出てみると、太陽が顔をのぞかせ、ゆっくりとこの美しい氷の景色は溶け始めていました。このような状態だと、南向きの土地はどこか、逆に北に向いた場所はどこなのかがとてもよく分かります。
庭を整理したときに残った枝などはキラキラと輝き、来年のガーデンのために植えていた低く育つ植物の苗たちは、まだまだか弱い見た目ながらも、この寒さの到来にも耐える強さを持っています。この日は北向きの建物の裏手に生えている苔までもが、美しい霜に覆われていました。
ちなみに、凍った水たまりについては、こんなエピソードも。日本から来たある男の子が、彼のお母様とおばあ様と一緒に、ドイツの私の家を訪ねてくれた時のことです。私たちは、よく凍り付いた庭の小道を散歩していたのですが、彼は氷の張った水たまりに飛び乗って、氷を割って音を立てるのをとても気に入ったらしく、飽きることなく、次から次へと水たまりを見つけては氷を割って歩いていきました。そんな彼の姿を見ているのはとても楽しかったのですが、日本で暮らしていた湘南では、こんな光景を一度も見たことがないことに気づきました。暖かい湘南では、氷の張った水たまりなど見たことがなかったのです。
自然派ガーデナーの冬支度
ドイツでは、冬のガーデニングにあたって、秋のうちに宿根草やグラスなどをすべて切り戻してしまうのはやめようというトレンドが広がっています。特に、本格的な‘自然派ガーデナー’の場合は、どの植物も一切切り戻しをしないといいますが、このような例はあまり多くなく、人それぞれです。というのも、一切切り戻しをしないと、窓の前に植えてある草木が伸びすぎて光を遮ってしまうのです。太陽の光が貴重なドイツの冬では、家でもアパートでも、室内には、できるだけ多くの陽光が差し込んでほしいので、伸びすぎた植物たちを切り戻し、窓からより多くの光が入るようにすることも多いです。
私も今年、この本格的な‘自然派ガーデナー’を目指し、夏には爽やかな野原が広がっていた父の庭を、秋に枯れたまま、来年まで切り戻さずそのままにしておくことにしました。本音を言うと、このやり方に挑戦する場合には、とても心を広く持っておく必要があると実感しています。なぜなら、雪にも霜にも覆われていない間、この庭は茶色く枯れて、あまり見た目に美しくはないので、思わず切って整えたい衝動にかられるのです。一方で、寒い冬の間、残された枝の中で、少しでも暖かい棲み処を持つことのできる動物たちのことを思えば、切り戻しをしないというこの方法を実践してみる価値はあるとも感じています。しかも、この一面に茶色く枯れた庭も、一度雪に覆われてしまえば、一変して美しい景色に。高さや形の異なる植物の姿が雪景色を作り、退屈どころかとてもエキサイティングな光景になります。
凍てついたバラの中に訪れる小鳥たち
我が家のキッチンの窓とリビングの窓から見えるローズボーダーもまた、冬に格別の景色を見せてくれる場所です。遅くに膨らみ始めたバラのつぼみや花が寒さのために凍り付き、霜や、時に雪に覆われた姿は、本当に素晴らしいもの。さまざまな形の赤いローズヒップが実る姿も、冬の庭の喜びの一つです。
さて、我が家では、このローズボーダーの中ほどに、小さなバードハウスが鳥の餌と一緒に置いてあります。鳥たちの餌には、基本的に、ヒマワリのタネを中心に、いろいろなタネを混ぜたものを使っています。このバードハウスは何年も前からずっとこの場所にあって、いろいろな種類の鳥たちが、日ごとにやってきては餌をついばんでいます。小さなバードハウスと餌台を用意すれば、庭を訪れる愛らしい小鳥たちが見られるのも、冬の庭らしい楽しみ方ですね。
また、冬になると赤い実をつけるヨーロッパイチイも、ドイツではよく見かける存在です。雪や霜に覆われた真っ白な庭で、ポツポツと点在する赤い実は、冬ならではの素晴らしいコントラストを演出してくれます。
寒い日だからこそ楽しめる
冬限定のお楽しみ
ガーデンに冬が訪れたら、ぜひトライしてみてほしいアイデアが、庭で実ったローズヒップや、ドライにした葉っぱ、小さなドングリなどを使って、透き通った氷のオーナメントを作ってみること。冷え込みの厳しいドイツの庭では、水を張った器を外に出しておけば簡単に凍り付くので、それを利用して冬限定のオーナメントを作ることができるのです。
もっとも、みんながみんな、こんなに寒い環境に恵まれているわけではありません。そこまで冷え込みが厳しくない地域の方は、フリーザーを利用するとよいでしょう。オーナメントの作り方は簡単で、ドングリや葉など好きな素材と、耐寒性のあるプラスチックなどの平皿や型を用意します。容器に素材を並べ、そこに水を少し注いで、冷凍庫で凍らせるだけででき上がりです。凍らせる際は、後で吊り下げて飾れるよう、リボンか糸を入れて、一緒に凍らせるのを忘れずに。
さて、一段と冷え込んだ寒い日に、窓の前、ガーデンにこの季節感あふれる手作りの氷のオーナメントを吊り下げてみましょう。少なくとも、氷が溶けるまでのしばらくの間は、北国のような冬を感じることができますよ。吊り下げるタイプだけでなく、氷の器を作ってキャンドルを入れて灯してみるのもいいですね。
また、冬のガーデンでは、こんな楽しみ方も。-5℃を下回るような寒い地域の場合は、石鹸の泡を凍らせてみてはいかがでしょうか? 凍っていく過程を観察するのも楽しいですし、凍った泡は木の枝や花に飾ることもできます。やってみると、面白いちょっと特別な写真が撮れますよ。泡が即座に凍り付くような、冬の山か、本当に寒い地域限定の楽しみです。
ちなみに、私にとって冬の一番の楽しみは、暖かな冬服に身を包み、友人や家族と一緒に森を散歩すること。しんしんと冷えた冬の日に、澄んだ空気と木々に囲まれ、自然の中を歩くのは、特別な気持ちになれる体験です。
このようにして、ドイツの冬、庭の寒い日、自然の美しさを楽しんでいます。
Credit
ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
写真/Friedrich Strauss/Stockfood
取材/3and garden
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