お気に入りの品種を選ぼう! ユニークで美味しいエアルームビーンズの魅力

Photo/Friedrich Strauss/Stockfood
エアルームビーンズとは、古くから栽培されてきた伝統的なマメのこと。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんにとって、幼少の頃から自宅で栽培している野菜です。そんなエルフリーデさんに、エアルームビーンズの魅力について伺いました。
エアルーム(伝統)野菜とは
みなさんは、エアルーム野菜という言葉を聞いたことがありますか? エアルームは英語ではheirloom(家宝)と綴り、古くから伝わってきた伝統品種のことを指します。
流通している野菜のタネや苗は、おおまかに括ると3つのタイプに分けられます。1つはこのようなエアルーム品種、2つ目は2種類の品種を掛け合わせたF1品種のようなハイブリッド品種、そして他の植物の遺伝子情報を組み込んだGMO(遺伝子組み換え品種)です。それぞれのタイプの品種(タネ)には、それぞれメリットとデメリットがあります。
エアルーム野菜は、形質が固定化しているので、他のタイプとは違い、自分でタネを採っても、翌年また親と同じ性質の株を育てることができるのが特徴。また、見た目や味のバリエーションもとても豊かです。
先祖代々伝えられてきたエアルーム品種は、ある意味ではすでに何世代もの時間をかけた検証テストに合格しているようなもの。品種が長く伝えられてきた大きな理由に、味のよさがあります。美味しい実をつける株があったら、農家はその株からタネを採り、翌年も播いたり、他のガーデナーや農家と分け合ったりします。エアルーム野菜はこのようにして現代に伝わってきたので、とっても美味しい品種が多いのです。
一方で、エアルーム品種はスーパーなどではなかなか販売されているのを見かけません。その多様性から単一生産的な栽培に合わず、大量生産には基本的に向かないためです。珍しいエアルーム品種を見つけたら、ぜひ手に取ってみてくださいね。
個性的で美味しい
エアルームビーンズ

さて、今回私がご紹介したいのは、エアルーム品種のマメ類です。ドイツで暮らしていた子どもの頃、家には強い風や遅霜から守るために生け垣に囲われたキッチンガーデンがあり、両親はそこで毎日の食卓に並ぶ野菜を育てていました。その頃から、私が一番好きな野菜の一つがマメ類なのです。
私の家で育てていたマメは、基本的にはエアルーム品種でした。エアルーム品種は味がよく、我が家のベジタブルガーデンの土壌環境や気候によくフィットしていたためです。
マメもサヤもユニークで見た目も楽しい

エアルームビーンズはとても表情豊か。サヤの色一つとっても、イエローがかったものからさまざまな種類の緑色、青色がかったもの、紫色のものまであり、それも単色から縞模様が入るものまであります。マメの色もユニークで、白、緑、茶色、赤っぽいものなどなど。形もインゲンマメらしいくびれたものや、丸いものまでさまざまです。この多様性が、ガーデナーにとっては栽培を面白くしてくれるものでもあります。
もちろん、美しい花も忘れてはいけません。赤花や白花、そして赤と白の複色など、色鮮やかな花が、キッチンガーデンを彩ってくれます。

個性的なエアルームビーンズには、インゲンだけでも例えば ‘Canadian Wonder’や‘Cupidon’、‘Major’、‘Maxi’などがあります。これらは低く茂ってあまり大きくならない品種。‘Maxi’は私の家でよく育てていたもので、緑色のサヤを実らせ、早くから収穫でき、生育もよくて簡単に栽培できる、お気に入りの品種です。
一方、長くつるを伸ばす品種は、‘Blauhilde’、‘Neckarkönigin’、‘Trebona’など。つる性のマメも、工夫次第であまりスペースが無くても栽培することができます。‘Blauhilde’は見た目も美しい品種で、紫の花に長い紫色の実をつけ、これを塩水でゆでると緑がかった色合いになります。‘Neckarkönigin’は、「ネッカー川の女王」という意味。ネッカー川はドイツを流れる川の名前です。20cmほどの長さの、大きな緑色のサヤを実らせることから命名されたのでしょうか。
育てやすいマメ類は
キッチンガーデンにオススメ

