植物好きなら一度は訪れてみたいと憧れる日本最北の離島、利尻島・礼文島。特に約300種に及ぶといわれる貴重な高山植物が自生する礼文島は、花の浮島とも呼ばれています。花々の見頃は4〜9月。2024年6月に感動の花観察を楽しんだガーデンプロデューサーの遠藤昭さんが、利尻島・礼文島の旅と花をレポートします。
目次
予習しなくても次々感動に出会える旅
北海道の北部、稚内の西方の日本海に位置する礼文島と利尻島は、高山植物の宝庫として有名です。両島の厳しい寒さと短い夏という環境は、本州の高山の気候と似ており、特に礼文島には多くの貴重な高山植物が育ち、花の浮島とも呼ばれています。正直なところ、「世界でも礼文島でしか咲かない“レブンアツモリソウ”は、6月にしか見られない」くらいの知識しかないなか、漠然と日本に残る貴重な高山植物たちに会いたい! とツアーに参加しました。
特に事前に予習することもなく、北海道の新鮮な海の幸も楽しめるラクチンなツアーで出かけたのです。2泊3日の短い旅でしたが、たくさんの「思いがけない」草花に遭遇。目から鱗の3日間! その感動を、ガーデンストーリーの読者の方にもお伝えしたいと思います。
朝9時に羽田を出発し、13時半には利尻空港に到着。島へは、新千歳空港で乗り換えたのですが、てっきり小型プロペラ機で向かうのだと思い込んでいたら、なんと165席もあるボーイング737という立派なジェット機。それも満席で、驚くと共に、少し安心しました。
利尻空港では、利尻富士が迎えてくれました。「利尻富士」と愛称で呼ばれる利尻山は、日本百名山の中では最北に位置し、標高は1,721m。まるで海面から浮かんでいるように裾野を広げ、島のどこからでも眺められました。また、その雄大な美しい姿は礼文島からも見ることができ、今回の旅の中で最も印象に残る景色でした。
初日に出会った利尻の植物14種
早速、バスが向かったのは、富士野園地。ここは、吉永小百合さん主演の映画「北のカナリアたち」のロケ地で有名な場所ですが、エゾカンゾウが咲き乱れる野原…というイメージにはほど遠く、まだ時期が早いため、チラホラ咲いている程度でした。野生の花を見る旅は時期が難しいですね。エゾカンゾウは他で写真を撮れたので、後ほどご紹介します。
富士野園地は、海の見えるのどかな草原でした。マムシがいないので、草原でのロケも安全とか……。かろうじて、遠くにエゾカンゾウが咲いているのが見えました。
姫沼を一周、散策中も雄大な利尻富士が眺められ、可憐な花を咲かせるエンレイソウ、シロバナエンレイソウ、ノビネチドリなどを見ることができました。
延齢草、延根千鳥、舞鶴草
初日最後の訪問地は、島最南端の仙法志御崎(せんほうしみさき)公園。海抜ゼロメートルから見る利尻富士が有名です。
ここでは、エゾタカネツメクサ、イワベンケイソウ、ハマカンザシ、チシマフウロ、エゾカンゾウ、ハマナス、シロヨモギなど、たくさんの有名な高山植物や海浜植物に出会うことができました。
蝦夷高嶺爪草
エゾタカネツメクサ(蝦夷高嶺爪草)は、高山の砂礫地や岩場にマット状に生育する性質で、本州の高山で見られるタカネツメクサの母種とされています。楚々として可愛いですね。
岩弁慶草
まさか利尻島で多肉植物のイワベンケイソウ(岩弁慶草)に出会うとは。多肉植物は寒さに弱いイメージでしたので、後ほど触れるイワレンゲ同様、ここで見られることが驚きでした。
浜簪
和名ではハマカンザシ(浜簪)と呼ばれるアルメリアにも出会いました。アルメリアが利尻島で自生しているとは驚きでした。
千島風露
チシマフウロ(千島風露)といえば、フウロソウ(ゲラニウム)もイングリッシュガーデンがブームの頃から人気の植物ですね。アルメリアと共に、フウロソウも利尻が原生地なのも驚きでした(驚きが続きます)。ほかにも、園芸品種でお馴染みの、オダマキやアサギリソウも、原種は利尻・礼文にあったのです。まさに植物の宝庫です。
蝦夷萱草
エゾカンゾウ(蝦夷萱草/エゾゼンテイカ)は、本州でも有名なニッコウキスゲと見た目はさほど違いを感じませんでした。しかし、僕の好きな、ヘメロカリスの原種に、こんな日本最北の離島で会えたのも驚きと感動でした。
浜茄子
ハマナス(浜茄子)はハマハシ(浜梨)ともいいます。「知床旅情」で一躍有名になったハマナスです。バラ科の植物でJapanese Roseともいわれています。寒さに強いのですね。
白蓬
海岸にはシルバーリーフのシロヨモギ(白蓬)が地面に張り付くように群生していました。できることなら園芸に使用してみたい植物です。
黒百合
初日の宿泊先、知床温泉のホテル周辺にも利尻の代表的な花が植えられていました。
