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新大陸のガーデニングとは?【世界のガーデンを探る26】

新大陸のガーデニングとは?【世界のガーデンを探る26】

世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第26回。今回は、新大陸、南北アメリカ大陸の庭文化と風景について解説していただきます。

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新大陸に住み着いた人々

南北アメリカ

今までヨーロッパ、オセアニアと見てきた【世界の庭を探る】シリーズ記事もいよいよ終盤。今回は、新大陸(南北アメリカ大陸)に目を向けます。

人類は4万〜1万年ほど前、まだベーリング海峡が陸続きだった頃に、蒙古系の人々がユーラシア大陸から歩いて渡り、インディアンやインディオとなって新大陸に住み着きました。10世紀頃には船に乗ってバイキングがやってきましたが、住み着くことはありませんでした。

そして、いよいよクリストファー・コロンブスが1492年にヨーロッパからやってきて現在の新大陸を発見し、その後入植。などなど、いろいろあって今のアメリカ合衆国が1776年、カナダが1931年にイギリスから独立して現在に至ります。

イギリス人たちはまずは東海岸に住み着き、その後開拓者が新天地を求め、西へ西へとアメリカ大陸を移動し、19世紀のゴールドラッシュと相まって西海岸までたどり着きます。

カナダの名園「ブッチャート・ガーデン」

ブッチャートガーデン
「ブッチャート・ガーデン」を上空から見る。

そんな時期、「ザ・ブッチャート・ガーデンズ(The Butchart Gardens)」の初代オーナーであるロバート・ブッチャートと妻のジェニーは、石灰岩を探しながらカナダ西海岸にたどり着きました。20世紀の初めに石灰岩を取り尽くしたブッチャート夫妻は、この採石場を庭園としてつくり変えようと考えました。しかしもともと石灰岩の採石場だったので、土が中性かアルカリ性で多くの植物は育つことができませんでした。そこで大量の土を周りの畑から運び込み、きれいな庭をつくりました。それが新大陸で最も有名な「ブッチャート・ガーデン」の始まりです。

ブッチャート・ガーデン

「ブッチャート・ガーデン」は、サンクンガーデンやローズガーデン、イタリアン・ガーデン、ジャパニーズ・ガーデンなど、世界の庭デザインを再現した広大な場所で、今では年間100万人もの入園者が訪れる新大陸で最も有名な庭になりました。

メインエリアのサンクンガーデン

ブッチャート・ガーデン

この庭の特徴は、もともと採石場であったことから、石灰岩を掘り取ったあとにできた高低差のある土地であり、入り口から敷地に入っていくと、メインの場所となるサンクンガーデンを俯瞰しながら降りていくことができます。この庭で最もポピュラーなサンクンガーデンは、一年中色とりどりの花が咲き乱れて、訪れた皆さんの期待に応えるところです。

ブッチャートガーデン

緩やかにカーブする散策路と曲線で区切られた花壇。花壇は盛り土され、訪れる人たちの間近で花が見えます。

ブッチャート・ガーデン

石垣を積み上げた花壇に背が高くなるチューリップが植わっています。このように、高い位置に背の高い植物を植えることで、より花の稜線が強調されます。このガーデンの特徴的な見せ方ですね。

ブッチャート・ガーデン

展望台へ上る階段の両サイドにも、花は絶えることがなく、歩くたびに変わる景色が楽しめます。

ブッチャート・ガーデン

夜になるとライトアップされて、とても幻想的な雰囲気です。

ブッチャート・ガーデン

カフェやお土産もののショップが入っているビジターセンターに囲まれたイタリアン・ガーデンも、季節の花で目を楽しませてくれます。

モスグリーン調の差し色がシックなビジターセンターと、優しい色のチューリップが素敵なコンビネーションを演出。とかくサンクンガーデンは原色系の色使いが多いので、このような優しい色合いだと日本人としてはホッとします。

ブッチャート・ガーデンの数々のエリアをご案内

ブッチャート・ガーデン

「ブッチャート・ガーデン」の園路をどんどん降りていくと、一番奥まったところにダイナミックに噴き上がる噴水のある池にたどり着きます。ここは「ロスファウンテン」といい、ブッチャート夫妻の孫にあたるロス氏が、開園60周年を記念してつくったエリアです。

【世界のガーデンを探る旅2】でご紹介したイタリア「チボリ公園」の噴水を思い出させます。

ブッチャート・ガーデン

こちらは、立体的にうまく構成されているローズガーデンです。ここでの配色は、赤いバラがアクセントとなり、手前の優しい色から奥へ向かってオレンジ系のバラを配置して、グラデーションの効果で、より広く見えるように考えられています。

