「室内にも水と植物の織りなす風景を」〜植物の文化を運ぶplants culture caravan vol.5

日常に豊かさと公園のような心地よさを提案しているparkERsが、観葉植物を日本の四季のある暮らしに取り入れる、新しい植物の楽しみ方をご紹介するこの連載。
日本の文化には移り変わる季節に合わせた行事や習わしがたくさんあり、日本人はそれらを大切にして暮らしてきました。慌ただしい毎日に、その時旬の花や自然の情景を取り込んで、日本人らしく植物と生きる考え方を未来へ運びます。

目次
水辺の風景〜植物が育ち、人が集まる豊かな空間〜


「水穂の国」という言葉をご存じでしょうか?
日本を例えた美称の一つで、特に「古事記」で使われている言葉です。水で満たされた水田が稲の穂で染まった時、日本人は豊かさを感じた、という背景から生まれた言葉のようですが、意味を知ると確かに揺れる稲穂と水面の風景が目に浮かびますし、心が温まる気がします。日本庭園は「池泉・枯山水・露地」の3つに大別されますが、いずれも水の要素が入っていますね。現代のランドスケープや公園でも、水辺は私たちの憩いの場として必要な空間です。
このように日本人は、昔から水と植物が織りなす風景を愛する心と文化を持っています。
上の写真は、深い緑とコケに覆われた、青森県の奥入瀬渓流の清らかな風景です。
私たちparkERsでは、こういった水辺の風景を室内にも取り込むことで、観葉植物の価値を上げ、より豊かな時間を過ごせる空間を目指し、デザインしています。

水の動きと音の効果 〜植物の魅力を五感に響かせる〜

日本の文化は、水の恵みと植物の風景を大切にしてきました。現代の室内緑化においても水辺を表現することは、とても意味のあることです。
水の効果の一つは、やはり“リラックスできる”こと。自然の水音には、副交感神経を優位にする作用があるといわれていて、水音の持つ独特のリズムを「1/fのゆらぎ」と呼びます。田舎出身の私は満員電車での通勤が苦手ですが、オフィスに着くとまずこの水音が耳に入ります。そうするとリフレッシュして一日をスタートさせることができるので、実体験としてこの効果をとても感じています(Vol.1の記事でも、私たちの作るオリジナルの水什器をご紹介しています)。
そしてもう一つは、水の動きがあることで、そこに寄り添う植物の存在感も増し、人の記憶により深く残ることです。照明で反射した水の動きが植物の葉に映り込む様子は、とても美しいものです。
聴覚と視覚、涼しさなど、五感で植物を感じられることは、自然の中では当たり前。しかし室内では特別なことかもしれません。だからこそ、そういった“水辺の空間”をあえてつくることが大切なのです。

暮らしの豊かさを広げる“水景”の楽しみ方

水中にも植物はたくさん存在しますね。いわゆる水草です。上の写真は、観葉植物のシェフレラと、水槽の流木を合わせて配置し、水槽から室内緑化に繋がるような風景をつくったものです。水中には魚も泳いでいます。こういった空間を、私たちは“水景”と呼んでいます。
日本では江戸時代、ハスの観賞が盛んになり、この頃からメダカや金魚といった魚と水草を、庭先や室内の水槽で育てることがブームになったようです。最近でも、水草水槽をインテリアとして生活に取り入れることが流行っていますね。
水草は、条件を整えれば種類によって比較的簡単に育てられます。水に揺れたり、葉からプクプク気泡が出る様子など、見ているだけでも十分に魅了されます。さらに上述のように、観賞魚を入れてみるとそこに生態系が生まれ、それを愛でる気持ち、「共生」の意識が芽生えることで、私たちの過ごす時間はさらに豊かになると感じています。これが水景のもたらす効果です。
下の写真は、大きな水槽で川魚、植物、イチゴの栽培と、観賞・育成栽培を同時に行う仕組みを取り入れた「アクアポニックス」というものです。きちんと生態系のバランスが整うことで、水質を保ち、栄養も循環させることができます。
人と植物、さらには魚などの生き物、そして水。それぞれが繋がる空間は、「室内緑化の生態系」といえるかもしれません。私たちparkERsは、「水穂の国」の文化を継承すべく、“水と植物のある風景”を、この先もさまざまな形でデザインに取り入れていきたいと思います。


今月の植木屋:自生種から水草まで…植物の在り方から考える生産者「下田園芸」

東京・西東京市にある下田園芸さん。その土地に本来存在する自生種栽培を主に、日本では少ない水草生産、果樹の栽培研究など、幅広い知識と探求心で植物と向き合っています。
本来あるべきその土地の植生を自身で調査し、種子採取から育苗まで行い、長期間の都市計画に必要な植物生産とプランニングを実施。日本でも数少ないハスも栽培しています。
生産者であると同時に、その姿勢はまるで植物学者のよう。
植物と正面から向き合い、研究を続けている下田さんのお話を伺っていると、未来に繋がる都市の緑と私たちの豊かな生活のヒントを得られる気がして、いつもワクワクしてしまいます。


併せて読みたい
・「植物と人が共に過ごす時間づくり」〜植物の文化を運ぶplants culture caravan vol.4
・植物の文化を運ぶplants culture caravan vol.3 「壁面の緑は、“植物を愛でる暮らし”をつくる」
・植物の文化を運ぶ plants culture caravan vol.2 「300年前の文化を蘇らせよう」
Credit

森 大祐(Daisuke Mori)
学生時代、野生動物や植物群落の生態調査、マングローブの栽培研究を通し、自然生態系について学ぶ。大学院修了後、建築系企業でLED野菜栽培の研究等を経て、parkERsへ入社。メンテナンススタッフとして室内緑化の育成経験を積み、プランツコーディネーターになる。人と植物、両方が共に育つ豊かな時間を過ごせる空間作りを目指している。
https://www.park-ers.com/

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