草花は古くから薬として人を癒すために利用されてきましたが、飲んだり塗ったりしなくても、ただ草花の近くにいるだけで人間の身体には変化が起きていることが近年の医学研究で明らかにされ始めています。庭が人の心身を癒す力「ガーデンセラピー」。今回は子育てと緑の環境との関係性を探ります。
育児中のお母さんは、緊張と不安、閉塞感によってストレスを抱えがちです。孤立化する現代の育児環境において、育児ストレスをどう解消するかは重要な課題です。いかにお母さんがリラックスするかは、お母さん自身にとっても、また子どもにとっても大切なことですが、お風呂にゆっくり浸かることもままならない乳児を抱えたお母さんは、日常の中にリラックスする時間を持つこと自体、難しいのが現実です。
そこで注目されているのが、緑を取り入れた環境づくりです。
オランダの市民農園で、読書とガーデニングでどちらがよりストレス軽減に効果があるかを比較する実験が行われました。被験者に同時に同じストレスをかけたあと、読書をするグループと、庭に出てガーデニングを行うグループとに分けて唾液中のストレスホルモンを計測したところ、ガーデニングを行ったグループの方がよりストレスホルモンが軽減されたという結果が出ました。
子どもの世話で手一杯なのに、ガーデニングなどしていられないと思うかもしれませんが、東京都市大学総合研究所・環境学部の飯島健太郎教授が行った実験では、ガーデニングをしなくても単に緑との距離が近いほどストレスホルモンが減少することが分かっています。緑を見てホッとしたり、気分転換をすることは、誰しも一度は経験したことがあるでしょう。それは気分の問題ではなく、実際に私たちの体内のストレスホルモンが減少しているからだということが明らかにされたのです。
ですから、緑の多い住環境を整えておけば、よりリラックスした状態で育児ができるというわけです。例えば、部屋の中に手のかからない観葉植物を置くほか、植物次第でローメンテナンスの庭をつくることもできます。お母さんの手を煩わせずに、緑の環境を整えることはできるのです。
また、飯島教授は子どもの発達段階においても戸外での体験がいかに重要であるか言及しています。バランス感覚などの運動能力、色彩や花の香り・鳥の声などから養われる知覚の基本要素など、緑地体験によって育まれる能力は少なくありません。中でも注目したいのは、近年の子どもに増加しているアレルギーと屋外体験の関連性です。今、日本は国民の二人に一人は何らかのアレルギー疾患を抱えています。この危機的状況を受けて、2015年にはアレルギー疾患基本対策法が施行。国家的な調査研究と予防対策のプロジェクトが進められています。
このアレルギーの原因について、飯島教授は自然免疫と獲得免疫のアンバランスさを指摘しています。自然免疫とは生まれたときから生物がもともと持っている抵抗性のこと。一方、獲得免疫は、多くの微生物からの刺激によって、生後急速に発達します。新生児の免疫は前者の自然免疫に偏っていますが、成長に伴い獲得免疫が発達してくると、二つの免疫はバランスを取るようになります。しかし、微生物との接触が少なく獲得免疫が発達しない場合、自然免疫だけが異常に発達してしまいます。それがアレルギー疾患を引き起こす原因になるといわれています。住環境の極度の清潔さや、屋外で過ごすことの少ないライフスタイルが、近年のアレルギー児増加の一因であると考えられます。
乳児の環境は、これまで感染症を防ぐことを最優先に整備されてきましたが、今後は免疫バランスを健全に保つために、安全に適量の微生物の刺激を得ることが課題となっていきます。そうしたことからも、最も暮らしに身近で安全な自然体験の場である庭は、子どもの健全な発達と、育児ストレスを軽減するという両面で、その活用に注目と期待が集まっています。
こうした植物が人の心身に与える作用について、専門家による医学的な検証と有効な活用方法の確立を目指し、2016年に「日本ガーデンセラピー協会」が発足しました。各分野の専門家によるセミナーを定期的に行っており、一般参加も受け付けています。次々に明かされる植物の効能と活用方法について、いち早く情報を得られる貴重な機会です。
詳細情報
- 店舗・施設名
一般社団法人日本ガーデンセラピー協会 - 住所
〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル - 電話番号
03-5413-3865 - FAX
03-3475-8682 - ホームページ
http://www.garden-therapy.org
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