フランスの夏といえばバカンス・シーズン。この長期休暇を利用して人々は旅行に出かけたり、少し離れた家族や友人を訪ねたりと、普段よりかえって忙しく過ごしているのかもしれません。そんなバカンス・シーズンに素敵な個人邸の庭で過ごしたというフランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんに、15年ほど前に石造りの古い建物と周囲の土地を購入して庭をつくる夫妻の別荘の庭を案内していただきます。

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フランス、ナチュラル・ガーデンを楽しむ暮らし

フランスの庭

ロランスとオリヴィエご夫妻の別荘の庭は、オーヴェルニュ地方、フランスのほぼ中心少し右下あたりにあります。まわりは森と放牧地と、緩やかな山々に囲まれた標高1000mほどの緑豊かな場所で、広い敷地内には小川も流れています。

フランスの庭

かつてシトー会修道院の建物の一部であったという石造りの古い建物と周囲の土地を、彼らが購入して改装を始めたのは15年ほど前のこと。敷地には修道院跡があると言い伝えられていましたが、確かに建物の一部のような石造物が出てきたため、自らブルトーザーを購入して掘り出してみたところ、本当にかつての修道院のチャペルなどの建物が出てきたというマジカルな場所です。

フランスの庭

さらに素敵なのが、このマジカルな場所を暮らしの場として、もてなしの場として見事に生かした彼らの庭づくり。フランスのアール・ド・ヴィーヴルの感性が隅々まで行き渡った、居るだけで幸せな気持ちになってしまう庭なのです。

土地に合う植栽選びでローメンテナンス

フランスの庭のアプローチ
アプローチはシックな雰囲気。

12世紀から残る主屋へのアプローチは、黒がかったグレイッシュなローカルの石材の色調に明るさを加える、アメリカアジサイのアナベルやヒース類、足元にはクリスマスローズやグラウンドカバーのニチニチソウなどでシックにまとめられています。冷涼な気候で冬にはマイナス15℃にも気温が下がる土地柄、耐寒性の高い丈夫な草花でないと難しいゆえ、何よりもまず土地に合った植物を選ぶことが大事なのよ、と語るロランスは、私がこれまで出会った中でもピカイチのグリーン・サムなガーデナーの素敵なマダム。

フランスの庭
庭の所々に置かれたベンチも様になる風景を作っています。

作庭されている部分だけでも1ヘクタールはある広い庭なので、細かく手入れしていたら大変なことになります。また、セカンドハウスの庭ゆえ、常に在宅はできないので、ローメンテナンスが前提で元気に生きられる草花選びが重要です。

フランスの庭
12世紀の石造りの建物をリノベーション。周りは土地の気候に合う植物を選んだナチュラル・ガーデンに。

ダイナミックな借景、花咲く寛ぎの庭空間

フランスの庭
階段テラスからの眺め。

この庭の大きな魅力はまず、雄大な風景と庭空間との調和。主屋から庭に降りる階段状の広い石造りのテラスでお茶をいただきながら、また庭の方々に設られたベンチやガーデンチェアからは、なだらかな丘陵の放牧地、そしてスックと呼ばれるこの土地に特徴的なドーム型の爆発しなかった休眠火山への眺めへと、シームレスに展開する素晴らしい風景を堪能できます。

また、広大な自然風景の中にありながらも、庭の中にはほっとする寛ぎスペースが至る所に設計されており、周りの自然とともにリラックスして過ごす暮らしのリズムは、本当に心地よいものです。

フランスの庭
フランスの庭 ポタジェ
ポタジェの一角ではバラやダリアが満開。

訪れた8月には、満開のバラが緑の風景に華を添えていました。今年はフランス中で猛暑だったのですが、冷涼な地での異例の暑さがバラにはよかったようです。消毒などの手入れは一切していないとのことですが、葉っぱも花も元気で咲いている姿は羨ましいほど。姿、色ともにさまざまなバラの組み合わせには自由な感性が溢れています。とはいえ、この庭では、四季咲きのバラを選ぶように気をつけているのよ、と言うコメントの、できるだけ常に花咲く庭という心遣いにもなるほどと納得。

