「歴史に埋もれた自然の記憶を都市の空間へつなぐ」植物の文化を運ぶplants culture caravan vol.10
日常に豊かさと公園のような心地よさを提案しているparkERsが、観葉植物を日本の四季のある暮らしに取り入れる新しい植物の楽しみ方をご紹介するこの連載。今回は、parkERsの児玉絵実さんに、人と生態系の関係や、室内緑化において生態系を意識することの重要性などについて綴っていただきました。
目次
大名たちの庭づくりを想像してみよう
庭園づくりが盛んだった江戸時代、全国の大名たちはこぞって庭園づくりに夢中になっていました。心血を注いだ自慢の庭に客を招いて案内するとき、彼らはどんな話をしながら歩いたり、舟に揺られたりしたのでしょう?
それでは、大名たちが庭にどんな構想を描き、大勢の人を動かして大規模な庭園づくりを行ったのか、想いを馳せてみましょう。
古人が庭へ込めた郷土への愛と誇り
九州、熊本県の水前寺成趣園では、阿蘇の伏流水が湧き出る池を中心に青い芝を見ながら歩くことができます。借景に阿蘇山など自然の山並みを取り入れることで、庭をより雄大に感じる仕掛けがされていました。
中国地方、岡山県の岡山後楽園は園内に林をつくり、春には桜、秋には紅葉と季節を感じながら散策できる道をつくったそうです。さらに、庭園内に田んぼをつくり、実際に農作物を育てて、その作業風景も庭の景観として取り入れたといいます。どの庭園も自分たちの生まれた土地の自然の美しさを熟知していたからこそ、このような豊かな構想を描き、庭に実現できたのではないでしょうか。
きっとどの大名も自分の藩の自然を自慢しながら誇らしげに案内し、散策したに違いありません。
歴史に埋もれた都市の自然や文化を掘り起こす
さて、現代では、私たちは室内空間に植物を植えています。植える場所はさまざまで、外の見える所や高い所、地下空間に植物をレイアウトすることもあります。大名たちのように、そこにある自然を取り入れることはとても難しい環境で、大抵の場所が、もうすでにそこにどんな自然があったのか跡形もない都市空間になっています。
しかし、時を遡って調べると、そこには植物の歴史が必ずあります。例えば、東京は武蔵野台地と呼ばれ、大昔は一面がススキでした。そこに人が生活するための水路を掘ることで、水のある所に生物が集まるようになります。鳥が水を飲みに来た際に落とした種はやがて芽吹き、いろんな種類の樹が生い茂り、やがて人と共生する雑木林になります。どこから飛んできたのか、シダが樹木の下に生い茂って新たな植生となります。まさにplants cultureです。
東村山にあるマンションのラウンジには、その生命の成り立ちを感じる植物たちを植えました。シンボリックなparkERs treeの木漏れ日の下では、そこに自生しているシダやユキノシタなどの生命力と優しさに包まれることができます。
100年続く森の記憶を都会のカフェへつなぐ
“人が干渉しない永遠の森” 明治神宮は、100年前に人の手によってつくられた森です。時を経てたくさんの植物や生物が集まり、今や都会にありながらも完全に森になっています。街の喧騒は、鳥居を一つくぐるごとに鳥のさえずりや虫の鳴き声、風でそよぐ葉っぱの音に変化していきます。視界も段々と、緑と年月を感じる太い幹の重厚感ある色へと変わり、葉と葉の間から落ちる木漏れ日が風で動き、またとない景色を繰り返しています。その神宮の森へと繋がる表参道の地下のカフェにも、同じ感覚を生み出すことで、地下という限られた空間にも広がりが生まれ、豊かな時間のある場所ができるのではないかと考えました。
光や水、植物を使って、自然やそこから得られる感覚をギュッと凝縮したような空間をつくることで、先人の想いが少しでも多くの人の心に響き、この土地の植物の歴史や文化を知るきっかけになればと思っています。
日本庭園文化が頂点を極めた江戸時代、日本最初のランドスケープともいわれる明治神宮の森ができた明治時代を経て、私たちはその未来にいます。
この豊かな時間を通して植物の文化や技術を伝え、さらに繋いでいきたいと願います。
植物の本質を探求し続ける
私たちは日々実験を繰り返し、より外の空間に近づけるために、外の植物を室内で育てています。知識に縛られず、植物と向き合うことで、可能性を広げていきたいと思っています。
室内の植物を見て、触れて、植物を通じてその土地の記憶を感じてもらうことができれば、たとえ都市の限られた空間であろうとも、私たちのつくる空間も、その土地の植物文化を自慢しながら散策してくれる場所になるかもしれない。かつて大名たちが誇りを込めてつくった庭園のように。
今月の植木屋さん:エスペックミック
在来種の大切さを第一に考え、より扱いやすい仕様に生産し、進化させ続けているエスペックミックさん。景観としての植栽に限らず、その場所に興味をもってもらうイベントやきっかけづくりを一緒に進め、子供たちにも大人たちにも自然の楽しさと美しさを伝えています。コンクリートの河川際をエスペックミックさんのベストマンロール(植生ロール)に変えることで、景観だけでなく生物多様性が生まれ、子供の遊び場になり、また、災害に強い場所にもなります。
これからも一緒に生物と植物の関係を未来へ築いていく大切な生産者です。
エスペックミック株式会社
https://www.especmic.co.jp/
Credit
児玉絵実(kodama emi)
パーカーズ。プランツコーディネーター。
農学部を卒業後、切り花や造園、観葉植物、生産とあらゆる角度から植物に携わる経験を経て、現在室内から外構まで植物に関する幅広いプラン、デザインを担当。
植物と人との関係を園芸療法士の立場からもご提案し、「人と植物が気持ちよく生活できる空間」をご提供するために、企画から施工までお客様にとってベストな植物選びを心がけています。
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