それは、僕の大好きな憧れの黒花、クロユリです。以前、自宅の庭で育てた黒花10選でもご紹介しましたが、いつしか絶えてしまいました。
礼文草
レブンソウ(礼文草)には、紫やピンクの花があり、同属の仲間に「リシリゲンゲ(利尻紫雲英)」もあります。通販などでも苗が売られているようですが、当然のことながら、ほかの地域では夏越しが難しそうです。
深山(礼文)苧環
ミヤマオダマキは、日本各地の高山に分布する種で、礼文島でもその美しい姿を見ることができます。礼文島では、特に“レブンオダマキ”と呼ばれることもありますが、これはミヤマオダマキの変種や品種という扱いになります。
ミヤマオダマキは、ガーデンプランツとしても多種育てられている西洋オダマキの仲間です。利尻の街中でたくさん見かけました。
驚きの連続でしたが、温泉に入って、ウニ、サーモン、ホタテ、ホッケ等々海鮮類がぎっしりの夕飯を食べて、満足な1日でした。
2日目に出会った礼文の植物12種
2日目は、海の幸が中心の朝食でスタートです。午前中は生憎の小雨で真冬並みの寒さでしたが、午後からは天気が回復しました。朝、フェリーで礼文島に渡りました。
早速北上し、今回のツアーのメインイベントである礼文島にしかない固有種のレブンアツモリソウの群生地へ。バスを降りて少々歩きましたが、小雨はさほどではなかったものの、冷たい強風が吹き、まるで真冬のような寒さでした。
礼文敦盛草
レブンアツモリソウ(礼文敦盛草)の開花は、6月に限られています。この日をめがけてタイミングを合わせたツアーでしたので、寒空の下で無事出会うことができました。ぷっくりとしたクリーム色の可愛らしい花です。この日、花が小雨に濡れていましたが、かえって情緒がありました。
延根千鳥
この群生地には、ラン科のノビネチドリ(延根千鳥)も咲いていました。和名は、根が横に伸び、花の形が鳥の飛ぶ姿に似ていることに由来しているそうです。このノビネチドリは、その後もあちこちで見かけました。
春咲山芥子
黄色い花を見つけましたが、ハルザキヤマガラシ(春咲山芥子)という名でした。ヨーロッパ原産の多年草です。貴重な植生環境の場所にも入りこんで繁茂し、問題になっているようです。
次は、すぐ近くの澄海岬(スカイ岬)へ。透明度の高い青い海で有名な観光スポットで、歌手の中島みゆきさんが「銀の龍の背に乗って」のPVの撮影を行ったことでも有名です。残念ながら青空は見えませんでした。
しかし、途中の小路ではネムロシオガマや、エゾイヌナズナ、エゾシシウド、ハクサンチドリなどを見ることができました。
根室塩竈
ネムロシオガマ(根室塩竈)は、根室という名がついているとおり、北海道本土でも海岸を中心に見られます。葉がシダのように繊細できれいな宿根草です。
蝦夷犬薺
エゾイヌナズナ(蝦夷犬薺)は一見、アリッサムに似ています。イヌナズナといえば、普通は黄花ですが、エゾイヌナズナは白花で、アリッサムとも同じアブラナ科です。
蝦夷猪独活
エゾシシウド(蝦夷猪独活)は、草丈100~150cmの大型多年草で、海岸近くに群生していました。イノシシが食べそうな花なので、この名前が付いたそうです。
白山千鳥
ハクサンチドリ(白山千鳥)は、石川県の白山に多く見られるので、この名前がついたそうです。本州では標高が高い山に登らねば見られない高山植物が、一度にまとめて見られるのが、礼文島訪問の魅力ですね。
岩弁慶
イワベンケイ(岩弁慶)は多肉植物扱いされることもあり、最近はサプリでも有名ですが、もともとは高山植物だったのですね。
礼文岩蓮華
イワレンゲは多肉植物でお馴染みですが、メキシコ原産だと思っている方も多いのでは? 一般的なイワレンゲは、本州の関西地方以西の海岸に育ち、あまり耐寒性がないと思っていました。見た目はイワレンゲとあまり変わらないレブンイワレンゲ(礼文岩蓮華)、こんな寒い礼文島に自生しているとは、本当に驚きです。
蝦夷延胡索
エゾエンゴサク(蝦夷延胡索)は、生薬に使用されるヤマエンゴグサと似ていますが、苞の形が異なります。
千島風露
利尻でも出会った礼文のチシマフウロ(千島風露)。フウロソウ科フウロソウ属の多年草です。別名は、エゾフウロ、エゾノフウロ、トカチフウロ、ハクサンフウロなどがあります。チシマフウロは、園芸用に栽培されることもあります。
深山金鳳花
北海道から本州中部の高山の草原に生えるミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)は、特に湿り気のあるゆるやかな斜面では大群落をつくることもあります。初夏の高山の草原を彩る花の代名詞ともされています。
礼文苧環10種の礼文の植物を一気見!
