真っ赤なカラーが元気をくれるトマトやミニトマトは、夏の食卓を彩る代表的な野菜。育てやすいので、家庭菜園やベランダで栽培している人も多いのではないでしょうか。それは、日本だけでなく、ドイツで暮らす人々にとっても同じことのよう。ドイツ出身のエルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、ドイツの夏の食卓でも大活躍するトマトの魅力について伺いました。
ドイツの夏の食卓を美味しく彩るトマト
真っ赤に色づいた実をそのままパクリと食べたり、バジルとモッツァレラチーズと合わせてイタリア風にしたり…。ドイツでも、トマトは夏の毎日に欠かせない野菜です。ドイツでは夕食を軽めに済ますことが一般的。私の家では、夏の夕べの食卓に、パンやソーセージと一緒に、大きなボウルにいっぱいの採れたての生のトマトが並びました。夏の短いドイツでは、陽光をイメージさせるカラフルなトマトは、待ち望んだ夏の味。冬の間もオランダやスペインなどから輸入されたトマトが出回りますが、やはり新鮮な旬のものにはかないません。特に、自分でつくったトマトの味わいは格別ですね。
大きなトマトもいいですが、私が大好きなのは、丸ごと口にポンと放り込んで食べられる真っ赤なチェリートマト。はっきりとした赤色が見た目にも美しく、実も収穫しやすくて食べやすいので、小さな子どもがいる家庭でも一緒に栽培を楽しむことができます。可愛らしい黄色の花が咲いた後につく小さな緑色のトマトが、日に日に大きくなり、色とりどりのトマトになる様子は、見ているだけでもとても幸せなもの。葉の緑と実の赤の美しいコントラストは、見ても収穫しても楽しく、最後に食べて味わえば、たくさんのエネルギーをもらえます。
トマトはシンプルにそのまま食べることが多いのですが、生では食べきれないほど収穫できた時は、自家製のトマトソースやケチャップに。それぞれ家庭ごとのレシピがあり、たくさんつくって保存します。トマトソースづくりの作業も、夏ならではの楽しみです。
バルコニーやガーデンでトマトを育てる
夏の食卓に欠かせないトマトは、自宅での栽培も一般的。スーパーで購入するのとは違い、自分の好きな品種を栽培できるのも嬉しいですね。小さなチェリートマトは、ベランダやバルコニーで栽培するのにぴったりです。食用としてはもちろん、元気なビタミンカラーのトマトは、見るだけでも魅力的。大きなプランターで栽培するほか、ハンギングに仕立てたり、小さな鉢植えを並べたり。トウガラシやパプリカといった夏野菜や、トマトと相性のよいバジルなどのハーブも一緒に育てれば、色彩もきれいなキッチンガーデンになります。一株でもたくさん実をつけるので、夏は少しベランダに出て収穫すれば、夕食の美味しい一皿のでき上がり。トマトの株元に背丈の低いハーブや花を植えれば、一鉢でもカラフルでかわいい景色が演出できます。
トマトの鉢の置き場所にぴったりなのは、日当たりがよくて雨が当たらず、実が次第に色づいていく様子を見られる場所。ドイツにある両親の家では、ガレージの前に大きなプランターを置いて栽培していたので、車を使うときは必ずトマトの様子をチェックして、1粒2粒味見をしたものです。
“TOMATENHAUS”(トマトハウス)
ドイツでも人気の高いトマト栽培ですが、日本との大きな違いは気候。ドイツの夏は日本よりも気温が低く、寒暖の差も激しいことに加え、雨もよく降るので、あまりトマト栽培に向いた気候ではありません。暖かい夏の間は手を掛けなくても育てられますが、写真のように、“TOMATENHAUS”という数株用の小さな温室を利用して栽培しているのもよく見かける光景です。風や雨を避け、温度を適温に保つトマトハウスは、ドイツのガーデナーにとって家庭菜園の強い味方。トマトだけでなく、ナスやキュウリなどの栽培にも利用します。
トマトの美味しい伝統品種
トマトと一口にいっても、ビビッドな赤から黄色、緑色、黒に近いような濃い色のもの、縞模様が入るものまでバラエティに富んだ色合いで、形も丸いものから卵形、細長いものなどさまざま。小さなものはそのままで、大きな実はトマトソースやドリンクをつくるのに向いています。少し変わった品種のトマトは、地域固有の種類だったり、伝統的な野菜だったりで、生産量は多くはありませんが、とっても美味しいものが多いのです。
このような珍しいトマトに多く出合える場所が、毎週同じ曜日に行われるフードマーケット。週に一度、農家などの栽培者が集まり、新鮮で美味しい野菜を所狭しと並べて販売します。あまり知られていなくても味がよい品種がたくさん並び、食べ比べをしてお気に入りの品種を見つけるのも楽しいものです。フードマーケットのほか、農場の近くの小さなお店で販売していることもありますよ。
最近、ドイツでは伝統野菜が注目されていて、古い品種を栽培するのも一般的になっています。このような品種は地域に合ったものが多く、丈夫で育てやすいうえに味もよいのですが、収穫量は劣るのが普通。でも、家庭用には十分なので、家庭菜園でこれらの伝統野菜を栽培する人も増えてきています。以前、ドイツでガーデナーに「トマトパーティー」に誘われたことがあります。参加者がそれぞれ育てているトマトを持ち寄るスタイルで、たくさんの品種を味わうことができ、会話も弾んでとても素敵な時間を過ごすことができました。古い品種を育てている人同士で集まり、気に入った品種のタネを交換しあう集まりがあるなど、伝統品種を栽培すると、食べて美味しいだけでなく、人と人がつながるコミュニケーションのきっかけにもなるものですね。
Credit
話/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで”Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
写真/Friedrich Strauss/stockfood
取材/3and garden
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