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サヘル・ローズさんが語るガーデニングの原点、土の癒やしパワー

サヘル・ローズさんが語るガーデニングの原点、土の癒やしパワー

「私、花や緑よりも、実は土が大好きなんです」と話す女優のサヘル・ローズさん。中学時代に自ら「赤土部」なる部活を創部し、その後、園芸高校へ進学してからは、野菜や草花の栽培を学びながら、いっそう土との繋がりを深めていきました。平穏とはいえない少女時代を健やかに育つことができたのは、自身で見つけた土の癒しのおかげでした。土に直に触れることこそガーデニングの醍醐味だと、今も庭仕事では手袋をはめません。サヘルさんと土との、素敵な関係。

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私と母、それぞれの庭への思い

私は今、都内のマンションで母と暮らしながら、ベランダともう一つ、地上スペースにも小さなバラ園を持ち、花を育てています。花が大好きな母に、どうしても庭をプレゼントしたかったので、仕事を始めて余裕ができるようになった頃に、ガーデニングができるこの場所を手に入れました。庭を持つというのは、大事な家族がもう一人増えたという感覚です。今までも私と母の絆は強かったけれど、庭で植物を共に育てることで、喜びや感動を共有し、弱ったり枯れたりすれば共に心配し、以前にも増して私たち親子の会話は弾んでいます。

私は母のためにと思った庭ですが、母は私のためにこの庭を残したいと言っています。「私はいつかあなたより先にこの世を旅立ってしまうけれど、この庭に来れば私がいると思って。私の可愛い娘が寂しくならないように、そういう場所を残してあげたいの」と。

きっとみなさんの庭にも、いろいろな思いが詰まっていると思います。私にとって、庭は、母の愛が込められた、とっても特別な大事な場所です。

バラの庭
5月、バラが咲き誇るサヘルさんのバラ園。photo/albert_sun3

中学時代につくったオリジナル部活「赤土部」

土
Photo/Africa Studio/Shutterstock.com

その庭でガーデニングを楽しんでいる私ですが、実は花や緑よりも前に、「土」が大好き! 中学の頃には、「赤土部」という部活で活動していたほどです。きっとみなさん、赤土部ってなに? と思われるでしょう。それもそうですね。だって私がつくった部活ですから。中学に入るとみんな部活に入りますよね。私も最初は運動部へ入る予定だったのですが、当時の中学校では先輩と後輩の厳しい上下関係があり、私はそれがとても苦手でした。行きたくないなぁと思ったのですが、何かの部活に入らなくちゃいけないというのが中学校のルールだったので、「赤土部」という部活を自分でつくることにしました。

土って美味しいんです

どんな活動をするのかというと、ひたすら土をふるいにかけて、また大地に戻すというのが活動内容です。さらに「???」ですよね。なぜそんなことをしていたのかというと、土が大好きだったから。私は小さい頃、お腹が空くと土を食べていたのです。そう言うと驚く人が少なくないのですが、私は本当に、土の風味が大好きなんです。土は触れるとぬくぬくしていて、息をしている。特に山あいの土はいい土で、触ると本当に「ふぅっ、ふぅっ」と息をしているように感じられます。その息遣いや少し湿った温もりが、小さい頃から大好きでした。私の通った中学校は丘の上にあって、周りが雑木林でした。それで毎週金曜の活動日になると、林の土をふるいにかけて、また林に戻す、ということをひたすら3年間。部員は誰も入ってきませんでしたね(笑)。2年生のときも、3年生のときも、後輩がくるかなぁ、と密かに楽しみに思っていましたが、結局ずっと一人で活動し、私が卒業すると「赤土部」はなくなってしまいました。

