花の女王と称されるバラは、世界中で愛されている植物の一大グループです。数多くの魅力的な品種にはそれぞれ、誕生秘話や語り継がれてきた逸話、神話など、多くの物語があります。「バラをもっと深く知り、多くの人に伝えたい」と数々の文献に触れてきたローズアドバイザーの田中敏夫さんが、バラの魅力を深掘りします。今井秀治カメラマンの美しいバラの写真とともにお楽しみください。
園芸バラにはオールドとモダンの区別があることは、多くの方がご存じかと思います。それでは、どのように分類されるのでしょう? 以下の3つの中から正しいものを選んでください。
①1867年、最初のモダンローズが出現。それ以前からあったのがオールド、以後出回るようになったのがモダン。
②春だけ咲くのがオールド。春から秋まで咲くのがモダンローズ。
③オールドローズとは原種から生み出された品種のこと。
目次
ハイブリッドティーの最初のバラ‘ラ・フランス’
1867年、フランスのジャン=バプティスト・ギヨー・フィス(実はギヨーには同名の父と息子がいて、同時代にリヨンで活躍しました。そこで区別するため、ギヨー父、ギヨー息子と呼びならわしています。ここで話題のギヨーは息子のほうです)は「ラ・フランス」という大輪のピンクのバラを育種し、当時開催されていたパリ万博に出品しました。この‘ラ・フランス’が、後にハイブリッドティーの最初の品種とみなされることになりました。
ハイブリッドティー(HT)は、古くからあった系列(クラス)とは一線を画する新しいクラスとされ、このHTの後に世に出たポリアンサやフロリバンダなどに属するバラを「モダンローズ」と呼び、‘ラ・フランス’以前からあるクラスに属するバラを「オールドローズ」と呼ぶようになりました。
したがって【①1867年、最初のモダンローズが出現。それ以前からあったのがオールド、以後出回るようになったのがモダン】が正解になります。
バラは、古い時代に中東からヨーロッパへもたらされました。それらは一部の例外を除いて、春に一度だけ咲く一季咲きでした。ガリカ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリア、モスなど、次回以降にお話しするクラスに属するものが、それにあたります。
しかし、18世紀の終わり頃、中国やインドから年に何度も開花するバラがもたらされました。チャイナローズ、ティーローズと呼ばれるものです。この新しいクラスの品種は、ガリカなど旧来の一季咲き品種と交配され、繰り返し開花するバラが出回るようになりました。
これらのバラはやがて、ブルボン、ポートランド(返り咲きダマスク)、ハイブリッドパーペチュアル(HP)という新しいクラスとなっていきました。これらは、春から秋まで返り咲きするオールドローズです。
したがって、【②春だけ咲くのがオールド。春から秋まで咲くのがモダンローズ】は正解ではありません。
園芸品種のバラの中で最も古いバラ、ガリカ
園芸品種のバラで、もっとも古いであろうとされているのがガリカです。さらに、ガリカのなかでも、最も古い由来のものだろうとされているのが、「ロサ・ガリカ・オフィキナーリス」です。この多弁の赤いバラは原種ではなく、最初から園芸種としてヨーロッパへもたらされました。
ガリカと同じくらい古いだろうといわれているダマスク・ローズ(ロサ・ダマスケナ)も、実は園芸種でした。ダマスク・ローズから生まれたのではないかとされている白いバラ、ロサ・アルバも園芸種。その後やはり中東からやってきたと思われているロサ・ケンティフォリアも園芸種。モス・ローズは、ロサ・ケンティフォリアから枝変わりして生じたとされています。つまり、ヨーロッパへもたらされたバラは、最初から園芸種でした。
したがって【③オールドローズとは原種から生み出された品種のこと】も間違いです。
もちろん、バラには原種があります。全世界で200種ほどが知られています。ヨーロッパからコーカサス地方や中東にかけて、東南アジア、中国、日本にも原種であるノイバラやハマナスなどの原種が自生しています。
現代では、バラは大きく3つに分けることができます。
①原種
②オールドローズ
③モダンローズ
この大まかな分け方を「カテゴリー」と呼び、またそれぞれのカテゴリーは「クラス」と呼ばれる系列に細分化されています。原種は200種ほどでした。一般的にはオールドローズは27クラス、モダンローズは19クラスに分けられています。
オールドローズとモダンローズとの違いがお分かりいただけたでしょうか。
しかし、オールドとモダンの境界が1867年(明治維新の年)というのは、いかにも古いという印象を受けます。もう、150年以上も前の話です。オールドローズの歴史はもっと長く、最初は13世紀頃(1200年代)とされていますから、1867年まで600年以上もの長きに渡っています。
バラのカテゴリーを4つに分ける
現在、バラのカテゴリーは、「オールド」と「モダン」という2つのカテゴリーが主流ですが、わたしは以下のように、4つのカテゴリーでこれからの話を進めていきたいと考えています。
①オールド・オールドローズ
②オールドローズ
③モダンローズ
④ニュー・モダンローズ
①はガリカ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリア、モス(ケンティフォリア系)の一季咲きの正統派オールドローズ。
②は18世紀以降、チャイナやティーの到来によって繰り返し開花するようになったブルボンなど、残り22クラスのオールドローズ。
③は1867年、最初のHT、‘ラ・フランス’から1980年頃までの、いわゆる高芯剣弁咲きのバラが主流であった時代。
④はイングリッシュローズのセンセーショナルなデビューによって、オールドローズに似た花形が主流になり今日に至る時代。
イングリッシュローズ(ER)は、オールドローズの樹形や花形とモダンローズの花色、四季咲きする性質を併せ持っています。そのため、現在のモダンローズにおけるクラス分けでは、ぴったり当てはまるものがないというのが私の考えです。
ERが称賛をもって迎えられたことにより、同じ性質をもつ多くの新品種が生み出されることになりました。それらの多くは、モダンローズのうちのシュラブローズ(半つる性のバラ)に属するものとされていますが、もともと半つる性の枝ぶりのものや、修景バラなどが属するクラスであるシュラブローズにクラス分けするには違和感があるのです。
まったく新しい潮流として、ニュー・モダンローズという新たなカテゴリーを設けてもいいのではないかと、わたしは思っています。
Credit
文/田中敏夫
グリーン・ショップ・音ノ葉、ローズアドバイザー。
28年間の企業勤務を経て、50歳でバラを主体とした庭づりに役立ちたい思いから2001年、バラ苗通販ショップ「グリーンバレー」を創業し、9年間の運営。2010年春からは「グリーン・ショップ・音ノ葉」のローズアドバイザーとなり、バラ苗管理を行いながら、バラの楽しみ方や手入れ法、トラブル対策などを店頭でアドバイスする。
写真/今井秀治
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