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「風物詩」で培われる私たちの豊かな感性〜植物の文化を運ぶ plants culture caravan vol.13

「風物詩」で培われる私たちの豊かな感性〜植物の文化を運ぶ plants culture caravan vol.13

日常に豊かさと公園のような心地よさを提案しているparkERsが、観葉植物を日本の四季のある暮らしに取り入れる新しい植物の楽しみ方をご紹介するこの連載。今回は、parkERsの森大祐さんに、植物と小さな生き物が織りなす風物詩と、日本人にこそ培われてきた繊細な感性を、現代でも意識することの大切さについて語っていただきました。

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日本人と風物詩

このplants culture caravanで伝えたいテーマでもある、移り変わる季節や習わしの文化。改めて言い換えると、「風物詩」という言葉が現代の日本人にはしっくりくるのではないでしょうか。

「風物詩」という言葉を紐解くと、季節特有の文化、生物、現象などであり、その季節をより意識に特徴づける事柄のこと、とあります。

俳句の「季語」は、旧暦にもとづいた季節をあらわしているので、私たちが現在使っている新暦の感覚からすると、違和感を覚えてしまうかもしれません。一方、風物詩は季語のような限定されたものとは違い、まさに現代(新暦)の季節感そのものであり、現代人の心に訴えかけてくるものを指すのです。

日常で移り替わる風物詩
日常で移り替わる風物詩

さて、みなさんは日常で移り変わる風物詩を意識することがあるでしょうか?

鎌倉時代から江戸時代中期には庶民の間でも俳句が大流行し、人々は季節感や風物詩を「楽しみ、体感する」ことを習慣としていました。自ら外を歩き、積極的に季語や風物詩を見つけていた様子が想像できます。

私たちもこの日本人ならではの習慣を大切にしながら生活することで、現代の季節感や風物詩を新たに発見していくことができるかもしれません。

竹材で作られた昔のお弁当箱。季節毎の風物や、野草を添える工夫がみられた。
竹材で作られた昔のお弁当箱。季節毎の風物や、野草を添える工夫がみられた。

森を歩き、都市を歩き、風物詩を見つけよう

最近は気温も下がり、すっかり秋が深まってきました。

先日、森の生態調査に同行する機会がありましたが、小川のヤゴがトンボとして成虫になり飛翔している景色は、季節の移り変わりを感じさせました。

季節の移り替わりを感じる

特に、秋の夜長に響く虫の音は、この季節特有の風物詩です。「リーンリーン」と鳴く鈴虫は、松林を吹く風に例えられ、古くは松虫と呼ばれていました。

しかし、この鈴虫の音を季節とリンクさせることが、日本人特有のものであることはご存じでしょうか?

日本人と欧米人とでは、虫の音に対する脳の働きが異なるといわれています。

日本人は、虫の音を言語脳と呼ばれる左脳で認識し、「リーンリーン」といった言葉として捉えます。一方、欧米人は虫の音を音楽脳と呼ばれる右脳で処理するため、ある種、雑音として感じてしまうのです。なんと、虫の音を左脳で認識するのは、世界でも日本人とポリネシア人だけだといわれているそうです。

日本は虫の種類が多様なため、多くの種類が同じ季節に一斉に鳴き出します。そのため、虫たちも他の種類と区別をつけて、お互いに認識しやすいようリズミカルに工夫した鳴き方をしています。そんな豊かな虫たちの音色の違いを認識して楽しむ感覚は、日本人の特徴です。虫の音は、まさに秋の今、季節の風物詩として楽しむタイミングなのです。

ビル街にも、季節を告げる生き物が潜む小さな自然が
石畳や土の上を歩くことで足元から自然を感じる

ビル街にも、季節を告げる生き物が潜む小さな自然がたくさんあります。

これらは一つひとつが独立しているようで、生き物にとっては一定の範囲で結ばれた「生態系ネットワーク」という重要なオアシスとなっています。植物もまた、花であれば蝶やミツバチ、樹木であれば小鳥が種子を運び、動物散布により自分たちの分布を広げています。こうした身近な植物と小さな生き物が関わり合う自然が在り続けることで、時代が変わっても日本らしい風物詩を私たちに届けてくれているのです。

オフィスからの帰路、あえて寄り道をして、石畳や土の上を歩くことで足元から自然を感じ、草むらに潜む季節の虫のオーケストラに耳を澄ませてみてはどうでしょうか?

