心静かに家族と過ごす ドイツのクリスマス・イヴとクリスマスツリー
もうすぐクリスマス。大切な人と過ごしたい日がやってきます。日本では恋人や友人と楽しむことも多いクリスマスですが、ドイツではクリスマスの日は家族で静かに楽しむのが一般的。クリスマスの日に欠かせないクリスマスツリーのエピソードと、キリスト教徒の多いドイツならではのクリスマス・イヴの過ごし方を、ドイツ出身のエルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに伺いました。
目次
ドイツ人の過ごすクリスマス
クリスマスは、一年で最も特別な日。ドイツでは、クリスマスの訪れを待つ4週間のアドベントがあり、この期間はクリスマスクッキーを焼いたり、家を掃除したり、クリスマスプレゼントやデコレーションの買い物をしたりといった準備でとても忙しく、同時にワクワクと心躍らせながら過ごします。そして、アドベントが終わると、待ちに待ったクリスマスがやってきます。今回は、クリスマスには欠かせないクリスマスツリーと、私流のクリスマス・イヴの日の過ごし方をご紹介します。
特別な日にふさわしい、特別なツリー選び
クリスマスに欠かせないのが、なんといっても飾りつけたクリスマスツリー。クリスマスツリーを飾るという習慣は、キリスト教が広がる中でゲルマン民族の樹木信仰を取り込んで生まれたといわれ、18世紀頃にはすでにクリスマスツリーとして飾られていたそうです。現在のドイツでは、毎年、約2,500万本のクリスマスツリーが販売されています。
子どもの頃、私の家では、クリスマスツリーを飾るのは遅めで、ツリーを準備するのは22~23日頃でした。ツリーはもちろん本物の木。ドイツの家には小さな林があったので、ツリーを飾る前には父と私たち子どもが森へ行き、その年のクリスマスツリーとなる木を切って飾っていました。クリスマスツリーとして、自分で切った生きている木を使うと聞くと、日本の方はちょっとびっくりするかもしれませんね。
さて、このクリスマスツリー選び、じつは毎年とても大変な作業でした。というのも、私の住んでいる地域はクリスマスツリーに向く針葉樹の生育に適した地域ではなく、木材になるような大型の木に適した地域だったので、ツリーにぴったりの形と大きさを持った木を選ぶのが難しかったためです。候補になる木を選ぶまでには、毎回時間がかかりました。それで、時には、父が一本だけ適当な木を切ってくるだけのこともありましたが、そうして選ばれた木は、クリスマスツリーにぴったりの木とはいえません。そのような場合は、少しでもよく見せるために正しい向きと飾り付けをすべく奮闘する必要がありました。後年になると、これらの苦闘を回避するために、ツリーはクリスマスツリーになる木を育てていた隣人から購入するようになりました。この隣人の持つ林では、クリスマスツリーに向く木ばかりが育っていて、私たちは「クリスマスツリー工場」なんて呼んでいたこともあります。ともかく、こうしてパーフェクトな美しいクリスマスツリーを簡単に手に入れ、しかも家まで運んでもらえたので、クリスマスの準備がずいぶんとラクになりました。
ドイツでは、このように本物の木を使ったクリスマスツリーを購入することが一般的です。さまざまなサイズや形のクリスマスツリーを販売している場所がドイツ各所にありますし、またクリスマスが近づくと、町にはクリスマスツリーのマーケットが立ち、多くの人がじっくりと選びながらツリーを買い求めます。以前、ツリーの販売をする会社で働いたことがありますが、その会社では駐車場を使ってツリーを販売していて、クリスマスが来る前に売り切らなければならなかったのが大変だったものです。
こうして販売されている場合でも、クリスマスツリー選びは難しいもの。基本的に屋外で販売されているため、売り場で見た時と、実際に室内に飾った時とで、印象やサイズ感がまるで異なります。特にクリスマスツリーを購入する際に失敗しがちなお客さんは、家族全員でクリスマスツリーを選びにくるパターンで、大抵まともな議論が聞かれることはありません。一番よいツリーを選んでいくのは、じつは一人で購入しにくるお客さんでした。
ドイツではこのように大きいツリーを購入するのが一般的でしたが、最近では住環境も変化しつつあり、小さなツリーや人工のツリーを飾る家庭も増えています。ツリーを選ぶ際には、自分の家に合ったサイズや種類の木を選ぶのが一番大切。自分にぴったりのものであれば、大きくて立派なツリーにこだわる必要はありません。ただ、ぜひ生きた木を使ってみてほしいと思います。
本物の木を使ったクリスマスツリーは、香りがよく、生命力もあって、クリスマスらしさをいっぱいに感じることができます。私は今でもクリスマスの時期になると、あのチクチクとした葉の感触や、世界に一つしかないオリジナルな形を持った幼少期のクリスマスツリーを懐かしく思い出します。