遺跡のドライ・ガーデン、デッキ・ガーデン

遺跡へのドライガーデン
遺跡へのアプローチはドライ・ガーデンに。

ところで、発掘された12世紀の修道院跡はどうなったかというと、発見された構造を残しつつ、そのアプローチにはドライ・ガーデンが設られています。土壌が少なく乾いた環境で生きられる植物を選んだ植栽は脱帽のアイデアで、遺跡もさらに庭の一角として魅力的なスポットに。

さらに、やはり花で囲まれたプールサイドや、ヨガをするのによさそうなデッキ仕立てのシェード・ガーデンなど、庭での過ごし方に合わせてさまざまなコーナーが作りこまれた、広い敷地を生かす調和の取れたゾーニングにも脱帽です。

花溢れるポタジェ・ガーデン

ガーデンシェッドとポタジェ
ガーデンシェッドと花溢れるポタジェの様子。

そして、なんといってもこの庭の主役級が、数年前に完成したポタジェ・ガーデン。石壁に囲まれ、一角には同様に石造りの可愛いガーデンシェッドが備えられたポタジェ(フランス語で菜園のこと)は、上品ながらも童話の中に出てきそうなほどラブリー。石は敷地内での工事の際に出てきたものをリサイクルして作ったのだそうです。

ポタジェ

肥沃な土地ではないため、耕作部分はラザニア・ガーデン(以下*にて解説)の手法で土壌づくりを行い、もちろん無農薬栽培でトマトやズッキーニやナスなどの夏野菜や、サヤエンドウやレタスなどがすくすくと育っています。トマトなどは一度にたくさん熟してしまったらトマトソースなどの保存食にすればよいのですが、レタスはそうもいきません。そこで、時期をずらして種まきすることで、一度になりすぎて無駄にするのを防いでいます。

*ラザニア・ガーデンとは

パーマカルチャーなどで行われるのと近い方法。耕作不可能な荒れた土壌などの上で、段ボールや新聞紙を敷いた上に、コンポストになる木枝、落ち葉などの茶色の層と、除草した草や芝刈りで出た草や、野菜屑などの緑色の層(窒素分を供給)を何層か重ねてその上で栽培を行う。土壌改良や肥料が不要、リサイクルの素材を利用できるサステナブルな家庭菜園の栽培方法として、近年広く取り入れられている。

ラザニア・ガーデン
ラザニア・ガーデン。レタスは時差植えがおすすめ。

フランスのポタジェに特徴的なのは、花も合わせて栽培される場合が多いこと。家の中を飾るアレンジメントにも使えますし、野菜だけが栽培されているよりも、さらに美的な庭らしい空間になるのがよいところ。ガーデンシェッドのコーナは、ちょうどバラとダリアが咲き乱れている時期でしたが、その足元を見ると、ひょっこりルピナスが咲いていたりします。

ポタジェ

ロランスに聞くと、ルピナスは大好きな花の一つで、こぼれ種でそこかしこに勝手に出てきたのをそのまま楽しんでいるとのこと。自然の変化を寛容に楽しむところから、この庭の素敵なナチュラル感が生まれているのだと思います。

ルピナス
こぼれ種で増えたルピナスたち。

それにしても、このポタジェもまた、一角に佇んでいるだけで、ほのぼのと心安らぐ感じがしてくるのは本当に不思議。眺めて美しいだけでなく、育った自家製野菜は食卓を飾り、また、小さなお孫さんたちが大きく育ちすぎのズッキーニの中身をくり抜いてヨット作りなど、ポタジェは創意工夫に満ちた遊びのスペースにもなっていました。

フランスの庭子どもたちがお絵かきをする黒板の後ろにはバーベキュー。気持ちのよいランチのスペース。高い美意識と自由な感性から出るアイデアが溢れる、また実用の面にも気を配った彼らの庭は、4世代の大人も子どももみんなが心地よく一緒に過ごせる、ナチュラル&ビューティフルなフランス流の暮らす庭。そこかしこに、大きな庭にも小さな庭にも取り入れたいひらめきがいっぱいです。

フランスの庭
庭の一角では、現代作家のブロンズ彫刻「笛を吹く人」が、周囲に馴染んだ素敵なアクセントになっています。アートの取り入れ方も上手。

Credit

遠藤浩子

写真・文/遠藤浩子

フランス在住、庭園文化研究家。
東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

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