トップへ戻る

日本最北の離島 利尻島・礼文島の花を愛でる旅案内【36種の花図鑑】

日本最北の離島 利尻島・礼文島の花を愛でる旅案内【36種の花図鑑】

植物好きなら一度は訪れてみたいと憧れる日本最北の離島、利尻島・礼文島。約300種に及ぶと言われる貴重な高山植物が自生し、花の浮島とも呼ばれています。花々の見頃は4〜9月。2024年6月に感動の花観察を楽しんだガーデンプロデューサーの遠藤昭さんが、利尻島・礼文島の旅と花をレポートします。

Print Friendly, PDF & Email

予習しなくても次々感動に出会える旅

利尻島・礼文島
Rainer Lesniewski/Shutterstock.com

北海道の北部、稚内の西方の日本海上に位置する島、礼文島と利尻島は、高山植物の宝庫として有名です。両島とも最北の厳しい寒さと短い夏という、本州の高山の気候と似ており、貴重な高山植物が育ち、花の浮島とも呼ばれています。正直な所、「世界でも礼文島でしか咲かない“レブンアツモリソウ”は、6月にしか見られない」くらいの知識しかないなか、漠然と日本に残る貴重な高山植物たちに会いたい! とツアーに参加しました。

礼文島
礼文島。makieni/Shutterstock.com

特に事前に予習することもなく、北海道の新鮮な海の幸も楽しめるラクチンなツアーで出かけたのです。2泊3日の短い旅でしたが、沢山の「思いがけない」草花に遭遇。目から鱗の3日間! その感動をガーデンストーリーの読者の方にもお伝えしたいと思います。

利尻空港へ

朝9時に羽田を出発し、13時半には利尻空港に到着。島へは、千歳空港から乗り換え、利尻空港に向かったのですが、てっきり小型プロペラ機に乗り換えと思い込んでいたら、なんと165席もあるボーイング737という立派なジェット機。それも満席で驚くと共に、少し安心しました。

利尻富士
礼文島から望む利尻山。applevinci/Shutterstock.com

利尻空港では、利尻富士が迎えてくれました。「利尻富士」と愛称で呼ばれる利尻山は、最北に位置する日本百名山で、標高は1,721m。まるで海面から浮かんでいるように裾野を広げ、島のどこからでも眺められました。また、礼文島からも雄大な美しい姿を見ることができたことは、今回の旅の中で最も印象に残る景色でした。

初日に出会った利尻の植物14種

富士野園地

早速、バスが向かったのは、富士野園地。ここは、吉永小百合さん主演の映画「北のカナリアたち」のロケ地で有名な場所ですが、エゾカンゾウ咲き乱れる野原にはほど遠く、まだ時期が早く、チラホラ咲く程度。野性の花を見る旅は時期が難しいですね。エゾカンゾウは他で写真を撮れたので、後ほどご紹介します。

富士野園地は、海の見えるのどかな草原でした。マムシが居ないので、草原でのロケも安全とか……。かろうじて、遠くにエゾカンゾウが咲いているのが見えました。

姫沼

姫沼を一周、散策中も雄大な利尻富士が眺められ、可憐な花を咲かせるエンレイソウ、シロバナエンレイソウ、ノビネチドリなどを見ることができました。

延齢草、延根千鳥、舞鶴草

エンレイソウ、シロバナエンレイソウ、ノビネチドリ、マイズルソウ。
写真左上から時計回りに、エンレイソウ、シロバナエンレイソウ、ノビネチドリ、マイヅルソウ。
仙法志御崎公園

初日最後の訪問地は、島最南端の仙法志御崎公園。海抜ゼロメートルから見る利尻富士が有名です。

利尻富士
利尻富士

ここでは、エゾタメネツメクサ、イワベンケイソウ、ハマカンザシ、チシマフウロ、エゾカンゾウ、ハマナス、シロヨモギなど、たくさんの有名な高山植物や海浜植物に出会うことができました。

蝦夷高嶺爪草

エゾタカネツメクサ
エゾタカネツメクサ

エゾタカネツメクサ(蝦夷高嶺爪草)は、高山の砂礫地や岩場にマット状に生育する性質で、本州の高山で見られるタカネツメクサの母種とされています。楚々として可愛いですね。

岩弁慶草

イワベンケイソウ
イワベンケイソウ

まさか利尻島で多肉植物のイワベンケイソウ(岩弁慶草)に出会うとは。多肉植物は寒さに弱いイメージでしたので、後ほど触れるイワレンゲ同様、ここで見られることが驚きでした。

