話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」2【デザイン編】
トロピカルな植物から懐かしい素材、ナチュラルな宿根草など、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。ここでは、2018年4~6月に「国営武蔵丘陵森林公園」内で公開された、乙庭初の展示ガーデン製作ドキュメントをお届けします。
目次
「火の鳥」のデザインプロセス
2018年4月~6月にかけて、埼玉県滑河町 国営武蔵丘陵森林公園内にある都市緑化植物園にて公開された、乙庭による初の展示ガーデン「火の鳥」のドキュメント。第2回はデザイン編です。具体的にどのように植栽をデザインしていったか、そのプロセスを振り返ってみます。デザインするときの私なりの思考のコツについても触れていきます。庭づくりの参考になれば幸いです。
植栽劇「火の鳥」のコンセプトをまとめるまでの過程は、前記事『話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」1【構想編】』をご覧ください。
構想がまとまったところで、では、それを実際にどのような植栽や演出で表現するか、具体的にデザインを思考していきます。今回は、準備期間も短く、その期間内で手に入れられる植物にも限りがありました。そういった制約もふまえて、「やることをシンプルにしながら、内容にインパクトと個性を盛り込んでいく」のを念頭に置き、進めていきました。
「何をするか」と同時に「何をしないか」を考える
庭のコンセプトを決めても、実際、何を植えたり設えるかの選択肢は無限です。やりたいことがあれこれたくさん思い浮かび、アイデアがこんがらがってまとまらなくなった経験をお持ちの方も多いでしょう。
こういうとき、私は、まず「すること」と同じように「しないこと」を決めていきます。「この色は使わない」とか「一年草を使わない」という風に、その場面では重要だと思わないことをバッサリ排除してしまうのです。何かを「しない」と決めるだけで、デザインの選択肢が大幅に減り、思考しやすくなるとともに、デザインも削ぎ落とされて方向性が明確になります。庭の植栽計画を考えるとき、とてもシンプルですが有効な方法ですよ。
さて、今回の植栽劇「火の鳥」のデザインでは、私は「小屋とか壁などの構造物をつくらない」ということに決めました。
昨今のショーガーデンでは、スケール感を出したり、建物と一緒にある実際の庭での生活をイメージしやすいように、壁や扉、小屋などの構造物が同時に設置されることも多いですよね。
ですが、今回、私はあえて構造物はつくらず、植栽と石ころのみで庭を表現することにしました。私にとって初めてのショーガーデンデザイン。やはり園芸家である自分が一番大切にしているものを表明すべきと思い、独自の植物選びとそれを組み合わせてストーリーを綴ってきた、私の「生き方」と「術」で挑んだわけです。
結果、建築的なデザイン作業がすべてなくなって、植栽デザインに集中でき、自分でも「私らしい」と思える作品になりました。会期が始まってみると、乙庭以外の参加者はすべて構造物と植物で構成された作品でした。あえてみんなが使う普通の手法を外すだけでも、特異さが浮き立って差別化が図れますね。
植栽家という仕事柄、これから世に出ようとする若手建築家とコラボレーションすることもあります。彼らも最初の作品では、建築家としての自分の意思や姿勢を「マニフェスト」のように色濃くデザインに投影します。初期の作品で「自分」を表現できた建築家が、その後、メキメキと頭角をあらわしていった例も多く見てきました。
建築のみならず、文学であれファッションであれ、そして植栽においても、何かをデザイン・表現するということは、体裁を整えることではなく、思想を形にするということなんですよね。
場所を読み解き、メインキャストを決める
続いて、舞台となる会場を把握して、「火の鳥」のメインキャストとなる植物を決めていきます。
植え込む場所は変えられない要素。その場所をよく知ることで、そこに合った植物や見せ方が絞れ、おのずと思考量も減り方向性が定まりやすいのです。
今回は、春の2カ月間公開される庭なので、その間、植物が元気に過ごせるよう、日照などの環境を確認したり、観客はどの方向から見るのかがデザインのキーになりました。