イジメから救ってくれた雑木林の土の温もり

雑木林

でも私、この部活が本当に好きでした。学校生活のなかで一番ホッとする時間だったのです。当時、私の出身である中東に関して、日本の報道は悪いイメージの情報に偏っていたため、学校の中では生徒にも教師にも偏見があり、私は中学校でイジメにあっていました。だから、私はとにかく一人になりたかったのです。顧問もいない、仲間もいない赤土部で、一人土に触れていると、ホッとしました。いつか私もこの土に還っていくんだなと思うと、とても安らかな気持ちになりました。ヒドイことを言われたりされたりして、先生も誰一人助けてくれない学校生活のなかで、唯一私を受け入れてくれるように感じたのが、雑木林の土だったのだと思います。

園芸高校でのたくさんの学び

種まき
Photo/lovelyday12/Shutterstock.com

そして中学を卒業すると、園芸高校へ進みました。土にずっと触れていられるし、課題でつくった新鮮な野菜を持って帰れることも魅力でした。当時、我が家はとても困窮していて、二日間の食事に缶詰一つを母と分け合うというような生活をしていたので、食べ物を母に届けられることがとっても嬉しかった。最初は必死で自分のゴハンをつくるという感覚で、タネを播いていましたね(笑)。でも、自分でつくってみると、育っていく過程のワクワク感とか、実りの感動、味わった時の美味しさへの驚きとか、いろいろなことを体験しました。

もちろん、すべてがうまくいくわけではなくて、例えばナスとジャガイモって、一緒に育てると害虫被害が酷いんです。一度失敗してみて、そうか、離して植えないといけないんだ、とか、このハーブを植えることで虫除けできるんだ、とか、失敗しながら別の方法を見つけてもう一度やり直してみるということも、大事な学びでした。世の中には「失敗=悪」みたいな考えがありますが、園芸高校ではむしろその逆でした。生き物が育つ過程はいつだって正解は一つじゃなくて、いろんなやり方があっていいということ。ルートはいろいろあって自分で選ぶことができるし、たとえ失敗して回り道したとしても、大丈夫なんだという学びは、その後の私の人間形成に大きく影響していると思います。

そうやっていろいろなことを学んだなかで、私が最も心に残っているのは、花づくりも野菜づくりも、まず一番大事なのは土だと教わったことです。土さえ大事にして、ちゃんと愛情を持って植物や生き物に接していたら、必ず応えてくれると教わって、私の大好きだった土はやっぱりすごいんだ! と思って、本当に嬉しかったのです。

誰も恨むことなく、陽だまりのほうへ

芽吹き
Photo/NATNN/Shutterstock.com

土はあらゆる生き物の生と死のサイクルによって生まれ、それが積み重なって大地となっているということ。片手ですくったほんの少しの土の中にも、何億という微生物たちが棲んで、命を育んでいるということ。死んだものも新しい命の糧となり、何一つ無駄なものはなく、私もまたその一部なのだということ。そういうことを高校で学んでいくなかで、私が土に触って安心した理由にも気づきました。そして、土が大好きだった自分も誇りに思えて、やっと自分を好きになることができました。イジメにあい失われていた自尊心を、高校で園芸を学ぶことによって回復することができたのです。ですから土は、私を癒し、誇りを持たせてくれた、まさしく母なる大地です。イジメは悲しい経験ではあったけれど、誰かを恨むことなく、憎むことなく、明るいほうへ、陽だまりのほうへ向かって進むことができたのは、私の母の存在はもちろん、土の温もりのおかげだったと思っています。

イランの土と日本の土の違い

イランのレンガの家
赤土でつくったイランの日干しレンガの家々。Photo/MehmetO/Shutterstock.com

ところで私の故郷のイランの土は、サラサラとして乾いた赤土です。気候が乾燥していることもあって、黒くてフワフワして少し湿り気のある日本の土と比べると、厳しくたくましい感じがします。だから建物の材料としてはとても優秀で、イランでは水と藁を土に混ぜた日干しレンガの家がとても多いのです。そういう土で育っている植物も、とても丈夫。過酷な状況で育ってきているので、イランの花屋さんに出ているバラは、ものすごく保ちがいいですね。私の名前のサヘル・ローズも、イランのそうした風土を反映しています。サヘルというのは砂漠とか砂浜という意味で、バラが咲かないであろう厳しい環境であっても、一輪の美しい花を咲かせられる強い人になってほしいという母の思いが込められています。私はイランの土も日本の土も、どちらの土も好きですけれど、触ってホッとするという感覚があるのは、フワッとした日本の土のほうかもしれません。