昼頃から天気が回復しました。昼食も海鮮です。これからご紹介する植物の中には、すでに登場しているものもありますが、あちらこちらで咲いていた様子を景勝地も交えてお伝えしたいと思います。
桜草擬
サクラソウモドキ(桜草擬)は、サクラソウ科サクラソウ属の多年草です。別名は、チシマサクラソウ、エゾサクラソウなどがあります。栽培も比較的容易です。日当たりと水はけのよい場所で、よく育ちます。
礼文苧環
レブンオダマキは礼文島のみに生息するミヤマオダマキの変種とされ、花色は青紫色または白色です。北海道本島にはミヤマオダマキが生息し、花色は白、紫、ピンクです。
今回の旅行で、野山に限らず街中の住宅の庭にもレブンオダマキが植えられているのを見ました。各所で一番多く見かけた花の一つです。関東地方でも西洋オダマキはガーデニングで一般的ですが、利尻・礼文島に原種がたくさん咲いていたのは驚きです。
根室塩竈
ネムロシオガマ(根室塩竈)は、別名エゾシオガマとも呼ばれています。ネムロシオガマは、絶滅危惧種に指定されています。
礼文小桜
一見、日本桜草かと思いましたが、レブンコザクラ(礼文小桜)は、礼文島の代表的な花の1つであり、花期は5月下旬~6月上旬。礼文島の高山地帯では一面をピンク色に染めるほど咲き誇ります。
桃岩は、北海道礼文町にある景勝地です。日本海の断崖絶壁に突き出た巨大な岩で、その形が桃に似ていることから名付けられました。
舞鶴草
マイヅルソウ(舞鶴草)は山野草としてはポピュラーですね。本州の高山地帯に分布し、ブナ林などの林床に生えています。栽培も比較的容易で、日当たりと水はけのよい場所でよく育ちます。
蝮草
マムシグサ(蝮草)は、サトイモ科テンナンショウ属の多年草です。別名は、ヘビノダイハチ、ヤカゴンニャク、ムラサキマムシグサ、アオマムシグサ、ヤクシマテンナンショウなどがあります。
日本全国の山野に生え、やや湿った場所に多く見られます。茎には紫褐色の模様があり、マムシの皮膚の模様に似ていることからマムシグサという名が付けられました。
延根千鳥
ノビネチドリ(延根千鳥)は、ラン科ノビネチドリ属の多年草です。別名は、ネジバナ、ネジバナソウ、ネバナなどがあります。
朝霧草
アサギリソウ(朝霧草)は、2000年のガーデニングブームの頃、人気があり、原産地はイギリスかヨーロッパかと思っていました。まさか、礼文島に自生しているとは! 見つけたときは、またまた驚きです。日本全国の山地や亜高山帯に分布しているようです。
白毛菊葉鍬形
シラゲキクバクワガタ(白毛菊葉鍬形)は、ゴマノハグサ科の多年草です。別名にキクバクワガタ、ゴマノハグサモドキなどがあります。
礼文島のみならず北海道の高山帯に分布し、岩場や海岸の岩礫地などに生えます。草丈は5~25cmほどで、全体に白い毛で覆われています。
礼文島の地蔵岩は、北海道礼文島の元地海岸(もとじかいがん)に位置する高さ約50mの奇岩です。2つの切り立った岩が手を合わせているように見える姿から地蔵岩と呼ばれています。近くにあるメノウ海岸は、その名のとおりメノウの原石が拾えることで知られるほか、夕日の絶景スポットとしても人気です。地蔵岩は、礼文島の三大奇岩(猫岩・桃岩・地蔵岩)の1つとしても知られています
蝦夷薄雪草
エゾウスユキソウ(蝦夷薄雪草/レブンウスユキソウ)は、北海道礼文島にのみ分布する固有種で、高山帯の草地や岩場に生えます。
利尻紫雲英
リシリゲンゲ(利尻紫雲英)は、マメ科オヤマノエンドウ属の多年草です。リシリシウンエイとも呼ばれます。
姫石楠花
ヒメシャクナゲ(姫石楠花)は、ツツジ科ヒメシャクナゲ属の常緑小低木です。別名は、ニッコウシャクナゲ(日光石楠花)です。
蝦夷伊吹虎の尾
エゾイブキトラノオ(蝦夷伊吹虎の尾)は、タデ科イブキトラノオ属の多年草です。
日本最北端の離島の植物に触れる旅を終えて
以上約36種の植物をご紹介しましたが、現地では、夏の時期は咲く花が2週間ごとに代わるといわれ、短い期間しか見ることのできない花も多いようです。その年の気候によっても開花時期は異なり、高山植物を見る旅のタイミングは難しいものですが、巡り合えたときの感動と驚きは格別ですね。
ガーデニングを愛する私たちは、日常的にさまざまな品種改良された植物に接していますが、今回の旅を通して、最近、ガーデニングで人気の園芸植物のじつに多くの原種が利尻・礼文島に存在していることを知ることができました。
その原種が大自然の野に凛として咲く姿は、園芸品種とは異なった生命力にあふれ、パワーのある純粋な美しさでした。今回の花旅は、本当に驚きの連続でしたが、日本列島にこんなにも多くの高山植物が咲く大自然が残っていることに感動し、この自然を大切に後世に残せたらと、純粋な気持ちになりました。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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