最近ドイツでちょっとしたブームになっているのが、ただツリーを購入するだけでなく、自分で苗場の木を選び、実際に切ることができる場所。子どもがいる家族にとっては特に、木の伐採体験ができることは素晴らしいと、評判を呼んでいます。
よりクリスマスらしさを演出するツリーの飾りつけ
ついに、ぴったりのツリーがリビングにやってきました。ツリーには、やはり飾りつけをしないと、クリスマスツリーらしくなりませんね。私の家で飾りに使っていたのは、20本ほどのキャンドル(ミツロウ100%のもの)、いろいろな大きさのストロースター(わらで作った星形の飾り)、赤や金色、銀色のガラスボール、小さな天使をいくつかと、大きな天使を1つ、そしてツリーのトップに飾るための大きなストロースターなど。基本的に、とてもシンプルなものです。ちなみに、ツリーのトップに飾るストロースターで表現される星は、クリスマスには欠かせないシンボルで、イエス・キリストが生まれたときに、贈り物を持って訪れた東方の三賢者を導いたベツレヘムの星を表しているのだそうですよ。ツリーを飾りつけるときには、伝統的な古いオーナメントを大切に利用します。祖父母の代から使っているようなオーナメントも、壊れていないのであれば大事に使いますし、また手作りの飾りや子どもたちが作ったものなどを、ずっと飾る時もあります。
実家近郊の大都市、ミュンヘンでは、クリスマスツリーが飾られるのは毎年ビッグイベントでした。本物の木を使った大きなツリーの設置は11月の半ば頃で、イルミネーションによるライトアップは11月末までに始まります。ツリーの下ではクリスマス・マーケットも開かれ、クリスマスらしいにぎわいが見られるようになります。
クリスマスツリーに加えてクリスマスのデコレーションとして大切なものに、キリスト降誕の夜の様子を象った飾り、プレゼピオがあります。これは、馬小屋の飼葉桶の中に眠る赤ん坊のイエス・キリストと、その両親であるマリアとヨゼフ、贈り物を持って訪れた三賢者、そして動物たちがオブジェとして形作られたものです。日本ではあまりなじみがありませんが、カトリックの国ではとても一般的で、モノづくりが好きな家庭では手作りすることもあるんですよ。
クリスマス・イヴの一日
私の家では、クリスマスツリーの飾りつけは、24日の恒例行事。クリスマス前日の午前中、または午後の早い時間に行っていました。ツリーの飾りつけは、遅くとも暗くなる前、午後3時までには終わらせなくてはなりません。ツリーをデコレーションするには、たくさんのやり方がありますが、よく使われるのはドライのスライスオレンジとマツボックリで、木やプラスチックでできた人形を使う人もいます。他に、ガーランドを飾ったりもします。
ツリーの飾りつけが終わったら、カトリックの家庭で育つ子どもたちの多くは、特別なクリスマス礼拝のために教会へ行きます。この日はいつもの礼拝に加え、イエス・キリストの生誕の様子など、聖書に基づいた場面を演じる劇、クリスマス・ページェントが行われることも多くあります。この劇の演じ手は、日ごろから教会の手伝いをしている子どもたちです。
礼拝後は、お風呂に入って簡単に夕食を。私の家では、温めるのが簡単で片付けの手間が少ないソーセージを食べるのが習慣でした。食事が終わったら、日曜日の外出着などに着替えて支度を整えます。
大切な、そして楽しみなひと時がやってきました。キャンドルに火が灯され、クリスマスキャロルが聞こえる中で、すべてのクリスマスプレゼントがツリーの下に並びます。暖かくて居心地のよいリビングに家族みんなで集まり、静かな時間の中でクリスマスクッキーを食べたり、グリューワインを飲んだり、楽しい時間を過ごします。私の家では、テレビでクリスマスコンサートを見るのが習慣でした。クリスマス・イヴの夜には、大人用のクリスマス礼拝が教会で行われるので、夜には教会へと出かけます。教会にもまた美しいクリスマスツリーがあり、暗い中、ツリーの光とロウソクの暖かな明かりに照らされた教会の様子はとても美しいものです。礼拝の終わりには、光が落とされて参加した人みんなで讃美歌を歌います。最後の讃美歌は、決まって「きよしこの夜」。クリスマス・イヴに響く讃美歌は、ただただ素晴らしいものでした。こうして大きな幸せと、心中の平和とを感じながら、クリスマス・イヴが終わります。
翌25日のクリスマスと26日は、ドイツでは祝日。家で過ごすか、親戚の家を訪ねて、アヒルやコイ、ローストミートなどクリスマスのごちそうを食べて過ごします。
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Credit
ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/Friedrich Strauss/Stockfood
取材/3and garden
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