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タンポポと春の野原の味わい ドイツ流・ハーブと野草の楽しみ方

タンポポと春の野原の味わい ドイツ流・ハーブと野草の楽しみ方

© StockFood / Moskalenko, Nika

日本の野草や山菜といえば、フキノトウやツクシ、ヨモギなど、たくさんのものが思い浮かびます。では、海外ではどうでしょう? ここでは、春のドイツの野原を彩るセイヨウタンポポをはじめとするドイツ風の野草やハーブについて、そのストーリーとレシピを、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに紹介していただきます。

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ドイツの春の野原を染める
黄色いタンポポ

タンポポの野原

毎年5月になると、ドイツ中のあちこちのメドウ(野原)が、まるで美しい絨毯のように黄色く染め上げられる光景が見られます。この光景をつくり出す黄色い花は、ほとんどがセイヨウタンポポで、ラナンキュラスが少し混ざっていることもあります。これらの花は晴れた日にしか開かず、また短い期間しか楽しめない特別な光景です。

このような草原では牛たちが飼われていることが多く、のんびりと草を食んでいたり、外の空気を楽しんでいたりします。冬に向けて上質な干し草を手に入れるためには、この時期の野原の緑はとても重要。農家の人々は野原の芝をいつもよりも長く伸ばし、それから機械で刈って、3~4日干して乾燥させます。乾いたら干し草のでき上がり。動物たち、とくに牛に与える大切な食料として、冬になるまで貯蔵されます。そんな事情もあって、この美しい黄色い花の絨毯を見られる最高のチャンスが5月なのです。

ハーブの一種として親しまれてきたセイヨウタンポポ

セイヨウタンポポの学名はTaraxacum officinale。officinaleやofficinalisというワードが含まれている植物は、多くの場合薬用のハーブとして使われているということを意味します。有名なものではラベンダーやセージ、ローズマリーなど。セイヨウタンポポもまた、多くの目的で利用されています。

ちなみにセイヨウタンポポはドイツ語ではLÖWENZAHNと呼び、LÖWEはライオン、 ZAHNは歯の意味です。英語のDANDELIONの語源も同じく、フランス語で「ライオンの歯」を意味する言葉から。葉の形がギザギザしていることからこの名前になったそうですよ。

ドイツには、健康への意識が高い人々が多く、またスローフードの運動も行われています。そのような環境も手伝い、かつてセイヨウタンポポの根は自家製コーヒーを淹れるのに使われていたと母から聞きました。日本でも同じような例がありますね。

タンポポの葉は春の味

タンポポの料理
© StockFood / Cölfen, Elisabeth

セイヨウタンポポが食用に活用できるのは、根だけではありません。もっとも、子どもの頃は、セイヨウタンポポをハーブとして利用した記憶というと、柔らかな若い葉を摘んで、ウサギや馬、ヤギにおやつとして与えていたことぐらい。タンポポの茎から流れる白い乳液もまた、なかなか忘れがたい厄介なものです。手についたら汚れが落ちるまで何度も洗わなくてはなりませんし、もし洋服についてしまったら、もうどうしたって落ちないのです!

そんなタンポポですが、最近では、若葉や花をサラダに入れたり、パスタのソースに使ったり、ディップを作ったり、パンに混ぜ込んだり、細かく刻んでサラダのドレッシングに入れたりと、さまざまな料理に活用されるようになっています。また、タンポポにはミネラルが豊富に含まれているといわれ、健康への効果も期待されています。

タンポポの花や葉には少し苦みがあるので、万人受けする味ではなく、好き嫌いが分かれますが、さて、あなたはどうでしょうか?

タンポポの料理
© StockFood / Moskalenko, Nika
タンポポを家庭菜園
テラスでの家庭菜園で、キャベツやサラダ菜とともに、セイヨウタンポポを育てる人も。

タンポポの花で作る黄金色のシロップ

タンポポのシロップ

また、タンポポの花は、LÖWENZAHNSIRUP というシロップの原料にもなります。タンポポの花と砂糖で作る甘い黄金色のシロップで、はちみつの代わりに使うこともできます。どこでも手に入る、というほどポピュラーなものではありませんが、野草や健康に興味のある人が多いドイツでは、手作りする人も結構いますよ。

原料&レシピ

  • タンポポの花 300g
  • 水 1ℓ
  • 砂糖 500g
  • レモン 1個

タンポポの花を収穫したら、丁寧に優しく洗って緑の萼部分を取り除きます。洗った花は水1ℓとともに火にかけ、30秒ほど沸騰させたらすぐに火を止め、蓋をして一晩おきます。一晩たったらザルなどにあけて漉し、花をぎゅっと絞ってエキスを絞り出します。漉した液に、砂糖とレモンの絞り汁を加えて再び火にかけ、好みの濃さになるまで煮詰めてシロップの完成です。

セイヨウタンポポを食べるときのポイント

花を収穫するときは、近くに道路や環境汚染がない場所で採取しましょう。お昼ごろ、花々が完全に開いたタイミングで収穫するのがオススメです。また、花や葉を食用とする時は、虫を見落とさないよう注意して洗いましょう。

春のドイツは野草の季節

春のドイツの野草
セイヨウタンポポやイラクサ、オオバコ、ベロニカ、カルダモン、ニオイスミレ、スイバなど、ドイツの春の野草やハーブをテーブルに並べて。

ドイツには、セイヨウタンポポのほかにも、日々の暮らしに役立つ野草がたくさんあります。特に気温が上がり、植物たちが勢いよく緑を茂らせる春から初夏にかけては、摘んだ野草やハーブ類が食卓に登場することが多い季節。春のドイツの野草を少しだけご紹介しましょう。野草やハーブを食べる時には、少量にして、食べすぎないようご注意を。

