トップへ戻る

自分の手で食卓をつくる 食と農にふれるコミュニティ「Edible Park 茅ヶ崎」

自分の手で食卓をつくる 食と農にふれるコミュニティ「Edible Park 茅ヶ崎」

自宅に庭がない人でも野菜作りに挑戦し、自分で育てた野菜を味わうことができる市民農園。土に触れる機会の少ない現代人にとって、子どもと一緒に畑作業を楽しみ、食材を自分で育てる「食育」の一環としても注目されています。そんな貸し農園の一つが、神奈川県にある「Edible Park 茅ヶ崎」です。運営メンバーの一人、石井光さんに、「Edible Park 茅ヶ崎」の活動について教えてもらいました。

Print Friendly, PDF & Email

「Edible Park 茅ヶ崎」ってどんな場所?

エディブルパーク茅ヶ崎

「Edible Park茅ケ崎(エディブルパークちがさき)」は、湘南・茅ヶ崎にある貸し農園。周囲をたんぼと畑に囲まれた気持ちのよい場所にあり、周囲に遮るものがないため、天気のよい日には富士山もきれいに見える、絶好のロケーションにあります。2017年にオープンした「Edible Park 茅ヶ崎」は、参加者みんなでつくっていく途上の農園。2019年現在、強風から野菜たちを守るために農園の周囲に植えた、風よけの植物が少しずつ育っています。

エディブルパーク茅ヶ崎

ここでは、無農薬野菜や果樹などを育てるのはもちろんのこと、ニワトリなどの農園の生き物と触れ合ったり、竪穴式住居をつくるようなDIYをしたり、火を使って新鮮野菜を調理したりと、昔の農家がしていたような、農的なこと全般について活動が行われています。また、「Edible Park 茅ヶ崎」では無農薬栽培・無化学肥料の採用に加え、炭素循環農法を取り入れています。

エディブルパーク茅ヶ崎
エディブルパーク茅ヶ崎
畑作業だけでなく、クラフト体験も。

畑作りの始まりは土ができあがっていない状態から。生き物や微生物を増やす、土作りから体感できます。土作りの作業をすると、前の年と比べて雑草の雰囲気が違っていたり、ミミズが多くなっているなどの発見があり、少しずつよくなっていることを感じることができます。

農を通じたコミュニティ

エディブルパーク茅ヶ崎

一般的な貸し農園の場合、個人で黙々と作業する場面が多いものですが、ここ「EdiblePark 茅ヶ崎」では作業も収穫も協働・共有の部分が多く、参加メンバー同士のコミュニティーがあるのが特徴です。作業日には参加者みんなで畑を耕し、野菜を世話して、収穫もみんなで分け合います。一人で全部やろうとすると行き詰まってしまいますが、それぞれの得意なこと、やりたいこと、好きなことを持ち寄れば、もっと作業が楽しく、やりやすくなるのではという考えのもと、みんなで共有の畑を育てています。例えば、耕すのが好きな人、草取りが好きな人、料理が好きな人、タネ播きが好きな人、火が好きな人、ニワトリが好きな人、絵を描くのが好きな人。いろいろな人が関わることで、コミュニティーが回っています。

エディブルパーク茅ヶ崎

「Edlible Park 茅ヶ崎」に参加するには、シェアメンバーとフルメンバーの2タイプの方法があります。シェアメンバーは共有の畑で、作業も協働し収穫も分け合います。フルメンバーはシェアメンバーの共有の畑+個人の5坪の畑を借りることができます。作業にあたって、必要なことは教えてもらえますし、また農業にまつわる講座も開かれているので、今まで植物を育てたことがないという初心者さんでも安心して始められ、実際に作業をしながら学ぶことができます。家族みんなでの参加もできますよ。

エディブルパーク茅ヶ崎
参加者みんなで作業終わりに記念撮影。

「Edible Park 茅ヶ崎」に棲む大事な仲間

エディブルパークのニワトリ

「Edible Park 茅ヶ崎」には、みんなで育てているニワトリが4羽います。生後10日からメンバーの家を回って育てられ、生後50日ほどから、今のチキントラクター(移動式ニワトリ小屋)で暮らしています。もう1歳3カ月で、10カ月ぐらい前から卵を産んでくれるようになりました。

エディブルパークのひよこ
卵から孵った頃のニワトリのヒナ。

「遺伝子組み換えや農薬のことを考え、ニワトリには市販の配合飼料を与えていません。千葉の多古町のお米農家さんからいただいた市場に出回らない米選下(くず米)や、また無人精米機からいただく米ぬか、畑を持っているお隣さんからいただいた葉物野菜の外側の葉っぱ、メンバーさんが持ってきてくれたシジミなどの貝殻を砕いたものなどを与えています。他にも、雑草や、カエルやコオロギ、バッタなども食べて育っています。雑草を食べるし、土をひっかいて耕してくれるし、鶏糞は土によいし、卵も産んでくれるし、とにかくいいことずくめ。それに可愛らしくて癒やされます。畑の大事な一員です」

エディブルパークの卵
産みたての卵。

市民農園に興味を持ったきっかけ

「Edible Park 茅ヶ崎」は、現在長谷享(トニー)さん、清水謙さん、佐々木美歩さん、石井光さんの4人により運営されています。発起人はトニーさん。ロケットストーブ作りなどのイベントの企画に携わっていた石井さんが、運営チームに加わったのは、2018年7月のことです。

