カラフルな卵やウサギがシンボルの春の行事、イースター。キリストの復活を祝う、キリスト教の行事です。ヨーロッパでは、長く厳しい冬の終わりを告げ、明るい春の始まりを祝う日として、とても大切にされています。そんなイースターの過ごし方は、国によってもさまざま。南ドイツ出身のエルフリーデ・フジ=ツェルナーさんに、ドイツでのイースターの過ごし方を伺いました。
目次
イースターの一日
私が暮らしていた南ドイツでは、イースターはちょうど春が訪れて、緑が一斉に芽吹く時期です。日本、特に東京などの比較的暖かな地域で暮らしていると、冬の間も緑を楽しむことができますが、ドイツではそうではありません。今まで雪や氷に覆われて、雪解け後も地面はぬかるんでいて庭仕事ができない日々がようやく終わりを告げ、美しい屋外の自然を楽しめるようになる季節の始まりがイースターなのです。だから、ドイツ人にとってイースターはとても大切で、毎年心待ちにしている日なのです。
それぞれの家庭により、イースターの過ごし方は異なりますが、家族で過ごすのが普通です。私が子どもの頃は、イースターの日は朝食を食べたら教会へ行くのが習慣でした。イースターはカトリックではとても大切な行事なので、ミサに参加するのは何よりも大切なことなのです。
私の家でのイースターの日の朝食は、決まってイースターブレッドと呼ばれるちょっと甘めのパンなど、たくさんの種類のパンと、たっぷりのバターやジャム。そして忘れてはいけないゆで卵。人によっては、ソーセージやチーズなどを添えることもよくあります。ウサギやヒツジ、ニワトリの形のケーキも一般的によく食べられます。天気がよい日には、テラスで食事をとり、屋外の春の空気を思いっきり楽しみます。
ミサが終わり、教会から帰ってきたあとは、それぞれ家族の時間を過ごします。イースターの日のランチは、イースターブレッドや塩、ホースラディッシュ、生ハムなどをバスケットに詰めて教会へ持っていき、祝福してもらったものを食べたり、ザウアーブラーテンというドイツの肉料理などを用意して豪華なランチをゆったり楽しんだり。
午後からは自宅のガーデンでエッグハントをしたり、野原を散歩したりと家族でゆっくり過ごしました。ドイツでは、このようなイベントの時には、家族の時間をとても大切にしています。もしかしたら、野原にもイースターバニーがイースターエッグを隠しているかも? なんてことも思いましたが、残念ながら見つけたことはありません。イースターの時期は動物園などさまざまな場所で子ども向けのイベントが開かれているので、そのようなイベントに参加する家族も多いんですよ。
イースターの翌日は、イースターマンデー。ドイツではこの日はお休みになります。お店も開かないので、午前中に教会に出かけたあとは、散歩好きが多いドイツ人らしく、森の中の道を散策するなど、やっと訪れた春の日を満喫するのです。
エッグハント
イースターの日の楽しみの一つが、エッグハント。ガーデンに隠してあるイースターエッグを探す伝統的な遊びです。子どもたちがメインではありますが、大人も楽しみにしているんですよ。
ガーデンにイースターエッグを隠す時には、転がってしまわないように、小さなネスト(巣)のようなものをつくり、そこに卵を入れておきます。茂みの中や木陰などに隠されたイースターエッグは、時には見つからないことも。隠す時には、何個のイースターエッグを隠したか、しっかり覚えておかなくてはいけません。天気が悪い日や、自宅に庭を持たない都市住まいの家族などは、ベランダや部屋の中でエッグハントをやることもありますよ。
イースターってどんな行事?
キリスト教圏の地域では、クリスマスと同じくらい大切な行事がイースター。十字架にかけられたイエス・キリストが、3日目に復活したことを祝う復活祭です。もともとはカトリック教会で祝われていたものに、16世紀ごろからイースターバニーやイースターエッグのストーリーがつけ加えられていったようです。
イースターは、春分の日以降の最初の満月の日の、次の日曜日。年によって日付は異なりますが、3月22日~4月25日の間になります。2021年は4月4日がイースターですね。年によってイースターの日が違うので、イースターの頃の気候も年ごとにずいぶん異なります。例えば私が暮らしていた南ドイツの町では、3月のイースターだと時には遅い雪が降ったりすることもありました。
イースターのシンボルは、イースターエッグやイースターバニー。卵は新しい命の始まり、そしてウサギは繁栄の象徴。特に春は子ウサギがたくさん生まれる季節です。ウサギたちに近づこうとすれば、急に跳ね上がったり、走り出したり、まるで何かを隠しているよう。その何かとは、もちろんイースターエッグです。子どもの頃は、このように、イースターバニーがイースターエッグを運んできて、ガーデンなどに隠していく、と聞かされて育ちました。ちなみにイースターエッグを運んでくるものは、地域によってバリエーションがあり、雄鶏やコウノトリというところも。キツネが運んでくるという話を聞いたときは、とてもびっくりしました。
イースターを心待ちにする準備
クリスマスほどではありませんが、イースターも当日だけでなく、準備の期間も楽しむ行事です。我が家では、一週間ほど前からイースターの準備や飾りつけをして、ワクワクしながら当日を迎えていました。
イースターの準備では、まずはイースターエッグづくり。ゆで卵にペイントして、カラフルなイースターエッグをつくります。イースターが近づくと、どこのお店でもイースター用のペイント塗料が手に入るので、イースターらしい色合いに飾りつけます。イースターのメインカラーは春らしい黄色と緑、そしてキリストの血を示す赤色。イースターエッグもこの色にすることが多いです。ちなみに、私の住んでいた地域では、赤いイースターエッグを男性に贈るのは、好意を抱いている印、という可愛らしい風習もありました。地域によってイースターに関連したさまざまな習慣があるのも、イースターがとても大事にされているためですね。
ゆで卵に色をつけたら、仕上げにラードで拭くと、ピカピカのイースターエッグに。もちろんお店で購入もできますが、手づくりする家庭が多く、私の家では毎年60個くらいをつくっていました。本物のイースターエッグのほかに、チョコレートでできたイースターエッグやイースターバニーもお店でよく売られていて、子どもたちも楽しみにしています。
もちろん、部屋の中や玄関前、ガーデンなどはイースターの装飾に。イースターバニーやイースターエッグなどを並べ、この時期に楽しめるスイセンやレンギョウ、プリムラ、クロッカス、そのほか球根花など春の花を飾ります。ここで使うのは、ほとんどが自分の庭などで育てた花。特にスイセンは、イースターを代表する花の一つで、イースターの装飾には欠かせません。
イースターが近づいてくると、マーケットの一角にイースター関連の商品を売っている小さなイースターマーケットも登場したりして、ますます当日が楽しみになります。このようにイースターは、長い冬の後に植物が芽吹く春を心待ちにするドイツの人にとって、とても大切にされているのです。
Credit
話/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで”Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
写真/Friedrich Strauss/stockfood
取材/3and garden
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