BRENNESSEL /イラクサ

日本ではなじみが薄いかもしれませんが、イラクサはドイツではとてもポピュラーな野草。これにまつわるエピソードもたくさんあります。イラクサは草原や、あまり手入れされていない空き地などに育っていることが多く、虫たち、とくにミツバチにとっては重要なものになっています。しかしながら、私にとってはある意味「敵」ともいえる存在でした。

子どもの頃、短いズボンや裸足で野原を駆け回っていると、「痛っ!」と、突然鋭い痛みが走り、足がピリピリと傷むことがありました。原因はこのイラクサ。イラクサは葉、特に葉の裏側に、目に見えないほど細かな毛のようなトゲを持ち、肌に触れるとそれが折れて、かゆみや痛みを伴った炎症や湿疹ができてしまうのです。

とはいえ、イラクサはドイツの人々にとって生活に欠かせない存在です。

イラクサの若葉から作ったハーブティーは、膀胱感染症に効果があるといわれ、また髪のケアやデトックスにもよいといわれています。このハーブティーには、ビタミンAや鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムなどのビタミンやミネラルも豊富に含まれています。

ドイツでは、イラクサは5月から9月頃にかけて収穫することができます。利用するのは若葉のみですし、一度採ってもすぐにまた伸びるので、長く楽しむことができますが、やはり春の若葉が一番。手袋をして、葉だけをハサミで切り取って収穫します。収穫後は葉のトゲを抜き、乾燥させて貯蔵します。

イラクサのお茶を飲む際には、ティースプーン2杯分の乾燥させたイラクサの葉に、沸騰したお湯を注ぎ、10分間抽出します。デトックスのためには、1日あたり250ccほど、数週間飲み続けるとよいでしょう。きれいな淡い緑色のお茶ですよ。

イラクサはハーブティーだけではなく、さまざまな料理にも活用できます。若葉を細かく刻んでクリームチーズと混ぜ合わせ、イラクサチーズを作ってもいいですし、30gのイラクサの葉を、50gの小麦粉と卵1個、125ccの牛乳と塩少々に混ぜてパンケーキを焼くこともあります。若葉をホウレンソウのように使い、さっとゆでた後に塩コショウを加えてミキサーにかけ、生クリームと合わせれば、美味しいポタージュのでき上がり。ここでご紹介したのはほんの一部で、ほかにもいろいろな料理に活用できる野草です。

GUNDELREBE/グレコマ(カキドオシ)

グラウンドカバープランツとしてガーデンでよく使われるグレコマもまた、ドイツでは野草として使われます。もっともイラクサほどよく使われるわけではありませんが、ハーブバターやハーブヨーグルトの素材として使うことができます。

春一番を味わうドイツの野草スープ

ドイツには、春になると野草を食べる次のような習慣があります。” MAUNDY THURSDAY” ( Gründonnerstag)と呼ばれるイースターの前の木曜日に、” KRÄUTLSUPPE”という、春一番の野草のスープを味わうのです。日本でいう七草粥に近い習慣かもしれませんね。

さて、この野草スープには、基本的に次の9種類の野草ハーブが使われます。

  1. セイヨウイラクサ(Brennessel, Urtica dioica
  2. セイヨウタンポポ(Löwenzahn, Taraxacum officinale
  3. イワミツバ(Giersch , Aegopodium podagraria
  4. セイヨウノコギリソウ(Schafgarbe , Achillea millefolium
  5. ラムソン(Bärlauch, Allium ursinum
  6. グレコマ(Gundelrebe, Glechoma hederacea
  7. ヘラオオバコ(Spitzwegerich, Plantago lanceolata
  8. スイバ(Sauerampfer, Rumex acetosa
  9. ルッコラ(Rauke, Eruca vesicaria ssp. sativa

これらのハーブから作った野草のスープは、その年の健康とエネルギーを与えてくれるといわれています。上記以外の野草を使ったレシピもあり、また最近ではチャービル、デージー、クレソン、チャイブにホウレンソウ少々で作ることもよくあります。スープの作り方は以下の通りです。

材料&レシピ

  • ミックスした春の野草 合わせて150g
  • バター 大さじ5杯
  • 小麦粉 大さじ3杯
  • 野菜ベースのブイヨン 1ℓ
  • 生クリーム 125cc
  • 塩コショウ 適量

野草は洗って細かく刻んでおきます。鍋にバターを入れて火にかけて溶かし、そこに小麦粉を加えて混ぜます。ブイヨンを加えて塩コショウで味を調えたら、みじん切りにしたハーブを加え、煮立ったら生クリームを加えて完成です。新しい春を迎えるのに欠かせない、野草のスープのでき上がり。生クリームにプラスして、健康でエネルギーをくれる卵の黄身を加えるのもいいですよ。

思い出の中のタンポポの風景

タンポポ

私の親しくしている友人が、以前、小さな美しい教会で結婚式を挙げた時のこと。教会は野原の真ん中にあり、教会に向かって続いているのは、小さな一本の道だけ。周囲には何もないところでした。式の日取りは5月で、周囲のメドウは満開のタンポポの花に覆われていました。後にも先にも、これほど美しい野原の光景を目にしたことはありません。

それは有名なノイシュバンシュタイン城にほど近いCOLOMANという名の教会でした。多くの日本人観光客がその付近へドライブや観光に行きますが、おそらくこの美しい景色を見たり、想像だけでもしたことがある人はほとんどいないでしょう。記事を読んだみなさんが、この素敵な場所に思いを馳せてくれたらいいなと願っています。

Credit


ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/Friedrich Strauss/Stockfood, Stockfood

取材/3and garden 

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