エディブルパーク茅ヶ崎
「Edible Park 茅ヶ崎」での一コマ。畑作業だけでなく、DIYもみんなで行う。

小さい頃からテレビ番組『動物奇想天外』の千石先生のコーナーが好きで、両性爬虫類、特にカエルやサンショウウオ、クモ、トンボが好きだったという石井さん。

「昔は庭にもカエルやヘビがいたのですが、今はあまり見なくなってしまって。昔に比べて、身の回りの生き物が減っている気がしています。何でかなと考えた時に、これは人間の暮らしと自然の距離が遠くなってしまったからなんじゃないかなって。

大学では農学部に入って生態学を学び、研究室では奄美大島で森林伐採と虫とカエルの関係(生物多様性保全)を研究していました。その後、コミュニティーデザインに興味を持ち、生き物の世界だけでなく、人間の世界でもどうやったら多様性を保ち、いろんな人を幸せにできるのかということを漠然と考えていました。自然を守る活動(自然保護)を通して、分断されてしまったコミュニティーを再び育むことができるのではないか、と考えていたことを覚えています」

エディブルパーク茅ヶ崎

「休学してロンドンで8カ月過ごした時に、パーマカルチャーの存在を知りました。パーマカルチャーとはPermanent AgricultureまたはPermanent Cultureの略で、“持続可能な農のある暮らし”と訳されたりしますが、個人的には“生かし合う関係性のデザイン”ぐらいがしっくりきています。帰国後、パーマカルチャーデザインコースを受講して、これだ! と思いました。分断化、細分化されていく社会の中で現れた課題を解決していくには、パーマカルチャーで扱うような全体性が必要だと感じたのです。特定の地域を自然保護区にして守ることももちろん大切ですが、僕らの暮らしも少しずつ自然と寄り添ったかたちに変わっていく必要があるのではないでしょうか。

まだ日本ではパーマカルチャーは知名度も低く、“意識高い系”に見られがちな部分もあります。「Edible Park 茅ヶ崎」では、パーマカルチャーを意識して取り組むというより、試行錯誤しながらの実践を通して、気づいたらパーマカルチャー的なことをしていた、ぐらいがいいなと思っています。そもそもパーマカルチャー自体、新しい面もありますが、古くからの暮らしの知恵をまとめたものなのです」

パーマカルチャーと街づくり

現在、石井さんは「Edible Park 茅ヶ崎」の活動に加え、個人のプロジェクトとして、築52年の木造の平屋をDIYで改装する計画も進行中。大工さんに教えてもらいながら、そこをパーマカルチャーの要素(雨水タンクやパッシブデザイン、電気の自給など)を取り入れた住宅にする予定です。また、辻堂では、3年前からパーマカルチャーのデザインを取り入れた集合住宅の建築を徐々に進めています。ニュージーランドにある集合住宅「Earthsong」のような、身体的に心地よくて、食べるものが周囲にたくさんあり、福祉施設ではないが福祉的な機能も担い、地域にちょっとずついい雰囲気が滲み出すような集合住宅の造成が進んでいます。

「僕の家は昔からこの地に暮らしているため、小さいながらまだ土地を持っているのですが、土地を持っている人たちが、大きなマンションを建てたり、大手チェーン店に土地を貸したりすると、景観がどこにでもあるような街並みになっていくのが寂しいですね。

昔の農家のように、自然とつながった暮らしをすることで、街を、そして自然を豊かに美しくすることができるのではないでしょうか。丁寧に時間を重ねていく暮らしに憧れます。昔にそっくりそのまま戻ればよいというわけではないと思いますが、農的なこと、食のことなど、暮らしに関わることを取り戻していく人が増えると、街の景色が少しずつすてきに変わっていくんじゃないかなと思っています」

「Edible Park茅ケ崎」を体験してみよう!

エディブルパーク茅ヶ崎

「『Edible Park 茅ヶ崎』では、月に1度畑でごはんを炊き、みんなで育てているニワトリが生んだ卵をかけて、美味しい卵かけごはんを食べるイベントを行っています。このイベントはメンバー以外の方も参加可能。夏と秋には収穫祭が開かれます。また、満月の夜には、メンバーさんだけの一品持ち寄りのイベント「満月ナイト」も。夜の畑で焚火をしているだけでも、とても癒やされます。流石に寒い時期にはできませんが(笑」

ラベンダー

まだ発展途上の「Edible Park茅ヶ崎」。今後は、ハーブガーデンやブドウ棚、薪置き場、雨水タンク、ソーラーフードドライヤー、子どもエリアなどをつくり、より充実した農園作りを計画中。庭はないけれど野菜を育ててみたい人、パーマカルチャーに興味がある人、美味しい卵かけごはんを食べたい人など、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか?

Edible Park 茅ヶ崎(エディブルパークちがさき)
神奈川県茅ヶ崎市赤羽根1469
https://ediblepark.com/

談/石井光

Credit


インタビュー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

取材/3and garden 

Print Friendly, PDF & Email

人気の記事

連載・特集

GardenStoryを
フォローする

ビギナーさん向け!基本のHOW TO