マメの栽培で楽しいことといえば、春にその大きなタネを地面に植えること。周囲に4つ、中央に1つの、5つのタネが入るような大きめの穴をつくり、タネを播いて土を被せておくと、数日後には、しっかりとした芽が顔を出します。発芽率がいいので、思った通りにちゃんと芽を出してくれるのが嬉しいですね。
芽の成長はとても速く、数日経つとすでに葉を茂らせ始めます。私の家でよく育てていたのは、低く茂ってあまり大きくならないタイプ。緑のサヤを付けるこの品種は、収穫時に茎葉の中から実を探し出すのがなかなか難しく、特に若いうちに採るのは難しかったことをよく覚えています。黄色いサヤを付けるマメなど、カラフルな品種は、緑のものに比べて簡単に見つけて収穫することができました。収穫が最盛期を迎えると、一時に採れすぎてしまって食べきれないので、ガラスの保存ビンに入れて冬のために取っておいたものです。少し火を通して冷凍することもよくありました。

エアルームビーンズを栽培していると、秋には栽培した苗からタネを採ることができます。そこで、好きな品種のタネを採っておけば翌年も楽しむことができますし、同じようにエアルーム品種を育てている人とタネを交換すれば、より面白い品種を手に入れることができるかもしれません。タネはたくさんできるので、ガーデナー友達と、栽培ストーリーや美味しいレシピと一緒に交換会をするのも楽しいものです。タネや苗、ストーリーを共有するのは、コミュニケーションの一環としてもオススメですよ。
簡単で美味しい!
ドイツ風のマメレシピ

私の好きなマメのレシピを、いくつかご紹介しましょう。どれも簡単につくれて美味しい料理なので、ぜひお試しください。
バタービーンズ
マメを塩水でゆで、水をよく切って溶かしバターで和えます。
ビーンズ&ベーコン
マメは塩水でゆでて水をよく切っておきます。ゆでたマメ5粒ほどをベーコンでくるりと巻いて、フライパンで焼きます。ふかしたポテトと一緒にどうぞ。
マメのサラダ
塩ゆでしたマメを、温かいうちに刻んだタマネギと一緒にビネガードレッシングに漬け込んで、ピクルスのように味を染み込ませます。さっぱりしているので、夏にオススメの味わいです。他に、チキンと一緒に食べたり、ポトフに入れたりしてもとても美味しいですよ。
工夫次第でマメ栽培をもっと楽しく

つるを伸ばすタイプのマメ類は、仕切りに使ったり、緑のカーテンにしたりと、ガーデンではいろいろな形で育てることができます。コンテナで育てる時は、三角柱の形に支柱を設置して誘引すると、オベリスクのようで見た目も素敵。私は今年、つる性のマメ類を数種植えて緑のカーテンに仕立てました。収穫後は、葉が黄色くなったり病気が出やすいので、十分に堪能したら抜いてしまうつもりです。

キッチンガーデンで育つマメは、子どもたちにも大人気です。つる性のマメを使って、ガーデンに小さな緑のテントをつくってみるのも楽しいものですよ。屋外での日陰にもなりますし、マメがアッという間に成長していくのを観察する機会にもなります。マメの日陰に腰をおろして、「ジャックとマメの木」の世界なんかを想像してみるのもいいですね。このお話は世界中で有名ですが、ドイツでももちろんよく知られています。
子どもだけでなく、大人にとっても、時にゆっくりと空想にふけるのは素敵なこと。マメが大きく成長し、青い空に向かって伸びていく…。そんなさまを思い描いてみてはいかがですか?
ところで最近、ドイツでは日本の枝豆が人気を集めています。もっとも、枝豆をビールと一緒に楽しむのはまだ一般的ではありませんが、もう数年すると、ドイツでもそんな光景がよく見られるようになるかもしれませんね。
Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/Friedrich Strauss/Stockfood
取材/3and garden
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