都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って26年。最初は何もなかった空間を、自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本路子さんのガーデン・ストーリー。今回は、バルコニーで秋咲くバラたちについてご紹介します。
目次
今しか楽しめない秋バラの魅力

四季咲きの品種のバラは、秋には春の最盛期とはまた違った魅力を見せてくれる。わが家のバルコニーでは、9月初めに弱剪定した苗木に、10月中旬、秋バラが真っ盛り。秋バラの特徴は、木立ちバラの花のシュートが長いこと、そして茶色系や赤系の花がより際立った色彩を見せてくれることだ。

茶色のバラの‘ジュリア’、‘ブラック・ティ’、‘レオニダス’などは、気温が高いとオレンジ色が濃くなるが、秋には茶色が際立ち、ミステリアスな様相をより強める。

思い入れの強いバラ‘ウィリアム・シェイクスピア2000’の秋バラ

‘ウィリアム・シェイクスピア2000’は鮮やかなマゼンタ色で、ピンクが強く出ることもあるが、秋は黒みがかった大人の色に変貌する.
16世紀から17世紀にかけて活躍したイギリスの劇作家の名前を持つこのバラは、ストラトフォード・アポン・エイボンの彼の生家の庭にもたくさん咲いていた。『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』という著書で、シェイクスピアゆかりの地を訪ね歩いた私にとって、思い入れの強いバラの一つ。

ちなみにシェイクスピアの全作品の中には、100種類近くの草花が登場する。とりわけバラの登場回数は多く、70~100回を数えるといわれている。
つるバラにも秋バラが咲く

つるバラは秋には咲かないと思っている人もいるが、木が十分に育つと秋にも花をつける。我が家では今年、‘つるアイスバーグ’や‘デンティ・べス’がたくさん咲いて、春秋ともに楽しませてくれている。どちらとも丈夫で育てやすいので、バラ初心者にもオススメの品種だ。

今年の秋バラのお気に入りは‘クロード・モネ’

今秋目を見張ったのが、‘クロード・モネ’の開花。春にあまり花をつけず、残念に思っていたが、その分秋にたくさん咲いてくれた。あたかも「私を忘れないで!」というように。
印象派の画家の名前が冠されたこのバラに出合ったのは15年ほど前、パリのバガテル公園だった。パステルカラーの複雑な色合いとその名前に惹かれて写真を撮ったが、当時日本では苗を手に入れるのが難しく、3年前にやっと我が家にやってきた。
フランスのジヴェルニーのモネの庭はよく知られているが、2回ほど訪れ、そのうち1回は撮影のため休館日に招かれている。広い庭をただひとりで巡り、モネの描いた庭の情景を堪能できたことは至福の出来事だった。
バラとの出合いの火花

バラをめぐる物語は尽きないが、あまたある種類の中からこうしたバラたちと出合ったことには不思議なものがある。ある時は花姿、また色、名前など、その折々に私の琴線のどこかに触れたもの、また私の中の何かとシンクロし、小さな火花が散ったものたちが、我が家にやってきて育っている、としか言いようがないのだ。
縁があった、とも言えるのかもしれない。ある意味で同居人のようなものだから。
併せて読みたい
・写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「バルコニーとリビングを結ぶ観葉植物たち」
・写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「小さなバラ園誕生! 初めの一歩」
・バラの夏剪定を解説【樹高が高くなる】四季咲きバラ編
Credit
写真&文 / 松本路子 - 写真家/エッセイスト -
まつもと・みちこ/世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2024年、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルム『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』を監督・制作し、9月下旬より東京「シネスイッチ銀座」他で上映中。『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。
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