浜簪

ハマカンザシ
ハマカンザシ

和名ではハマカンザシ(浜簪)と呼ばれるアルメリアにも出会いました。アルメリアが利尻島で自生しているとは驚きでした。

千島風露

チシマフウロ
チシマフウロ

チシマフウロソウ(千島風露)といえば、フウロソウ(ゲラニウム)もイングリッシュガーデンがブームの頃から人気の植物ですね。アルメリアと共に、フウロソウも利尻が原生地なのも驚きでした(驚きが続きます)。他にも、園芸品種でお馴染みの、オダマキやアサギリソウも、原種は利尻・礼文にあったのです。まさに植物の宝庫です。

蝦夷萱草

エゾカンソウ
エゾカンソウ

エゾカンゾウ(蝦夷萱草/エゾゼンテイカ)は、本州でも有名なニッコウキスゲと見た目はさほど違いを感じませんでした。しかし、僕の好きな、ヘメロカリスの原種に、こんな日本最北の地で会えたのも驚きと感動でした。

浜茄子

ハマナス
ハマナス

ハマナス(浜茄子)はハマハシ(浜梨)とも言います。「知床旅情」で一躍有名になったハマナスです。バラ科の植物でJapanese Roseとも言われています。寒さに強いのですね。

白蓬

シロヨモギ
シロヨモギ

海岸にはシルバーリーフのシロヨモギ(白蓬)が地面に張り付くように群生していました。できることなら園芸に使用してみたい植物です。

黒百合

クロユリ
クロユリ

初日の宿泊先、知床温泉のホテル周辺にも利尻の代表的な花が植えられていました。

それは、僕の大好きな憧れの黒花、クロユリです。以前、自宅の庭で育てた黒花10選でもご紹介しましたが、いつしか絶えてしまいました。

礼文草

レブンソウ
レブンソウ

レブンソウ(礼文草)には、紫やピンクの花があり、同属の仲間に「リシリゲンゲ(利尻紫雲英)」もあります。通販などでも苗が売られているようですが、当然のことながら、他の地域では夏越しが難しそうです。

礼文苧環

ミヤマオダマキ
ミヤマオダマキ(現地名:レブンオダマキ)。礼文島で咲くオダマキの正式名称は、一般的にミヤマオダマキです。

ミヤマオダマキは、日本各地の高山に分布する種で、礼文島でもその美しい姿を見ることができます。礼文島では、特に“レブンオダマキ”と呼ばれることもありますが、これはミヤマオダマキの変種や品種という扱いになります。

ミヤマオダマキは、ガーデンプランツとしても多種育てられている西洋オダマキの仲間です。利尻の街中でたくさん見かけました。

日本酒「最北航路」
地元の日本酒「最北航路」。

驚きの連続の一日でしたが、温泉に入って、ウニ、サーモン、ホタテ、ホッケ等々海鮮類がぎっしりの夕飯を食べ、満足な一日でした。

二日目に出会った礼文の植物12種

船
Terence Toh Chin Eng/Shutterstock.com

二日目は、海の幸が中心の朝食でスタートです。午前中は生憎の小雨で真冬並みの寒さでしたが、午後からは天気が回復しました。朝、フェリーで礼文島に渡りました。

礼文島

早速北上し、今回のツアーのメインイベントである礼文島にしかない固有種のレブンアツモリソウの群生地へ。バスを降りて少々歩きましたが、小雨はさほど大したことが無かったものの、冷たい強風が吹き、まるで真冬のような寒さでした。

礼文敦盛草

レブンアツモリソウ
レブンアツモリソウ

レブンアツモリソウ(礼文敦盛草)の開花は、6月に限られています。この日をめがけてタイミングを合わせたツアーでしたので、寒空の下で無事出会うことができました。ぷっくりとしたクリーム色の可愛らしい花です。この日、花が小雨に濡れていましたが、かえって情緒がありました。

延根千鳥

ノビネチドリ
ノビネチドリ

この群生地には、ラン科のノビネチドリ(延根千鳥)も咲いていました。和名の由来は、根が横に伸び、花の形が鳥の飛ぶ姿に似ていることに由来しているそうです。このノビネチドリは、その後もあちこちで見かけました。

春咲山芥子

ハルザキヤマガラシ
ハルザキヤマガラシ

黄色い花を見つけましたが、ハルザキヤマガラシという名でした。ヨーロッパ原産の多年草です。貴重な植生環境の場所にも入りこんで繁茂し、問題になっているようです。

礼文島

次は直ぐ近くの澄海岬(スカイ岬)へ。透明度の高い青い海で有名な観光スポットで、歌手の中島みゆきさんが「銀の龍の背に乗って」のPVの撮影を行ったことでも有名です。残念ながら青空は見えませんでした。