イランの木
砂漠のような場所でたくましく育つ大木。イランにて。Photo/Pe3k/Shutterstock.com

植物とのコミュニケーションから学ぶこと

ガーデニングには、植物をキレイに上手に育てるということの前に、土に触れること自体に大きな価値があるのではないかと思っています。私は土に触って「汚れちゃった」という感覚が分からないんです。私にとって土は、温かくて優しく、尊いものだから。今でも疲れたときには土のなかに手を入れて、しばらくじっとしています。そうすると、土の感触にすごくホッとします。いろいろなセラピーの方法がありますが、私はこれが一番癒されるんです。だからガーデニングしているときも、基本的に手袋をはめません。女優という仕事をしているのだから、本当は手袋をしていたほうがいいのでしょうけれど(笑)、私は直に土に触れたいので。それでそのままバラの手入れもしてしまうので、トゲが刺さることもしょっちゅう。もちろん、痛いですよ。でも、トゲが刺さったときも「ちょっと! 痛いじゃない」なんてバラに文句を言ったりしながらガーデニングしています(笑)。

そうやって植物といろいろおしゃべりするのも楽しいんです。植物が病気になって具合が悪くなってしまったときは、涙が出ます。夏にしばらく仕事でバラの手入れができなくて、虫と病気が蔓延してしまったことがあって、「こんなになるまで気がつかなくて、本当にごめんね」って謝りながら手入れしました。でもそうやって手入れをしたら、みるみるうちに息を吹き返して、夏の終わりにキレイな花をポツポツ咲かせてくれたんです。庭のあの子たちは、私にそういう方法で話しかけてくれるんですね。コミュニケーションって、言葉だけじゃないなって思います。言葉は便利だけれど、一言で誰かを簡単に傷つけることもできる。ガーデニングをしていると、本当に気持ちを伝えるには、口から出る言葉よりもプロセスが大事なんだって、植物が教えてくれます。

庭から広がる地域のコミュニケーション

花のトンネル
サヘルさんの庭の花のトンネル。ハニーサックルやつるバラを誘引したアーチが連続する。photo/albert_sun3

花は何も喋らないけれど、人が自分にどう接しているのか、分かっているように感じます。面白いのが、育ち方を見ていると私の愛情はちょうどよさそうなのだけれど、母の場合は、お世話をしすぎて弱くなっちゃうんですよね(笑)。水をやりすぎたり、過保護に育てすぎちゃうみたいで。だから、これまでちょっとした天候不順で、すぐに弱ってしまうこともありました。本当にその植物が生きていくことを考えたら、ちょっとスパルタくらいなのが一番いいんだと思います。最近は母も、植物本来の力を信じながらお世話をしています。

バラの花
サヘルさんとお母さんのバラの庭は、近所の園児たちのお気に入りのお散歩コース。photo/albert_sun3

そうやって母と私とでバラの庭づくりをしているうちに、だんだんと私たちの庭のことが地域の人に知れ渡ってきて、「バラって育てるの難しくない?」と声をかけられるようになりました。私たちの庭づくりを見て、やりたくなったという人が増えたり、近所の保育園児たちがきて「花がとってもキレイ」って感想を言ってくれたりするんです。小さい子にも、最初からそういう感性がちゃんと備わってるんだなって思って、すごく嬉しかったです。そういうふうに人に喜びや感動を与えたり、何かを感じるきっかけをつくれたりするのは、女優という仕事とも共通点があると思います。

さて、次回はイランの家庭の庭で育つ植物と、東京の私の庭で育つ植物についてお話ししようと思います。どうぞお楽しみに。

取材・まとめ・写真(記事中明記以外)/3and garden

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