もっと気軽に植物の相談ができる町〜植物の文化を運ぶplants culture caravan vol.11

日常に緑ある豊かさと公園のような心地よさを提案しているparkERsが、観葉植物を日本の四季のある暮らしに取り入れる、新しい植物の楽しみ方をご紹介するこの連載。今回は、parkERsの辻永岳史さんに、最近は少なくなりつつある「緑の相談所」や、室内緑化の意義などについて綴っていただきました。

江戸と現代の緑の相談所

あなたは植物について分からないことがあるとき、どうしていますか? 日常のなかで、あの花は何て名前だろう、この植物は元気がないけど、どうすればよいのだろう、などなど、植物についての疑問や気になることは意外とたくさんあるものです。しかし多くの人は、そのふとした疑問について、わざわざ図鑑で調べたり、誰かに聞こうにもどこで誰に聞けばよいか分からず、せっかくの興味を深めるチャンスを逃してしまっています。
さて、江戸時代には“振り売り”と呼ばれる、店を持たない商人がたくさんいて、植物もこうした商人が鉢植えを担いで、日々、町を売り歩いていました。庭を持たない大多数の江戸庶民は、振り売りと話をしながら鉢植えを購入し、気軽に園芸を楽しんでいました。
植物の育て方や季節の花、新しい植物についてなど、振り売りは江戸庶民のよき園芸相談相手でもありました。こうして江戸の人々は、植物についての困りごとや楽しみ方のアドバイスを頻繁に受けながら、近所の人と競い合い、植物をより美しく育てることに夢中になっていました。当時、江戸が世界で最も緑豊かな都市だった、という理由の一つには、このように庶民が日常的に植物について語ったり、相談したりできる環境があったことも大きく影響しているように思います。

それでは、現代はどうでしょう? 地域のコミュニティは狭まり、近隣住民とのコミュニケーションもほとんどなくなっています。それでも植物について知りたければ、ネットやアプリ、本屋や図書館でも調べたりできますが、実は現代にも江戸の振り売りのように、身近に植物の相談をできる人がいます。
それが“緑の相談所”。この相談所には、植物に関わる仕事をしていた人など、しっかりとした植物の知識を持った職員が常駐し、園芸や植物についての相談に応じるほか、緑の講習会なども開催しています。植物の樹種選択や植栽方法、病害虫防除などに関する指導、広報、イベントの開催など、植物に関わるさまざまな活動を行っているこの相談所は、住民が利用しやすい「公園」に設置されています。

東京都では昭和53年、神代植物公園に緑の相談所が初めてできました。当時、日本の都市緑化推進のために、住民の理解と協力がどうしても必要だったという時代背景からできたもので、その後、日比谷公園、戸山公園、木場公園、上野公園、水元公園などにも設置されました。古いデータになりますが、相談件数は平成11年度には上記の6施設合計41,152件と、たくさんの相談が寄せられています。特に家の庭木の栽培方法や、植物の知識・同定に関するものが多かったようです。
とはいえ、この相談所の存在を知らなかった人も多いのではないでしょうか? 正直、私もあまり詳しくは知りませんでした。植物に携わる私ですらそうなのですから、植物に興味のない人はもっと知らないと思います。こうした認知度の低さも一因となり、緑の相談所は廃止が進み、少なくなっていますが、植物について豊かな知識を持った人々と、植物について知りたいと思っている人々との接点である貴重な場所が失われつつあるのは、非常に残念なことです。
室内緑化に求められる新たな役割


2018年に完成した米国Amazon本社は、室内にグリーンが溢れ、その風景は新たな時代の企業環境の理想を先導し、世界中で室内緑化の波がさらに高まっています。日本においても、今では新しく建てられた施設に植物が入っているのが当たり前のように見られます。当然ですが、植物は生き物であり、植物を室内に入れたからには、戸外の植物以上に手入れを続けていくことが必須です。そのため、私たちparkERsにも植物のある空間を継続的に維持し、育て上げていく専門のチーム“Green Life Division”があります。
このチームは、植物を育てながら、お客様や通りすがりの人々と積極的にコミュニケーションをとるようにしています。植物の名前や状態についてお伝えし、植物に興味を持ってもらったり、植物について困っていることの相談を受けたりと、お互いに情報を共有します。また、定期的にワークショップを開催したりもします。
そうです、緑の相談所や、江戸の振り売り商人と同じような役割を、私たちは新しい時代のライフスタイルに合わせて室内緑化の現場で担うことにしたのです。
マンションや商業施設、オフィス、病院や空港までも、室内に植物があるところ全てが緑に興味を持つきっかけとなる“場”になります。これからの室内緑化の意義の一つは、植物を入れた空間が新たな“緑の相談所”となり、植物の認知や興味を高めるための大切な空間になる、ということだと思います。



人が植物をもっと身近に感じるために

施設に入っている植物環境には、専門業者しか関わっていないことのほうが多いのが現状です。というのも、室内の植物は特に管理が難しく、経験のない人はなかなかうまく育てられないからです。“水やり3年”というのは、庭師や特に盆栽の職人の間で用いられるフレーズですが、私たちはこのような職人の経験からしか成り立たない緑環境ではなく、多くの人に参加していただける環境づくりを行っています。というのも、植物は人が触れ、育てることで最大の効果を発揮しますし、一方の人も植物に触れることで愛着が湧き、さらに脳の活性化や心身の健康回復に役立つという研究があるからです。
そこでparkERsでは誰でも“植物を育てる“ことに参加できるように維持管理をフォローするサービスを導入しました。植物が育つ環境や土壌水分を”見える化“することで、安心して植物に触れることができるようになります。
心の豊かさ度数の高い国は、子供から大人まで植物の知識に優れているという話があります。日本も江戸のように、日常的に植物を自ら育て、悩んだらすぐに相談し合える、語り合える、そんな町づくりが進めば素敵ですね。

今月の植木屋:地域の自然の声を聴く−ガーデンサポート大西-
青森県は“やませ”という冷たく湿った風が吹くことで知られています。この冷風は霧を呼び、日照不足を引き起こし、農作物には悪影響を与える困った風なのですが、一方で、奥入瀬渓流の独特の植生をつくった立役者でもあります。コケ・シダが美しく育つ深い森は、この環境のなかにあります。
そんな青森県の奥入瀬渓流という特殊な環境に通う植物の職人が「ガーデンサポート大西」さんです。地域の環境を知り尽くし、植物に関する幅広い業務を行っています。お客様の通るホテルの庭園のきめ細かな植栽管理から、重機を使った危険性のある林内の倒木の処理、さらに無農薬ハーブの栽培・出荷まで、分野は本当に多岐に渡ります。
大西さんは長年の経験から地域の気象を読み、毎日植物と向き合っています。このようにマルチに植物に関わることができるのは、その土地に住み続け、いつも自然の声を聴いているからこその職人芸なのです。

Credit

大学院にて壁面緑化を中心に都市緑化技術を研究。その後、大手花屋でフラワーデザインや空間装飾を学ぶ。緑化技術とフラワーデザインのノウハウを掛け合わせ、さまざまな生活シーンに植物の豊かな表情を生かした空間を提案している。お客さまのニーズに合わせ、見ていてワクワクするような印象に残る居心地よいグリーン空間づくりを目指す。

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