しかし、途中の小路にはネムロシオガマや、エゾイヌナズナ、エゾシシウド、ハクサンチドリなどを見ることができました。

根室塩竈

ネムロシオガマ
ネムロシオガマ

ネムロシオガマ(根室塩竈)は、根室という名がついているとおり、北海道本土でも海岸を中心に見られます。葉がシダのように繊細できれいな宿根草です。

蝦夷犬薺

エゾイヌナズナ
エゾイヌナズナ

エゾイヌナズナ(蝦夷犬薺)は一見、アリッサムに似ています。イヌナズナといえば、普通は黄花ですが、エゾイヌナズナは白花で、アリッサムとも同じアブラナ科です。

蝦夷猪独活

エゾシシウド
エゾシシウド

エゾシシウド(蝦夷猪独活)は、草丈100~150cmの大型多年草で、海岸近くに群生していました。イノシシが食べそうな花なので、この名前が付いたそうです。

白山千鳥

ハクサンチドリ
ハクサンチドリ

ハクサンチドリ(白山千鳥)は、石川県の白山に多く見られるので、この名前がついたそうです。本州では標高が高い山に登らねば見られない高山植物が、一度にまとめて見られるのが、礼文島訪問の魅力ですね。

岩弁慶

イワベンケイ
イワベンケイ

イワベンケイ(岩弁慶)は多肉植物扱いされることもあり、最近はサプリでも有名ですが、もともとは高山植物だったのですね。

礼文岩蓮華

レブンイワレンゲ
レブンイワレンゲ

イワレンゲ(岩蓮華)は多肉植物でお馴染みですが、メキシコ原産だと思っている方も多いのでは? 一般的なイワレンゲは、本州の沿岸の関西以西地方の海岸に育ち、あまり耐寒性が無いと思っていました。見た目はイワレンゲと余り変わらないレブンイワレンゲ、こんな寒い礼文島に自生しているとは、本当に驚きです。

蝦夷延胡索

エゾエンゴサク
エゾエンゴサク

エゾエンゴサク(蝦夷延胡索)は、生薬に使用されるヤマエンゴグサと似ていますが、苞の形が異なります。

千島風露

チシマフウロ
チシマフウロ

利尻でも出会った礼文のチシマフウロ。フウロソウ科フウロソウ属の多年草です。別名は、エゾフウロ、エゾノフウロ、トカチフウロ、ハクサンフウロなどがあります。チシマフウロは、園芸用に栽培されることもあります。

チシマフウロソウとセンダイハギ
チシマフウロソウとセンダイハギのコラボ。

深山金鳳花

ミヤマキンポウゲ
ミヤマキンポウゲ

北海道から本州中部の高山の草原に生えるミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)は、特に湿り気のあるゆるやかな斜面では大群落をつくることもあります。初夏の高山の草原を彩る花の代名詞ともされています。

礼文苧環10種の礼文の植物を一気見!

礼文島

昼頃から天気が回復しました。昼食も海鮮です。これからご紹介する種類の中には、すでに登場しているものもありますが、あちらこちらで咲いていた様子を景勝地も交えてお伝えしたいと思います。

桜草擬

サクラソウモドキ
サクラソウモドキ

サクラソウモドキ(桜草擬)は、サクラソウ科サクラソウ属の多年草です。別名は、チシマサクラソウ、エゾサクラソウなどがあります。栽培も比較的容易です。日当たりと水はけのよい場所で育てると、よく育ちます。

礼文苧環

ミヤマオダマキ(レブンオダマキ)
ミヤマオダマキ(レブンオダマキ)

レブンオダマキは礼文島のみに生息します。青紫色または白色です。北海道本島にはミヤマオダマキが生息し、白、紫、ピンクです。

今回の旅行で、野山に限らず街中の住宅の庭にもレブンオダマキが植えられているのを各所で見かけ、一番多く見かけた花の一つです。関東地方でも西洋オダマキはガーデニングでも一般的ですが、利尻・礼文島に原種が沢山咲いていたのには驚きです。

根室塩竈

ネムロシオガマ
ネムロシオガマ

ネムロシオガマ(根室塩竈)は、別名エゾシオガマとも呼ばれています。ネムロシオガマは、絶滅危惧種に指定されています。

礼文小桜

レブンコザクラ
レブンコザクラ

一見、日本桜草かと思いましたが、レブンコザクラは、礼文島の代表的な花の一つであり、花期は5月下旬~6月上旬。礼文島の高山地帯では一面をピンク色に染めるほど咲き誇ります。