この地域は、蒸し暑い日本と違って夏でも涼しいので、バラは初夏から秋までずっと咲き続けます。他の花も同様に、春から秋まで咲き続けてくれます。季節ごとに花を入れ替える必要がある日本から見ると、羨ましい気候です。

ブッチャート・ガーデン
緻密な色彩のイタリアン・ガーデン。

こちらは、ボウリング場(芝生で楽しむスポーツ)とテニスコートを改造してつくられたイタリアン・ガーデンです。ここでも土地の高低差をうまく利用して、訪れる人を飽きさせません。

ブッチャート・ガーデン
立体的なイタリア式花壇。

芝生の緑やイチイの刈り込みをうまく配置して、手前の景色と遠くまで見渡せる景色の融合を楽しめます。

ブッチャート・ガーデン
きれいに紅葉した日本のモミジも見られるジャパニーズ・ガーデン。

「ブッチャート・ガーデン」につくられたジャパニーズ・ガーデンは、横浜の庭師だった岸田伊三郎氏が関わった自然風な日本庭園です。日本の植物の中で、とりわけモミジは多く使われ、特に紅葉の季節はその美しさに多くの人が惹きつけられています。なぜなら、ヨーロッパなどでは紅葉といえば黄色なので、日本のように赤く紅葉する樹木は珍しく、モミジやマユミなどは好んで庭に植えられます。しかし、そのような日本の植物の多くは酸性土壌が好きなので、特に海外では植える場所に気をつけなければなりません。

魅力的な庭は他の地域の庭づくりの刺激になる

ブッチャート・ガーデン

ご紹介してきた「ブッチャート・ガーデン」の特徴は以下の3つです。

  1. 採石場の跡地だったことをうまく利用して、高低差のあるダイナミックな構成になっています。
  2. 自然にできた地形に沿ったゆるやかな動線は、訪れる人を優しい世界に導いてくれる。
  3. テイストの変化に富んだ庭の演出で飽きない構成。最後にたどり着くフォーマルなイタリア式庭園と落ち着いた雰囲気のゲストハウスでは、おしゃれにアフタヌーンティーをいただきながら、イギリスのように庭を楽しむことができるのも魅力です。

年間100万人の来園者が訪れている事実が物語っているように、とても印象的な庭です。イギリスの「キフツゲイト・コート・ガーデン」も起伏がある土地につくられた庭ですが、「ブッチャート・ガーデン」にヒントを得たと聞いています。私が富山県の氷見につくった「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」も、オーナーである増井さんが、「ブッチャート・ガーデン」を見たことをきっかけに、依頼を受けて始まったものでした。

「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」
「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」https://www.aiyamagarden.jp

富山湾と立山連峰を見渡せる小高い丘にある「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」は、「ブッチャート・ガーデン」をイメージして、沈床庭園やフォーマルガーデン、水辺エリアなど変化に富んだガーデンとなっています。

「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」
フロントガーデン(「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」)

一般公開されている個人オーナーの庭ですが、よく手入れされています。オーナーである増井さん親子の花が大好きという気持ちがよく伝わってきます。

フォレストフローラル氷見あいやまガーデン
所在地は、富山県氷見市稲積字大谷内112番1。

カナダの大自然に生きる高山植物

ロッキー山脈
オダマキの仲間が育つロッキー山脈。

せっかくカナダまで来たのですから、ちょっと足を伸ばしてロッキー山脈をご紹介しましょう。ここではダイナミックな地球の植物たちの姿を見ることができます。我々にとって、北アメリカは遠い彼方に思われるかもしれませんが、かつて北アメリカがユーラシア大陸と地続きだった時代に、植物たちは人類と同じように中国南部からユーラシア大陸を北へ北へと分布を広げ、一部は日本に渡ってきて現在の植生になりました。一方、ユーラシア大陸をさらに北へと分布を広げ、なんとロッキー山脈までたどり着きました。ですから、現在ロッキー山脈で見られる植物は、日本の高山植物とほぼ同じといってもいいくらいです。

ロッキー山脈

こちらの写真では、日本の高原では馴染み深いヤナギランとモミが見えます。氷河の溶けた水をたたえる湖は、独特の淡い水色です。

中国南部を源とする東アジア系の植物は北へ北へと分布を広げて、一部は日本、もう一部はロシア、さらにロッキー山脈までたどり着いたものなので、日本でも馴染みの植物が多いのです。緯度が違うので当然とはいえ、日本の高山植物がそのまま平地で多く見られることには驚きです。

コバイケイソウ
日本でもお馴染みのコバイケイソウ。

車で移動していると道端にはチョウノスケソウやオダマキ、クモマグサやコケモモ、イワウメなどを見ることができて、親しみを感じます。ぜひ機会があったら、「ブッチャート・ガーデン」見学の続きに、ロッキー山脈まで足を伸ばしてダイナミックな地球の歴史を感じてみてください。

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