鉢や植物の選び方によって、雰囲気がガラリと変わる寄せ植え。ここでは、一点一点オリジナルの鉢を作る陶芸家と、その作品に合わせて植物を寄せ植えする制作家によるユニークな試みと、作品が生まれるまでのストーリーをご紹介。自身も自宅のバルコニーで、バラをはじめとする数々の植物を育てるガーデニング愛好家で、写真家の松本路子さんがレポートします。
存在感のある植木鉢との出合い

数年前『更紗 いのちの華布』という本を出版し、東京・目白にある古民家ギャラリーで出版記念展を行った。その時、お祝いの品物として届いたのが陶器の植木鉢に寄せ植えされた花々。
植物のアレンジの見事さと同時に、私が目を見張ったのはダイナミックな鉢の存在感だった。独創的なフォルムでありながら、屋敷の入り口に長年置かれてあったかのようにその場に馴染んでいた。
お客様を出迎えるウェルカムフラワー

陶器の鉢は今、私の自宅マンションの玄関脇にあり、ウェルカムフラワーの寄せ植え鉢としてお客様を迎えている。鉢の作者は、陶芸家の清水順子さん。お祝いにいただいた寄せ植えのアレンジは、秋田緑花農園の秋田茂良さん。二人は東京・日本橋のギャラリーで「風にのって 花・器らくらく二人展」という展示会をこれまでに3回ほど開催している。オリジナルの植木鉢と植物の寄せ植えの展示会は、ユニークな試みではないだろうか。
草花が好きで植木鉢をつくった!

秋田緑花農園には何度かお邪魔し、秋田さんのつくった市民のための庭「タネニハ」で寛いだ時間を過ごしている。今回はかねてより念願の清水さんの自宅兼工房を訪ねた。

東京の多摩地区東部、東久留米市の閑静な住宅街にあるご自宅の庭には草花があふれていた。「ミヤコワスレやワスレナグサなど、野の花の風情を持つ花が好き」という。最初は鉢カバーをつくっていたが、やがて好きな植物に合った鉢が欲しいと、植木鉢の制作に取り掛かった。
陶芸を始めて30年

中学校の教師だった清水さんが陶芸を始めたのは、約30年前のこと。最初は陶芸教室に通いながら、食器や花器をつくっていた。本格的に取り組むようになったのは、現在の家に移り住んだ22年前から。自宅内に作業場をつくり、庭の一角に陶器を焼くガス窯を設えた。10年前に定年退職してからは、陶芸中心の日々を送っている。
庭で楽しむ植木鉢

家の庭は落合川に面していて、川堤の桜の巨木がすぐ近くまで枝を伸ばし、深い緑に囲まれている。窯の前にはいくつかの植木鉢が並んでいた。なかでもユニークなのは豊かな胸の女性のトルソーを模った鉢。パンダすみれの細い枝が、黒い釉薬の器に絶妙な曲線を描いている。

バスケット形の器にはクローバーの葉が。どっしりとした重量感と軽やかさが同居して、幸せな感じがあふれている。白い釉薬の鉢には鮮やかな青色のベルフラワー、縄文土器を模った器にはミヤコワスレが、それぞれに調和した姿を見せている。縄文土器風の器は試作品で、これから本格的に取り組んでいきたいという。
器と寄せ植え植物とのコラボレーション

そんな清水さんが秋田さんと出会ったのは今から6年前。
「それまで器だけの個展を20回以上続けてきましたが、秋田さんの寄せ植えを見て、ぜひ一緒に展示したいと思いました」。
以来、2014、2015、2018年と、3回にわたり二人展を行ってきた。

出展された鉢はいずれものびやかで、鋭い三角錐の鉢も2~3個つなげることで、飛び立つ翼のようにも見える。また、コロンと丸みを帯びた器は、作者のおおらかさと温かさを感じさせるものだ。

秋田さんは清水さんの鉢の魅力を「とにかく個性的で、こちらの感性を刺激してくれます。大地を思わせる安定感も感じます」と語る。
「寄せ植えを始めた頃、自分の個性をどのように表現していいか分からなかった時に、ずいぶんと助けられました。器に添って花を組み合わせるだけでオリジナリティーが生まれてくるのです」。
さらに「焼き物だからでしょうか。植えた植物がとても元気に育ちます」と続ける。
寄せ植えアレンジのコツ

この日の撮影のために秋田さんが届けてくれたのが、清水さんの大鉢にアレンジした寄せ植え。赤と黄色のラナンキュラス「ラックス」にハーブゼラニウム、ブラキカムなどが配されている。
「アレンジのコツは対照を考えることです。色、形、感情など、表現したいイメージの要素はたくさんありますが、自分のイメージだけでつくり上げるのではなく、少し対照的な要素を取り入れる、そんな気持ちの余裕を持つことですかね」。

「例えば全体を落ち着いたトーンの花でまとめたい時には、明るめの色をどのくらい加えたらよいか、また自分の感情がポジティブな時にはあえて暗めの花を差し色にする、などと考えます。そうすると形に重層感が生まれます」。

「まん丸い葉には直線的な葉の植物を合わせたりして。面白いことに目に見える形が違う植物同士を組み合わせると元気に育ちます。形が違うと根の張り方も違うし、かかりやすい病気も違うので、結果としてうまく育つのでは、と仮説を考えています」。

「基本は植物を優しく扱い、よく観察すること。それが楽しみながら寄せ植えを上達させるコツではないでしょうか」。
農園でさまざまな草花を愛しみ育てている秋田さんならではのアドバイスだ。
これからの展示について

二人展に際して、当初秋田さんはギャラリーでの展示への不安から、負担を感じる部分もあったという。だが蓋を開けてみると、想像以上に花に対して興味を持ってもらえ、不安が喜びに変わったそうだ。

2019年秋にも、前3回と同じ日本橋のギャラリーでの展示が予定されている。清水順子さんは「今後、縄文土器のように土と火の力をより醸し出す作品をつくりたい」と語る。秋田茂良さんは「器とぴったり合う草花だけでなく、意外性が感じられるアレンジにも取り組みたい」と意欲的だ。

オリジナル陶器の植木鉢と草花たちのハーモニーがどんな音色を奏でるか、今から楽しみにしている。
Information
「風にのって 花・器 らくらく二人展」
日程:2019年11月5~10日
会場:ギャラリー日本橋 梅むら
東京都中央区日本橋室町1-13-1 梅むらビルB1
お問い合せ:info@kaobana.com (秋田緑花農園)
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Credit
写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-20年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
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