海外旅行では、その国ならではの植物が育つ風景があり、それらを愛でるのも楽しみの一つです。ここでは、神奈川県の自宅の庭で、オージープランツを中心にガーデニングを楽しむベテランガーデナーの遠藤昭さんが、5月に旅した中欧5カ国で出合った植物とガーデンを綴る旅日記、後編をお届けします。
目次
東欧諸国の風景と植物
2019年5月に中欧5カ国の旅に出た。5カ国とはスロバキア、チェコ、ハンガリー、ドイツ、オーストリアである。世界遺産を見て回るのが目的で、特にガーデニングとは関係のない旅であったが、どうしても気になるのは、街角や世界遺産の宮殿で見かける庭や植物である。前編では、中欧5カ国の旅のハンガリーとスロバキアに触れたが、後半は3カ国目のチェコ共和国からご紹介したいと思う。
チェコの美しい街並みに咲くマロニエ

チェコの首都であるプラハというと、TVドラマの『のだめカンタービレ』のロケ地で有名だが、テレビで有名になったプラハ城の坂道と、ピアノコンクール決勝のスメタナホールは、観光先として押さえておいた。スメタナホールは、ラッキーなことに当日券が買えたのだ。


さて、前回も書いた通り、この旅ではニセアカシアやマロニエとよく出合った。プラハでも、日本ではあまり見かけないマロニエが彼方此方にあり、建物ととてもマッチしていた。



また、プラハでは、あまり花は見かけなかったが、市場でアザレアやペチュニアなどが売られていて、庶民的な風景を見ることができた。
ドレスデンに咲く花々

団体旅行は忙しい。プラハから、4カ国目のドイツのドレスデンへは日帰り旅行だ。ちなみに、プラハからドレスデンは片道およそ150kmである。

今回の旅行で見ることができた感動的な光景に、このバスの移動中に見た広大な菜種畑があった。視界いっぱいに果てしなく黄色い絨毯が広がるのだ。

植えられている菜の花は、もちろん菜種油用だ。生まれて初めて見る光景だった。菜の花だが、日本の菜の花よりも、少々小型のようだ。

ドレスデンは、建物がすべて黒くくすんでいて、天候の影響もあり一見すると少々暗い印象だった。しかし、街中で、こんな鮮やかなシャクナゲに出くわしたり、寒いはずなのに、地中海地方を思わせるオリーブやレモンの木があったりと、思いがけない出合いで暗い印象が一気に飛んでしまった。植物の持つ力は凄い。


また、ドレスデンの街では、前回記事の冒頭で触れた、サンザシもたくさん咲いていた。
世界遺産の街テルチ

再びチェコに戻って訪れたのが、世界遺産の街テルチ。この可愛らしい街に、これまた可愛らしい園芸店があった。季節のせいか、植物が日本の園芸店に比べ地味な印象である。



園芸店近くの道路沿いにあった花壇を映した一枚。個人的には好きですが、なかなか渋い植栽ですね。

そうそう、この街の雑貨屋で、こんなハンギングの鉢カバーも思い出土産に買ってしまった。今までも、海外を訪れたら日本にはない鉢カバーを結構買っているのだ。帰りは、この中に洗濯物を詰め込んで…。買い物も海外旅行の大きな楽しみである。
ミラベル庭園とハルシュタット

さて、次に訪れたのはモーツァルトの街、ザルツブルク。オーストリアに入り、旧共産圏とは異なる、明るさと洗練された文化を感じた。

ザルツブルクといえば、外せないのはミラベル庭園ですね。上はミラベル庭園にある、パンジーの平凡な花壇。

この高い位置に配されたポットがカッコイイ。



そして、芝生に唐草模様のように植えられたこのような花壇が印象的だった。

さて、次は塩で有名なハルシュタット。今回の旅で、ちょっと意外だったのが、このハルシュタットの景色。これが本物の南アルプスなのだ。まさか、こんな素晴らしい光景が見られるとは! 事前の勉強不足が、かえって大きな感動に繋がったのだ。

そして、このハルシュタットは洗練された街なのである。街中には、何となく和の雰囲気を感じる園芸店もあった。

店内には、ちょっと目を引く素敵なものがあちこちにあった。

これらは芸術品とは言い難いが、なんともユーモラスな置物たち。

ちょっと欲しかったもの。羊歯の支柱だろうか?

そして、街中ではこんなに巨大で素敵なイベリスの株を発見。

イベリスがこんなに大きくなるものだとは! 日本で大株栽培に挑戦したくなってしまった。

クレマチス・モンタナの絡む住宅。住む人がちょっと羨ましくなってしまう、素敵な佇まい。
ウィーンの風景とシェーンブルン宮殿

さあ、中欧5カ国の旅も残すところあとわずか。最終目的地はウィーンである。
今回の旅で、僕が最も楽しみにしていたのは、ウィーンフィルの新春コンサートが催されるウィーン楽友協会黄金のホールで、コンサートを聴くことだったのだ。チケットを事前に確保することができ、憧れの黄金のホールへ。演目のプーランクのオルガンコンチェルトのパイプオルガンの響きが、まるで夢の世界にいるようで、大満足だった。いつか、こんなホールで演奏してみたいものだ。

さて、今回の旅の庭のハイライトは、何といってもシェーンブルン宮殿である。

何しろ広い。この奥にはパンダのいる動物園もあるのだとか…。

この芝生の中の唐草模様のような植え込みは、ミラベル宮殿でも見られたが、花苗の数が少なくて済み、経済的で効果的? 全面花壇よりも、意外と管理が楽かもしれないなどと、余計なことを考えてしまう。

バラの季節には少々早かったが、満開時にはこの豪華な建物と相まって、その絢爛豪華な光景を想像するだけで楽しくなる。

ウィーンの街は、洗練されていて本当に素敵だった。自由時間が日曜日だったため、多くの商店は閉まっていたのだが、一際目を引いたのがフラワーショップ。あまりに素敵に見えて、思わずたくさんの写真を撮ってしまった。



僕は生け花の世界には疎いが、この中欧の旅では、あまり華やかな花に出合うこともなかったせいか、このウィーンの花がとても美しく感じられたのだ。

2回に渡ってお伝えした中欧5カ国世界遺産の旅は、いかがだっただろうか? 2018年に旅したコッツウォルズに較べれば、花に関しては地味な旅だったが、それぞれの歴史建造物と共に、長い間生き続けた樹木たちの存在価値を感じさせられた旅であった。帰国して、改めてまだ訪れたことのない、多くの日本の世界遺産と、その庭園や樹木の存在に興味が芽生えたのだった。
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -

えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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