乙庭の担当スペースは、上方に大きなケヤキの枝がかぶさっており、下図のように日向と日陰が混在する場所で、全方向から見ることができる開かれた庭。なので、いくつかの象徴的な植物を点々と配し、周囲をぐるりと見て歩きながら、絵巻のようにどんどん景色が入れ替わっていくようにしました。
今回のテーマ「火の鳥」のストーリーを表現するため、鳥や火のモチーフとして以下の植物をメインに起用しました。
「飛び立つ鳥のイメージ」
「火焔やその禍々しさのイメージ」
グラウンドカバーには黒みの火山石「浅間石」をゴロゴロ敷き詰め、焼け野原の舞台設定を演出します。
これらのメイン素材を、色合いやバランスをよく考えながら配置したのが、下図のプラン。ここに、さらに多くの出演者(植物)を追加してストーリーを色付けしていきます。
「炙り(あぶり)」の手法
「火の鳥」では、幕開けの舞台となる焼け野原を表現するために「炙り焦がした」植物を多く使用しました。私としても初めての試みで、本プロジェクトの独創性を担うオリジナル手法です。
デザインでは、何か一つでも「自分にしかできないこと」「自分しかやらないこと」を盛り込めると、一気に個性が引き立ちます。ガーデニングでも、その点を気にかけるかどうかで差がつきますよ。
主催者から「火の庭」のお題をいただいてから、テーマそのものズバリの「火」も、この展示に使用したいと思っていました。火は、植物のみずみずしい生命力とは真逆の破壊的要素で強烈なインパクトがありますし、キレイなだけのガーデンデザインへのアンチテーゼにもなります。
「植物と火」の関連性を考えたとき、私に思い浮かんだイメージは、野焼きの風習や山火事で焼かれることでタネが弾けて火事の後で芽吹くオーストラリアの植物。まさに破壊と再生のシステムです。
実際、会期中に火を燃やすことはできないので、野を感じさせるグラス類や宿根草の冬枯れした地上部などを、設営時に焼き焦がして使用することにしました。もちろん生きている植物を焼いて傷めつけるのではなく、冬枯れした部分のみを焦がして使用しておりますので、ご安心を。
2018年初頭の関東地方は例年よりもとても寒かったため、いつも常緑で越冬できる乙庭SHOP見本植栽のオージープランツやアガベなども葉先が枯れ込んでいました。このコールドダメージを好機に転換! 彼らにもこんがりメイクして出演してもらいました。
もう一つの心配ごとが、刈り詰められていない冬枯れのグラス類や宿根草が3月に手に入るかということでした。通常、宿根草生産者は、年明けには冬枯れした地上部を短く刈り戻して春に備えるので、長いままの枯れたグラス類はなかなかないのです。幸い、まだ刈り戻していないグラス類を持っているナーセリーが1軒見つかり、すべり込みセーフ!
早速、グラス類・宿根草の現物を確かめるべく、東北地方のナーセリーまで遠征。「野焼き」の表現によさそうな植物を園主さんと一緒に選び、各植物をバーナーで焼き、黒焦げ加減を確かめるという、ガーデンデザインらしからぬ実験を行いました。
ここで問題浮上! 冬枯れのグラス類は、予想以上によく燃え、白く焼け落ちてしまい「黒く焦げた」地上部が残らないことが判明。これでは焼け野原の演出になりませんよね。ここまで順調に計画が進んでいたのですが、意外なところに落とし穴があるものです。
そこで思いついたのが、「焼く」のではなく「炙る」という発想。料理の仕上げのように、遠火で炙って黒く焦げ目をつけることにしました。発火しやすいグラス類は、霧吹きで湿らせて炙ることで、「野焼き」の演出が実現できました。
ナーセリーでは、グラス類だけでなく、会期末をまさに「火の鳥」のイメージで締めくくってくれそうな、“くちばし”や“たいまつ”を連想させる真っ赤な花、モナルダ ‘ファイアーボール’ の冬枯れ個体も見つけ、植物は準備万端。実りある遠征となりました。
植物の調達や加工方法などの懸案事項をクリアして、まず一段落。周囲の景色や日照とのバランスもあるので、細かい調整は現地で行うことにし、大まかに材料の配置・デザインを決めて、いよいよ設営です!
つづく…
「そして火の鳥は ある時期がくるとわれとわが身を火の壺の中に飛び込んで焼き その中から新しいからだに生まれ変わるという」
(手塚治虫 漫画家 1928 – 1989)
併せて読みたい
・話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」1【構想編】
・話題の園芸家・太田敦雄が語る「ACID NATURE 乙庭 Style」とは
Credit
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