桃岩

桃岩は、北海道礼文町にある景勝地です。日本海の断崖絶壁に突き出た巨大な岩で、その形が桃に似ていることから名付けられました。

舞鶴草

マイヅルソウ
マイヅルソウ

マイヅルソウ(舞鶴草)は山野草としてはポピュラーですね。本州の高山地帯に分布し、ブナ林などの林床に生えています。栽培も比較的容易で、日当たりと水はけのよい場所で育てるとよく育ちます。

蝮草

マムシグサ
マムシグサ

マムシグサ(蝮草)は、サトイモ科テンナンショウ属の多年草です。別名は、ヘビノダイハチ、ヤカゴンニャク、ムラサキマムシグサ、アオマムシグサ、ヤクシマテンナンショウなどがあります。

日本全国の山野に生え、やや湿った場所に多く見られます。茎には紫褐色の模様があり、マムシの皮膚の模様に似ていることからマムシグサという名が付けられました。

延根千鳥

ノビネチドリ
ノビネチドリ

ノビネチドリは、ラン科ノビネチドリ属の多年草です。別名は、ネジバナ、ネジバナソウ、ネバナなどがあります。

朝霧草

アサギリソウ
アサギリソウ

アサギリソウ(朝霧草)は、2000年のガーデニングブームの頃、人気があり、原生地はイギリスかヨーロッパかと思っていました。まさか、礼文島に原生しているとは! 見つけた時は、またまた驚きです。日本全国の山地や亜高山帯に分布しているようです。

白毛菊葉鍬形

シラゲキクバクワガタ
シラゲキクバクワガタ

シラゲキクバクワガタ(白毛菊葉鍬形)は、ゴマノハグサ科多年草植物です。別名にキクバクワガタ、ゴマノハグサモドキなどがあります。

礼文島のみならず北海道の高山帯に分布し、岩場や海岸の岩礫地などに生えます。草丈は5~25cmほどで、全体に白い毛で覆われています。

元地海岸

礼文島の地蔵岩は、北海道礼文島の元地海岸(もとじかいがん)に位置する高さ約50mの奇岩です。2つの切り立った岩が手を合わせた姿から地蔵岩と呼ばれています。近くにあるメノウ海岸は、その名のとおりメノウの原石が拾えることで知られるほか、夕日の絶景スポットとしても人気です。地蔵岩は、礼文島の三大奇岩(猫岩・桃岩・地蔵岩)の1つとしても知られています

蝦夷薄雪草

エゾウスユキソウ
エゾウスユキソウ

エゾウスユキソウ(蝦夷薄雪草/レブンウスユキソウ)は、北海道礼文島にのみ分布する固有種で、高山帯の草地や岩場に生えます。

利尻紫雲英

リシリゲンゲ
リシリゲンゲ

リシリゲンゲ(利尻紫雲英)は、マメ科オヤマノエンドウ属の多年草植物です。リシリシウンエイとも呼ばれています。

姫石楠花

ヒメシャクナゲ
ヒメシャクナゲ

ヒメシャクナゲ(姫石楠花)は、ツツジ科ヒメシャクナゲ属の常緑小低木です。別名は、ニッコウシャクナゲ(日光石楠花)です。

蝦夷伊吹虎の尾

エゾイブキトラノオ
エゾイブキトラノオ

エゾイブキトラノオ(蝦夷伊吹虎の尾)は、タデ科イブキトラノオ属に属する多年草です。

日本最北端の植物に触れる旅を終えて

利尻・礼文の花

以上約36種の植物を紹介しましたが、現地では、夏時期は咲く花が2週間ごとに替わると言われ、短い期間しか見ることのできない花も多いようです。その年の気候によっても開花時期も異なり、高山植物を見る旅のタイミングは難しいものですが、巡り合えた時の感動と驚きは格別ですね。

利尻・礼文の花

ガーデニングを愛する私たちは、日常的にさまざまな品種改良された園芸品種に接していますが、今回の旅を通して、最近、ガーデニングで人気の園芸植物のじつに多くの原種が利尻・礼文島には存在していることを知ることができました。

利尻島
利尻島 Robert Harding Video/Shutterstock.com

その原種が大自然の野に凛として咲く姿は、園芸品種とは異なった生命力にあふれ、パワーのある純粋な美しさでした。今回の花旅は、本当に驚きの連続でしたが、日本列島にも、じつに多くの高山植物が咲く大自然が残っていることに感動し、この自然を大切に後世に残せたらと、純粋な気持ちになりました。

Print Friendly, PDF & Email

人気の記事

連載・特集

GardenStoryを
フォローする

ビギナーさん向け!基本のHOW TO