室内でも風物詩の感性を 〜身近な日常での変化に気付くこと〜

雨の表現をデザインしたparkERsオリジナルの什器

多種多様な生き物だけでなく、日本人は「雨」という一つの現象に対しても、霧雨、豪雨、五月雨、時雨、秋雨などと、微細な違いを表現してきました。水に恵まれ、自然との距離が近かった日本人ならではの感性なのではと思います。

上の写真は、そんな雨の表現をデザインしたparkERsオリジナルの什器です。東京の天気と連動し、雨量の多い日はたくさん水滴を落とし、照明と合わせて波紋が床に広がる仕掛けが組み込まれています。環境の変化が少ない室内で、この波紋の光に照らされる通路や植物、人が包まれる様子を見ていると、雨が美しい自然現象の一つであることに気付きます。

実はparkERsのHPにも、「晴天」「曇り」「雨」など、その日の天気と連動した自然の魅せる風景が映し出されています。

室内で花を咲かせるスパティフィラムとミラクルフルーツの実。
室内で花を咲かせるスパティフィラム。右はミラクルフルーツの実。

現代のビジネスやご近所付き合いでも、ふとした会話は天気や紅葉など季節を感じる自然の話になりませんか? parkERsが施工した空間では、室内でも花や実をつける樹種が散りばめられており、室温、照度などの複雑な兼ね合いの中で、その空間ならではの周期で変化を見せてくれています。「ここでは、2ヶ月に1回花が咲いてるみたいですね」などの会話が生まれ、まさに現代の身近な風物詩として共有されているのです。

時間の移ろいを気付かせてくれる植物の存在、自然の掛け合わせでこそ生まれる現象に気付くことが、私たちの繊細で豊かな感性を培うことに繋がっていくのではないでしょうか。

冒頭の繰り返しになりますが、「風物詩」の意味は、次のように表現することができます。

風景として目に入るもの。

その季節に特有のもの。

その土地に特有のもの。

風景、季節、土地を繋ぎうたうことを表現してきた日本の文化を大切に、身近な変化に感覚を傾ける時間を大切にしてほしい。それがparkERsの空間一つひとつに込められた想いなのです。

時間の移ろいを気付かせる植物の存在
時間の移ろいを気付かせる植物の存在

今月の植木屋:
自然環境調査と環境教育のプロ、ビオトープ管理士 安部拓也

今月の植木屋:自然環境調査と環境教育のプロ、ビオトープ管理士 安部拓也

C.W.二コル氏が名誉校長を務める環境調査・保全のプロを育てる「東京環境工科専門学校」を卒業後、自然環境調査の他、イベントや小中高校で環境教育のプログラムなどを担当していたビオトープ管理士の安部さん。

現在はフリーランスとして、自然環境調査(主に動物)や環境教育、写真撮影を行いながら、企業や地方自治体の要請で、森林保全や外来種駆除などの活動を主導しています。

「自然」の楽しみ方は、山や海など日常から離れた場所だけでなく、もっと身近な場所や草木の中にも存在しているという視点を大事にしています。

とにかく「生き物や自然って、本当に面白いんだ」ということを、たくさんの人に知ってほしい、という信条で、全国を駆け巡る安部さん。自然の楽しみ方だけでなく、未来のために生物の多様性を守ることの重要性を、子どもから大人まで、シンプルに楽しく、正しく伝えてくれる自然のプロフェッショナルです。

自然の楽しみ方だけでなく未来のために生物の多様性を守ることの重要性をシンプルに楽しく正しく伝える

Credit

森 大祐(Daisuke Mori)
学生時代、野生動物や植物群落の生態調査、マングローブの栽培研究を通し、自然生態系について学ぶ。大学院修了後、建築系企業でLED野菜栽培の研究等を経て、parkERsへ入社。メンテナンススタッフとして室内緑化の育成経験を積み、プランツコーディネーターになる。人と植物、両方が共に育つ豊かな時間を過ごせる空間作りを目指している。
https://www.park-ers.com/

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