話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」1【構想編】
トロピカルな植物から懐かしい素材、ナチュラルな宿根草など、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。ここでは、2018年4~6月に「国営武蔵丘陵森林公園」内で公開された、乙庭初の展示ガーデン制作ドキュメントをお届けします。
目次
序 乙庭初の展示ガーデン 植栽劇「火の鳥」
2018年4~6月の2カ月間、埼玉県・滑川町、国営武蔵丘陵森林公園内にある都市緑化植物園にて、乙庭による展示ガーデン「火の鳥」が公開されました。乙庭が初めて手がけた、ショーガーデン処女作となりました。
今回から数回に分けて、植栽劇「火の鳥」の構想から制作、公開までを、ドキュメント解説していきます。制作から公開に至る過程は、少々長いストーリーとなりますが、これは一つの庭をつくっていく考え方や手順とほぼ共通です。これから庭づくりをする方にとって、ヒントになれば嬉しいです。
イベント概要と会場「国営武蔵丘陵森林公園」について
今回の展示は、国営武蔵丘陵森林公園 都市緑化植物園のガーデニング展「自然のチカラを集める!パワースポット花壇」の一角となります。古代ギリシャから唱えられてきた自然界の4元素、地・水・火・風をテーマに、植物園前にある4区画のガーデンで、4組のデザイナーが、それぞれ与えられたテーマを表現しました。
そして、乙庭に与えられたテーマは「火」。乙庭以外の3区画も有名ガーデンショーで優勝歴のある実力派デザイナーをはじめ錚々たる顔ぶれ! 参加のお誘いをいただいた時には身の引き締まる思いでした。
会場となった国営武蔵丘陵森林公園は、滑川町から熊谷市にまたがる32haにも及ぶ広大な里山を整備した、日本初の国営森林公園です。
緑豊かな園内にはさまざまなテーマガーデンやコース園路が整備され、ウォーキングやジョギング、森林浴、サイクリング、ドッグランなど、里山の自然を満喫しながら気持ちよく楽しむことができるオススメスポットです。
余談ですが、私も設営期間中はお昼休みを利用して園内散歩を楽しませていただきました。ちょうど落葉樹の瑞々しい芽吹きやヤマツツジの花などが美しい季節で、仕事がてら春の息吹に癒されました。
突然舞い込んだ展示オファー
4月初旬開幕のイベントだったのですが、乙庭に参加オファーが来たのは、3月中旬。設計や植物の準備も含めると、とても急なお話でした。後で知ったのですが、「火」の区画だけ、庭や植物と対立するような要素で難しいテーマであるせいか引き受け手が決まらず、巡り巡って、他の参加者よりも遅れて乙庭にお話がきたそうです。
しかも3~4月は乙庭も春苗の販売最盛期で、その時期の植栽デザイン案件はお断りすることも多い季節。初めての展示ガーデンのお話、かつテーマや時間的な難しさもあり、うれしい反面、開幕に間に合わせられるか心配でプレッシャーもありました。正直、オファーをいただいてからの数日は、内心パニック寸前でした。
しかし、困難をやりがいと捉え、チャレンジの意味も込めて参加を決意したのです。
コンセプト「火の鳥」に至るまでの思考プロセス
早速、植栽予定地の写真と図面をいただき思考開始。お話をいただいた翌日には現地にも足を運び、その場の環境や空間性も体感してきました。
「火」といっても、それを庭でどう表現するわけ? って感じで、とっかかりがないですよね。
まずは、「火の庭」について思いつくまま、いろいろアイデアを出し、それが面白く発展していきそうか、伸び代を検討していきました。
赤い花で火を表現するのは直喩的だし、単なる見た目だけのデザインになってしまうのではないかとか……
かがり火のオブジェを飾るのは安直すぎて深みがないだろうとか、保安上、本物の火は展示では使えないだろうとか……
そんな中で今回、私が惹かれたのが「破壊者としての火」のイメージでした。生命力あふれる庭とは対極にある、この庭のお題「火」。そもそも火は生命を焼き尽くすもの、奪うものです。この強烈な破壊者がいることで、そこに在る生命がより鮮明に浮き立ってくるのではないか、と。
少し引いた目線でこの庭を抽象化すると、ここにあるのは、植物と火。生命とそれを脅かすものという二項対立の構図なんですよね。そこに着目して、「破壊と再生、そして復活」という、根源的なテーマを表現することにしました。
やや重いテーマですが、老若男女どなたにも楽しんでいただけるよう、世界各地の伝承にも多く登場する火と再生復活の題材「火の鳥」をモチーフに、植物と火で描く乙庭版オリジナルストーリーの植栽劇に思い至りました。
噴火後の焼け野原にまた春が訪れる。不思議な植物たちが芽生え、茂り、新しい野へと還り、そして復活の鳥が飛び立っていく。
そこにすでに火はなく、猛火に焼かれた後の生命の復活劇で火を表現します。
植物の生命力を最も動的に感じられる春の2カ月間の企画展示です。会期中の様子が絵のように固定的ではなく、植物によって物語が演じられ、シーンが移り変わっていく趣向が面白いと考えました。
このようにイメージを膨らませるのと並行して、予算や準備時間、どんな植物を調達できるかなど、現実的な諸条件の整理もし、夢と現実をすり合わせていきます。現実をよく見ることで、やみくもに夢想するよりも、よりはっきりと叶えられるレベルで夢を考えられます。夢は空想するものではなく実現させるものですよね。
こんな感じで、「火の鳥」の構想をまとめていきました。コンセプトをあれこれ思考する作業は意外と軽視されがちですが、実は、でき上がった庭の何が人を深く長く感動させるのかというと、その庭がもっている思想と物語なんですよね。庭のコンセプトやストーリーを練り上げていくのは、庭づくりで最もクリエイティブで重要なプロセスだと思います。
この案は強いな、と手応えを感じられるところまで考えた上で、使用する植物選びや配置など、コンセプトを表現するための「見た目」のデザイン作業に入りました。
「バルカンのどういう気まぐれか、その煉獄の中にたくましくはばたくひとつの生命があった。それは不死鳥とも火の鳥とも呼ばれていた」
(手塚治虫 漫画家 1928 – 1989)
併せて読みたい
・話題の園芸家・太田敦雄が語る「ACID NATURE 乙庭 Style」とは
・話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」2【デザイン編】
・乙庭Styleの植物1「懐かしカッコいい! 耐寒性のアロエはいかが?」
Credit
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